表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ一人の無能勇者(凍結)  作者: Yuupon
新たなる冒険と謎
42/52

[第十六話]嫌な予想通りと羽根



結論から言うと、初めから分かっていた事だった。

力は遠紀の元へと戻ってしまうと。

そして覚悟もしていたつもりだった。



…あの後、オーブに手を触れた蓮は勢い良く弾かれるように吹き飛ばされた。

その際に頭を打ったのかは分からないが自分は気絶したらしい。


そして気が付いたら遠紀は元の人間に戻っていて、自分は力を失っていた。


ヴァーサタイルカードを見返して見たが、見事に全才能(オールアビリティ)努力改造(イフォートチート)の二つは無くなっていた。


だが、不思議な事にアイテムボックスだけは失われていなかった。一瞬、遠紀が譲渡したからなのだろうか…?とも思ったのだが、どうやら聞くところによると遠紀の元にはアイテムボックスも戻っているらしい。


確認すると遠紀のアイテムボックスの中には遠紀が以前見せてくれたアイテムや装備がギッシリと詰まっていた。


そして自分のを確認したのだが、おかしな事に何も入っていなかったのだ。

だが、元々一つだったアイテムボックスは実際問題二つに分裂したのである。

…まるでゲームのバグか何かのように。


「…でもやっぱり二つは無くなったか…」


蓮は呟いた後に、立ち上がる。

だがその目に後悔は無い。

それよりも寧ろこれで良かったと呟いた。


過ぎた力は身を滅ぼす。

自分では瑠花達を救えなかった。


言い訳…であるのは間違いない。

だが蓮は遠紀の方を向き、こんな事を口にした。


「…ゴメン…遠紀。俺さ…こうして良かった…とは言えない。ハッキリ言えば遠紀のスキルは失いたく無かったし、また弱くなる事が怖かった…。馬鹿みたいだよな。自分が瑠花達を救いたい…なんて。…いや、諦めてる場合じゃないか。遠紀だけに任せたくないし、そもそもお前にはまだこのお願いを聞いてもらってないからな…。…だけど一つだけ決めた。…力を失った俺だけど…。頼みがある。

遠紀。俺、強くなるよ。今は無理でも…絶対に助けられるようになれるくらいまで強くなる。…だから…頼む。今回だけは…手伝ってくれ。俺と…エターナル王国に戻って瑠花達を助けたい」


そして蓮は頭を下げた。

本気で他人の為にここまでしようとしたのは初めてだ。そもそもこのような機会はなかったが。だが、今の蓮は本気だった。目の色は紅く滾っており、真剣な色をたたえている。


だからこそそれを理解した遠紀はこう答えたのだ。


「…当たり前だろう。元々は俺が悪いんだから。それに…ラズフィは君に着いて行こうとするだろうからね。断る理由なんか何処にも無いさ」


その言葉を聞いた蓮は顔を上げた。その表情は変わらぬまま真剣な表情を浮かべている。

そして二人はお互いの右手をガシッと掴み合った。そして握手をしてお互いに口を開く。


「よろしく…大勇者(ヒーロー)

「よろしく…無能勇者(インアビリティヒーロー)


その両者の表情は笑顔だった。



その後、遠紀はルドウィンからとあるアイテムを受け取っていた。

アイテム名は幻惑の杖。振るだけで効果を発揮し、見た目を変えることが可能になるアイテムだ。


ただし、普通に姿を見れるような設定も出来るらしく蓮やラズフィの前では変わらぬ姿を見せていた。


どうやら認識阻害らしいが、効果はかなり高い。それを使う人物の力量により、認識阻害が強まるそうだ。だからこの認識阻害が見破れるのは遠紀よりも強い人物だけである。


「それで…だな。次に蓮君に使えるようにする魔法なのだが」


ルドウィンが少し罪悪感を持ったような声で蓮に問いかける。それに蓮は頷き返した。

すると、驚愕の事実がルドウィンによって発せられる。


「ハッキリ言おう。遠紀の全才能(オールアビリティ)が無くなった君は、火、水、自然、闇、光のいずれの力も使えない」


な…なんだってー!?と思わず言ってしまいそうになるような事実だった。

だが、それと同時に納得もする。


(…魔法を使ってる時。なんとなく自分が使ってるって感じがしなかったからな…)


