[第二十五話]偽装者というアダ名
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2014年7月30日18時一部訂正致しました。
全てがあり得ない光景だった。
封印の遺跡を消し飛ばせる程の極大の光を放ったウォシュムガルム。
その光を相殺するも消滅してしまったグラビティ。
そして蒼い空間のようなモノに囚われた蓮。
瑠花の目にはそんな光景が映っていた。
自分が情けない。あの蓮だって必死に戦って……自分達をを救ってくれたのに。
グラビティも…命懸けであの光を相殺してくれたのに……。
何が勇者だろう。ただ見ていることしか出来ていないではないか。
周りを見ても誰もが茫然自失とした表情で空を見上げていた。
「和正君!!私も飛ばしてよぉ!!
蓮君を…蓮君を助けないと!!だから…!」
自分の声が何処か遠くから聞こえる。
和正君の服を掴んで頼んでも彼は首を横に振った。
ヒカル君の方を見た。理由は彼ならばなんとかしてくれるかもしれないと思ったから。
しかし帰ってきた返事は
「もう…無理だ…。彼は助からない…」
その声は瑠花を絶望に落とすのに十分だった。
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気が付いたらベッドの上だった。
恐らく倒れてしまったのだろう。
瑠花はゆっくりと身体を起こした。
「私………」
瑠花は呟いた。
しかし帰ってくる返事は無い。
天井を見上げて見ても何時も起きる時に見ていたシャンデリアと天井しか見えない。
「蓮…君…」
瑠花はポツリと呟いた。
そして思い出す。
彼が……ウォシュムガルムが創り出した蒼い空間に囚われて消えたことを。
グラビティが…命を散らしたことを。
「あ……ぁ…ぁ……いや……いやだ…」
脳内でクリアな映像のように自分の目の前で起こった事が流れ始める。
極大の光に飲み込まれる消えたグラビティと蒼い空間に囚われたウォシュムガルムと共に消滅した蓮。
瑠花の目からポタポタと涙がこぼれた。
夢であって欲しい。そう願った。
するとーーー。
「瑠花……?」
扉の方から声が聞こえた。
見知った…紫苑の声だった。
扉を開けたまま驚いたように口を開けている。
「し…うぇ…紫苑…ちゃん?」
「瑠花……瑠花ぁぁぁぁ!!」
紫苑がハッと我に返ったようにビクッと身体を震わせた後に紫苑は瑠花に抱き付いた。そして涙を零す。
「良かった…良かったよぉ……。
蓮達に加えて…瑠花まで死んでたら…私……私……」
「………ッ…!!」
その言葉が瑠花にとっては決定的だった。
死んだ……?蓮君とグラビティ君が…?
本当に…?死んだ……?
死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?
「ぁ………ぁぁ……ぁぁぁぁああ!!」
疑問の声が頭の中をグルグルと駆け巡った。そして瑠花は頭を押さえながら叫びだす。
「瑠花?瑠花ぁぁぁぁ!!」
瑠花の変化に紫苑が混乱する。
しかし、なんとかしなければと思ったのか肩を揺さぶって声を掛けた。
「瑠花!瑠花!しっかりして!」
紫苑の声が遠く聞こえる。
嘘…という気持ちと絶望の気持ちが瑠花の心を占めていた。
「あぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
脳内で二人が消滅し瞬間の映像が何度も流れる。画面が次々と変わり目の前がチカチカと光がはしる。
そして瑠花が倒れこんだ。
元々十五年間戦いや死などとは無縁の生活を送っていたのである。
力を得たはずなのに。目の前で何も出来ず二人を見殺しにしてしまった。
当然そんな出来事に精神が耐えられるわけがない。
そして紫苑も精神的に多大なダメージを受けていたのだろう。
そのまま瑠花の横で倒れこむのように意識を落とした。
そして二人は深い眠りに落ちた。
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【エターナル城、会議場所】
そこではこれからを左右するような重要な会議が行われていた。
集まっているメンバーもウォルレアンス王。ブライアス兵士長。エターナル王国の賢者であるファモウス。
他には大勇者たる大神 光。エターナル王国の文官達。
そして陰謀の魔女と呼ばれているディフレアといった錚々たるメンバーであった。
「ではまず今回の件について述べさせて貰おう」
ウォルレアンス王が口を開いた。
会議場所の空気が変わる。
会議場所に集まっている人々が皆真剣な表情を浮かべていた。
そんな重苦しい雰囲気の中、ウォルレアンス王が再びゆっくりと口を開いた。
「……結論から述べさせて貰おう。
ウォシュムガルムの封印が解けた」
その言葉に会議場が騒然となる。
「なんだと!?ウォシュムガルムが!?
