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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第三話 再会と衝突
10/30

ロックとガゼルは互いに睨み合い、一定の距離を保っている。

ガゼルは悪どい笑顔でロックに言った。

「久しぶりだなぁ……ハーネスト……。こんな所で会うとは……今日は運がいい……」

ロックは憮然とした表情で言った。

「俺はテメェの下品な面なんて、見たくなかったよ……。んで?ジンに何の用だよ?」

「国家転覆の嫌疑だ……。これ以上は言えねぇ……」

「ジンがそんな事をしねぇのは……テメェも知ってんだろ?」

ガゼルはニヤリとした。

「拘束すりゃあわかる……。もちろんお前にも来てもらうぜ……ハーネスト……」

ガゼルはそう言うと、ロックに向かって戦闘体制をとった。

ロックは刀を抜いた。

「俺が「はいそうでか」と言うとでも、思ってんのか?」

ガゼルは不敵に笑った。

「納得してもらっちゃあ……困るぜ……。俺はお前と()りたくて、ウズウズしてんだ……」

ロックの登場によって、エリスの表情には少し余裕の色が表れた。

「ジン博士……ロックが来たから、もう安心よね?」

ジンは渋い表情をしている。

「どうだろうな?」

エリスは怪訝な表情をした。

「えっ?」

ロックに向かっているガゼルは、ロックとの間合いを詰めながら言った。

現在(いま)のお前が……どれ程弱ぇか……俺が確かめてやる」

ガゼルの言葉にエリスの表情は険しくなった。

(弱い?あのロックが?)

ロックはミドに耳打ちした。

「ミド……俺がアイツに突っ込むと同時に、ジンの所へ行け……」

ミドは情けない表情になった。

「えっ?そんな……怖いです……」

「言ってる場合かっ……オメェが行かねぇと、俺達の飛空挺は飛ばねぇぞ……」

ミドは目を丸くした。

「俺達の……ロックさん……」

「じゃあ後はヨロシクなっ……」

ロックはそう言うと同時に、ガゼルに飛び込んだ。ミドも勢いよく走りだし、ジンとエリスの位置を目指したが……。

ロックの刀と、ガゼルのトンファーが勢いよくつばぜり合ったが……ガゼルは難なくロックの刀を弾き飛ばした。

「遅ぇーっ!」

ガゼルはそう叫ぶと、もう片方のトンファーで、ロックの左こめかみを狙い撃ちした。

ロックは勢いよく吹っ飛んでいき、コテージの食器棚に勢いよくぶつかった。

ガッシャーーンッという轟音がコテージに響き渡った。

ガゼルはロックを吹っ飛ばしたトンファーを、クルクル回した。

「頭蓋骨が砕けたかぁ?」

ロックはバラバラになった食器棚に埋もれて動かない。

エリスは悲痛な面持ちで叫んだ。

「ロックーーッ!」

「へっ、呆気ねぇ……。さてと……」

ガゼルはミドを見据えた。

ミドはロックが吹っ飛んでいったショックで、足を止めてしまった。

ガゼルはミドに詰め寄った。

「諦めな……」

ミドは泣きそうな表情になっている。

(ロックさん……師匠……)

するとガゼルの後頭部目掛けて、コーヒーカップが飛んできた。

ガゼルはニヤリとして、コーヒーカップを弾き飛ばした。

「しゃらくせぇーっ!……!?……」

カップを弾き飛ばしたガゼルは、目を見開いた。

カップを弾き飛ばしたガゼルの懐に、いつの間にかロックが入ってきたのだ。

(コイツッ!……速ぇっ!)

「うおらぁーーーっ!」

ロックは下方から、ガゼルの喉を目掛けて刀を振り上げた。

ガゼルは焦った表情をした。

(斬られる……チィーッ!)

ガキィィィィンッ!

