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ただ一人の無能勇者(凍結)  作者: Yuupon
【一章】神隠しと異世界と勇者達
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[第二十六話]精神世界

神殿。

この場所を表す最も良い一言だ。


一つ一つ細かな彫刻が施された柱。

天井から吊り下げられた豪華なシャンデリア。そして床に広がる蒼い床。

壁の方を見ると、蒼い水晶のように輝く輝き、光を放っている。


先程、封印の間で見たようなモノとはレベルが違う。もはや先程見たモノが霞んで見えるほどの世界。

そうーーー。まさしくこの世界……。

存在(ニル)しない世界(ワールド)に相応しい神殿であった。


そしてその神殿にある小上がりのような段と、大きな玉座。


その前に一人の少女が佇んでいた。

髪は…蒼い。透き通っているような清らかな髪。顔もとても可愛らしい。

見た目は子供だが不思議な魅力を感じさせる少女ーーー。それが感想だ。


そしてその少女が自分の目の前に佇んでいた。


「………は?」


思わず疑問の声を上げる。

いや、真面目にこの状況が分からないのだか、仕方がない。


(いや…まて。思い出せ日向(ひなた) (れん)。オーケー。冷静になれ。)


まずは精神を落ち着けようとフゥ…っと息を吐いて何があったのかを思い出そうとする。


(確か……手榴弾をウォシュムガルムの口の中で爆発させた後、変な蒼い空間に囚われて………。いや…待て。そう言えばウォシュムガルムって次元龍だったよな…。つまり次元と次元の間に穴を開けて移動みたいなのも出来るはず。

それに巻き込まれたと仮定するとーー)


「よく来たね!私の依り代となる勇者!」


蓮の脳が凄まじい速度で思考を始めた。

これも前の世界の癖である。

彼は、よく本を読んでいる時に時折このように深い思考に陥り、周りから声を掛けられても気付かない事があった。


(すると、ここはウォシュムガルムの巣?

いや…巣じゃないな。次元の間にある空間とか…?)


「聞いてる?ねぇ聞いてる?」


少女の声は届かない。未だ蓮の思考は精神層の深い場所に位置していた。

そして思考は止まらない。


(…そう言えば、何処かで読んだな…。

龍という種族は自分達の暮らしやすい空間を創りあげると…。すると、ここはやはりウォシュムガルムの巣か…?)


「ねぇ!聞いてよ!!ねえってば!」

「………あ…え?」


少女が蓮の服を掴んでブンブン振る。

流石にそこまでされれば蓮も気付き、自分の服の袖をブンブン振りながら「聞いてよ〜」と半泣きで声を上げる少女を見つめた。


(何だ……この子供……?)


そう思うのも仕方が無いだろう。

蓮の感覚からすると、


いきなり変な神殿に居た。

そしてここが何処なのかを考えながら何があったのかを思い出していたら目の前に見知らぬ美少女が居た。


こんな感じである。

流石にそんな状況ではどうしても冷静になれないというものである。


「え〜っと…どうしたのかな?ここが君のお家?」


ともかく目の前にいるのは子供である。蓮にそっちの趣味は無いが、あまり声を荒げたりするのは避けた方がいいだろう。故に彼は小さい子供に話しかけるように優しく問いかけた。


「子供扱いしないでよ!」

「あ〜はいはい。うん。で、ここが君のお家なのかな?」


反論してきた幼女の頭をポンポンと撫でながら再度蓮は問いかけた。


「うぅ〜〜」


幼女が膨れっ面で声を上げる。

その不貞腐れた様子はとても可愛らしいものであったが本人は気付いていないのだろう。


「え〜っと…。お母さんとかはいないのかな?お父さんでもいいよ」


その様子を見た蓮は話が進まないと感じ、親がいるかどうかを尋ねる。

しかしーーー。


「親はいないよ?」


当たり前のように幼女が答えた。

………って、は?


