[第三話]エターナル王国
部屋に案内されると、まず目に入って来たのはこれまた豪華な部屋だった。
大きさは約十五畳。
床はやはり西洋風な作りになっているのか、靴を脱がずにそのまま入室するタイプらしい。
そして部屋には絵が飾られており、その他の家具も、どれも高級なモノを使用している。
テーブルにはキチンとテーブルクロスが掛けられており、他の家具も上質な作りになっていた。
それを見て感服していた蓮だったが、背後から先程案内してくれた使用人の方……。チャールズと言うのらしいのだが。そのチャールズに「とりあえず注意事項のみ言っておきます」と言われ蓮は振り向いた。
「出来ればですが、モノは壊さないで下さい。それと宴は準備が完了しましたら呼びに参りますが、勇者様方の間でしたら別の部屋に居られても結構です」
そう言ってチャールズは去って行ったのだがだが、元より蓮自身、別の部屋に行くとかは考えていない。
もし行くにしても、瑠花の部屋くらいしか候補が無いだろう。
しかし今はそれよりもーー。
「凄えな……」
思わず感想を呟く。
何が凄いかと言うと、やはり家具だ。
見たことない素材が沢山使われており、此方の世界の素材に詳しく無い俺でも分かる程に上質な素材。そして家具に触れて蓮は感動していた。
するとコンコンとノックの音が響く。
蓮はいきなりの事にビクッと驚いてしまったが、誰だろうと思いつつ、ドアに向かって声を上げる。
「どなた様ですか?」
「蓮…君?瑠花だよ」
どうやら扉をノックしたのは瑠花らしい。蓮は少し慌ててドアの方へ向かい、ドアを開けた。
「どうしたんだ?瑠花?」
「えっと…心配になっちゃって」
蓮が尋ねると、何故か瑠花は少しモジモジしながら答える。
その事に少し疑問を抱きつつも、何故瑠花が自分の部屋に来たのかを思考する。
瑠花が言った心配…恐らくだが、いきなり異世界に飛ばされて尚且つ命掛けて戦えなんて言われたからだろうか?
それに、周りにいる人々も殆どが知らない人だ。
いや、そもそも自分と瑠花のように知り合い同士で神隠しに合うほうが少ないだろう。
まぁ、それでも怖さがあることに変わりは無い。ならどうするかーー?
答えは簡単。知り合いの元へ行く事だ。
つまり、瑠花は怖かったということだろう。
「まぁいいさ、入れよ」
結論が出たところで、とりあえず怖がってる女の子を一人放り出す訳にもいかないので、俺は中に入れることとする。
別にやましい気持ちは微塵も無いので何の問題も無い。
「…うん」
瑠花は頷くと、直ぐに部屋に入った。
「とりあえず座れよ。まぁ俺も聞きたい事あったしな」
瑠花を部屋に入れた蓮は、まず瑠花を座らせた。そして、自身もベッドに座った。
そうして蓮は、瑠花が話し出すのを待っていたのだが、瑠花も蓮が話し出すのを待っていたのようで二人の間に妙な無言が続く。
そして、「「えっと……あっ」」というように同時に話し始め、お互いに引っ込めるという行為を行った後、蓮は口を開けた。
「…とりあえず、瑠花から話してくれ。
俺は後で良いから」
すると瑠花は「分かったよ」と返事をし、話し始める。
「ねぇ…蓮君。私達…本当に力を持ってるのかな?」
瑠花が、真剣な口調で蓮に問うた。
その言葉に思わず蓮は真剣な表情を浮かべる。
ウォルレアンス王に自分達は達は全員勇者としての力を持っている。そう、断言された。
しかし、必ずしもそうとは限らない。
もしかしたら偶々昔来た人々が勇者だっただけかもしれない。ウォルレアンス王が嘘をついているかもしれない。
つまり、分からない。
そこまで考えた蓮はこう答えた。
「………ハッキリ言えば確証は無い。
もしかしたら力が無いかもしれないし、勇者とか言うのも嘘かもしれない。
ただ、俺たちは既に戦う事だけは決まっちまってる。だから力があろうと無かろうとやるしか無い状況だ」
もし、仮に力を持っていたとしても蓮個人としては戦争なんてしたく無いと思っている。
それに…もし、仮に力が無かったとしたら死にに行くだけだ。