どういうことだ!!」
立ち上がり声を張り上げたのはエターナル王国の賢者。ファモウスだ。
賢者の職を継いだばかりの齢30歳のまだまだ若者ではあるが、魔法に関しては彼の右に出るものは彼の師匠以外いない。
しかし、それ故に自信過剰で怒りっぽく他人の失敗を許せない性格だ。その分自分へのハードルも高いのだが。
「言葉通りじゃ。何故か大勇者が蒼天の玉を手に持った時光を放ち、割れた」
ウォルレアンス王が答える。
その言葉に文官達が混乱し始めた。
「何だと!?なら何故こいつを捕縛しない!!」
ファモウスがヒカルを指差し、怒号に近い声を上げる。だが、そこに割って入るように不気味な笑い声を上げるものが居た。
「声を張り上げるな…恐らくじゃが意図的じゃ無かったんじゃろう…。それにこいつは大勇者じゃ。使い道は幾らでもあるんじゃよ…フィッフィッフィ…」
ディフレアである。
ディフレアはこの国の実質ナンバー2だ。歳は不明。長い間を生きた魔女であり…ファモウスの師匠でもある。
しかし見た目は30歳程度に見え、声も若い。故にその笑いは何処か不気味な感覚を生み出している。
その言葉に理解出来ないといったような表情を浮かべるファモウス。
「ですが師匠!意図的だろうがなかろうが関係は無い!!他に封印を解いた真犯人がいたとでも言うのですか!」
「……真犯人か分からんが、この混乱を収められる人物ならおる。」
ファモウスの言葉にウォルレアンス王が頷く。
「誰だそいつは!!見つけ次第殺してーーー」
「それは無理だ…ファモウス。」
ファモウスが過激な発言をした時、ブライアス兵士長が止めた。
「どう言うことだ!!」
「彼は既に死んだ……。確実では無いがな」
怒号を上げるファモウスに対して諭すようにブライアス兵士長が答える。
「「「「なっ…!?」」」」
その言葉に再び会議場が騒然となった。
「その言葉が本当だとして…。復活したのは本当にウォシュムガルムだったのか!?」
ファモウスが声を張り上げた。
「それは間違い無いだろうねぇ……あそこでの魔力を感じたのはあたしだけだろうがね……フィッフィッフィッ……」
ディフレアが答えた。
するとーーー
「失礼、追加で報告したいことが御座いますがよろしいですか?」
そこにブライアス兵士長が手を挙げた。
ウォルレアンス王が「よかろう」と発言を促す。
「はっ。では詳しく説明させて頂きます」
そこからブライアス兵士長が説明を始めた。
まずヒカルが玉に触れた瞬間、蒼天龍の玉が光出したこと。それを止めるかのように割って入った蓮の事。
そしてウォシュムガルムの封印が解け、殆どの勇者達と王は逃げ出したこと。
自分と何人かの勇者達で交戦し、戦ったこと。
しかし歯が立たず困っていた所で互角に戦い始めたグラビティの存在。
そして消滅。それと蓮も原因不明の空間に巻き込まれ消えたこと。
そこまで説明してファモウスが立ち上がった。
「何なのだその報告は!訳が分からない!」
それも当然だろう。そもそも勇者達の中にウォシュムガルムと互角に戦える勇者がいた段階からしておかしい。
かつてこの国を救ったエターナルですら封印が精一杯の相手だったのだ。それが何故この世界に来たばかりの勇者が一人で戦えたのか。
全く訳が分からない上に非常識だ。
「それにその"無能"もだ!何故復活することに気づいたというのだ!聞く所によると何の力も持っていなかったのだろう!」
蓮もである。彼は全くの無能だったのだ。それが何故ウォシュムガルムと戦い、一瞬でも動きを止めたのか。そして何故復活することに気づいたのか。疑問しかでて来ない。
するとーーー。
「可能性はあるねぇ?例えばフォーチュンスキルさね。そのグラビティとかいう坊やが化け物並みのフォーチュンスキルを持っていたら可能性はある……。
