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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第三話 再会と衝突
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……飛空挺ドッグ……


飛空挺の元に到着したエリス達三人は、辺りを警戒した。

「なんとか無事に着いたわね……」

エリスがそう言うと、ミドもホッとした表情になった。

「ええ……でも、ロックさんは大丈夫でしょうか?」

ジンが言った。

「実力は互角だろうが……イレギュラーが発生するかもな……」

エリスは怪訝な表情をした。

「イレギュラーって?」

ジンは自分達が降りてきた階段を見た。

「どうやらイレギュラーが現れたようだ」

そう言ったジンの視線の先からは、黒装束の連中がゾロゾロと階段から現れた。手にはそれぞれ同じ形の小太刀を持っている。

エリスは目を見開いた。

「なに……アイツら?あれもアデルの?」

ジンは首を横に振った。

「いや……奴らは違う……。私がこの前追い返した奴の仲間だろう……。しかし奴等が先に来るとは……細工が裏目に出たか……」

ミドは目を丸くした。

「それって……タキシード男性の?それに細工が裏目って?」

「何の話しかわかんないけど……。それより、アンタ……どんだけ敵がいるのっ?」

エリスはジンにそう言うと、壁に立て掛けてある鉄パイプを手に持って、黒装束の連中の方に構えた。

ミドはそんなエリスを、目を見開いて見た。

「何をっ!?……まさか……闘う気ですかっ!?」

エリスは苦笑いし、鉄パイプを持つ手に力を込めた。

「嫌だけど、仕方ないでしょっ!やらなきゃ……やられるわよっ!」

そんなエリスにジンは軽く笑った。

「フッ……いい考えだ……。これを持て……」

ジンは懐から白いハンドガンを取りだし、エリスに渡した。

エリスは目を丸くした。

「けっ、拳銃?」

「麻酔銃だ……。護身用に持っておけ……。それに、そろそろ来るだろう……」

黒装束はジリジリと距離を詰めてくる。

エリスは右手に鉄パイプ、左手に麻酔銃と、身構えた。

(やるしかないっ!)

しかしその時だった。

「ぎゃーっ!」「ぐわっ!」「へばっ!」

黒装束の後方から叫び声が聞こえた。ドッグ内に侵入した黒装束達は、揃って自分達がやって来た階段を見た。

「死にたくねぇ奴は……とっとと帰った方がいいでさぁ……」

階段の方から、黒装束をサバイバルナイフのような短剣を二刀で、斬り裂きながら……ジュノスが現れた。

ジュノスは口元は笑っていたが、目は鋭く、冷酷さを感じさせた。

エリスはジュノスに、ガゼルを見たときと同じ感覚を持った。

(黒いスーツ……コイツもさっきの奴と同じ……)

ジンは言った。

「ジュノスか……比較的、話のわかる奴が来た……」

黒装束達はターゲットをジュノスに切り替えた……エリス達三人には見向きもせずに……。それ程にジュノスから放たれる圧倒的プレッシャーを、彼らは本能的に感じたのだ……危険だと……。

黒装束達は一斉にジュノスに襲い掛かった。

ジュノスはニヤリとした。

「帰れって言ったのに……言葉の通じない奴は……嫌いだねぇ……」

ジュノスは黒装束の小太刀をかわすのと同時に、喉元斬ったり、心臓を突いたりと……確実に黒装束達を仕留めている。

顔やシャツに、返り血がかかったジュノスは、目を見開き笑っている。その様はまるで悪魔の様だった。



……一方コテージでは……


「うおらぁーーっ!」

ロックは勢いよく黒装束達を、次々と斬り裂いていく……ロックの太刀筋に躊躇いは全くない。

「オラーッ!」

負けじとガゼルも二本のトンファーを使い、次々と黒装束を殴り飛ばしていく。

二人は共に満身創痍だったが……黒装束も残りわずかだ。

タキシードの男は目を見開き、ガタガタ震えている。

(何なんだコイツらはっ!?……バケモノかっ!?)

残り数人の黒装束達も、二人に怯えて怯んでいる。

血だらけで息の荒いロックは、不敵に笑った。

「はぁ、はぁ……へっ……どうした?もう終ぇか?……はぁ、はぁ……」

「テメェには色々と聞かねぇよなぁ……はぁ、はぁ……」

ガゼルは男にトンファーを向けたが、息があがっている。

タキシードの男の表情は、明らかに焦りの色が出た。



一方、飛空挺ドッグでは、既にジュノスが黒装束を全員片付けていた。

返り血まみれのジュノスの足下には、黒装束達数十人が、息絶えて転がっている。

そのおぞましい光景に、エリスとミドは顔面蒼白で呆然としている。

ジュノスは返り血を浴びた顔で、ニコリとして三人に言った。

「遅くなってすいやせん……。途中の別れ道で、俺が間違ったせいで……コイツらに追い抜かれたようでさぁ……」

ジンの細工とは、一本道を二手に別ける、カラクリだったようだ。

「じゃあ、俺はこれで……」

ジュノスが来た道を戻ろうとすると、エリスが呼び止めた。

「まっ、待ちなさいっ!」

ジュノスは目を丸くして、エリスを見た。

エリスは言った。

「わたし達を捕まえるんじゃないの?」

ジュノスはエリスの目を見て、軽く笑った。

「フッ……コイツらがジン博士を殺しに来たって事は……ジン博士の嫌疑は、こちらの勘違いって事でさぁ……」

ジュノスは再び三人に背を向けて、来た道を戻り出した。

「つぅ訳で……俺らの任務は終了でさぁ……。先輩らの所にもコイツらが来てるだろうし、俺はそっちに行って来まさぁ……。それと、この施設にはコイツらが爆弾仕掛けたみたいですから……早く脱出して下せぇ……じゃあ……」

