[第一話]目覚め
何故かギャグっぽくなりました。
…どうしてこうなった。
目が覚めると目の前に広がっていたのは広大な森林だった。
どうやら自分は山の頂上付近に居たらしく、地平線の辺りまで広がっている森林がとても印象的だった。
空に太陽が出ているを見ると今は昼なのだろう。見たことない鳥が空を羽ばたいている。
「…………………………」
その大自然が創り上げたパノラマを呆然とした様子で蓮は見つめていた。
フュォォオと風が蓮の横を吹き抜ける。
そんな中、蓮は一つの事を考えていた
(……俺……何で…此処に居るんだろ)
答えは分かっている。信じて良いのかは分からないが、自分が気絶している間に起こった出来事で。
「遠紀と……ラズフィ……か…」
蓮がポツリと呟いた瞬間!!
《呼んだ?》
「のわぁっ!!?」
いきなり頭に響いた遠紀声に思わず蓮がひっくり返る。
そしてそのまま近くにあった木に頭をしたたかに打ち付けた。
「〜〜〜〜ッッ!!」
頭を押さえ声にならない呻き声を上げながら蓮がゴロゴロと転がる。
《オイオイ…落ち着け。言っただろう。現実世界でも会話出来ると。》
その様子に呆れたような声を出す遠紀。
「んなの夢とかで流すだろ普通!!」
痛む頭を押さえながら蓮がツッコミを入れた。
そして頭の痛みが治まった頃ーーー
「ふぅ…で、つまりここは精神世界で言ってたようにフィオージュ大陸…エルフの大陸の山の奥深くってとこか?」
蓮は疑問を口にした。その言葉に遠紀が《あぁ》と肯定する。
その言葉を聞いていた蓮だったが、不意に何か微妙そうな表情を浮かべると遠紀に質問した。
「なぁ…お前ら外に出られねぇのかよ?
頭に直接声が響くってのに慣れないからさ……」
そう。不意に頭に声が響くというのはかなり違和感がある。こんなのじゃ遠紀とかに話掛けられただけで表情がピクリと変わりそうになってしまう。
するとーーー。
《出来るよ?だって君の依り代としての器が最上級だからね》
あっさりとした返事だった。しかし、それよりも気になることがある。
「依り代としての器?なんだそりゃ?」
そう尋ねると遠紀が少し面倒くさそうに説明を始める。
《依り代っていうのが神霊が依り憑く対象物のことで、神体などを指すほか、神域を指すこともあるってのは知ってる?》
その質問に「あぁ」と蓮が返した。
まぁ分かりやすく言うならば、今回の場合ウォシュムガルム(神霊)。依り憑く対象物(依り代)が蓮。ということだ。
《それにも器というのが関係しているんだ。例えば、水が入っているコップがあるだろう?その水がウォシュムガルムで、コップが器だ。その器というのは一人一人大きさが違って、指先ほどの大きさしか無い人も入れば、二ℓのペットボトル並みの人もいる。》
「ほうほう……」
遠紀が例えを交えて説明を始めた。ほうほうと蓮が頷く。
《でね。ウォシュムガルムの場合はもう殆どの人の器に入りきらないんだ。というよりも、入ったとしても依り代になった人が耐えられない。例えば精神が壊れたり肉体がダメになったり。ウォシュムガルムの力に振り回されちゃうんだよね》
「…………………え?」
いきなりリアリティ溢れる話になったことにより蓮の頬を冷や汗が流れた。
すると、安心してというように遠紀が少し表情を和らげた。
《でも、その器は大きい人は何の問題も無い。寧ろウォシュムガルムの力を行使することも出来るようになるし、神霊として依り代の中に入っている神を出すことも出来る。君は僕よりも器が大きいからかなり期待出来るよ》
その説明に蓮は少し安堵するかのように「ハァ」と大きく息を吐いた。
そして再び口を開く。
「じゃあどうやって出すんだ?」
《頭の中で僕らを思い浮かべながら、出ろって念じるだけで出るよ。》
その質問には簡単に答える遠紀。蓮は「本当か…?」と少し疑いつつも心の中で念じ始めた。
(えぇっと…2人出てこ〜い)
頭の中で先程、精神世界で見た二人を思い浮かべながら念じる。
するとーーー。
何かが身体から抜けるような感覚とともに地面からザッという音が響いた。
蓮がゆっくりと目を開くとーーー
「うむ。成功だね」
「森だ〜!!」
うんうんと頷く遠紀とはしゃいでいるラズフィの姿が見えた。すると遠紀が「あっ」と思い出したかのように声を上げた。
「とりあえず先に言っておくけど街では僕を出さないでね。ラズフィは良いけど」
その言葉に蓮が首を傾げると、遠紀が当然だろうと言いたげな表情を浮かべる。
「だって僕はエターナルだよ?今でも石像とか残ってたりしててかなり顔は知られてるじゃないか。そんな僕が生きていると知られたら色々面倒な事になるよ。まぁこれでも僕は有名人だったからね」
言われてみればそれもそうだという話である。
かつてウォシュムガルムを封印したと言われるエターナルが生きていると分かれば、ウォレルアンス王が黙っていないだろう。すると、遠紀がふと少し離れた所で遊んでいるラズフィの方を向いた。