凄まじい音と同時に、今度はガゼルが吹っ飛んだ。

エリスはなんとも言えない複雑な表情で叫んだ。

「ロックッ!」

しかしエリスはすぐに目を見開いた。ロックは頭から血を流し、左うでに大きな痣が出来ていて、そこからもダラリと血が流れている。

ロックの表情は苦痛で歪んでいた。

(野郎……間一髪トンファーで防ぎやがった……)

するとガゼルはすぐに立ち上がった。

「案外やるじゃねぇか……俺のトンファーを咄嗟に、その左腕で防いだか……。流石は俺達と同じ、元『アデル十傑』……」

ガゼルの言葉にエリスは目を見開いた。

(ロックも……あの人と同じ……)

ガゼルはエリスを見てニヤリとした。

「あの女……お前の連れみたいだが……。何も知らないみたいだなぁ……」

ロックの表情は険しくなった。

ガゼルは続けた。

「何百、何千の敵を斬り殺した……その返り血を浴びた姿は……まさに人を喰らう鬼……」

ガゼルはトンファーを振りかぶって襲い掛かった。

「なぁっ!人喰いの蒼鬼(そうき)さんよぉ!」

ロックはガゼルのトンファーを刀でかわし、もう一本のトンファーの二撃目を、体をのけ反らせ、上手くかわした。

ロックは大声で言った。

「エリスッ!ミドとジンを連れてさっさと行けっ!」

エリスは不安そうな表情で言った。

「で……でもっ!」

するとジンが言った。

「ここはロックに任せよう……私達はやるべき事をやるぞ……ミドッ!」

「はっ、はいっ!」

ジンはロックに言った。

「ロックッ!先に飛空挺で待ってるぞっ!」

ジンがそう言うと、三人は飛空挺ドッグへ向かった。

「飛空挺だぁ?行かせるかよぉっ!」

ガゼルはトンファーを三人に向かって投げようとしたが、すかさずロックがそれを刀で弾いた。

ガゼルは弾かれたトンファーを、ジャンピングキャッチし、ロックを睨んだ。

「ハーネスト……テメェーッ!」

ロックはニヤリとした。

「俺と闘り合いながら……アイツらを追えるかよっ!」

ガゼルは激昂した。

「ぶっ潰してやるよっ!」

「やってみやがれっ!」

ロックの刀と、ガゼルのトンファーが、再び激しく衝突した。



コテージの裏側に出た三人は、隠し階段に入って、走って飛空挺ドッグに向かった。

走りながらエリスは、ジンに言った。

「あの二人……なんなわけ?……仲悪いの?」

ジンは表情を変えることなく言った。

「ガゼルはただの戦闘凶だ……。そんな奴にとって、ロックは格好の獲物だ」

エリスは理解に苦しんだ表情をした。

「意味がわかんない……」

ジンは言った。

「ガゼルは昔からずっと、ロックと闘いたかったのさ……しかし十傑同士の私闘は禁じられていた……」

ミドが言った。

「そうか……ロックさんは、もうアデルの軍人じゃない……」

ジンは走りながら頷いた。

「そうだ……。ガゼルからすれば、これで心置きなくロックと闘れるわけだ……」

エリスは困り果てた表情になった。

「見たままの危ない奴じゃないっ!」

ジンは言った。

「我々も……うかうかしてられない……」

エリスが言った。

「どういう意味?」

「アデルのエージェントは二人一組で行動する」

エリスとミドは揃って嫌な予感がした。

ジンは言った。

「つまり、ガゼルとは別の奴が、我々を追ってくるはずだ……」

「何でそんな冷静なわけ?」

エリスとミドは揃って泣きそうな表情になった。

ジンは二人に言った。

「通路に細工をしておいた……少しは時間稼ぎが出来るはずだ。急ぐぞ……」

三人はとにかくひたすら階段を降りて、飛空挺を目指した。

するとコテージの屋根の上では、もう一人のアデルのエージェント……ジュノスが、隠し階段に入っていく三人を見ていた。

「行くとしますかねぇ……」



一方コテージでは、ロックとガゼルの激しい攻防が繰り広げられていた。

最初は防戦一方だったロックだったが……徐々に互角の闘いまで持ってきていた。

ガゼルがロックの頬にトンファーを喰らわすと、ロックはガゼルの胸に斬り傷を付ける……。

ロックがガゼルの方を斬り付けると、ガゼルがロックの脇腹にトンファーを喰らわす……。

まさに一進一退の闘いが続いていた。

余裕だったガゼルの表情も険しくなる。

(コイツ……さっきまでの戦闘勘の鈍さが……無くなってやがる)