「えっと…じゃあ大人の人は…?」


そう尋ねると背後から急に声が響いた。


「はぁ…ここに居る。まさかこの子を完全に子供と見ているとは…大物なのか大馬鹿なのか…」

「!」


いきなり響いた声に思わず身体を震わせてしまったが、驚くのはこれからであった。


「……ッッッ!!?」


蓮は驚愕した。蓮の背後に居た人物。

それはーーー。


「始めまして。二代目依り代の勇者。

僕はエターナル・ドラスト…いや。

異世界召喚される前の名は、

永宮(えいみや) 遠紀(とうき)だ。

よろしく頼む。無能勇者君」


エターナル王国にあった石像。

それと瓜二つの容姿の人物。


エターナル王国初代国王。

エターナル・ドラスト。


その人物(ひと)であったのだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神殿の中の空気はとても重苦しいものになっていた。そんな中、蓮が口を開く。


永宮(えいみや) 遠紀(とうき)…?

まさかあんたも異世界召喚されて…?」

「あぁ。そうだ。僕は千年前に召喚された。言うならば君の先輩だよ」


遠紀が答える。見た目は二十五歳くらいの好青年だ。

しかし、実年齢は千三十八歳。

見た目は千年前から変わらないらしいがそれでもかなり若作りしている。


するとーーー。


「じゃあ説明しよう。」


遠紀が口を開く。どうやらこの状況を説明してくれるらしい。そしていきなりトンデモないカミングアウトをした。


「まず、ここは君の精神の中だ」

「………は?」


訳が分からない説明に思わず疑問の声を上げた。


「分かりやすく言うなら。僕とウォシュムガルムは君の中に魂レベルで融合したと言うことだよ」

「え?えぇぇぇぇぇぇええええ!!?」


蓮の心からの叫びが神殿の中に響き渡った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


説明を分かりやすくするならこうだった。


まず、千年前にエターナル…遠紀が、ウォシュムガルムを封印したのだが、その際、自分の身体をウォシュムガルムに依り代として差し出したらしい。


そして外からは自分の精神体とウォシュムガルムを封印した蒼天の宝玉を自身の息子であるラーシャル・ドラストにやらせたそうだが、これが上手くいってなかったそうだ。


本人曰く、


「何と言うか…玉の外側は完全に結界が張られてたんだけど内側が張られて無かったんだよね」


との事。


そしてそのせいで千年の間に蒼天の宝玉は内側から段々と壊れていき、封印が解けそうになっていたらしい。


そこで遠紀は考えた。

その方法が、


新たな依り代を作る事であったそうだ。

元々異世界から蓮達が来るのは分かっていたらしく、そのうちの一人を依り代として来るように玉の中から干渉を入れたらしい。


……それが傍迷惑な事に蓮だったそうだ。


恐らくカケルが消えた後も何故か勇者が百人居たのは、恐らく自分が依り代であり、勇者では無かったからだろう。


つまり、カケルが居たという証明になる。


話を戻そう。

一応、その後蓮は何で自分が依り代だと分かったのか?と遠紀に尋ねた


「あぁ、実はね。僕はこの世界に来る前に力を貰ったんだよ。良くある神様転生ってやつみたいにね。

その時に戦闘において全ての才能と、努力したらどんな事でも可能になるって言うのを貰ったんだ。

貰ったんだけど…そのせいで、依り代となる勇者からは才能を奪っちゃったんだよね。だから君だと分かったんだ。だって戦闘の才能が皆無だっ…ごっふ!!」

「お前のせいか…そうかそうかお前のせいだったんだな」

「ゴホッゴホッ!ちょっと!ストップ!落ち着いて!」


思わず殴ってしまった。

いやいや、そんなこと言われたら流石に殴るというものだ。

まさかこいつのせいで自分の才能が無いとは思ってなかったから。


「ストップ!待って!待ちなさい。

安心しろ。君の中に僕の能力だった、全才能(オールアビリティ)のスキルと、努力改造(イフォートチート)のスキルは君に移ったから!それだけじゃなく君の能力も開花させたから!」

