[第六話]ピンク髪の少年とガルディ
酒場は、辺境の村の割りには意外と賑わっていた。まだ朝の10時だったが、多くの者が酒を飲んでいる。
(なんというか……賑わってるな。)
周りを見渡した蓮の第一感想はそれだった。
「うー……ラズフィもアレ飲みたい」
「酒……は無理じゃないかな…。」
すると、ラズフィは酒に興味を持ったようで、指を指しながら飲みたいと上目遣いで言ってくる。
だが、可愛らしいと思うだけで色気は全く無いので蓮は苦笑しながらラズフィを宥めた。
するとーーー。
「おい兄ちゃん。」
酒を飲んでいたゴツい男が不意に立ち上がり蓮達に声を掛けてくる。
「は…はい?なんでしょうか?」
鋭い眼光に思わず下手になる蓮。
しかし、それは杞憂だった。
「兄ちゃん達には酒場は早ぇーんじゃねぇか?」
普通の質問だった。
本当に普通の質問だった。
「あぁ、えっとですね。酒場に貼られてる依頼を受けに来たんですよ」
なので、少し安堵しつつ蓮は答えた。
するとーーー
「「「ブワッハッハッハッッ!!」」」
周りから笑い声が響いた。蓮達の方ではない。どうやら別の方向から聞こえる。
「あ……?なんだ……?」
目の前のゴツい男の人が顔をしかめながらそちらの方を向いた。そらに続いて蓮達も顔をそちらに向ける。
「これじゃあ話が違うんだぜ!!」
「ハッ!てめぇが勝手に勘違いしてるだけだろう!!」
「っ!!」
まるで、魔法使いのような格好をしたピンク色の髪型の…少年?見た目は中性的だが、勝ち気な感じの雰囲気と口調を考えると男だろうか?
ともかくその少年と目の細いネズミのような髭をはやした男が口論している。
「ふざけんな!!俺の分が少ないんだよ!!」
「俺たちは三人。対してそっちは一人…量が少なくて当然だ。なぁ、お前らよ」
「おう!そうだぜ!」
「ぎゃはは!ちげえねぇ!」
目の細い鼠髭男が側にいたゴリマッチョの二人に振る。
その二人も「ワハハッ!」と笑いながら同意した。その行動に少年が苦虫を噛み潰したような表情で「クッ」と呟く。
「もう良い!分かった!二度とあんたらとはやらない!!」
そして少年はプンプン怒りながら蓮達の横を通り過ぎて行った。
(今のって………?)
なんとなく気になった蓮が疑問の表情を浮かべていると、先程のゴツい男が説明する。
「実はよぉ……あの男達、殆ど詐欺師みたいな方法で自分達の貰うアイテム量や金を増やしたりしているんだ。兄ちゃんも気を付けなよ」
その言葉で、見た目ほど怖くなく寧ろこの人は信頼出来ると感じた蓮であった。
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どうやらあのゴツい男はガルディと言うらしい。この村では主に冒険者として村から雇われて滞在しているらしい。
それだけにかなり戦闘経験は豊富で、大体のモンスターにも対抗出来るそうだ。
そして詐欺師(仮)の三人は、スリーバスタードと呼ばれる此処らでつい先日から現れた半詐欺師らしい。半詐欺師というのは、証拠が無く、相手の言うことも一応だが一理あるからだ。
「見るからに、さっきの子。兄ちゃん達と同じくらいだから心配なんだ。だから良かったらあの子と行動してやってはくれんかなぁ?」
心配そうな表情を浮かべながら頼むように言うガルディ。
蓮はどうするかと少し考えるが、裾を引っ張りながら「一緒に居てあげよ?」と言うラズフィに根負けし、見かけたら声を掛ける事にした。
そして酒場でようやく本題である依頼を適当に探し始める。本来ならばさっきの少年?と一緒に戦ったりするのもありだが、此方の都合に巻き込ませては悪いだろうと言う配慮である。
本当は、恐らく戦争が本格的に始まるであろう1ヶ月後くらいまでには瑠花達の元へ戻りたかった蓮としては、無視して行っても良かったのだが、やはり良心の根が疼き一日か二日を限度に、先程の少年に付き合う事にした。
修行も一ヶ月という急ピッチで進めねばならない。だから基本だけは遠紀の力を借り、訓練も最も効率がよく。そして尚且つ精神的にも強くなり人型の魔族でも容赦無く殺すようにしなくてはならない。
ようやく瑠花達を助けるための力の初歩を手に入れたのだ。伸ばせるだけ伸ばして参戦したい。
