[第二十一話]奪還。そして色の変化
一言
最近忙しいなぁ…。
まぁそれはともかく。感想などありましたらドシドシお待ちしております。
蓮が伸ばした手がグングンと凄まじい勢いで大昌達の元に迫る。そしてそれに気付いた大昌達はあり得ない…といった表情を浮かべていた。
人の背から翼が生え、空を飛んでいる。
そしてそれが物凄い勢いで自分達の元へ迫っている。…ましてや、それを行っているのは元勇者達の中では最弱の男。
どうしてそんな事態が起こると想定し対応出来ようか。…否。不可能である。
だがこの世界に来てから勇者だった人達は皆、力を得ている。それも漫画やアニメの中だけだと思っていた魔法や、能力が。
「っ…!旋風!」
森山が風魔法を使用した。ヒュンヒュンと音を立ててカマイタチが飛ぶ。
だが、それを蓮はアクロバティックに回避する。普通ならば訓練しなければ不可能とも言えるような動きで。
そして蓮はそのままの勢いのまま荷車の上で縛られて身動きが取れないらしいリノンを抱きかかえた。そして地上に降り立つ。その際、ズザァァ…と地面が多少抉れた。
「…さて。人質は取り替えさせてもらった。さぁ、この絶望的な状況で君達はどうするのかな?」
その表情には笑みが浮かんでいる。それも狂気的な。思わず大昌達も後ずさりした。その顔にはイカれている…という表情がありありと浮かんでいる。
だが、すぐに表情を取り戻すと大昌はあることを蓮に尋ねた。
「テメェ…何だよ…。さっきの羽根は…!」
やはりそれが気になるのだろう。そもそも勇者達の中でも空を飛べる人物は殆ど居らず、それを"無能"だった蓮が成し遂げているのだから。
「…答える義務は無いと言っただろ?」
だが蓮は素知らぬふりをした。先程まで勢いで使っていたが、本来ならばあまり知られるべきでは無かったと言うのも大きいだろう。
これから先、この羽根には世話になるだろうからあまり情報は広めたくない。
「…それよりも一つ気になるんだ。何でオマエラがここに居るのか…って事がさ」
とりあえず話を変えるために此方の気になることを口に出す。だが、大昌達はそれを答えることは無かった。
「…まぁいいか。さっきも見た通り。俺には幻惑は効かない。…さて、困ったねぇ?俺とまともに戦うか尻尾巻いて逃げるしか道が無いみたいだぞ?」
ハッタリだ。先程のは影が無い…という状況証拠から推理した予想が当たっただけ。次も当たるとは限らない。だが、ここでは一度打ち破った…というのが重要だ。それもいとも容易く。
自分のフォーチュンスキルが簡単に打ち破られる。そんな事をされれば、相手は疑うだろう。自分のチカラはコイツに効かないのでは…と。
…まぁ例外としてもう一度試す相手も居るが蓮にはある確信があった。
だが、今はそれよりもーーー。
「さて…大丈夫か?…ゴメン。遅くなった。」
リノンの口を塞いでいる猿轡を引き剥がす。
そして優しい声で彼女に声を掛けた。
「…う…うぇ……な…んで…?」
助かったという安堵からかリノンが涙を零す。だが、それと同時に一つ疑問に思ったらしい。恐らく蓮が何故ここに居るのか…。それが理解出来ないようだ。
「今、縄を解くから。安心しててくれ。」
しかしそれを説明している暇はない。その為蓮は素早くリノンを縛っている縄に手を掛けた。……が。
「チッ!調子に乗ってんじゃねぇぞ!無能勇者ァ!!」
だが、流石にそれを看過する事は出来なかったらしい。大昌達が勢い良く蓮の元へと飛び込む。
しかしそれはある事の証明になる事に大昌達は気付いていなかった。自身のハッタリに掛かった事により、蓮は口の端を吊り上げる。
「アハッ…掛かった。幻惑はもう無い。……少し動くから舌を噛まないようにしててくれ」
思わず笑い声を上げてしまったが、直ぐに表情を戻しリノンへ声を掛けた。リノンが少し驚きの表情をしながらも頷く。
刹那。大昌の剣の一閃が蓮達を襲った。縦の斬撃である。それを横に回避しつつレンは足払いを掛けた。
「チッ…!」
だが大昌はそれを上手く回避し剣を向ける。しかし、他の二人も待つつもりは無いようだ。
橋下と森山がそれぞれ右と左に分かれて走り両脇から剣の突きを放つ。しかしそれも蓮は後ろにバク宙する事により回避し、無属性の弾幕をパラパラと放った。
しかしそれは森山の葉風により相殺される。
そして両者は向き合った。
「…意外だな。リノンは人質で、オマエラが言う"あの方"って人のとこに連れてくんじゃなかったのか?」
蓮は油断なく三人を見据えながら声を上げた。その言葉に笑う三人。
「ギャハハ!別に死体でも構わねぇんだよ!
