[第八話]失われる信頼と行動
次に蓮が目を覚ましたのは王宮にあるベッドの上だった。
天井には、豪華なシャンデリアが吊られている。そして蓮はゆっくり起き上がろうとすると
「蓮君!!大丈夫!?」
横から瑠花の声が響いた。思わずバッと音を立ててそちらを見ると、心配してくれたのだろう。目の下が少し赤くなっている瑠花の姿が目に映った。
「あ…あぁ…。瑠花か。だ…痛っ…大丈夫だ…」
起き立てであまり働かない頭を動かしてなんとかそう声を上げた。だが、その言葉に否定する言葉が部屋の中に響いた。
「嘘言ってんじゃねェ。さっき見た感じじゃあ話すだけで多少痛みは奔るくらいの怪我はしてんだよ。」
「グ…グラビティ?」
窓の方。そちらを見ると、何でいるかは分からないが、グラビティは面倒くさそうな表情で蓮を眺めている姿が目に映った。
…どうして此処にいるのかを尋ねたかったが、それよりも早く瑠花が質問する。
「そ…そうなの!?蓮君!」
…やはり嘘や強がりは言うものではないらしい。なので素直に答えることとする。
「あぁ…そうだよ。話すだ…っ…けで少し痛い」
蓮は観念して素直に答えた。
するとーー。
「オイお前ェ。回復魔法の適性があったんだよなァ?」
瑠花にグラビティが質問する。
その質問に瑠花が「う…うん」と答えると。それを聞いたグラビティはーー
「なら魔法掛けてやりゃあいいじゃねェか。てめェにとっちゃァこいつは大事なんだろォ?まァそれに気付けねェって事はどォでも良いのかもしれねェがな」
「あっ…!」
そう呟いて面倒くさそうに椅子に腰掛ける。
対して瑠花はその手があったか!と言いたげな表情を浮かべていた。だが、直ぐに表情を硬くしてこう言った。
「そ…そんなこと無いよ!そ…それよりも魔法掛けてあげるね!」
そして瑠花は詠唱を始めた。
「命を司る女神よ…妖精たちよ…私に力を貸したまえ…初級回復呪文!!」
その詠唱が終わった瞬間、淡い緑の光が蓮を包み込んだ。そしてーーー。
「痛みが…消えた?」
ヒールが消えると同時に蓮の身体から怪我が消えていた。当然痛みも無い。
「私のスキル…回復魔法適性と、フォーチュンスキルの"女神の慈愛"。
女神の慈愛の効果は、回復の力を格段に上げる力なの…。だから、初級回復呪文でも、ここまで効果があるんだよ!」
笑顔で瑠花が言う。
「ありがとう瑠花…助かったよ」
俺は、その力に少し羨ましく思いつつも
ニッと笑って瑠花にお礼を言う。
「う……うん!」
言われた瑠花は少し顔を赤くした後に、可愛らしい声で頷いた。
するとーーー。
ガチャッという音が響いた。蓮達が扉の方を見ると紫苑とヒカルの姿が見える。
「蓮…起きてたの…」
紫苑がそう言いながらスタスタと音を立てながら歩いてきた。
この言い方から察するに、蓮が倒れている間に見舞いに来てくれたのだろう。
「瑠花さんが…なるほど」
一方ヒカルは蓮の隣に瑠花がいるのを見て、瑠花が治したのだと納得したような素振りを見せた後に歩いてきた。
「あれ?そうすると、俺ってどれくらい寝てたんだ?」
その時、蓮の中で疑問が浮かび上がったので質問する。
「まだ一日も経ってねェよ。お前が倒れた五月十日のままだ。」
その質問にグラビティが答えた。
するとーーー。
「あんた…!グラビティ!」
紫苑が水の弾幕のようなモノを生成しながら戦闘態勢に入る。
え?なんだ?何かやらかしたのか?