…話が脱線したが、現在ガルディから軽い説明を受けていた。
「つまり、依頼が終わったら貼ってある紙に判子を押してもらうか、討伐ならモンスターの指定部位…つまり、右耳を持ってくれば良いんだな?」
「そうだ。耳が無いのは核を持ってくれば良い」
どうやら討伐系の依頼の場合は、指定部位を持ってくる必要があるそうだ。
例えば、モンスターの耳。
殆どのモンスターには耳が生えているので、大体は耳を持ってくれば依頼成功となるらしい。
しかし、耳が無いモンスター。
例えば、スライムなどは魔法核。
まぁ倒したら分かるのだが、身体の中に宝石のようなモノが入っている。
それを魔法核と呼ぶらしく、これは全てのモンスターが持っているのでもし、耳が無かった場合は魔法核を持ってくれば良いそうだ。
ちなみに、どうして魔法核じゃなく耳を持っていかなければならないのかというと、魔法核というのは魔力や、作られている物質。あるいは、質があるらしいのだが、低級なモンスターなどはその核が酷似していることが多いらしく、判別が大変だからという理由らしい。
「そうですか。ありがとうございますガルディさん」
「ありがとう!ガルディおじちゃん!」
ともかく教えてもらった蓮とラズフィはガルディさんに頭を下げた。
蓮は内心、ラズフィの「ガルディおじちゃん」発言が気になったが、ガルディが「ガッハッハ。礼には及ばんよ」といいながら嬉しそうにラズフィの頭を撫でるのを見て、不問にすることにした。
しかし後で躾はしておくつもりだったが。
そして適当に探すと、二枚の紙が目に入った。
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グリーンドラゴンの討伐
・報酬一匹当たり白銀貨一枚
・依頼者・村長
・詳細
最近村の周りでグリーンドラゴンが増えて来たので狩れるだけ討伐して欲しいんじゃ。Dランクのモンスターじゃからそこそこ注意するように。
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一枚はこれだ。先程まで何度か戦った相手である。もう既に戦い方は掴んでいるし、丁度良い相手だろう。
そしてもう一枚。
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ポイズンマッシュが欲しい
・報酬5000ソル
・依頼者・マニアム
・詳細
私は医者をやっているのですが、最近の治療でポイズンマッシュの毒が病気に効くという噂を聞きました。是非実験をしたいので、ポイズンマッシュに毒を撒き散らせずに討伐して丸ごと持って来てください。
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これだ。
これはかなり効果的に稼ぐことが可能である。
まず最初の一枚目は敵を倒し放題である。つまり、稼げる額に上限は無い。
そして二枚目はかなりの高額依頼だ。
日本円にすると、2枚目は50万円。
此方の世界でもかなりの金だ。
そして一枚目も、一匹倒すだけで十万円である。これはやらざるを得ない。
(それに技術を必要とするし、戦闘でもかなり動きの早いモンスター達だ…!修行にピッタシとも言える!)
思わず心の中で蓮はガッツポーズをする。これ程都合の良い依頼があるとは思っていなかった。
そして蓮は迷わずその紙を剥がす。
(ともかく今日は…限度は3時かな。それまでには帰って、あいつと一緒に居てやると。)
一応、今日の予定を整理しておく。
時計は、まだ携帯がポケットに入っているので誰も居ない森の中でなら使用可能だ。こまめに時間を確認すれば問題は無いだろう。
それに携帯の時計はその携帯自体で測っているのでズレる心配も無い。
「良し。じゃあラズフィ。行くよ」
「うん!頑張ろうね!レン!」
蓮がそう声を掛けると、ピョコっとアホ毛を立ててラズフィが頷いた。
そして宿屋を飛び出して一目散に外へと向かう。
「良し!張り切って…行くか!」
「うん!!」
蓮が依り代として目覚めてから、二日目の事であった。
2014年10月19日。修正を加えました




