[第四話]ラズフィの力と世界樹
グリーンドラゴンを撃破してから暫く経ってからの事である。
遠紀のロリコン疑惑など様々な謎が浮上したのだが、それは何とかノーマルであるという結論で終わっていた。
そして現在
《へぇ、そうなのか…》
《あぁ、あの龍は僕の初戦相手だ。まぁ一撃だったけど》
「ねぇ、レン。何話してるのー?」
現在、蓮は自分の中にいる遠紀と会話していた。どうして蓮の中にいるかと言うと、遠紀曰くそろそろ人に出会う可能性があるから…だそうだ。そして横では蓮の服の裾を掴みながらアホ毛をはてなマークの形にしているラズフィの姿が見える。
「にしても、なんか最初の龍を倒してから身体が軽いな」
確かに軽い。先程よりも動きやすいし、軽く跳ねるだけで先程の二倍くらい跳べた。
《うん。僕の時もそうだったよ。》
遠紀が同意する。
すると辺りを見渡しながらしみじみと蓮が呟く。
「にしても深い森だなぁ…」
確かに深い森だ。見渡す限り森だし、地面にはキノコなども生えている。今、歩いているのは辛うじて道のようになっているが、それでも木に囲まれた狭い道だ。…太陽が当たっているのが奇跡的なレベルだ。
そして、洞窟などもチラホラ見かける。
それとモンスターも何匹か見つけ、剣で仕留めた。その時は、遠紀に身体を貸し、剣の動かし方などの手本を見せてもらい、その真似をするだけで意外にもアッサリ倒すことが出来た。ちなみに倒したのはキノコ型のモンスターであるポイズンマッシュという、毒キノコに足と手が生えたモンスターだ。かなり柔らかかったが、斬ると毒ガスのようなものが出たのには驚いた。遠紀が、斬る位置を間違えなければ毒ガスは出ないと言っていたので、2匹目からは教えて貰いながら倒すと、見事に成功した。
…まぁ恐らく遠紀が身体の中で微調整しているのだろうが。
「ねー。レン。ラズフィも戦いたい」
「ダメだって…ラズフィが力出したらとんでもないことになりそうだし」
「……ケチ」
ラズフィが膨れっ面になる。
《にしても先程からやけにラズフィが戦いたいと言い出すな…。戦闘狂ってやつなのか?それとも、自分が戦えることを示したいのか?なんにせよ、力が暴走したりしたら怖いからあまり戦わせたくはないんだが。》
《まぁまぁ、戦わせるくらい良いじゃないか。……ただし、蓮がすぐ後ろでカバー出来るようにしてくれればね》
すると遠紀がラズフィに助け舟を出した。その言葉に目を輝かせるラズフィ。
「う〜ん。分かったよ。じゃあラズフィ。力は抑えるんだぞ」
「うん!」
一応師匠という立ち位置である遠紀に言われ渋々ながら蓮も承諾した。
するとーーーーー
「グルォォォォ!!」
咆哮が響く。先程聞いた声だ……。
メキャメキャと木が倒れる音が近くで響く。聞こえるのは…後ろからだ。
ラズフィを見ると、「わはー!」っとキラキラした目でその音が聞こえる方向を見ている。
《オイ、遠紀。出て来たのがさっきの緑龍でも戦わせるのか?》
《あぁ、大丈夫だよ。だってラズフィはウォシュムガルムだからね。アレでも四天龍の一人だしね》
《何その四天龍って。初めて聞く設定なのだが》
《四匹の龍さ。蒼天龍であるウォシュムガルム。後は名前は知らないけど、紅天龍。黒天龍。白天龍の四匹がいるんだ。まぁその上もいるんだけどね。それはともかくラズフィは大丈夫だよ》
何やら初めて聞く設定というか歴史があったがそれは置いておこう。まずはラズフィの援護だ。今、蓮のMPは半分くらいに減っている。そして使えるのは、一応無属性以外の全属性を使えるように遠紀に魔力を流してもらった。ただ、どれも威力は低い上に燃費が悪い。要改善である。
…とはいえ、自分としては使えている感じはしないのだが。…どちらかというと自分が使っている…と言うよりは遠紀が使っている…という感じと言えば分かるだろうか。
ちなみに、属性は火、水、氷、光、電気、闇、自然、無属性の8つだ。無属性は、ユニーク。つまり、その人しか持つことの出来ないオリジナルの属性の魔法の事だ。そのうち、無属性以外の全ての属性を使うことが出来る。
ただし、闇魔法は本来人間は使用出来ないらしく、魔族専用の魔法らしいので人前では使えないが。
何故使える?と遠紀に尋ねて見たところ、恐らく全才能と、努力改造のスキルのお陰で、努力さえしたら種族的に不可能な事も可能に出来るらしい。…つくづくチートのようなスキルだ。
