[第五話]俺だけ何故か弱い件
宴の翌日。蓮達勇者一行はここ、エターナル王国の訓練場へと来ていた。
やはり、王もいきなり勇者達が戦えるとは思っていなかったらしく、まずは力を確認した後に、訓練をさせる…ということに落ち着いたらしい。
訓練場は、大きな舞台のような場所の上で行うらしい。
訓練場の直ぐ外は森になっており、森の中では罠などの訓練もするそうだ。
まぁ、やはり訓練場だからかエターナル城の中で見たような高級な素材は使われておらず、無骨なものだった。
「ではまず、君達の力を見るために
あるカードを渡す。これは、証明書などにもなるため、絶対に無くさないでくれ」
ここまで案内してくれたのは、エターナル城の兵士長である"ブライアス"さんだ。
見た目は50歳くらいだが、年齢は40歳と少しらしく意外にも若かった事に驚いたのは内緒にしておこう。
だがしかし、かなりのベテランである。
そして、ブライアスさんは城の中でも随一の腕を持つ戦士らしい。
最初に、そんな人を訓練に使っても良いのだろうか?と思ったが、やはり曲がりなりにも人間族の未来を任されているからだろうと納得した。
「蓮君、これからだね。頑張ろう」
瑠花が話しかけてくる。その様子を伺うと、どうやら心の底から頑張ろう…という気持ちが溢れているようにも感じた。
…そのせいか一瞬、瑠花にもう少し疑うことを覚えたらどうだ?と言いかけてしまった。
「そうだよレン君。頑張ろ」
横から紫苑も笑いながら言ってきた。
…ぶっちゃけ瑠花もそうだがあまり笑顔を向けないで欲しい。かなり耐性があるとは言え、理性が持たない可能性もあるのだから。
そうしていると不意に背後から声が響いた。
「オイオイオイ。凄え美少女じゃん」
「なぁ君達、これから先一緒に行動しねぇ?」
下碑た笑いを浮かべている二人の男が近づいて来た。どうやら蓮達と同じ勇者達らしい。
目的は瑠花と紫苑のようである。先ほどから二人の顔や胸や尻をチラチラと見ている。
その様子に嫌悪感を覚えていると、後ろから更にもう一人の男が現れた。
「先走るなって。俺も入れろっての」
「悪いな大昌」
「悪ぃ悪ぃ」
多少、悪びれた様子で謝る二人。
どうやら二人は、目の前にいるこの男より立場が下らしい。
この男も勇者のようだ。
…にしても揃いも揃って気持ち悪い。
大昌というチャラそうにしている男は、常に女子の胸や尻を見つめているし、あの二人も同様だ。
そしてその偉そうな男も下碑た笑いを浮かべながら、下心丸出しで近寄り、口を開いた。
「悪いなぁ…俺の連れが。っていうか二人共メチャクチャ可愛いじゃねぇかよ。
俺達と夜ヤらねえ?」
昼間からとんでも無い事を口走る大昌とか言う気持ちの悪い少年。
チラリと瑠花達。二人を見るとあからさまに嫌そうな表情を浮かべている。
見兼ねた蓮は
「やめろって、嫌がってるじゃないか」
と言いながら間に入った。
すると次の瞬間、大昌の表情から下卑たモノが無くなり、憎悪へと変化した。
「っ…!」
「オイオイ…お前一人でこんな可愛い娘を占領すんのかよ。ずりぃなぁ…。
今まで楽しんだんだから良いじゃねえか。俺らに渡せよ。良いからさ、文句ねぇよな?あん?」
ハッキリ言いたい。そもそも占領などしていない上に、二人を渡せとか言っているが二人はモノではない。
極め付けは嫌がってるのに何故そんな事をしなければならないのか理解に苦しむ。
勇者とか言われて調子に乗っているのだろうか?
だからこそ蓮はこう返した。
「言っておくが、俺は二人を占領していないし、そもそも紫苑の方は昨日知り合ったばかりだ。それに、渡せと言っているが別に俺は彼女達を所有していないし、ましてや二人の事を勝手に決めていいわけ無いだろ。それに、嫌がってんのが分かんないのか?」
そう言って蓮は二人の手を取る。
「ーーーっ!?」
「ーーえっ?」
瑠花は顔を真っ赤にしながら、紫苑は少しビックリしたような表情をしたものの。手を握り返してきた。
「行こう。こいつらに構う暇は無い」
蓮は二人の顔を見ながら言う。
そして三人は、変態共から離れたのであった。
その後、後ろから鋭い目線と舌打ちが聞こえたが蓮は無視した。
ーーーーーーー
「あ、渡されてきたよ。はい、これ」
あの後、蓮達はカードが配られるのを待っていた。
そして紫苑が蓮にカードを渡す。
カードの見た目は…一見すると普通のクレジットカードより一回り大きい。色は無地だ。
感想としては何の変哲も無いカード。
何の意味があるのだろうか?