帰り道でヤるつもりだったから生かそうとしてただけだ」
大昌がそう言って笑う。…吐き気がした。リノンを見ると顔面蒼白になっている。恐らく、結構危なかったのだろう。
「…チッ…吐き気がするな。人でなしが」
「言っとけよ無能勇者。でもちったぁ俺らも評価してんだぜぇ?あの雑魚だったテメェが俺らの動きについて来れるまで強くなってる事になぁ!」
笑ってはいるし下卑た言葉を口にもしてはいるが、その目に油断は無い。
…リノンの縄を解いてやりたいが、そんな素振りを見せた瞬間に彼らは襲いかかってくるだろう。…MPが心許ないが空を飛ぶべきか…?。いや、魔力切れを考えるとそれはキツイ…だとすればここはステータスで押し切る。
「行くぞオラァ!!」
物凄い剣幕を浮かべて大昌が突撃を掛ける。橋下と森山の二人も、横から剣を構え走っているのが視界に映った。
「チッ…!」
舌打ちしつつも腰に差している鞘から剣を出した。そして左手でリノンを抱き抱えつつ、
右手で剣を握った。
その次の瞬間、蓮はそのままの体勢で跳ねた。眼下には突きの形で剣を前に突き出している三人の姿が目に映る。
「キャッ…!」
抱き抱えているリノンが手の中で悲鳴に近い声を上げた。だが、それもそのはずである。
下に居た三人が笑ったかと思うと、剣を空。つまり上へ向けたのだから。
しかも、現在は跳ねている状態だ。このまま落下すれば串刺しになるのは明白である。
(…チッ)
思わず内心舌打つ。
右手の剣で強引に剣を弾く…というのも考えたが上手くいかない可能性もある。
(だとすれば…コレしかないよな!)
背中から生える二対の羽根。
最初に生えた時は純白だったその二対の羽根は、今では漆黒と呼べるほど黒く染まっている。そしてその漆黒の羽根をはためかせ、蓮達は空へと舞い上がった。
「風切!」
そこを追撃するように森山が風魔法を使うが、それらは全て硬化させた羽根で防ぐ。
時折ギンッ!という金属音のような音が響くが、そんな事は気にせず蓮は自分達を羽根で覆うように包み防御する。
(残り…持って1分…か)
自分の残りMPがかなり少なくなってきた。
現在は飛び始めて8分位だろうか?予想外に長く飛べてはいるが流石に限界である。
「リノン…とりあえず縄を」
「ふぇ!……うん」
ならその少ない時間を有効活用しよう。そう考えた蓮は素早くリノンを縛っている縄を解き始めた。…ただ、コレが予想外に固い。
「…なら!」
「蓮…?えっ…?」
その為、蓮は硬化させた自らの羽根を一枚毟り取り、それをナイフ代わりに縄を切り始めた。やがてブチブチと音を立てて縄が千切れる。
「良し!切れた」
「〜〜〜〜っ!」
縄が切れた。手の方は自由になったリノンが抱き付いて来るが気にしている余裕はない。次は足だ。
此方は慣れたからかモノの数秒で切ることに成功した。
そして蓮はリノンに声を掛ける。
「しっかり掴まれよ!一気に急降下するぞ!」
「えっ…?ちょっと待っ…きゃぁああ!!」
返事は待たずに一気に急降下を掛けた。
理由は勿論MPの温存と、飛行限界が近い事による事の二つだ。
勿論だが、急降下中は身体を守る為に羽根で自分達を包んでいるが。
ちなみに外側は硬化させ内側はモフモフにしている。
…まぁ急降下というよりはただの落下であるが。
「アハッ…アハハハハハハ!!」
「いやぁぁぁあああ!!」
そしてまたもや普段とは違う雰囲気を持った蓮の笑い声と、巻き込まれたリノンの悲鳴が地面に着地するまで響くのだった。