それはともかく今は目の前の事態である。
「グルォォォォオオオオ!!」
「うぉぉぉ!凄い凄い!」
緑龍…ヴァーサタイルカードで解析したのだが、グリーンドラゴンというらしい。……そのままだな。ともかく説明の欄を見てみる。
グリーンドラゴン
主に森の奥深くに生息している。数はドラゴンの中では多いが、凶暴。人を見ると余程の事が無い限り襲いかかってくる。見かけたら逃げるのが吉。危険度はD
これを見る限り、恐らくこの世界のモンスターは危険度がEとかFというのが一番危険度が低いのだろうか?遠紀の話だとスライム相当らしいし。すると危険なのはAとかだろうか。
そう考えていると、ラズフィが動いた。
「あははっ!!それっ!!」
楽しそうに空に飛び上がるラズフィ。
その表情は本当に嬉しそうだ。
だが、それよりも翼が無いのに空を飛んでいるラズフィに少し違和感を感じた。
…いや、良く考えればウォシュムガルムの時も翼など無かったのだが。
「グルォォォォオオオオ!!」
それはともかくその様子を見て負けじと空に飛び上がるグリーンドラゴン。…長いのでグリドラと呼ぶ事とする。
すると、ラズフィが身体から白銀に輝く剣を取り出し、空中で凄まじい魔力を込めた。辺りがピカッと眩しく光る。
「いっくよぉ!!ウォシュムソード!」
「ちょっ…嘘だろ?」
その凄まじい魔力と…その技を繰り出すラズフィとの余りの可笑しさに思わず驚きの声を上げる。だが、次の瞬間。それは容赦なく天から放たれた。
「グルっ!?グルォォオ!!????」
レーザーのような真っ直ぐ飛ぶ光の光線がグリドラを飲み込み近くにあった谷の方に光線が消えていく。そしてフッと張っていた力が抜けた。
「…………………………」
あまりの光景にしばし蓮は呆然とする。
(ちょっと待て……これ…核爆弾と同じじゃないか…。力の制御をキチンと教えないととんでもないことになりそうなのだが…)
そう戦慄している蓮を横に遠紀が「凄いな、良くやったぞ」とラズフィを褒めている。
(……いや…魔族もアレくらいの技に耐えていた。つまりアレが普通…なのか)
だが、その様子を見ているとふと勇者達の初陣を思い出した。…そう言えばあの時は降り注ぐ魔法を魔族は耐えていた。
…つまりあれを簡単に出せるくらいの強さを得ない限り魔族を倒す事は不可能…なのだろう。思わず冷や汗をかく。
「レン!私凄かったよね!ね!」
するとラズフィがピョンピョン飛び跳ねながら嬉しそうに尋ねてきた。
「あぁ、凄かったよ」
そう言ってラズフィの頭を撫でる。
少し気がかりなのが手加減だ。流石に街であんな技を使ったらトンデモナイ事が起こるような気もする。
上手く飴と鞭を使い分けて力の制御を覚えさせた方が良いのだろうか?
ともかく暫くは街の中で力を使わすのは禁止にさせようと蓮は心に決めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1時間が経過した。これまででかなり歩いて来ている。
ここまでの間に30匹近いモンスターを撃破した。そのうちさっきのグリドラは5匹。かなり鱗が硬かったが、遠紀が言っていた魔法剣で倒すことが出来た。
まず、炎魔剣で斬りつけた後に氷魔剣で斬りつける。急激に熱した後に急激に冷ますことで簡単に鱗は壊すことは出来、中の身を炎魔剣で焼く。ただそれだけで、先程水蒸気爆発を利用して倒したグリドラを倒せたのだ。
つくづく魔法というのは理不尽なものである。…だが、相変わらず実感は沸かない。
そして目の前で血を吹き出して死んでいくグリドラを見ても特に何かを思うことは無かった。
そうして暫く歩いていたのだが……。
《お、見えてきたよ》
遠紀が不意に声を上げた。
その声に蓮とラズフィが顔を上げる。
するとーーー。
「あの大きな樹は……?」
(あぁ、あれはサリオスの大樹。通称世界樹というやつだ。そしてその大樹を守る村。サリオスの村だよーーー)
視界に入った見たことない程大きな大樹。
その葉は青々としており、幹は信じられない程太い。そして光に照らされキラキラと輝くその姿はまさしく世界樹と呼ぶに相応しいものだった。
その大木を見上げて蓮は内心気を引き締めた。
(ここからだ…ここから…。俺は…強くなる!)
その心の中の叫びは。確かに蓮の心を強くしていったのだった。
2014年10月19日。修正を加えました