「……ラズフィ。遠くへ行っちゃダメだよ。今の僕らは蓮に全ての力を奪われて自分だけじゃ力を行使出来ないからね」
そう言ってくるくる回りながらはしゃいでいるラズフィを抱きかかえて座り込む。こいつ……さっきまでの龍……なんだよなぁ。
見ていて思わず調子が狂ってしまう。
「やー!遊ぶのー!」
「……ハァ…我慢しなさい」
「やーー!!」
何かこの光景を見てるとほんわかすると言うか表情が優しくなってしまう。確かにメチャクチャ暴れてたけど龍とは似ても似つかないし、完全にただの可愛らしい子供だ。微笑ましい。だが、それよりも蓮は気になることを質問した。
「そういや、なんで寝てたって言ってたのにその龍の名前がラズフィだって分かったんだ?」
「ん?あぁ最初に人間化した時に、ラズフィが舌足らずな言葉で言ったんだよ。ビックリしたけど可愛かった……アレは無理だ。僕も思わず抱きしめちゃったよ」
その瞬間ガチッと蓮は固まった。
そして内心かなり失礼な事を考え始める。
(…………え?……まさか。こいつはロリコンなのか?いや…親バカみたいな感じか?……どちらにせよ何と無く犯罪臭がするのは気のせいか?)
そこまで考えた蓮は遠紀が抱きかかえているラズフィを素早く引き離した。
「うーー?」
「ちょっ!!何をするんだ!」
「離れんか!!このロリコン!!」
「僕はロリコンじゃなぁーい!!」
静寂に包まれていた森の中が途端にうるさくなる。そして暫くが経過しーーー。
「ハァッ……気を取り直してヴァーサタイルカードを出してくれないかな」
少し疲れた表情で遠紀が言った。蓮はその言葉に従い身体からヴァーサタイルカードを出す。
今まで描写はしていなかったが、ヴァーサタイルカードは紛失を減らすため身体の中に収納可能だ。スッと普通に身体の中に入った時は驚いたものである。
勿論出す時は念じるだけというお手軽設定だ。
それに、ヴァーサタイルカードを出さなくても鑑定などの機能は使える。本当に万能なカードである。
「よっと…これでいいか?」
中指と人差し指の間にカードを出現させる。
「うん。じゃあ確認しようか。多分色々変わっている筈だからね」
蓮はその声に頷いてカードを確認した。
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日向 蓮 (男) 15歳 レベル:3
職業:旅人
・体力:150・速さ:150
・魔力:200・耐性:150
・攻撃:150・知識:1200
・防御:150・手先:600
各種アビリティ
・言語スキル・"全才能"・"努力改造"・アイテムボックス
フォーチュンスキル
・自身操作
・ウォシュムガルムの依り代
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色々と数値が変わっていた。
というか知識と手先が突出し過ぎている気がする。
それだけじゃなくアビリティも遠紀が言っていたスキルが追加されていた。
「ってアイテムボックス?どういうことだ?」
そこまで見て、アビリティに気になるモノがあったので思わず呟く。
すると「あぁ」と納得したような声を上げながら遠紀が言った。
「恐らくそれは僕のアイテムボックスだね。へぇ…昔は道具だったけど今ではアビリティ扱いなのか」
「へぇ」と感嘆したかのように遠紀が声を上げた。よくわからなかったので質問を繰り返す。
「お前のって…それが俺に継承されたっていうアレですか?」
「うん。まぁ昔は誰でも持ってたけどね。」
それを聞く限り、昔の方が発展していたようだ。というよりも、昔の科学力というか、魔法力が気になる。
それはそうとして
「なぁ、自身制御ってなんだろ⁇」
確かに見慣れない言葉だ。日本語にすれば自分を制御する。
なんだかショボそうなフォーチュンスキルだ。
「それは分からないな。多分これが君の持っていた元々のフォーチュンスキルなんだろうけど…まぁ練習すれば分かるだろう」
次に蓮は二つ気になる模様を見つけたので質問を重ねる。
「なぁ…努力改造と全才能の所に変なマークが付いてるんだが…コレってなんなんだ?」
その質問を受けた遠紀がヴァーサタイルカードを見る。すると彼は片手を振った。
「悪いが…これは分からない。恐らく僕の力だったモノを君に与えたから…かもしれないが。…いや、だとしたらアイテムボックスが説明出来ない…か」
そう言った後に暫く思案するような表情を浮かべていたのだが、やがて思い出したように遠紀が口を開いた。
「…あ、そうだ蓮君。ラズフィにこのカードを当てて見てくれないか?」
「…………は?」
遠紀のいきなりの珍発言に蓮が聞き返す。
だが、遠紀は早くやれ…といった表情を浮かべているだけである。
(………は?だよ。そんなこと言われても。まぁとにかくやれば良いのだろうか?)
