[第十一話]勇者達視点1
どんどんと新キャラが増えていく…。
まぁそれはともかく。
今回は勇者達視点です。
蓮とグラビティ。
2人の死は、勇者達の心に少なからずダメージを与えた。
元々は皆、そう言った死から無縁の生活を送っていたのである。
元の世界にVRMMOもあったことから、何処かゲーム感覚が抜け切っていない者も少なくなかった。
しかし、それ以上の知らせがヒカルより勇者達に伝えられた。
封印されし蒼天龍ウォシュムガルム。
かの龍の封印を解いたのは蓮だということになった。…と。
その言葉に瑠花と、一部の蓮と親しかった者は驚きを隠せなかった。
当然そう言った者からすぐに反論が出る。いずれも蓮を擁護する為の言葉であった。
しかし、ヒカルは悲しそうな表情を浮かべた後に一言。こう呟いたのだ。
「こうしないと…僕達は生き残れない…」
どういうことかと皆は説明を求めた。
その言葉に何を説明するでなくヒカルは皆の前で頭を下げた。
「ゴメン…!僕の力が足りなかった…!」
しかし、その謝るという行為だけでは納得出来る筈が無く、和正が質問する。
「ちょっと待てヒカル…。そりゃどう言うことだよ…!」
至極当然の質問だ。しかし、ヒカルは下を向いたまま何も答えない。
「だんまりは無しやで?大勇者。
まぁ大方予想はつくけどやな…」
すると、関西風の少年が黙っているヒカルに向かってそう言った後に耳元で何やら呟いた。
「っ…!!?」
すると、驚いたような表情を浮かべるヒカル。バッとその少年の方を向く。
「生憎、俺は頭脳派や無いけどな。
これ位やったら少し考えたら分かるで。
勇者の不始末…なんて噂が広がったら事が事やしなぁ。一ノ瀬君もそう思うやろ?」
真剣な表情でそう言った後に、後ろに居た一人の少年に関西風の少年が話しかけた。
「まぁ、そうっスね。まぁ普通に考えれば誰でも分かることっスよ。大勇者さん」
一ノ瀬と呼ばれた少年がヒカルに向かって言った。
その言葉で気付いたのだろう。
瑠花と紫苑が驚きの表情を浮かべた後に、キッと目つきを鋭くする。
「まさか…!私達を国の庇護にいれたままの状態を維持する為に…?」
紫苑がヒカルを睨みつけながら質問する。その横では瑠花も厳しい表情を浮かべていた。
その様子にヒカルが観念したように小さい声で呟いた。
「………………そうだ…」
肯定である。
その言葉に一ノ瀬と呼ばれた少年や、関西風の少年が口元を三日月型にする。
「で…でも、なんで…!なんで蓮君が!」
しかし、瑠花はその肯定の言葉だけでは何故、蓮が反逆者にされたのかが理解出来なかった。それ故に質問する。
しかし、この質問にはヒカルではなく一ノ瀬と呼ばれた少年が答えた。
「そりゃ、決まってるじゃないっスか。
"蓮が無能だったから"。これ以外の理由なんか無いっスよ。それに、もし仮にグラビティと蓮のニ人が生きていると仮定しても、国が手元に戻そうとするならどっちをとるかって話っス。」
つまり、蓮は国の犠牲にされたのだ。
国は、蓮を切り捨てた。
そして大勇者であるヒカルも、蓮という一を切り捨て、残りの九十八を取った。
ただそれだけの事だ。
それを聞いた瑠花はあり得ないと言った表情を浮かべた後に顔を押さえた。
「ま、いよいよ国も本性だしてきたっちゅう事やな。」
関西風の少年がそう言った。
その言葉に何人かの勇者達が身震いした。
「まぁ、事が事っスから隠蔽しようとするのは当然っスね。…ハッキリ言えば何で国がそんなまどろっこしい手を使ったのかが疑問っスけど」
すると、黙っていたヒカルが急に顔を上げて声を上げた。
「…それと、もうひとつ…。
皆に伝えなくちゃならない事がある。」
その言葉に皆がヒカルの方を向いた。
そしてヒカルが続けた。
「戦争についてだ」
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「つまり、戦争は十日後に現地へ向かうって事っスね…」
「あぁ、そうだ。そして暫くは様子見だ。相手が仕掛けてきたら此方が迎え撃つ形になるらしい」
魔王軍との戦争。
現在の状態は劣勢らしい。
一匹辺りの強さが冒険者5人分はあるそうだ。
幾ら数の上で優位に立とうと力が及ばなければ勝てない。
まだまだ王都から離れた辺境の地で争っているが、兵が押し切られた場合王都までかなり近付くそうだ。
今は、第二兵士長のバルドトスがなんとか耐えているが、これ以上魔族が増えるとそれも危うい。
それ故の勇者達であった。
しかし勇者達にとってはその状況はかなり辛い。
ウォシュムガルムの件で勇者達は王の命令。いやエターナル王国から抜けることは出来ない状況に追い込まれている。
他国へ逃亡しようものなら犯罪者扱いされ、レンと同じように魔族などと嘘八百を並べるだろう。
「ヒカル。戦争では、戦いの指揮は誰がとるの?」
三谷がヒカルへ質問する。しかし、その表情はヒカルが指揮するんだよね?と言いたげな表情だった。
「いや、戦闘の指揮は僕じゃない」
しかし、ヒカルは首を横に振った。
まぁ当然と言えば当然だ。
まだこの世界に来て…いや、戦いを初めてそんなに経っていない。
いや、ハッキリ言えば力があるだけで経験は無い勇者達が指揮など握れる筈が無いのである。
「指揮は、…エターナル王国の賢者…。ファモウスさんが握る。俺はその副官だ。…でも、決定権は全く無い」
つまり、ファモウスの命令に従うしか無いのだ。副官とは名ばかりのただの木偶だ。もしかしたら、死地へ追いやられるだけかもしれない。
しかし、今の言葉で自分達は完全に逃げ場が無いただの家畜同然だと理解したのは少なかった。
そしてヒカルの報告が終わり勇者達がそれぞれ部屋へと戻って行った。
そんな中、一ノ瀬と呼ばれた少年が一人の女の子の元へと向かう。
その後ろには関西風の少年も居た。
「やぁ、こうして話すのは初めましてっスね。立花瑠花さん。それと霧咲紫苑さん」
二人の前に立ち、一ノ瀬と呼ばれた少年はそう言って挨拶をした。
いきなり来たからか少し驚いた表情を浮かべていた二人だったが、紫苑がキッと睨むと一言呟いた。
「あんた……!」
その声には怒気が含まれている。
恐らく、先程の「蓮が無能だったから」という発言。それと瑠花の心を傷つけたからに違いない。
しかし、一ノ瀬はどこ吹く風でこう言った。
「もしかして怒らせちゃったっスか?
なら謝るっス。
だけど、自分が言ったのは周りから見たただの、事実っスから個人の感情を入れたモノではないと分かって欲しいっス」
そう言った瞬間、紫苑が小声で「よくもぬけぬけと…!」と呟き動こうとするが瑠花が止めた。
「瑠花…?」
「ゴメンね紫苑。…それで、どう言うことか説明して貰えないかな?一ノ瀬君」
瑠花が紫苑に謝った後にそう言った。
その言葉に一ノ瀬が「分かったっス」と頷いた後にこう言った。
「でも、まずは自己紹介からっスね」
そして彼は話し始めたのだった。