[第九話]証明の糸口
行動開始。
グラビティのその言葉に従い走り出そうとした蓮だったがとある事実に気付き、ストップをかける。
そして引き返すとこんな事を口にした。
「で…具体的にはどうするんだよグラビティ」
そう。具体的に何をすれば良いのか。一番重要な事を決め忘れていた。
「あァ…とりあえず立花を呼べ。
どォやらあのクソ野郎は立花に惚れてるみてェだしな。あいつにちょっと頼み事をする。」
エターナル城の長い長い廊下を歩きながら蓮達は相談する。現在時刻は午後6時。
もう1時間したら夕食の時間だ。
「何を頼むんだ?」
「…まァちょっとした事だ。危ない事じゃねェから気にすんな。」
…少し。というよりもかなり気にはなるがグラビティを信用しない訳にもいかないだろう。だからあえて此処は聞かないことにした。
「つまり…まずは」
「一応立花を呼ぶが、俺達は今動くと問題になる。…どォしてかはさっきの馬鹿の行動で分かるだろォ」
そう言ってグラビティがパチンと指を鳴らした。すると次の瞬間近くの扉が開く。
「お呼びしましたかな?グラビティ様」
「すまないが一つ頼まれてくれ。立花 瑠花を呼んでこい。それと終わったら信用できる部下を一人連れてこい。証人になってもらう。」
チャールズさんが扉を開けて入ってきた。
……今の指鳴らしで気付くって…。
思わず驚愕しつつも蓮は平静を保つ。
そして、チャールズさんに命令を下すグラビティを観察するがなかなか様になっている。
それを見つつ蓮は次の手を考え始めた。
(グラビティの策は、相手に証拠を提出させて皆の前で偽物だと証明する。
だがそれで偽物と分かっても、俺達から疑いは晴れない。その疑いを晴らすには………!)
(証拠を提出するしかない…。…俺達が無罪だっていう本物の証拠を!)
それに気付いた蓮は、何か証拠になるものが無いかを考え始める。
(そもそも大昌達の証拠は何なんだ?幻惑は騙す能力って聞いたけど。それがよく分からない。…いや
、そもそも俺たちがやってない証拠なんて…。現場には俺の血。それから抉れた地面とかだけ…だしな。…ん?待てよ…。もしかしたら…!)
ここまで考えた蓮は声を上げた。
そして高らかに宣言する。
「……っ!!あった…証拠が…!」
蓮は呟いた。
「あァ?どォ言うことだ?…」
「証拠だよ。グラビティが言った方法だと、あいつらの証拠が偽物だということは言えても、俺達の疑いは晴らせない。
だけど…俺達が犯人じゃ無い証拠を出せば俺達は無罪だ。
その証拠を見つけたんだよ…!」
蓮がそう言うと、グラビティが少し目を見開いた。そして、少し思考するような素振りを見せた後に、何かに気付いたのか「っ!!」と声を上げる。
「分かったみたいだな…恐らく、それは俺の体質のお陰で、99%証拠になる。
だから俺はそっちを確保するんだけど…これも証人がいる。だからーー。」
そこまで俺が言うと、グラビティが頷いて言った。
「そォか…チャールズ。追加だ。
霧咲 紫苑を呼べ。
知り合いと呼べる奴がいねェし、ヒカルだと信用してくれねェだろォしな」
その言葉に、チャールズさんが頷く。
「承りました。お任せください」
そう言ってチャールズさんが部屋を後にした。すると、グラビティが真剣な表情でこちらを見る。
「呼んだ後は手分けだ。
こっちは立花に頼む。だからてめェは霧咲に頼め。」
その言葉に蓮は頷いた。
そしてグラビティが続ける。
「恐らくあの二人はクソ野郎の幻惑に掛かってる。まずはそれが間違ってる事を立証する。とりあえずは別れた後、それぞれやるべき事を終えたらこの部屋に集合だ。……良いな」
「分かったよグラビティ。証拠は任せたぜ」
そう言って蓮がグッと指を突き出す。
その指を見たグラビティは一瞬固まったが、直ぐに口を開いた。
「ハッ。そっちこそ精々邪魔されて失敗しましたってのはやめてくれよォ?
