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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第三話 再会と衝突
12/30

……一方のロックは……


「前に来た時と違うっ……」

……迷っていた。

ジュノスの言う通り、別れ道で行き違いになったようだ。

爆発音や瓦礫などで、隠し階段は騒然としていた。

「これじゃあもどるに戻れねぇ……」

ロックはとにかく進むことにしたが……すぐに行き止まりに、突き当たった。

後ろは瓦礫で引き返せない……ロックは閉じ込められてしまった。

「体はボロボロ……後ろは瓦礫……あちこちで爆発音……。かなりヤベェな……」

ロックが焦りの表情をすると、すぐ近くでまたもや爆音が鳴った。

「近い……ここもヤベェな……」

するとその爆発の衝撃で、横の壁が崩れ、新しい通路が現れた。正規の通路だった。

ロックはすかさずその通路に飛び込み、走って前を急いだ。

「ラッキーッ!でも、急がねぇと……。アイツらは無事なのか?」

ロックはひたすら通路を突き進んだ。



その頃飛空挺は、研究所から少し離れたところで、空中で待機していた。

豪快なプロペラ音が、美しい空に響き渡る。

研究所が崩れていく様子を、エリスは甲板からただ見ていた。

「ロックは?無事なの?」

燃え盛る研究所に、今にも崩れそうな岬……崩壊するのは時間の問題だ。

するとジンが甲板に現れた。

「ガゼルとジュノスは脱出したようだ……。見てみろ」

ジンはそう言うと、エリスに双眼鏡を手渡した。

エリスは双眼鏡を使い、燃え盛る研究所を覗いてみた。

研究所の入口から、だいぶ離れた所に、黒服の人間が二人いる……おそらくガゼルとジュノスだろう……。しかしそこにロックの姿はない。

エリスは双眼鏡を目から離し、顔面蒼白になった。

「ロックは……ロックはまだ?」

ジンは険しい表情をした。

「おそらくな……。ロックがガゼルにやられたとは……考えにくい……。ならば、ロックはまだ研究所にいる可能性が高い」

エリスはその場で項垂れた。

「そっ、そんな……」

ジンはエリスの肩を叩いた。

「ここは危険だ……。我々も離れないと、巻き込まれる……。今はロックを信じるしかない……」

エリスは涙を流した。

「ロック…………!?……」

その時エリスは確かに見た……いや感じたのだ。崩壊しそうな岬から、光が発せられたのだ。

エリス涙を拭い、立ち上がって双眼鏡を覗いた。

すると……今にも崩れそうな飛空挺ドッグのハッチから、懐中電灯を振り回しているロックが、確かにいたのだ。

「ロック……」

エリスがそう呟くと、ジンは目を見開いた。

「何っ!?エリスッ!双眼鏡を……」

ジンはエリスから双眼鏡を奪って、覗いてみた。そこには確かにロックがいて、背中に大きな鉄板を抱え、右手に板のような物を抱えている。

「あれは……エアボードか?……なるほど、そういう事か……」

ジンは双眼鏡をエリスに投げ渡して、急いで操縦室に向かった。

「どういう事っ!?」

エリスがそうジンに呼び掛けると、ジンは答えた。

「ロックはエアボードと、研究所の爆風を利用して、飛空挺に飛び移る気だっ!飛空挺を岬ギリギリまで付けるっ!ロックを受け入れる準備をしろっ!」

ジンはそう言うと、急いで操縦室に向かった。

今にも崩れそうな岬の研究所ハッチから、懐中電灯を必死で振り回しているロックは、飛空挺が自分に気が付く事を信じて、只々懐中電灯を振り回している。

「頼む……気付いてくれ……」

焦った表情のロックは、傷の痛みと、時間の無さに、何ともいえない表情だ。

目の前は断崖絶壁、後ろは火の海……この状況で焦らない方がどうかしている。

すると飛空挺に動きがあった。飛空挺は方向転換し、確かにこちらに近づいてくる。

ロックは一瞬安堵感に包まれたが、すぐに真剣な表情をした。

「よし……なんとか気付いてくれたか……。でも、こっからが問題だ……」

ロックは抱えていたエアボードを、床に置いた。浮遊石を板状に加工して造られたエアボードは、空を自在に飛べる代物ではない。

あくまでもストリートの娯楽道具で、断崖から空に向かって飛ぶなど不可能だ。

「エアボードだけじゃ、飛空挺に飛び乗れねぇが……ここの爆風を利用すれば……」

ロックはそう言うと、大きなオイル缶を数個、後方に置いて、体位大きい鉄板を背中に背負った。

片にフック付きのワイヤーを担ぎ、エアボードのスウィッチを入れた。

少し浮遊したエアボードの上に乗って、背後のオイル缶に火が引火するのを待った。

飛空挺が岬までの距離を10mまですると……その時はすぐに来た。


ボォカァーーーーンッ!