一応その場合の最終手段としては、地雷などを自作するという考えがあるが、作り方を知らないうえ、物理の理論でやったとしても出来るとは限らない。
精々出来ても爆弾が精一杯だろう。
しかもそれを作るには此方の世界で、爆薬などの代わりになる素材を見つけなくてはならない。
ちなみに作るのは確定事項に近い。
何故ならこのままでは、もし、勇者の力とやらがあったとしても、戦いに慣れていない蓮達では本気で魔族と戦っても勝てる要素が無いからだ。
しかし、今はそれよりも問題がある。
ヒカルの演説ですっかり忘れてしまっていたのだが、どうやって元の世界に帰るかだ。
ハッキリ言えば、現在帰る方法は無い。
最悪の場合、この世界で生涯を終える事も考えられる。
だが、やはり蓮は元の世界に帰りたかった。
家族にはお世話になったし、あんな別れで終わりたくない。
それに将来の夢もある。これからやりたい事は一杯あったのだ。
だから蓮は、帰りたかった。
自分達が帰れる方法として可能性があるものを頭の中で考えたりもしたがどれも可能性である。情報が足りないのは明白だ。
「蓮君!しっかりして」
「ん…あ、悪い。また考え事してた」
「全く………」
そんな風に思考していると、また思考の渦に身を任せてしまったようだ。
瑠花が少しプリプリしながら腕を組む。
「まぁ大丈夫だろう。今は」
とりあえず、そう締めくくる。
少なからず今日の間は大丈夫だろう。
明日からいきなり放り出されて魔族と戦えとは流石に言わないだろうし、少しは修行などの時間が与えられる筈だ。
すると、瑠花が立ち上がってニコリと笑いながら
「ありがと、蓮君…少し気が楽になった」
蓮も立ち上がり、ドアの方に向かう。
恐らく瑠花は部屋に戻るつもりだろうから一応、送るべきだろう。
……見た目が美少女なので今のヒカルの演説により気分がハイになっている勇者達の理性が持つか心配だし…。
そんな風に思考していたからだろうか?
そしてドアの方を歩き出した瞬間。
ガッと音を立てて蓮は足をベッドにぶつけ、体勢を崩して瑠花の方へ倒れこんだ。
「うわっ!」
「えっーー?きゃっ!」
それに巻き込まれた瑠花も倒れこむ。
柔らかい肌の感覚を蓮に感じさせた。
それと同時にフワッとした良い匂いが鼻をくすぐる。
しかしタイミングの悪いことにその時、蓮の部屋のドアが開いた。
「失礼します。チャールズで御座いま……失礼致しました」
部屋のドアを開けたのはチャールズであったようだ。そして、チャールズは瑠花の上に倒れこんでいる蓮を一瞬凝視して、何を勘違いしたのか慌てて礼をして出て行く。
「待って!チャールズさんが思ってるのは勘違いだから!お願い待ってぇぇ!」
蓮が必死に手を伸ばすが時すでに遅し。
チャールズの姿はもう見えなくなっている。
「あぁぁぁ!!絶対勘違いされたぁぁぁ!!」
蓮は頭を抱えながら叫んだ。
そして、「終わった…終わったよ俺の平穏…」と蓮は涙を流さんほどの勢いのまま全力でorz体勢をとる。
するとーー。
「は……離れて…よぉ」
瑠花が顔を真っ赤に染めながら途切れ途切れに呟く。
この時、蓮はようやく未だに端から見れば瑠花を押し倒しているかのような格好になっていることに気付き、慌てて離れようとするが、幸か不幸か。
慌てていたせいで蓮は立ち上がろうとした瞬間また脚を滑らせて倒れこんでしまった。
「ひゃあ!」
二度も倒れこんで来るとは思っていなかったのか、瑠花が悲鳴に近い声を上げる。
「うー。痛てて…………ん?なんか柔らかいような…」
再び倒れこんだ蓮は、瞬発的に目を閉じてしまったので、手に伝わるこの柔らかい感触が何かを理解出来ていない。
ちょうど手の大きさ。いや、それよりも少し大きいくらいの二つの山。
普段の蓮であったら間違い無く気付き、直ぐさま土下座に移るのだが。
そして、蓮はゆっくりと目を開けた。
目の前に見えたのは。
「ひゃっ……ぅん…何…してんのよ…!」
両手で瑠花の胸を鷲掴みにしている自分自身の姿。
そしてその事により怒りの表情を浮かべながら悶える瑠花の姿であった。
その情報が頭に入った瞬間、俺の脳は一つの決断を下した。