例えば……重力制御とかねぇ…」
ディフレアが答えた。更に彼女は続ける。
「それに無能もだねぇ……。もし、無能の坊やが元の世界にある質量兵器とやらを作っていたらと考えたらどうだい?まぁ可能性でしか無いけどねぇ…フィッフィッフィッ……」
「静まれ……」
ウォルレアンス王が声を上げた。その言葉の真剣さに思わずディフレアも口を噤んだ。
「今回の件…少なからず勇者が二人死んだ。そしてウォシュムガルムの封印が解けた事……非常に由々しき事態である」
そう言ってウォルレアンス王が周りを見る。皆が頷いた。
「確実に、ウォシュムガルムは現れるだろう。そうなれば封印が解けた理由も勇者達と直ぐに気付かれてしまう」
その言葉に三分の一が顔を真っ青にする。
「我が国に住むものもこの度の件を正直に流しては、恐らく大勇者が封印を解いた。という噂などを流し勇者達に協力してくれなくなるだろう」
その言葉にまたもや皆が頷いた。
「よって案を出す。死人を利用させて貰うとしようぞ…」
そこからウォルレアンス王が話し始めたのはこういうことだった。
一言で言うなら、蓮を利用するということである。
どういうことかと言うと勇者達の中に魔族が混ざっていた。
その名は日向 蓮
彼はとある目的があり勇者に混ざっていたのである。
その目的とは、蒼天龍ウォシュムガルムの復活。
かつてこの地を襲った災厄をまたこの世に出すことだったのである。
そしてウォシュムガルムが復活した。
しかし大勇者がその龍に手傷を負わせ、その元凶である魔族を殺した。
その際、仲間の一人が大勇者を庇った事により死んでしまった。
大勇者は死んだ仲間を丁重に弔い、魔族を滅ぼす事を宣言した。
大まかに言えばこんな風な噂を流すことであった。
グラビティがその役でも良かったのだが、万が一生きている場合、無能である蓮よりもグラビティを取り込む事が出来た方が戦力的には確実に上がるからという理由だ。
「ウォルレアンス王!それは…っ!!」
「そうです!それは…っ!」
しかしヒカルはそれを止めようとした。
仮に死んでしまったとしても仲間をそんな風には扱いたくないと。
しかしーーーーー。
「死人に口無し。死んだのだから最後まで利用させて貰おう。なに、"無能"な奴が国に貢献出来てさぞ嬉しい事じゃろう。ワッハッハ!!」
そう言ってウォルレアンス王が笑った。
「でも…!」
ヒカルが再度反論しようと口を開いたとき、それを封じるかのようにディフレアが口を開いた。
「良いかい?坊や。別にこっちはあんたが封印を解いたと言って勇者全員を殺したって構わないんだよ?死んだ可能性のある奴と残りの勇者全員…あんたはどちらを取るんだい…?フィッフィッフィッ……」
その言葉にヒカルは下を向いて口を噤む。実際正論ではある。このまま普通に噂を流したら自分達の居場所は無く、帰る手段も完全に無くなってしまうだろう。自分を含めた残った九十八人を取るか。死んだ可能性もある蓮を取るか。
答えは明白であった。
よって彼は口を噤むしか出来なかった。
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その日の翌日。エターナル王国ではこのような噂が国中を駆け巡った。
ヒナタ レンという魔族がウォシュムガルムを復活させたが、魔族は大勇者が仕留めたと。しかしウォシュムガルムは未だ健在だということを。
その噂は大陸を超え、様々な大陸へと伝わって行く。
それと同時に、ヒナタ レンはこのようなアダ名が付けられた。
偽装者と。
なんか最近案が思い浮かばないというよりも今回は難産でした。
描写が難しいです……。
ではまた次回お会いしましょう
2014年10月19日。修正を加えました