"無能"勇者君?」
その言葉を聞いた蓮はニヤリと笑った。
ーーーーー
「で…何の用かしら?…グラビティ。
それに蓮」
「そうだよ、それよりも謝ったの?」
現在、部屋には蓮とグラビティ。
チャールズさんに瑠花と紫苑がいた。
そして呼び出された二人は自分達に質問するが、それをスルーしてグラビティが質問で返す。
「今回呼んだのは、頼みてェ事があるからだ。まず、てめェら。何で先程の件。俺達が犯人だと決めつけたんだァ?」
その質問に、何を聞いている中と言った表情で紫苑が答えた。
「何でって…大昌のヤツが証拠を出したからよ。携帯の録画をね。
どうやら、あいつが持ってる携帯は最新式の太陽光で充電出来るタイプだったから、使えたらしいわ。その時は、偶々景色を撮影してたら襲われたらしく、その時の映像を見せてくれたわ」
紫苑が答えた。
なるほど…携帯の録画ねぇ……。
横を見ると、グラビティが成る程と言った表情で頷いた後に再度質問を重ねた。
「そりゃ…どんな映像だったんだァ?」
「確かいきなりレンとあんたが飛びかかって刃物で橋下君を刺して血を流しながら倒れていたわ。
森山君が回復魔法を掛けてたから良かったものの、それが無かったら死んでたわね。……分かって無かったの?」
そう言って紫苑が憎悪の目でグラビティを見つめる。
「私も見たけどあんな表情の蓮君を見たことなくて…怖かった。」
「……………」
瑠花の言葉に、蓮は思わず無言になる。
しかしグラビティは更に尋ねた。
「その後はァ?」
「その後って…確か、大昌君が橋下君と森山君を守るように立ち塞がって蓮をボコボコにしていたわ。
あんたは、橋下君を回復させようとする森山君と戦っていたわ。その途中に、橋下君を思いっきりあんたは蹴っ飛ばしたのよ!」
紫苑の声が段々と大きくなり、最後の方は怒気を含んだ大声になっていた。
しかし、そんな事は気にしないと言いたげにグラビティは涼しい表情で蓮をチラリと見て言う。
「なるほどォ?そォ言うことか。
じゃあてめェが言う証拠で立証出来んじゃねェか?」
「あぁ…だが、時間が経ってるからな…それの時間を巻き戻して元のように出来れば…いける。」
「それは考えてある。確か…霧咲」
グラビティが紫苑に声をかける。その声を聞いた紫苑は胸元を抑えるようなポーズをした後に答えた。
「な…何よ!」
「確か…てめェの知り合いに自然記憶の勇者がいなかったか?」
自然記憶?
なんだ、それは?聞き慣れない言葉に蓮は思わず首を傾げた。だが、紫苑は少し悩むような表情を浮かべた後にこう答えた。
「彩葉ちゃんの事?確か、自然の記憶を読み取って取り出す事が出来たり、木とかと話が出来たり自然の使役も出来るってやつよね?」
そう言って首を傾げる。
「あァそいつだ。チャールズ、その彩葉とか言う奴も呼べ、まとめて幻惑を解くからなァ」
「畏まりました。では少しお待ちを」
恭しく手を動かした後に、チャールズさんが再び部屋を出て行った。
するとーーー。
「蓮君…どういうこと?幻惑って。」
瑠花が小首を傾げながら質問をしてきた。
その質問に蓮はこう答える。
「それは、グラビティに聞いてくれ。
俺はあまり説明が得意じゃないから」
すると瑠花達はグラビティの方を向いたが、グラビティも
「後で説明する」
と、一言で答えた。
すると紫苑がバンッ!と音を立てて立ち上がる。そしてグラビティをキッと見つめた。
「あんた…さっきから何言ってんのよ!
私達に聞くだけ聞いておいて!
教えなさいよ!あんたが何を考えてるかは分からないけど…!またあんな事やるんだったら許さないわよ!」
グラビティを睨む目が真剣そのものだ。
俺を睨んで無いのは…まだ少しの間だけど付き合いがあるからだろうか?