「……どう言うことだ?」


蓮が聞き返す。

すると、驚きべきことを話し始めた。


「さっき、君に魂レベルで融合したって言ったよね?」

「あぁ」

「その時、何故か分からないけど僕の力とウォシュムガルムの力も全て奪われたんだよね…」


二回目のまさかのカミングアウト。

当然の事だがーーー


「はぁぁぁぁぁああああ!!?」


またもや蓮の心からの叫びが神殿の中に響き渡った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで、君が起きたら確認して欲しいんだが、恐らくスキルがあると思う。

ウォシュムガルムの加護とかもあるだろうね」


遠紀が言った。だが、先程から気になっていたことが蓮には一つあった。


「…まぁそれは良いんだが…。百歩譲ってそれを信じるとして……さっきからウォシュムガルム、ウォシュムガルム言ってるけど何処に居るんだよ。さっきの龍。」


そう。それだ。

ウォシュムガルムが蓮自身と融合したのならここに居てもおかしくない。

それを蓮は指摘した。


すると、あれ⁇と言いたげな表情を浮かべる遠紀。


「何処って…此処にいるじゃないか?」

「………?何処に………」


遠紀に言われ、辺りを見渡した蓮が固まる。その視線の先は先程の蒼い髪の幼女だ。


「ま……まさか………!?」

「そう…そのまさかだ」


遠紀が頷いた。口が三日月の形になっている。


「う〜〜?」


小首を傾げながら可愛らしい声を上げる幼女。


「あれが……ウォシュムガルムの人間バージョンの姿だへぶっ!!?」

「ふっざけんな!嘘も大概にしやがれ!」


渾身の右ストレートである。

遠紀の頬に見事にめり込んだ。


「ぐっは………何故殴るんだ…。

僕は本当の事を…!」

「嘘つけ!!先程の蒼い龍と違い過ぎるわ!!あんな獰猛で大量のレーザー放つ龍と目の前にいる幼女!どうやったらそんな言い訳出来るんだよ!」

「私は幼女じゃない!!」


遠紀と蒼髪幼女が次々に反論するが蓮は聞く耳を持たない。


「第一お前らの話に信憑性が皆無なんだよ!証拠を出せよ証拠をぉ!!」


そう言って蓮が置かれていたテーブルをバンバン叩いた。

するとーーー。


「はぁ…仕方無い。じゃあラズフィ。龍の姿になれ…」

「ん……分かった」


遠紀が溜息をつきながら蒼髪幼女…もとい。ラズフィに声を掛けた。

コクンと頷くラズフィ。


次の瞬間!!


「え?あ?え?……マジ…なのか?」


ラズフィの姿が変わった。

蒼く輝く鱗を付け、宝玉のような紅い目が現れ、口辺に長髯をたくわえ、喉下には一尺四方の逆鱗があり、顎下に蒼く輝く宝珠が見える。


つい先程見ていた蒼天龍ウォシュムガルム。まさしくその姿であった。


「嘘……だろ?」


蓮がポロリと言葉を零す。次の瞬間ウォシュムガルムはまた姿を変え、小さくなりラズフィの姿になる。


「これが証拠だ。反論は?」

「…無い。……殴って悪かった」


流石にコレを見せつけられて嘘とは言えなかった。


「分かればよろしい。それじゃあ説明を再開するよ」


蓮のその様子にうんうんと頷いた後にまた遠紀が話し始めた。


「まず君達を襲った理由は、依り代である君を何としてでも連れ去って魂レベルで融合させる事だった。でも、途中で…まさかの展開だったけど金髪の少年がラズフィと互角で戦い始めたんだよね。僕自身かなりビックリしたんだけど。

実はね…その時、ラズフィの記憶は殆ど無かったんだよ」

「ちょっと待て。どう言うことか詳しく説明しろ」


いきなり訳の分からない事を再び遠紀が言い出した。そのため蓮はツッコミを入れる。


「えっとね…まぁ分かりやすく言えば、千年前に僕が戦った時、ウォシュムガルムはまだ子供…それもようやく赤ちゃんから幼女になったくらいの状態だったんだよね。当然そんな時に自我があるわけが無い。その状態のラズフィと僕は戦って封印したんだ。」

