[第七話]イジメとグラビティ
どうやら、自分は"無能"認定されてしまったらしい。
どう言うことかというと、ヴァーサタイルカードを貰い、自分のステータスが分かった日。どうやら殆どの奴が全てのステータスが100くらいだったらしく、自分だけがこの世界の平均以下。
もう一人、全能力が30でスキルもあまり無い人物が居たそうだが、彼の場合は別の理由があり無能とは言われてはいない。
で、蓮が"無能"認定を受けてどうなってしまったかというと、あの日から1週間経ったのだが、一部では執拗なイジメが始まった。
食事などで蓮と顔を合わす勇者達の大半は普通の感じに接してはくれるが何となく腫れ物を扱うような態度だし、
大昌などの一部の勇者は事あるごとに自分をバカにしてくる上に暴力なども振るってくる。
寧ろそれが無い日の方が少ないだろう。
それだけじゃない。王達も勇者として呼び出した癖に、何かと他の者より蓮を冷遇する。まぁそれも分からないことでも無い。
有能な者はともかく無能な者は誰だっていらないからだ。
一応、瑠花や紫苑。それからヒカル君などは止めてくれるものの一向に腫れ物を扱うような接し方やイジメは止む気配が無い。
だが、それよりも重要な事がある。
ーーカケルだ。
あの日、カケルはヴァーサタイルカードを受け取った後、消えた。
周りの人は自分以外誰もカケルを覚えておらず、勇者の数を数えても何故か100人いたのだ。
わけが分からない。分かったのは、どうやらカケルは周りの人から記憶ごと姿を消したことだけ。
だとすると何故自分は覚えているのか?という話になるのだが、それについては分からないの一言だ。
「オイオイ、蓮く〜ん?お前なんかじゃ瑠花ちゃんと紫苑ちゃんは守れないぜ。
だぁから俺達が貰ってやるよ。がーはっはっ!」
今俺は地面に転がされている。
そして目の前で蓮を笑っているのは、
垣 大昌
ヴァーサタイルカードを受け取った日に絡んで来た三人のリーダーだ。
「ぐ…く…そ…!」
「はははぁーはぁはー!案外弱いんだな!このクソ野郎!」
今、蓮は三人によってたかってボコボコにされている。元の世界では喧嘩などしたことが無かったので一方的だ。
一応蓮はあの後、才能が無いなら努力するか、道具を作れば良いんじゃ無いかと思い、毎日色々な素材の効果を聞いたりして道具を製作しようとしたり、
強くなるために修行をつけてくれと頼んで修練に励んでいるのだが、蓮が無能だからという理由で素材を教えてくれなかったり、稽古をつけてくれなかったりする。
最近では、素材を与えられなくなり、修練もやり方を教えてくれなくなっている。
そして更に、城から追い出されない事がおかしいくらいの状況にまで追い詰められてしまった。
当然そんな状態で強くなったり道具など作れるわけも無くーー。
「オラオラっ!蹴られるだけか?あぁ!?」
倒れている蓮を何度も蹴り飛ばす大昌。
何度も蹴られた蓮はもうボロボロで、立つのも苦しい状態だ。所々足や身体から血が流れ、口からも流れている。
大昌は、蓮を"無能"と呼ぶ人物の筆頭だ。
恐らく、蓮が瑠花と紫苑の二人と親しい事が原因だろうが。
「がっ…あぁっ…!ぐぁぁ…!」
勢い良く蹴り飛ばされた蓮は壁に叩きつけられた。
「つまんねぇなぁ…わざわざ俺らはお前の修行を手伝ってやってるんだぜぇ?」
ニヤニヤしながら大昌が言う。
横の二人も気色悪い笑みを浮かべているが。
「う…が…ぁ……」
だが、蓮としてもやられっぱなしは嫌だ。だから足に必死に力を込めて立ち上がろうとする。
「クソ…が…っ!!」
しかし、足に力が入らなくなり崩れ落ちた。
「チク……ショ……ウ……がぁ…」
しかし目だけはキッと力を入れ、三人を睨む。
「お?反抗してんのか?お?」
「う…る…せぇ……」
這いずるようにして立ち上がる。
身体中が痛むがそんな事よりもやられっぱなしは自分の性に合わない。
「まだ立てるのかサンドバック」
バカにした表情で呟く大昌の取り巻き。
そこまで言われて流石の蓮もブチ切れた
「うるせえっつってんだろ……」
そしてヨロヨロと走って大昌を殴るために腕を振るうがーー。
「が…ぁ…………」
血を吐いて倒れる蓮。
思いっきり腹を殴られたようだ。
ボロボロだった蓮の拳はあまり速度が無く、回避するのが容易だったようだ。
すると後ろから歩く音が聞こえてきた。
動かない身体で首だけ後ろを振り向くとそこに居たのは金髪の身体が細い少年。顔は中世的だが、何処か怖い雰囲気を持っている。