するとーーー。
ガチャーーという音と共にチャールズさんと、緑髪の女の子が現れた。
そしてチャールズさんが口を開く。
「お待たせ致しました。花風 彩葉様をお連れしました」
そう言ってチャールズさんが、その彩葉ちゃんを前に出す。
見た目はかなり可愛らしい。身長は低く、守って上げたくなるタイプの女の子だ。髪は肩にかかる位であまり長くは無い。
ーーそしてその彩葉ちゃんがピョコっと頭を下げた後に話し始めた。
「えっと…花風 彩葉です。よ…よろしくお願いしまふ!〜〜っ!!」
……どうやら噛んだようだ。口を押さえてのたうちまわっている。
……かなりドジなタイプのようらしい。
「だ…大丈夫か?彩葉」
とりあえず、蓮はその彩葉ちゃんに近付いて声をかける。それに彩葉ちゃんが返事を返すがーーー。
「ふぁ…ふぁい!大丈夫でふ!〜〜〜っ!!」
また噛んだようだ。あう〜と言いながら涙目になっている。
するとグラビティが。
「チッ。どォでも良いから座れ。説明する」
舌打ちをしてから言った。そしてまるで不良のように椅子に座っている。
その姿を見て怖かったのかは分からないがーー。
「あわわっ!あの人危ないですよ!
不良ですよ!た…助けてください!」
いきなり、彩葉ちゃんがとんでもない事を叫び出した。
声を上げたではなく、叫び出したのである。当然、城内に防音効果などあるわけもなく響き渡るのだが。
「うるせェ!!静かにしろォ!ブチのめされてェのかコラ!」
グラビティが一喝する。
その言葉に涙目になって蓮の後ろに隠れる彩葉。
「ま…まぁまぁ、グラビティ。彩葉が怯えてるだろ…?なっ」
とにかく蓮はこのままだと怯えて会話にならないと判断し、グラビティに声をかける。
「………チッ」
すると舌打ちはしたものの、少し落ち着いたのか少しだけグラビティの表情が柔らかくなる。
そして全員が座ったところでグラビティが説明を始めた。
「まず、俺らが起こしたとかなってる事件は皆知ってるよなァ?」
最初にグラビティは、皆の顔を見渡した後に質問する。
「知ってるわよ」
まず最初に紫苑が言ったのを皮切りに全員が知っていると言った。
ただし彩葉は誰がやったかを知らなかったらしく、「あなた達がやったんですかぁ!?」と驚きの声を上げていたが。
次に、グラビティが次の質問を投げかける。
「さっきも聞いたがなんで俺達が犯人だと言われているんだァ?」
「それは…大昌が携帯の録画っていう証拠を出したからに決まってるじゃ無い」
再び紫苑が答える。
すると、グラビティが話はここからだと言わんばかりに席に座り直して真剣な表情を浮かべる。
「じゃあ説明を始めてやる。
まず最初にてめェらは勘違い…いや、大昌に騙されてる」
グラビティの言葉に、瑠花が反応した。
「それってどういうこと!?」
「それを今から説明してやる。それとてめェらを呼んだ理由もなァ」
そう言ってグラビティが立ち上がり両手を広げながら話し始めた。
「まず、この事件。まァ便宜上、偽装事件とでも呼んでおくかァ。その偽装事件は、俺達を嵌める為に創られた事件だ。」
「創り上げられた事件…どういうことよ!?」
グラビティの言葉に紫苑が驚きの声を上げる。
「てめェらは、俺達を犯人だと断定した。その理由は大昌が見せた携帯の録画。まずは大昌が携帯で録画なんざしてなかった事を証明するとすっかァ」
そう言って、グラビティが口を開ける。
「まず、あのクソ野郎がもし携帯で録画してたとすんならヤツはどうやってこいつと戦ったんだァ?てめェの証言だと、録画はしっかり撮られてたんだろォ?ブレなんか無く。」
「え…えぇ…そうよ!」
「うん、そうだよ」
紫苑と瑠花がそれに頷いた。
それにグラビティがため息をつく。
「普通、例え無能だとしても戦っていればブレは起こるしピントなんざあうわけがねェだろ。それに、片手で撮りながら戦ったっつってもヤツはまだ魔法を使えねェ。肉弾戦しかねェのにどォやってボコボコにしたんだ?」