「ふむふむ。それで?」


俺は続けるように促す。もう完全にタメ口だが別にいいか。絶対に長い付き合いになりそうな気もしてきたし。


「それで封印した後、ウォシュムガルムはずっと眠った状態だったんだ。そしてその間の時は完全には止まっていなかったけどかなりゆっくり流れていてね。

僕らの時間感覚だと千年で約二年くらいしか進んでないんだ。

それにラズフィはずっと寝てたから殆ど精神的な成長が無いんだよね。

分かりやすく言うなら、今は小学校四年生…いや、もっと下と言えば分かるかな?」


……なんと言うか…。随分アレな話だな。ってか小学校四年くらいって…。

でも理解出来た。つまり寝起きで殆ど無意識にあの行動をしたと。


そう言えば関係無いが前の世界の友人が「やっぱりロリこそ至高!!」と叫んでいた記憶がある。

そこまで考えて蓮はラズフィを見る。


……そいつがこの世界に来ない事を祈ろう。


「で、まぁ色々な意味で子供なんだよ。

この子は。うん、どうでもいいね。それで此処からは少し大事な話なんだけど…」

「いや、今までの話どうでも良かったのかよ!?」


遠紀の言葉にツッコミを入れる蓮。

アレ?エターナルのイメージが崩れていく気がするのだが、気のせいだろうか。それと自分のイメージも壊れているように思えてくる。


するとーーー


「ラズフィと戦ってた彼……。君の目の前で消えたよね。」

「……ッッ!!……何が言いたい…」


真剣な表情で遠紀が言った。

その言葉に思わず蓮の顔が強張る。

そして鋭い眼光を向けた。

すると遠紀が驚愕の事実を口にした。


「彼は……生きてるよ」


その言葉に蓮は驚きを隠せなかった。

あまりの驚きにマジマジと遠紀を見つめる。


「言葉通りさ。彼が創ったのがブラックホールで助かったよ。なんとかウォシュムガルム化してたラズフィの中から彼のブラックホールに電荷を飛ばして、彼のブラックホールをワームホールにしたんだ。」


その言葉で蓮は理解した。理解したが故に驚きを隠せなかった。


(時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でトンネルのような抜け道であるワームホール……。確か、何処かの本でワームホールを創るにはブラックホールに電荷を加えることで通行可能になるとか書いてあったような…。だが、その場合人間が耐えられない放射線が…。)


そこまで考えた蓮が遠紀の胸倉を掴んで叫んだ。


「オイ!それってあいつは放射線に耐えれたのかよ!答えろ遠紀!」

「い…生き…生きてるから揺さぶるな!」


うっぷ…と吐きそうな顔で遠紀が答える。その返事に安心したかのように蓮が手を外した。


「だけど何処に転移したのかは分からない。…だがこの世界にいるのは確かだ」


その言葉には蓮は何もしなかった。

ただ一言。「そうか」と口にする。

…内心とても安堵したのは内緒だ。

するとーーーーー。


「あれ?薄くなってきてない?」


自分の手が薄くなってきていた。

よく見ると光のようなモノが空に向かって飛んでいっている。


「ん、時間みたいだね。安心してくれ。

現実世界(あっち)でも僕らと会話は出来るから。」

「おい、待て。時間って何だ」


遠紀が納得したような声を上げる。

その言葉の意味が分からなかったので蓮は質問した。


「えっとねぇ…今、君はエルフ族が暮らすフィオージュ大陸の山の奥で倒れているんだよね。そこで君は起きそうって事だよ」

「ちょっと待て!それってどう言う事ーーーー」


「どうして俺がそこに居るんだ」と声を上げようとした瞬間、蓮の意識は浮上していったのだった。

2014年10月19日。修正を加えました

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