ロックは勢いよく上段から、刀を振り下ろした。

ガゼルは二本のトンファーで刀を受け止めた。

(俺と闘ううちに、戦闘勘が戻ってきやがったか……)

「うおぉーーっ!」

ロックは、刀を両手で防いだ事によって、がら空きになったガゼルの腹に、蹴りを入れた。

「ぐおっ!」

蹴りをまともに喰らったガゼルは、後方に吹っ飛んだ。

「がはっ!」

ロックもダメージが蓄積しているようで、刀を使って体を支えている。

二人は共に満身創痍で、口や頭から血を流し、今にも倒れそうだ。

するとガゼルは、フラフラと立ち上がり、ロックに言った。

「はぁ、はぁ……どうやらここまでのようだな……」

ロックも言った。

「はぁ……みてぇだな……はぁ、はぁ……来客だ……」

二人が言うように、コテージの玄関には、男が一人立っていた。ミドの造船所にいたタキシードの男だった。

ロックは顔をしかめた。

「アイツは……はぁ、はぁ……」

「はぁ……知ってんのか?……はぁ……」

ガゼルがそう言うと、ロックは頷いた。

「ああ……ジンの勧誘に来てた奴だ……。断られたけどよぉ……」

ガゼルは憮然とした表情になった。

「チッ……そう言う事か……」

ロックは不機嫌な表情をした。

「一人で納得してんなっ!どういうこった?」

タキシードの男は二人を見てニヤニヤしている。

ガゼルは言った。

「奴は朧の回し者だ……」

明らかにロックの表情は変わった。

「朧……だと……!?」

タキシードの男は二人に言った。

「昼間はどうも……そちらの方は存じませんが……」

ガゼルは言った。

「アデルのもんだよ……ノコノコこんな所までやって来やがってよ……何の用だ?」

「政府の犬ですか……。いやぁねっ……協力出来ないのなら……消してしまおうと思いましてね……」

男がそう言うとコテージ内に、頭から足まで黒装束の連中が、ゾロゾロと入ってきた。その数は凡そ20名程だ。

ロックは言った。

「逆らう奴は消すか……相変わらずクソな連中だ……。でもこれでジンが無実だってわかったろ?」

ガゼルは不機嫌な表情をした。

「ケッ……まぁなぁ……」

男は言った。

「満身創痍が……えらく余裕ですね……。心配せずとも、隠し階段にも部隊を送りました。仲良く皆であの世に送って差し上げます」

男の言葉にロックは焦った表情をしたが、ガゼルがすぐにロックに言った。

「安心しろ……向こうはジュノスが行ってる」

「ジュノス?……オメェ、アイツと組んでんのか?」

「ケッ……好きで組むかよ……。それよりハーネスト、提案だ……。この喧嘩のルールのよぉ」

「奇遇だねぇ……俺も提案しようと思ってたんだよ……」

「ケッ……お前もか……気に入らねぇ……」

ロックは軽く笑った。

「なぁに……簡単な提案だよ……。こっからはバトルロワイアルと行こうじゃねぇか……」

ガゼルはニヤリとした。

「つまり、お前も含めて……ここにいる奴、全員をぶち殺せばいいわけだ……」

ロックもニヤリとした。

「そういうこった……。自分以外の奴を皆殺しにする。簡単だろ?」

ガゼルは笑った。

「ハハハハハハッ!」

ロックも笑った。

「ハハハハハハッ!」

その光景を見ていた男は、怒りの表情をした。

「死に損ないがぁっ!ぶち殺せぇーっ!」

黒装束が二人に、一斉に襲い掛かった。


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