思わず疑問を浮かべる。
「紫苑さん…抑えて」
ヒカル君が紫苑に声を掛けるが
「負けっぱなしは私の性じゃないのよ…!あんた!今ここで決闘しなさい!」
何時もの雰囲気はどこへやら。
戦闘狂のようなセリフを口走る紫苑。
「あァ?吠えてろ雑魚。せめて俺に攻撃を当てれるよォになってから来るんだな。暇つぶしにもならねェ」
しかし、グラビティはやれやれと言いた気に手をヒラヒラとさせた後に紫苑をバカにした。
「な……なぁっ!!」
紫苑が、怒り狂ったように顔を真っ赤にする。
「それにてめェは怪我人…いや、もう治ってはいるが、病室で暴れるつもりかァ?戦闘の成績上位者っつっても所詮脳筋じゃその程度かァ?」
「う…うるさい!良いから外で私と決闘よ!私よりステータス低い奴に負けるなんてあり得ないんだから!」
聞いていて分かったが、どうやら紫苑はグラビティに負けたらしい。
しかも攻撃を当てられなかったみたいだ。
そのため、紫苑はリベンジしようとしているみたいだけど、グラビティが面倒だからという理由でのらりくらりと避けてるってところだろうか?
……何にせよ、蓮には決闘とかも関係無い話だが。すると、ヒカルが怒りと侮蔑の表情を浮かべながら口を開けた。
「それよりも蓮君とグラビティ。どうして大昌君達を襲ったんだ…!」
「………は?」
本当に、………は?という言葉しか出てこない。蓮は内心疑問の声を上げる。
周りを見るとグラビティも「……は?」と言いたげな表情になっていた。
しかしーーー。
「そうだよ蓮君にグラビティ君!大昌君達に謝りに行かないと」
瑠花も賛同した。待て、お前らは何を言っている?
「そうよ。グラビティはともかく、失望したわよ蓮。橋下君なんて血も出てたし、骨も折れてたらしいわよ。あっちは正当防衛だったらしいけど、いきなり襲いかかったらしいじゃない」
紫苑も、厳しい表情で言う。
(え?何で俺が悪いみたいな事になってるんだ?)
訳の分からない言いがかりに思わず蓮は頭の中で疑問を浮かべ、質問する。
「待て…何を言ってんだお前ら…。
俺が襲いかかった?正当防衛?
どういうことなんだよ…!」
その質問を聞いたヒカルが激昂したかのように表情を厳しくした。そして口を開く。
「何って…自分のしたことが分かってるのか!蓮君!。」
急に怒鳴り声を上げた。
「あァ?自分のしたことが分かってる?
何言ってんだてめェ。」
それを聞いたグラビティがヒカル君に質問する。
「君も分かっていないのか…二人は自分に才能が無かったからっていう理由でいきなり大昌君達に襲いかかって殺そうとしたらしいじゃないか!!」
ヒカル君が、許せないと言った表情で叫ぶ。
「幸い死者は出なかったものの…!
君達は同じ勇者という仲間を殺そうとしたんだぞ!反省していないのか!
確かに君達はスキルが殆ど無くて人よりも弱いかもしれない…!でも嫉妬で人を殺そうとするのは間違ってる!スキルが無くたって…戦いようによれば戦えるんだよ!