描写していなかったが、実は魔法を使う時に感覚が無かったのだ。

感覚が無いのに使えているというなんとも不思議な感じではあったが、普通に使えていたので今まで有用していたが、あれが全才能(オールアビリティ)の力で無理矢理使えるようになっていたと仮定するならば、至極納得である。


だが、その事実は蓮が相当弱くなってしまった事とも同義である。

元々、剣が得意では無かった蓮は魔法や、手榴弾など考えて技を使うことにより敵を倒して来た。しかし、それらは全て遠紀による実演や、アドバイスの元にである。

実際に全く経験や情報が無い状態で戦ったのはウォシュムガルムと、最初のグリーンドラゴンのみ。後は全て教えられたことと同じ事をするだけのただの作業であった。


つまり、これから先は剣も自分自身の鍛錬により強くならねばならないし、魔法というアドバンテージが失われたということはかなり弱体化しているに等しい。


だが暫くの間だったとはいえ、努力改造(イフォートチート)などの遠紀の強力なスキルにより、かなり全体的な能力は上がっている。更に、今は不可能だが依り代である蓮はウォシュムガルムの魔力などもいずれは使うことが出来るようになる。


それに自分自身のスキルである、自身操作(セルフオペレーション)自体も未だ使えていない。

つまりまだまだ強くなる可能性は残されているのだ。


だからこそ蓮はその報告を聞いても深くは落胆しなかった。…いや、寧ろその報告を聞き、更にやる気を出したと言える。


「だが、一つ魔法を教えると言った以上約束は違えるつもりはない。だが、五属性以外の魔法だと1000年生きてきた俺でも一つしか知らん」


真剣な表情でルドウィンが口を開く。

1000年生きてきて、知っている魔法はたった一つ。その言葉に少し驚いた蓮だが、気を引き締める。たった一つしか知らないという事は、その魔法はきっと特別な魔法に違いないだろう。


そして目の前でいきなり魔力を放出した。


「っ…!?」


その魔力量に思わずビクッとなる。

ウォシュムガルムには及ばないがそれでも凄まじい魔力と重圧だ。


「一言で言うならば飛翔魔法だ…。この魔法を覚えれば自由に空を飛ぶことが可能になる」


ルドウィンが魔力を放出しながら話す。

…飛翔魔法。空を自由に飛べる。


その言葉に蓮は思わず目を輝かせた。

それと同時に期待が高まる。きっと無くなった二つのスキルに十分匹敵するような魔法の筈だ。


「恐らく魔法のどの属性も適さない蓮君でも出来るだろう。魔力自体はそこそこ食うが、それでもウォシュムガルムの魔力を行使できるようになれば蚊ほどのモノだ。安心しろ」


そう言ってルドウィンが蓮の方へと手を伸ばし、触れた。


瞬間!!


バサッ……という音をたてて蓮の背中より二対の天使の羽のようなモノが生えた。


「…は?」


思わず、は?と言ってしまった蓮は悪くないだろう。まぁいきなり背中から自分の身体を覆い隠せるようなモフモフの純白の羽が生えたら誰だってそんな反応をすると思う。


だが、この場において蓮以上にその事態に驚いている人物がいた。


「な……何故、その羽根が…?」


ルドウィンである。

自身の魔法を分けた筈の彼が最も驚いていたようだ。


「凄い!モッフモフだね!」


ラズフィが飛び上がって蓮の羽根に飛びついてモフモフ感を味わっているようだが、それを無視して蓮は尋ねた。


「……え?まさか普通だと羽根って生えない…んですか?」


その言葉に暫し無言になった後にルドウィンが頷いた。


「……………………」


思わず蓮も無言になる。


この羽根。どうやら動かせるようだ。

試しに飛んでいる鳥のようにバサバサ動かすと羽毛が舞い散った。

次に、硬く出来るかを試してみると、カチーンと鋭くなり、強度が上がる。

羽根を飛ばせるか試してみると、見事に飛んでいった。


そこまで無言のまま行った後にこう呟く。


「やべぇ…俺。人外になっちまったよ…」


もしかしたら人外になったせいで帰れなくなるかも…と思わず真剣に考えてしまう蓮であった。それと同時にルドウィンも「まさか…いや…でも人間だからか…?」と疑問の声を上げていたがその呟きは誰の耳にも届くことは無かった。





一言


禁書の垣根さんのメルヘン翼は関係ありません。

蓮の"アレ"はただの飛行魔法です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