エリスとミドは、しばらくジュノスの後ろ姿を、ぽかぁんと見ていたが……すぐに我に帰って、互いを見合わせた。

「ばっ、爆弾っ!?」



一方のロックとガゼルは、とうとう黒装束を全て倒してしまった。

「はぁ……はぁっ……後はテメェだけだぜ……」

ロックはふらつきながも、刀を男に向けた。

「テメェらが相手だったら……俺は躊躇う事なく斬り殺すぜ……」

するとガゼルは、ふらつきながらロックに言った。

「バカかっ!アイツは拘束する……」

ロックはガゼルに悪態ついた。

「くたばりぞこないが……偉そうにしてんじゃねぇ……」

ガゼルはロックを睨み付けた。

「お前に言われたくねぇっ!」

ロックとガゼルが睨み合っていると、ドゴォーーン……という凄まじい轟音と共に、コテージ全体が揺れた。

これには流石のロックとガゼルも驚いた。

「何だっ!?……爆発かっ!?」

ロックがそう叫ぶと、ガゼルは男を睨んだ。

「チッ……そういう事かぁ……」

男は二人の様子にニヤニヤしている。

ガゼルが言った。

「ジンの技術を奪えねぇなら……。この施設ごと消しちまおうってか……」

男は不敵に笑った。

「フフフ……そういう事です。貴方がたは、この爆炎でまとめて始末してさしあげます……。それでは……」

男はそう言うと、コテージから逃走した。

「待ちやがれっ!」

ガゼルは男を追おうとしたが、ガゼルの前に爆破された天井が落ち、男を追う事ができなかった。

ガゼルはロックに言った。

「おいっ!ハーネストっ!とりあえず脱出を……!?……」

ガゼルは 目を疑った。何とロックは出口の逆方向に走っていたのだ。

「ハーネストっ!どういうつもりだっ!?」

ロックはガゼルに言った。

「仲間がまだいんだよっ!テメェは勝手に脱出しやがれっ!」

ロックはそう言うと、コテージの裏口にある隠し階段へと行ってしまった。

ガゼルは渋い表情をした。

「バカがっ!あっちはジュノスがいっから大丈夫だってのに……」

するとロックと入れ替わる形で、ジュノスがコテージに現れた。

「ガゼル先輩っ!大丈夫ですかい?」

ガゼルはジュノスの登場に、怪訝な表情をした。

「ジュノス……ハーネストは?会わなかったのか?」

ジュノスはコテージに広がった炎を避けるように、ガゼルな元にきた。

「何でぃ、先輩……ボロボロじゃねぇですかぃ……」

「んな事より、ハーネストは?会わなかったのか?隠し階段に行きやがったぞ」

ジュノスはキョトンとした。

「ロック先輩?さぁ……。あっ、そうだ……隠し階段入ってすぐに、別れ道がありやすから……そこですれ違ったかも」

ガゼルは辺りを見渡した。コテージ内は炎に包まれ、すぐに脱出しないと、ガゼル達もタダではすまない。

ガゼルはジュノスに言った。

「まぁいい脱出するぞ……」

ジュノスは頷いた。

「そうですねぇ……俺らもヤバいでさぁ……。でもロック先輩大丈夫かなぁ?俺と会わなかったって事は……多分迷ってますぜ……」

ガゼルとジュノスはコテージから脱出をした。



……飛空挺操縦室……


三人はすでに飛空挺に乗り込み、操縦室にいた。操縦室は複雑な機械が並べられ、素人にはさっぱりわからない。

ジンとミドは、中央にあるタッチパネルの操作をしている。

飛空挺の外では、絶えず爆音が鳴り響いている。飛空挺ドッグである岬が海の藻屑と化すのは時間の問題だ。

エリスは焦った様子で言った。

「ヤバイよぉ……早く脱出しないと……。凄い揺れてるし……」

しかし二人は、エリスを無視して操作に集中している。

二人は阿吽の呼吸で、それぞれがすべき事をしている。師匠と弟子という関係だけで、言葉はいらないようだった。

するとようやくジンが言った。

「ミド……ディスクを……。お前がインストールするんだ」

ミドは一瞬目を見開いたが……ゆっくり目を閉じた。

(師匠……ロックさん……エリスさん……)

「師匠……僕の想いを……夢を……。この船に乗せますっ!」

ミドはそう言うと、ディスクを専用の挿入口に差し込み、ボタンを押した。

ミドの目は力強く、どこか吹っ切れた表情をしていた。

液晶画面に『インストール完了まで10、9、8………』と、カウントを始めた。

ジンは言った。

「ハッチを開く……出航準備だっ!衝撃に備えろっ!」

ジンはそう言うと何かのボタンを押した。すると……前方にある壁が大きく割れて、目前に外の風景が現れた。外はすっかり暗くなっている。

「インストール完了っ!飛空挺……出航するっ!」

ジンはそう言うと、手元のレバーを手前に引いた。

ゴゴゴゴゴッ………キィーーーーーン……と、飛空挺から凄まじい音が鳴り響いている。

すると飛空挺はゆっくりと前方に動き出した。

エリスは目を見開いた。

「動いた……」

飛空挺の後方からエンジン音が響く……ゴオーーーーーーッ!

飛空挺は加速を始めて、勢いよく空に飛び出した。

エリスとミドは手を合わせて、大喜びした。

「飛んだっ!」


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