それなのに…!君達はなにをやってるんだよ!僕は君達に失望したぞ!」
ヒカル君が叫んだ。その声は外にまで聞こえたらしく、外にいた勇者達が此方を見る。
「話はこれだけだ!もう二度とこんな事するな!じゃないと…僕は大勇者として君達を敵とみなさなくてはならないからな!」
そう言ってヒカル君は部屋の外へ出て行った。それに従って紫苑も外へ出る。
ただ、瑠花だけは
「大丈夫だよ蓮君。グラビティ君。きっと謝ったら大昌君達も許してくれるよ」
と言って部屋から出て行った。
そして部屋には蓮とグラビティだけが残される。三人が出て行ったからか、部屋は静かになった。
そんな中、何かを考えているような素振りを見せていたグラビティが呟いた。
「……なるほどなァ…あのクソ野郎共やってくれんじゃねェか…!」
訳が分からない蓮はグラビティに尋ねた。
「どういうことだ?」
「あの後、てめェを抱えてこの病室までてめェを運んだんだが、その時に何が有ったかをあの大昌とかいうクソが自分達の都合の良いよォに言いやがったんだろォ…!そのせいで今俺達は加害者とかふざけた事言われちまってんだろォな。
チッ…やっぱり殺しておくべきだったか。あのクソ野郎」
グラビティが少しブチ切れ気味に呟く。
そして、更にーーと続けた。
「今、ヒカルが大声で言っちまっただろォ。恐らくこれで周りの勇者からも俺達は人を殺そうとした殺人未遂犯とでも認識されちまってる…。
それに俺達はステータスが低いカスと思われちまってるから、この意見を覆すのは難しい。つまりこの国から俺とてめェの居場所を無くそうとしてる…っつう事だ」
そう言ってグラビティがバンッ!と机を叩いた。その行動に驚きつつも蓮は思った事を言う。
「だ…だけど、おかしいよ。少なからず瑠花と俺はかなりの付き合いがある。
俺が人を殺そうとしたって言っても信じる訳が…!」
「それは恐らくあいつの能力。…幻惑だ。あのスキルは、目の前に無いものを出現させたりも出来る。だからそれを使用して証拠を出したんだろォ。そもそも幻惑は騙すスキルだ。そしてヒカル以外は耐性を持ってないしなァ。それにヒカルを信じ込ませるのは簡単だ。あいつは誰の言葉でも信じちまう馬鹿なんだろォ。そして一度信じたらそれが真実ではないとかは疑いもしやがらねェ!
だがそれなのに周りの奴ら皆から信頼されている…!」
そこまで聞いて、蓮は分かった。
つまり自分達は嵌められたと。
そして、皆から信頼を失ってしまったと。
「チッ…!無駄な頭だけは回りやがるクソ野郎が…!文句があるなら直接言えば良いものを…。まァ良い。俺をここまで怒らせたんだからなァ。相応の罰は受けてもらわねェとなァ…」
グラビティがそう言って口元を三日月型に歪めた。その様子に少しビビりつつも蓮はこの状況をなんとかする方法を考えていると、一つ案が浮かんだので口にする。
「なぁ…グラビティ。思ったんだけど、証拠を出せばなんとかなるんじゃないか?」
その言葉にグラビティが反応する。
「どォ言うことだ?」
「つまり、あいつらは幻惑ってスキルで証拠かなんかを見せたんだろ?
だったら沢山の人がいる前で証拠をもう一度見せてもらえるように誘導すればヒカルなら分かる筈だ。そしたら俺達は晴れて無罪になる」
分かりやすく言うならば、沢山の人の前で証拠を見せるような状況に持ち込み、それを偽物だと暴けば自分達がやっていないという証拠になるかと思ったのだが、グラビティは「甘いなァ」の一言で一蹴した。
しかしーーー。
「だが。俺の能力を使えば問題無ェ…あいつらを社会的にぶち殺せる。良い案だ。乗ってやるよレン。」
そう言ってギャハッとグラビティが笑う。
そして、殺気を振りまきながら
「策は思いついた。後は俺の言う通りにしろ。レン。じゃあ…行動開始ってなァ」
そう言ってグラビティが動き出した。
それに俺も「分かった」と了承して続く。
そしてグラビティが声を上げる。
「目指すは…信頼の回復と大昌の社会的抹殺だァ」
その声は暗く歪んでいるようにも感じた。
こんにちは、ゆうポンです!
もう一話イジメとか修行中の話を書こうかと思いましたが、話を進めることにしました。
さて今回で、蓮君とグラビティの信頼が失われます。そしてそこから始まる二人の逆襲。
どうなるのでしょうか。
感想や批判などありましたらお待ちしています!
2014年10月19日。修正を加えました