そう言うと、二人があっ!と気付いたように小さく叫んだ。
「これだけでその録画の矛盾が出る。
んでここからが仮説だが、恐らくヤツは証拠を偽装したんだろォ。」
「「「偽装?」」」
瑠花、紫苑、彩葉が首を傾げる。
そこを蓮は引き継いだ。
「大昌の能力は、
幻惑。例えば、偽装や騙したり、幻術を見せるスキルだ。これを使えば偽装は可能だ」
「「「!!」」」
三人が驚いた表情に変わる。
「ここで皆を呼んだ理由について説明するな。とりあえず一応聞くけど、録画の中じゃ橋下が血を流してたんだよな?」
「そうよ」
紫苑が頷いた。
「じゃあその血は橋下のモノ…って事になる。でもその血が橋下のモノじゃなかったら…?」
「「「!」」」
そして蓮は人差し指を立てるとこう言った。
「そこで、彩葉の出番さ。
彩葉のスキルは、そこにある自然の記憶を読み取って、実際にその時にあったものを取り出したり、自然と会話出来るスキルなんだろ?だからそこに行って、事件の時に流れた血を地面から読み取って取り出して欲しいんだ。勿論、瑠花達は証人としてきて欲しい。
そして、血液型を調べる。」
そこまで言うと、瑠花が「そっか!」と声を上げた。
「もし、そこに流れていた血が橋下君と違う血液型だったら…!」
「そう、俺達はやってないって事の証明と同時に、あいつらが行った偽装工作の存在も露わになる」
そして、蓮は続けた。
「恐らく、その現場に流れていた血は俺のものだ。腹を殴られて血を吐いたし、身体からも血が流れていたから間違いない。」
蓮がそう言うと、瑠花が挙手した。
「でも私達が見た時は蓮君、血なんか流してなかったよ。」
その疑問に蓮はこう答えた。
「恐らく、それは大昌の取り巻きの森山ってやつだ。なぁ、グラビティ。
もしかして俺を運んだ時、誰にも見られて無かったりするか?
それと運んだ後に病室を離れたりも」
俺の質問にグラビティが
「運んだ時は皆、訓練中だったからなァ。大昌達に無駄な事は言うなと釘を刺しに、一度離れた。…見つからなかったがな」
グラビティの証言に納得したように蓮が頷いた。
「なら、その間に森山って奴が俺の止血だけ済ませたんだ。幸い、俺が寝ていたベッドは負傷者が良く使うベッドだからかなり血がついていたりしたからバレる心配は無かっただろうしな。それにあの時間は召使さん達も夕食の準備とか訓練の手伝い中だった筈だから廊下に血が垂れても拭き取ればバレない」
そう言った後に、俺は皆の方を向く。
「そこで…頼む!俺達の無実を証明するのを手伝ってくれないか!?」
そう言って蓮は頭を下げる。
今の自分に出来るのは頼むことだけだ。
幾ら俺達が証明するためのものを提出しても、証人がいないと意味が無い。
だから、断られたら自分達は完全に殺人未遂犯にされてしまう…。
だから、蓮は必死に頼み込んだ。
するとーーー。
「そうだったんだね…。ゴメン。蓮君。
気付けなくて。幼馴染失格だね…。」
瑠花が謝ってきた。続いて紫苑も
「そうね…私も信じちゃってたわ…。ゴメン…疑って。」
そう言って頭を下げる。
彩葉も小さい手を握って
「わ…私はお二人を信じます!
やります!お二人の無実を証明してみせます!」
と言った。
「勿論、私も手伝うわ!」
続いて紫苑が
「うん…私も手伝う!」
瑠花が、皆…皆が協力してくれると言ってくれた。
「皆……」
蓮は呟く…。
最近冷遇されていた事もあり、久し振りに感じた優しさに思わず泣きそうになってしまったがグッと堪え、口を開いた。
「ありがとう…。……っと、此処で泣く訳にはいかないな…まずは証明しないと…」
そう言って蓮はグラビティをチラリと見る。
「…………おォ」
頷くグラビティ。
それを見てから俺は口を開いた。
「……証明開始だ!!」
戦闘ものの筈なのに何故か推理ものになってしまいました。
この事件?が解決したら戦闘に移っていきます。
2014年10月19日。修正を加えました