そう考えて少し慌てつつも、ラズフィを呼び寄せる。
「分かったよ。ラズフィ。来い」
「うん!」
元気良く返事をしてラズフィが抱き付いてきた。その様子を遠紀が驚愕の目で見つめる。
(……というか小4の精神とか言ってたけど俺には小1とかそれ以下にしか感じられないんだが……)
「ほい」
まぁともかく蓮は言われた通りラズフィの頭にヴァーサタイルカードを軽く押し付けた。刹那。
ラズフィが光り輝いた。
「ッ!!?なんだ!?」
突然の出来事に驚く蓮。しかし、今回の光はあまり長くなく直ぐに消えた。
そして目の前に居たのはーーー。
「うー…何?これ……」
少しだけ大きくなったラズフィの姿だった。
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「さて、どういうことか説明してもらおうか」
「待って、近いから。焦らないで。ちゃんと説明するから」
いきなり目の前でラズフィが光ったと思ったら少し大きくなって喋り方が成長しました。
(何言ってるのか分からないと思う。うん。そりゃそうだろうね。自分だって分かって無いんだから。)
当然、そんな現象を引き起こした遠紀に詰め寄り聞き出そうとする訳だ。
「えっとね…まぁ分かりやすく言うなら君の器と同調させたんだよ」
「同調?」
遠紀が少しどもりながら答える。
「うん。依り代に入ったばかりの時はまだ上手く同調出来なくて、神霊が子供だった場合精神や見た目が幼くなる場合があるんだ。大人の神霊だったら自分で上手く合わせるんだけどね……」
成る程。それで今、ヴァーサタイルカードを使って同調させたから少し成長して少しだけ言葉遣いが変わったと言うことか。
「ねぇ〜つまんない〜!」
……変わってる……のか?…。
少し疑問に思いつつも遠紀の声に現実に戻される。
「まぁともかく、これからは修行の日々が始まるわけなんだけど」
「ちょっと待て。いきなりどうした」
こいつは何故こうも突発的にトンデモない事を言い出すんだ。しかし、反射的に蓮はツッコミを入れる
「君が死ぬと僕らも死ぬんだよ。つまり君に死んでもらっては困るということさ!キリッ!」
「キリッ!じゃねぇーよこの若作りジジイ!もう少し発言考えろよ!」
シリアスなんて無かったんだ。うん。分かってたよ。こいつらがシリアスを作れない事くらい。…と思いつつ話はキチンと聞く。
「まぁともかく修行の面に関しては安心してくれ。これでも全盛期は全ステータス、最低10000はあったから。」
「何その化け物な数値は!?おかしいだろ!?限界突破してるよ!つーか何レベだお前ぇぇぇ!!?」
「ん?574レベでしたが何か?」
「嘘だろぉぉぉぉおお!!?」
トンデモない数値をサラッと口にする遠紀。というか数値10000あってもウォシュムガルムを封印することしか出来なかったのか。
そこまで考えた蓮がチラッとラズフィを見る。
「あう〜〜」
……この緩んだ顔の裏にトンデモない顔が…。ラズフィ恐ろしい子。思わず身震いする蓮。
「まぁともかく、修行に関しては僕がつけるし戦闘に関しても僕が教える。
なに、僕だって大魔王を打ち滅ぼした人類だからね。きっと君も強くな」
「ストップ!今何て言った!!?大魔王を打ち滅ぼした!?何口走ってるのお前!!?」
「お前言うな!大魔王と言ってもなったばかりだったから闇討ちしたら一発だったんだよ!」
「何それセコイ!!というより恥を知れ!」
そう言って暫く二人で罵りあうこと十五分。
「ハァッ……ハァッ…」
「ハァッ……ハァッ…」
「ひ……一先ず休戦で……」
「ハァッ…そう……だなっ……」
蓮の言葉でようやく収まった。
そして遠紀が立ち上がり口を開いた。
「じゃあ選択して貰いたいんだけど。」
「何をだよ……」
蓮が尋ねる。
「今このまま野宿しながら修行をして、修行が多少終わったところで一番近い街へ向かうか。もしくは一番近い街を目指しながらモンスターを倒したりして修行するか。飲み込みが早ければ二個目の選択肢が効率言いと思うけど」
これからについての選択だった。
しかし、蓮は迷わずーーー。
「後者で。だってその方が効率良いだろうし、なんとなく野宿はラズフィが嫌だろ?」
速攻で選んだ。即答である。
その答えに遠紀が頷いた。
「分かった。じゃあ此処からだと…無くなってなかったら森の深くにあるサリオスの村かな。魔法の練習がとても良く行われている場所だよ。僕も千年前に世話になった」
そう言って地平線の先を見つめた。
その先には広大な森が広がっている。
周りは360度森に囲まれている、その中でポツンと存在する山の頂上。
そして遠紀の宣言は、蓮の新たな旅が始まることを意味していた。
2014年10月19日。修正を加えました