金髪だがチャラいわけでは無く、むしろ近寄りがたいイメージだ。
身体は中肉中背。
しかし顔はかなりのイケメンだ。
一目見た時は戦うようなタイプの人間では無いと思った。
すると此方を見た彼は顔を顰めると舌打ちをした。
「チッ…目障りな事をやってる馬鹿もいるんだな?クソ野郎共」
吐き捨てるように彼が呟く。
確か…彼が俺と同じくらいの数値だった奴だ。
「ただの稽古相手だよ。無能にワザワザ付き合ってんだ」
しれっと大昌が言う。
しかしーーー。
「あァ?何言ってんだか。明らかに無能イジメてるよォにしか見えねェだろォが。やっぱり脳筋は何処までも脳筋なんだなァ?」
彼の煽りに大昌がプルプルと肩を震わせる。そして顔を真っ赤にして怒り狂ったように叫んだ。
「お前だって数値はこの無能と大差無いだろうが…!今まではやってなかったがお前もサンドバックにしてやるよ!」
そう言って大昌が取り巻きの一人に命令する。
そしてその取り巻きはその少年に突撃したのだがーー。
「遅ェよ」
彼がそう言ったかと思うと大昌の取り巻きはぶん殴られ、壁に叩きつけられた。そして地面に崩れ落ちる瞬間、彼が一瞬で移動して足で腹を踏みつける。
「な…なんだ!?今のは!教えろ!グラビティ!」
その一瞬の出来事を見て、驚愕の表情を浮かべながら大昌が尋ねると言うよりは叫んでいるかのような音量で尋ねる。
「てめェらなんざに教える程、俺の能力は安くねェ。それよりも、てめェらがそこでくたばってんのを弱いってんなら俺も弱いって事だろォ?ステータスは変わらねえんだからな」
そう言って楽しそうに口の端を吊り上げるグラビティ。
…あの一瞬でどうやって移動したのだろうか?
「オイ!森山!何とかしろ!」
そしてそのまま倒した少年を踏みつけ続けるグラビティ。
その様子を見た大昌は慌てて取り巻きの森山に話しかける。
「クッ…!葉風!」
すると、取り巻きの森山が魔法を使用した。自然系呪文の初級呪文だ。
しかしーー。
「邪魔だ」
その一言で葉風は消滅した。
「オイオイ…せめて俺の所まで魔法を届かせろよ。巫山戯てんのかァ?」
そう言って頭をぽりぽりとグラビティがかく。
そしてーーー。
「こねェならこっちから行くぞ。」
右手を前に出す。その瞬間!!
ドッ!!という音を立てて地面がめり込んだ。地割れと言うのだろうか?地面がひび割れ、大昌のすぐそばに合った木が押し付けられるようにドンドン小さくなりバギャァァ!!とおよそ木が出さないような音を立ててバラバラになった。
「あ……あぁ…!」
森山が恐怖を抱いているかのような声を上げる。
「俺とあいつは雑魚なんだよなァ?なァ、勇者様ァ?」
そうバカにしているかのような表情で大昌に尋ねるグラビティ。
すると大昌が
「お…お前は雑魚じゃ無い!だ…だから許してくれ…!」
殺されるかと思ったのかは分からないが、大昌が土下座した。
グラビティと自分達とのあまりの力の差に恐怖したのだろう。
それと同時に先程のグラビティをバカにするような言動をしてしまった事が大昌へ余計に恐怖を感じさせている。
ハッキリ言うが、俺の後ろにいる男はステータスは蓮と殆ど変わらない。
スキルも言語スキルしかない。
ただ、一つだけ所有している能力が強すぎるのだ。
蓮も詳しい事は分かっていないが、
グラビティと名乗っているのを見ると
重力制御の類だろうか?
確かヒカル君が本名を尋ねていたが、「忘れた」の一言だった気がする。
すると、凄まじい音が響いたからか兵士達とヒカル達が気付いたようで沢山の人の足音が耳に届いた。
「チッ!逃げるぞ森山!」
舌打ちする大昌。
「で…でも橋下が…!」
森山が先程グラビティに倒された橋下という少年を指差す。
そこまで言った所でグラビティが「あァ?」と呟いた。
「運が良かったなァ。邪魔が来なかったらてめェら色々と終わってたわァ」
その発言に二人は動けなくなる。
冷や汗をかいているようだ。
だが、ふと我にかえった二人は橋下を抱えて大慌てで走り出す。
(ステータス同じなのに…やっぱりフォーチュンスキルかよ…!)
その姿を見て蓮はグラビティを少しだけ羨ましいと思った。
(あぁ…俺もせめて弱くても良いから才能があれば…修行くらいはさせてくれたのにな…)
先程までは多少ハッキリしていた意識だが、だんだんと薄くなってきた。
「さァて…と。仕方ねェ。運んでやるとするかァ…」
最後にそんな声を聞いた後。
蓮の意識は暗闇の中へ落ちていったのであった。
2014年10月19日。修正を加えました




