②
……飛空挺ドッグ……
飛空挺の元に到着したエリス達三人は、辺りを警戒した。
「なんとか無事に着いたわね……」
エリスがそう言うと、ミドもホッとした表情になった。
「ええ……でも、ロックさんは大丈夫でしょうか?」
ジンが言った。
「実力は互角だろうが……イレギュラーが発生するかもな……」
エリスは怪訝な表情をした。
「イレギュラーって?」
ジンは自分達が降りてきた階段を見た。
「どうやらイレギュラーが現れたようだ」
そう言ったジンの視線の先からは、黒装束の連中がゾロゾロと階段から現れた。手にはそれぞれ同じ形の小太刀を持っている。
エリスは目を見開いた。
「なに……アイツら?あれもアデルの?」
ジンは首を横に振った。
「いや……奴らは違う……。私がこの前追い返した奴の仲間だろう……。しかし奴等が先に来るとは……細工が裏目に出たか……」
ミドは目を丸くした。
「それって……タキシード男性の?それに細工が裏目って?」
「何の話しかわかんないけど……。それより、アンタ……どんだけ敵がいるのっ?」
エリスはジンにそう言うと、壁に立て掛けてある鉄パイプを手に持って、黒装束の連中の方に構えた。
ミドはそんなエリスを、目を見開いて見た。
「何をっ!?……まさか……闘う気ですかっ!?」
エリスは苦笑いし、鉄パイプを持つ手に力を込めた。
「嫌だけど、仕方ないでしょっ!やらなきゃ……やられるわよっ!」
そんなエリスにジンは軽く笑った。
「フッ……いい考えだ……。これを持て……」
ジンは懐から白いハンドガンを取りだし、エリスに渡した。
エリスは目を丸くした。
「けっ、拳銃?」
「麻酔銃だ……。護身用に持っておけ……。それに、そろそろ来るだろう……」
黒装束はジリジリと距離を詰めてくる。
エリスは右手に鉄パイプ、左手に麻酔銃と、身構えた。
(やるしかないっ!)
しかしその時だった。
「ぎゃーっ!」「ぐわっ!」「へばっ!」
黒装束の後方から叫び声が聞こえた。ドッグ内に侵入した黒装束達は、揃って自分達がやって来た階段を見た。
「死にたくねぇ奴は……とっとと帰った方がいいでさぁ……」
階段の方から、黒装束をサバイバルナイフのような短剣を二刀で、斬り裂きながら……ジュノスが現れた。
ジュノスは口元は笑っていたが、目は鋭く、冷酷さを感じさせた。
エリスはジュノスに、ガゼルを見たときと同じ感覚を持った。
(黒いスーツ……コイツもさっきの奴と同じ……)
ジンは言った。
「ジュノスか……比較的、話のわかる奴が来た……」
黒装束達はターゲットをジュノスに切り替えた……エリス達三人には見向きもせずに……。それ程にジュノスから放たれる圧倒的プレッシャーを、彼らは本能的に感じたのだ……危険だと……。
黒装束達は一斉にジュノスに襲い掛かった。
ジュノスはニヤリとした。
「帰れって言ったのに……言葉の通じない奴は……嫌いだねぇ……」
ジュノスは黒装束の小太刀をかわすのと同時に、喉元斬ったり、心臓を突いたりと……確実に黒装束達を仕留めている。
顔やシャツに、返り血がかかったジュノスは、目を見開き笑っている。その様はまるで悪魔の様だった。
……一方コテージでは……
「うおらぁーーっ!」
ロックは勢いよく黒装束達を、次々と斬り裂いていく……ロックの太刀筋に躊躇いは全くない。
「オラーッ!」
負けじとガゼルも二本のトンファーを使い、次々と黒装束を殴り飛ばしていく。
二人は共に満身創痍だったが……黒装束も残りわずかだ。
タキシードの男は目を見開き、ガタガタ震えている。
(何なんだコイツらはっ!?……バケモノかっ!?)