「すみません、ブライアス兵士長。
このカードは何なのですか?」
ヒカルが挙手をする。
その質問に、ブライアス兵士長はカードを配る手を一旦止めた。
「それは今から説明する。
カードを配り終えるまで待ってくれ」
そう言ったかと思うとまた
ブライアス兵士長がカードを配り始めた。
両隣にいる瑠花と紫苑の美少女二人組も頭を傾げながらはてなマークを浮かべている。その仕草に可愛いと思ってしまった蓮はきっと普通だろう。
そうして五分程経過して、ようやくカードを配り終わったようだ。
ブライアス兵士長が「ふぅ…」と配り終えた時に息を吐いた後、勇者一行の前に立った。
「では、これより説明を始める。
まず、皆に配ったカードだ。」
そう言ってブライアス兵士長がポケットからカードを取り出した。
そのカードには、エターナル王国の旗。
いや…正確に言うならば旗印のマークが描かれている。
エターナル王国の旗印は、龍と人のロゴ。そして一本の剣が描かれているものだ。ちなみに、龍はウォシュムガルム。
人は、エターナル・ドラスト。
剣は、エターナル・ドラストが使っていた名剣を表しているらしい。
ちなみにブライアス兵士長のカードの色はシルバーだ。
「これは、"ヴァーサタイルカード"と言う。自己証明書と思ってもらって構わない。このヴァーサタイルカードには、自分の今の状況を自動で記録すると言う効果がある。例えば私の場合はエターナル王国兵士長という座がある。故に、このヴァーサタイルカードの職業欄にはエターナル王国兵士長と書かれてある。まぁ、一種の証明書だ。」
そこで一度区切るブライアス兵士長。
にしても、今の自分の状況を自動で記録するか…。ますますRPGじみて来たような気がする。それと"ヴァーサタイルカード"。
ヴァーサタイルの意味は多様な等の意味だっただろうか?
そしてブライアス兵士長による説明は続く。
「それだけでは無い。自分のスキル。それから攻撃力やレベルなどの自己能力に加え、適性のある魔法。そして、"能力"も表示される。」
そこまで話したところで勇者君こと、
ヒカル君がブライアス兵士長に質問を投げかけた。
「ブライアス兵士長、"能力"とは何ですか?」
「うむ。良い質問だ。"能力"というのは、覚えるのが難しいスキル。また、固有スキルや覚えるのに何らかの資格…もしくは素質がいるスキルなどの事だ。
古文書には、異世界から訪れた者は皆、それぞれフォーチュンスキルを持っていたらしい。大体が強いスキルばかりらしいからおおいに戦闘で役立つだろう」
「ありがとうございます」
礼をして下がるヒカル君を満足気に見つめたブライアス兵士長は、更に説明を続ける。剣に魔法にスキルにレベルって…何処のRPGなのだろうか。これは。
「では、具体的にこのカードの事について説明していこう。」
そして説明は始まった。
大まかにすると、こんな感じだ。
まずは知っていると思うが、ステータスについてである。
分かりやすく言うならば、RPGなどで。
HP:**
MP:**
攻撃:**
などの表記を見たことがあるだろう。
それと同じものが表示されるらしい。
次に、スキル。
これは、その人が持っている特殊能力や、魔法への適性などが当たるらしい。
例えば、火属性の魔法への適性などだ。
どうやらこの世界ではその属性に対して適性が無いと魔法は使えないらしい。
次に、そのスキルの中でも珍しい固有スキル。能力についてだ。
これは、通常持っていないスキル。
また会得が難しいスキルや、一族でしか扱えなかったり、特別な体質が必要などの珍しいスキルだ。
このスキルは、どれも使えるスキルばかりらしいが、その為にあまり持っている人はいないらしい。
ここまでスキルなどについて説明してきたが、ここからはヴァーサタイルカード自体の効力について説明していく。
ヴァーサタイルカードはゲームで言うところの、自動セーブ機能や証明書。
または、つよさ確認などが出来るコマンドのようなモノだ。
それらは持っているだけで宿代を割引きされたり、身分の証明も出来る。
他にも倒したモンスターも記憶され、図鑑のように使ったり、手に入れたアイテムなどの情報も載せられていくらしい。
更に、目の前にある食べ物などを毒かどうかの鑑定も出来るらしく、まさしく万能のカードだ。
ただし、欠点もあり。その目の前のアイテムがヴァーサタイルカードに登録されていないモノ。つまり新種であったり突然変異。または未だかつて調べられた事が無いものや名前の無いモノに関しては鑑定は不可能だそうだ。…まぁここは当たり前と言ってもいいだろう。
だが欠点を入れてもこれ程の万能なカードとなるとやはり高価なのでは?とヒカルが質問したが、その質問にブライアス兵士長は頷いた。
だが、その後しかし…と言うとこのような事を説明し出した。
「確かにヴァーサタイルカードはそれこそ国宝とかそのレベルのモノであり、
"神器"に分類される。
だが、これに限っては別だ。
証明書としてはこれ以上無いのでな。
国民には必ず持たせるようにしているので安心して欲しい」