オイル缶から発せられたは爆炎が、ロックの鉄板に襲い掛かる……。エアボードに乗ったロックは、爆炎に押されるように、ハッチから外へ飛び出した。

背中で鉄板を抑えながら、爆風を利用して空中で必死にバランスをとる。

凄まじい威力の爆風は、油断するとバランスを崩し、ロックを海に投げ出すだろう。

やがて爆風は弱まり、ロックは鉄板を海に投げ捨てる。このまま鉄板を持っていると、風の抵抗で減速してしまうからだ。

ロックは夜空に叫んだ。

「行っけぇーーーっ!」

月明かりの夜空で、ロックは飛んだ……。

月明かりの影響で、ロックの姿は影画になり、その姿は何処か神秘的だった。

飛空挺の甲板でロックを待っていたエリスは、目を見開いてロックに見とれていた。

飛空挺が目前まで迫ると、ロックは担いでいたワイヤーを、飛空挺目掛けて投げた。

ワイヤーの先端のフックは、勢いよく甲板の柵に絡み付いた。

ロックはエアボードから足を離して、ワイヤーに自分の身を委ねた。

エアボードは不規則な軌道で海に落下していく。

ワイヤーを使い、飛空挺にぶら下がったロックは、大きく息をした。

「ふぅーーっ……間一髪……」

ロックが上を見ると、エリスが顔を覗かせている。

「ロックーーッ!」

ロックはエリスに叫んだ。

「今上がるっ!」

ロックはワイヤーを伝って、上に登っていった。

甲板まで上がり、柵に手を掛けると……エリスが手を差し出した。

「ほんと……無茶なんだから……」

エリスは涙目だったが、笑顔でロックを迎えた。

ロックは軽く微笑んだ。

「へっ……でも、ちゃんと戻って来たぜ……」

ロックはエリスの手を、ガッシリ握った。

「おかえりなさい……ロック……」



一方無事に脱出したガゼルとジュノスは、研究所から少し離れた場所で、研究所が崩壊していくのを眺めていた。

ジュノスは立って腕組みをし、ガゼルは座り込んでいる。

ジュノスは言った。

「ロック先輩……ヤッパやりますねぇ……」

ガゼルは憮然な表情で言った。

「何が言いたい?」

ジュノスは不敵に笑った。

「プッ……だって先輩……ボロボロじゃねぇですかい……」

ガゼルはジュノスを睨み付けた。

「喧嘩売ってんのか?お前……」

ジュノスは両手を前につき出した。

「おぉー、恐い……。やだなぁ、売るわけないでしょ……エージェント同士の私闘は厳禁ですぜぃ……」

ガゼルは吐き捨てた。

「ケッ……だったら黙ってやがれ……」

ジュノスは話を代えた。

「で?どう報告するんです?」

「ジンは白だったって……そう報告するよ……」

「それもそうですが……ロック先輩とジン博士……国外出ちゃいますよ?」

ガゼルは険しい表情をした。

「奴等の動きが……アデルに仇なすなら……。潰すしかねぇな……」

ジュノスは苦笑いした。

「当分……監視対象ですねぇ……」



脱出に成功したロック一行は、研究所から離れた海の上空で停滞していた。

甲板に横たわっていたロックは、エリスの不思議な力によって、傷が殆ど癒えていた。

その光景を、ジンは目を見開いて眺めていた。

「まったく……驚かされるな……」

流石のジンも、エリスの力に驚いた様子だ。

ロックはすっかり傷が癒えて、勢いよく立ち上がった。

「よっと……サンキュー、エリス……」

エリスは大きく息を吐いた。

「ふぅーっ……どういたしまして……」

エリスは少し疲れた表情をしていた。

ジンは言った。

「その力……使うと疲れるのか?」

「少しだけなら……どうって事ないけど……。こんなボロボロじゃね……」

ロックはバツの悪そうな表情をした。

「すまねぇ……」

ジンが言った。

「その力……傷以外……つまり病気は?それと自分は治せるのか?」

エリスは首を横に振った。

「病気は治せない……後、骨折とか、内臓の損傷は治せない……。そして自分も治せない……」

ジンは呟いた。

「ロックがエリスの旅に付き合ったのは……これが大きいようだな……」

エリスはジンに言った。

「何か言った?」

ジンは軽く微笑んだ。

「いや……何でもない……。それよりこれからどうする?」

ロックは言った。

「そりゃあ……この船で飛び回って……エリスの国を探すんだろ?」

ジンは呆れた様子で言った。

「目的地をある程度決めて行動しないと……効率が悪い……」

エリスが言った。

「後……お金もないよ……」

ロックは渋い表情をした。

「因みに俺は、金はねぇぞ」

エリスは呆れた様子で言った。

「誰も期待してないってのっ……」

ジンが言った。

「南の『エスパドール』を目指そう……」

エリスは目を丸くした。

「エスパドール?」

ロックが言った。

「『砂の都』……新大陸の発見や、秘境の調査に力を入れている、アデルの勢力圏の最南端の地域だ」

ジンが言った。

「資金のない我々には……スポンサーが必要だ」

ロックは納得した様子で言った。

「なるほどな……エスパドールと、俺達の旅の目的の利害が一致すりゃ……」

エリスが言った。

「お金を出してくれる……」

ロックは軽く笑った。

「へっ……何か楽しくなりそうじゃねぇの?」

ジンが言った。

「エスパドールに到着するまでは……それまでの地域で、金になりそうな仕事をする……」

エリスはニコリと微笑んだ。

「じゃあさぁ……とりあえず乾杯しない?」

ロックは言った。

「いいねぇ……ハイボールはあんのか?」

ジンが言った。

「ではミドも入れて……細やかながら、新しい船出に乾杯するか……」


空に憧れた男は、翼を手に入れ……国を求める女は、希望を見いだし……技術を極めんとする男は、自分の技術を証明するために、男に翼を渡した。


それぞれの目標のために……空を飛ぼうとしていた。


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