[第十九話]あり得ない存在
今更ですが…。大賞に出していて選考期間に入っているこの作品って更新しても良いのでしょうか?と思うこの頃。
「クソッ!何処だ…!」
探し始めて早3分。蓮は焦っていた。
理由としては魔力の残量と"不吉な予感"である。
魔力の残量に関して、この飛行魔法は約10分程度しか持続出来ない。魔力消費がとても多いのだ。それ故の魔力切れの恐れ。
そしてもう一つ。
もしかしたらリノンが大変な目にあっているのではないか…?そういった不安。
いや…そもそも誘拐されている時点で大変な目にあっていると言えるのだが。
とにかく蓮は一旦深呼吸をして辺りを見渡す。何にせよ此処で焦っていては見つかるものも見つからないだろう。
視界に広がるのは森だ。それもかなり広い。
地平線の先の方に薄っすらと草原が見えたが、それだけだ。
それ以外はただ只管に森が広がっている。
そんな場所の上から蓮はジッと見つめて小屋を探す。
(落ち着け…俺。とにかく焦るな。…速やかに見つけて助け出す。ただそれだけだ。)
心の中で自分を落ち着かせる。
そして辺りを更に見渡してーーー。
それはあった。
「あれか…っ!!?」
森の陰になって分かりづらいが、一つの小屋が目に映った。
それを見た瞬間、蓮は一気に加速した。
その際、身体にかなりのGが掛かるが無視して進み続ける。
そして近くで羽根をたたみ、着地した。
その際、極力音を立てぬよう注意する。
そして着地した時のしゃがんだ体勢から立ち上がり、小屋の方を眺めた。
(…ッ…!!あの荷車って…!?)
すると…それはあった。
荷車。それも、門番の証言に一致するような大きなモノが。
(確定か…?いや、まだこの目で見た訳じゃない。とにかく慎重に中を見てみよう)
だが蓮は飛び出しそうになる気持ちを抑え、
慎重に小屋へと近付いた。
そして窓からそっと中を覗く。
そこにはーーー
「…なっ…!?」
思わず蓮は驚きの声を漏らした。
だが、それも仕方がない事なのである。
何せ…その三人は自分が見知った…。
いや、ついこの前まで一緒に居た人物だったのだから。
「…とりあえずもう幻惑はいらねぇな…。
よし、橋下。森山。魔力封じの首輪は付けたよな?」
「あぁ…付けた。」
「バッチリだ」
橋下。森山。そして大昌。
…そこに居たのは。かつて自分を…。自分達を陥れようとした勇者達だった。
「うし…後はこの女を連れてくぞ。"あの方"も言ってたからな。この前捕まえたコイツの妹とコイツは厄介な魔法を使うってな。まぁ捕まえたし魔力封じの首輪も付けたからもう魔力すら使えないだろうしな」
「おう。そうだね大昌。これでノルマ達成だ。でもさ、橋下。大昌。あの時追放されて逆に良かったよな俺達」
「全くだ。あの時追放されたお陰で、今俺たちは好き放題出来てるんだし。"あの方"にも会えたんだからな」
上から大昌。森山。橋下がそれぞれ話し始める。彼らの前には、猿ぐつわをされて、縛られた状態のリノンの姿が見えた。
心なしか顔は苦痛に歪んでいる。
そして首には…拘束具だろうか?
紫色のいばらのようなモノが付けられていた。
(何で…あいつらが……?)
だがそれよりも蓮は混乱してしまっていた。
そもそも、あいつらは此処に居るはずが無いのである。
追放されたなど初耳だし、ウォルレアンス王の話では暫くの間、謹慎処分だった覚えがある。
(いや…待て。そもそもその前提が間違っているとしたら…?)
そもそも、ウォルレアンス王は世界を救ってもらう為に勇者達を呼んだ。
だが、それは恐らく偽りで手駒を増やしたいだけだったのは自分への対応で何となく分かっている。
だが自分達を陥れようとしたとはいえ、"使える手駒"を果たしてあの王は簡単に捨てるのだろうか…?
否。そんな筈はない。
だがあいつらの話だと"追放"されたというのは真実だと考えるべきだ。
つまり、王以外の誰かに追放された…。
という可能性が一番高い。
そうすると、誰が逃したのか?という話になる。だが、それは情報的に誰なのかを割り出すのは不可能だ。
だが、あいつらの会話からもう一つ分かった事がある。
("あの方"……が重要人物である事は間違いないだろうな……。)
分かるのはこれくらいだろうか…?。これ以上は情報がない。
そこまで考えたところで蓮はハッと我に帰る。
(っ!早くリノンを助けないと…!何やってんだ俺!)
「じゃあ…運び出すか。早く帰って"あの方"に報告したいしな」
「大昌!それに賛成!」
「俺も俺も!でもさ…少しだけ楽しんでも良いんじゃないかな?」
すると橋下が急に下卑た表情を浮かべてリノンを見つめる。
すると周りの二人も下卑た笑みを浮かべた。
「お…いい案じゃん…」
「流石橋下だ。じゃあ大昌。少しだけヤろうぜ?」
「おう。"あの方"もヤっちゃいけないなんて言ってないし。お楽しみタイムでも良いかもな。」
そして三人が近寄る。
それを見たリノンが恐怖の表情を浮かべながら後ずさりしようと暴れるが動けていない。
(………………っ…)
その瞬間、蓮の中の何かが切れた。
上手く説明は出来ない。
だが感情の波が爆発し、荒ぶった。
そして思いっきり小屋に向かって拳を放つ。
するとボゴッ!と大凡壁が出さないような音を響かせ、大きな穴が開いた。窓ガラスも完全に割れる。
その中へ蓮は歩いて入りつつ、声を上げた。
「ふざけんなよ…。オマエラ…!」
その目は普段の蓮からは考えられない程鋭く。…そして狂気的に歪んでいた。