ブライアス兵士長が説明する。
神器…か。恐らくだがゲームで言うところのレアなアイテムの事だろう。
そんな事を考えているとヒカルが手を上げ更に質問を加えた。
「神器とは?」
「神器ってのは、千年前に我々が持っていた過去の遺物の事だ。
昔は、もっと常識でも考えられないような道具が考えられていてな。これもその一つだ」
そこまで説明したところでブライアス兵士長が疲れた表情で全員に尋ねる。
「これで説明は以上だ、他に何か質問はあるか?」
そう言って辺りを見渡すブライアス兵士長。しかし手を上げる者はいない。
「では、実際に使えるようにしよう。
そのカードの端に、丸いマークがあるだろう。そこに親指を押し付けてしばらく待て。すると、承認されるはずだ。」
その言葉に、皆が一斉に親指を押し付ける。
周りを見ると昨日会ったカケルも迷わず手を押し付けていた。
それを見た蓮も手を押し付ける。
すると暫くして、ピコっ!と音がなったかと思うと、一瞬ブブっ…と音を立てて画面が灰色に染まる。だが数秒でそれは晴れ、カードの内容が浮き上がった。
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日向 蓮 (男) 15歳 レベル:1
職業:勇者
・体力:30・速さ:15
・魔力:15・耐性:15
・攻撃:15・知識:15
・防御:15・手先:15
各種アビリティ
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と表示された。
よくあるRPGとかだとこれくらいの能力だし、恐らく普通だろう。
ただ…何で言語スキル以外にスキルが無いのかが少し気掛かりだ。
それと手先の器用さと知識も結構自信があったのだが低い。
そう蓮が疑問に思っていると
「全員ステータスを見たか?
じゃあ説明するぞ。まずレベルについてだ。レベルってのはその人の今の強さを表す。尚、最大値は分かっていないが、100レベル以上あるのは確かだ。ちなみに俺はレベル143。この国…いや、世界でもかなりの上位にいる。だがレベル100超えるだけでも相当難しいので最初は高望みするなよ」
ほう…。つまり、レベルの最大値は分からないもののレベル100以上あるのか。
…いや、いかんな。
何処かゲームに通じるものがあるからか、段々ウキウキし始めている自分がいるような気がする。まぁ…どちらにせよ元の世界に帰るには戦いは必要だしレベルも上げないといけないだろうが。
「次にステータスを上げる方法だ。
これも詳しくは分かっていないが、まずはレベルを上げること。レベルを上げればステータスは上がる。
それ以外にも方法はあるが、どれも詳しいことは分かっちゃいない。
だからステータス上げたいならとりあえずレベルを上げろ」
……まんまRPGである。
まぁ、それ以外の方法と言うのが気になるが一旦保留にしておこう。
……恐らくこの時の蓮の顔はかなり楽しそうでワクワクしている表情を浮かべていたのだろう。しかし、その顔はすぐに青ざめることとなる。
「じゃあ次にスキルだな。
まぁ勇者とか関係無く全員、言語スキル
があるだろう。それは、この世界の言葉や文字を理解出来るようになるスキルだ。まぁ勇者だからそれ以外にも皆、スキルを持っている筈だ。だからこれからはそのスキルの練習だな。」
その言葉をブライアス兵士長が口にした瞬間。思わず蓮の身体はガチッと固まった。
(…………は?)
内心そんな声を上げて戸惑っている間にも説明は続く。
「それと、この世界でのステータスの平均値についても教えてやる。
この世界でのステータスの平均値は体力が30。後は20だ。まぁ勇者だし100以上はあるだろう。これからどれくらいのステータスかと、どんなスキルを持っているかを調べるから報告してくれ」
その言葉はもはや殆ど蓮の頭に残っていなかった。
今の蓮の顔は青ざめ、汗をダラダラと流している。
周りから見れば直ぐに大丈夫ですか!?と尋ねられる程だ。
だが、一度息を吐いた後に蓮はもう一度目を擦ってからヴァーサタイルカードを再び見た。
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日向 蓮 (男) 15歳 レベル:1
職業:勇者
・体力:30・速さ:15
・魔力:15・耐性:15
・攻撃:15・知識:15
・防御:15・手先:15
各種アビリティ
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やはり数値は体力が30に、他の数値が15。
スキルは言語スキルしか無い。
思わず頭を抱えながら内心思いっきり叫んだ。
(ど…どうしろってんだぁぁぁぁぁ!!)
その蓮の心の叫びは魂の中で響き渡り、そして消えて行ったのだった。
どうも。ゆうポンです。
とりあえず題名が無能なので能力を低くしました。
とりあえず次回からはしばらく訓練ですね。それから冒険です。
感想などありましたらお願い致します。
2014年10月19日。修正を加えました