残り数人の黒装束達も、二人に怯えて怯んでいる。
血だらけで息の荒いロックは、不敵に笑った。
「はぁ、はぁ……へっ……どうした?もう終ぇか?……はぁ、はぁ……」
「テメェには色々と聞かねぇよなぁ……はぁ、はぁ……」
ガゼルは男にトンファーを向けたが、息があがっている。
タキシードの男の表情は、明らかに焦りの色が出た。
一方、飛空挺ドッグでは、既にジュノスが黒装束を全員片付けていた。
返り血まみれのジュノスの足下には、黒装束達数十人が、息絶えて転がっている。
そのおぞましい光景に、エリスとミドは顔面蒼白で呆然としている。
ジュノスは返り血を浴びた顔で、ニコリとして三人に言った。
「遅くなってすいやせん……。途中の別れ道で、俺が間違ったせいで……コイツらに追い抜かれたようでさぁ……」
ジンの細工とは、一本道を二手に別ける、カラクリだったようだ。
「じゃあ、俺はこれで……」
ジュノスが来た道を戻ろうとすると、エリスが呼び止めた。
「まっ、待ちなさいっ!」
ジュノスは目を丸くして、エリスを見た。
エリスは言った。
「わたし達を捕まえるんじゃないの?」
ジュノスはエリスの目を見て、軽く笑った。
「フッ……コイツらがジン博士を殺しに来たって事は……ジン博士の嫌疑は、こちらの勘違いって事でさぁ……」
ジュノスは再び三人に背を向けて、来た道を戻り出した。
「つぅ訳で……俺らの任務は終了でさぁ……。先輩らの所にもコイツらが来てるだろうし、俺はそっちに行って来まさぁ……。それと、この施設にはコイツらが爆弾仕掛けたみたいですから……早く脱出して下せぇ……じゃあ……」
エリスとミドは、しばらくジュノスの後ろ姿を、ぽかぁんと見ていたが……すぐに我に帰って、互いを見合わせた。
「ばっ、爆弾っ!?」
一方のロックとガゼルは、とうとう黒装束を全て倒してしまった。
「はぁ……はぁっ……後はテメェだけだぜ……」
ロックはふらつきながも、刀を男に向けた。
「テメェらが相手だったら……俺は躊躇う事なく斬り殺すぜ……」
するとガゼルは、ふらつきながらロックに言った。
「バカかっ!アイツは拘束する……」
ロックはガゼルに悪態ついた。
「くたばりぞこないが……偉そうにしてんじゃねぇ……」
ガゼルはロックを睨み付けた。
「お前に言われたくねぇっ!」
ロックとガゼルが睨み合っていると、ドゴォーーン……という凄まじい轟音と共に、コテージ全体が揺れた。
これには流石のロックとガゼルも驚いた。
「何だっ!?……爆発かっ!?」
ロックがそう叫ぶと、ガゼルは男を睨んだ。
「チッ……そういう事かぁ……」
男は二人の様子にニヤニヤしている。
ガゼルが言った。
「ジンの技術を奪えねぇなら……。この施設ごと消しちまおうってか……」
男は不敵に笑った。
「フフフ……そういう事です。貴方がたは、この爆炎でまとめて始末してさしあげます……。それでは……」
男はそう言うと、コテージから逃走した。
「待ちやがれっ!」
ガゼルは男を追おうとしたが、ガゼルの前に爆破された天井が落ち、男を追う事ができなかった。
ガゼルはロックに言った。
「おいっ!ハーネストっ!とりあえず脱出を……!?……」
ガゼルは 目を疑った。何とロックは出口の逆方向に走っていたのだ。
「ハーネストっ!どういうつもりだっ!?」
ロックはガゼルに言った。
「仲間がまだいんだよっ!テメェは勝手に脱出しやがれっ!」
ロックはそう言うと、コテージの裏口にある隠し階段へと行ってしまった。
ガゼルは渋い表情をした。
「バカがっ!あっちはジュノスがいっから大丈夫だってのに……」
するとロックと入れ替わる形で、ジュノスがコテージに現れた。
「ガゼル先輩っ!大丈夫ですかい?」
ガゼルはジュノスの登場に、怪訝な表情をした。
「ジュノス……ハーネストは?会わなかったのか?」
ジュノスはコテージに広がった炎を避けるように、ガゼルな元にきた。
「何でぃ、先輩……ボロボロじゃねぇですかぃ……」
「んな事より、ハーネストは?会わなかったのか?隠し階段に行きやがったぞ」
ジュノスはキョトンとした。
「ロック先輩?さぁ……。あっ、そうだ……隠し階段入ってすぐに、別れ道がありやすから……そこですれ違ったかも」
ガゼルは辺りを見渡した。コテージ内は炎に包まれ、すぐに脱出しないと、ガゼル達もタダではすまない。
ガゼルはジュノスに言った。
「まぁいい脱出するぞ……」
ジュノスは頷いた。
「そうですねぇ……俺らもヤバいでさぁ……。でもロック先輩大丈夫かなぁ?俺と会わなかったって事は……多分迷ってますぜ……」
ガゼルとジュノスはコテージから脱出をした。
……飛空挺操縦室……
三人はすでに飛空挺に乗り込み、操縦室にいた。操縦室は複雑な機械が並べられ、素人にはさっぱりわからない。
ジンとミドは、中央にあるタッチパネルの操作をしている。
飛空挺の外では、絶えず爆音が鳴り響いている。飛空挺ドッグである岬が海の藻屑と化すのは時間の問題だ。
エリスは焦った様子で言った。
「ヤバイよぉ……早く脱出しないと……。凄い揺れてるし……」
しかし二人は、エリスを無視して操作に集中している。
二人は阿吽の呼吸で、それぞれがすべき事をしている。師匠と弟子という関係だけで、言葉はいらないようだった。
するとようやくジンが言った。
「ミド……ディスクを……。お前がインストールするんだ」
ミドは一瞬目を見開いたが……ゆっくり目を閉じた。
(師匠……ロックさん……エリスさん……)
「師匠……僕の想いを……夢を……。この船に乗せますっ!」
ミドはそう言うと、ディスクを専用の挿入口に差し込み、ボタンを押した。
ミドの目は力強く、どこか吹っ切れた表情をしていた。
液晶画面に『インストール完了まで10、9、8………』と、カウントを始めた。
ジンは言った。
「ハッチを開く……出航準備だっ!衝撃に備えろっ!」
ジンはそう言うと何かのボタンを押した。すると……前方にある壁が大きく割れて、目前に外の風景が現れた。外はすっかり暗くなっている。
「インストール完了っ!飛空挺……出航するっ!」
ジンはそう言うと、手元のレバーを手前に引いた。
ゴゴゴゴゴッ………キィーーーーーン……と、飛空挺から凄まじい音が鳴り響いている。
すると飛空挺はゆっくりと前方に動き出した。
エリスは目を見開いた。
「動いた……」
飛空挺の後方からエンジン音が響く……ゴオーーーーーーッ!
飛空挺は加速を始めて、勢いよく空に飛び出した。
エリスとミドは手を合わせて、大喜びした。
「飛んだっ!」