「申し訳っ!!ありませんでしたぁぁぁ!!」
全力全開の土下座である。
そのフォームはまさに理想とも言える程完璧な土下座。
これはもうどんな事をしても許されるというーー
「ーーって!!許すわけ無いでしょバカぁぁぁ!!」
ことは無く、バチーン!と良い音が部屋に響き渡った。
あの後、宴の準備が終わったとチャールズさんに呼ばれた蓮は、頬に赤い紅葉を付けたまま案内されていた。
この城ではチャールズさんのような使用人はとても多いらしい。
数にすると、千はいくそうだ。
しかし、チャールズさんのような客人用のお世話係の使用人は30人程らしい。
そして、その全員が今は勇者…まぁ俺達の世話をしているらしい。
一人につき三人。場合によっては四人。
「大変ですね」と声を掛けると、「仕事ですから」と笑顔で返された。
そして移動の間にチャールズさんに、
この国………。
エターナル王国について教えてもらった。
まず、エターナル王国というのは、約千年もの歴史を持っているらしい。
初代国王は、エターナル・ドラスト。
かつてこの地を襲った災厄を命を投げうって防いだ人だそうだ。
元々はここは小さな街で、名前もエターナルでは無く、リデアルという名前だったらしい。
そして彼はそこの領主をしていたそうだ。
リデアルは、戦争をしているとは思えない程平和な国であった。
エターナルの政治も良く、殆ど完璧と言っても過言では無い街だった。
また、エターナルは高名な冒険者でもあった。が、ある時この街を訪れ一つの事件を解決し領主になったのだが、今回は省いておこう。
先程も言ったが、その平和なリデアルだったのだがある日。かつて無い程の大事件に見舞われた。
それが、蒼天龍事件である。
この地を襲った災厄。
それは、次元を操る龍として知られる蒼天の龍。ウォシュムガルム。
その龍がリデアルの街を襲ったらしい。
当然だが、龍とまともに相対出来る人は少なく、領主であったエターナルと数人の戦士しか居なかったらしい。
そして彼らは必死に戦ったそうだ。
全員、名のある戦士だったそうだが、次元を操るウォシュムガルムには及ばず、一人、また一人と死んでいったらしい。
そして、仲間が死んで行く中、
エターナルはあることを決意した。
それは、自分の命を投げうって、
ウォシュムガルムを封印することである。
そして成功し、再びリデアルの街には平和が訪れた。
しかし、それと同時にエターナルは犠牲になってしまったのである。
人々は、嘆き悲しんだ。
しかし、ずっと悲しんでいる訳にもいかない。そんな時、エターナルの息子であった
ラーシャル・ドラストが立ち上がり、父の後を継いで政治を行ったらしい。
ラーシャルの政治も素晴らしく、父であるエターナルにも勝るとも劣らない腕で、尚且つラーシャルは、ウォシュムガルムとの戦いに参加した生き残りであった。
そして人々に認められたラーシャルは王となり、リデアルの街があった場所に
国を建国した。
その国の名前は、エターナル王国。
リデアルの街を襲ったウォシュムガルムを命を投げうって封印した父。
エターナルの名を取ったのである。
それと同時に一代目国王は、自分ではなく、エターナル・ドラストであると宣言したそうだ。
それからは、代々ドラスト家が国王を勤め、今に至るという内容だった。
蓮にとってはとても興味深い内容であったが、それよりもやっぱり国の興りってのは何かしらのエピソードがあるんだなと感動していた。
それと同時に、よく知っているなと思ったので尋ねると、どうやらチャールズさんの家は代々ドラスト家で仕えていた家柄らしく、その為エターナル王国の様々な歴史を聞かされて育ったそうだ。
すると、宴をやる大広間に到着したようでチャールズさんが指差す。
「ここに御座います、では楽しんでいって下さいませ」
そう言ってチャールズは一礼し大広間の扉を開けた。
この作品で何か気になったことなどありましたら感想で教えて頂けるとありがたいです。
これからも『ただ一人の無能勇者』を
よろしくお願いします
2014年10月19日。修正を加えました