[第二十一話]悩みと決断の時
いつの間にかランキングに載っていました。
こ…こんな作品がランキングに載って良いのだろうか……(汗)
しかし、とても嬉しかったです!
ありがとうございます!!
【エターナル城会議室】
そこでは百人いる勇者の全員。そしてウォルレアンス王やその他何人かの重役達が集まっていた。
そしてヒカルが真っ先に疑問の声を上げる。
「ウォシュムガルムが封印された遺跡ですか?」
「そうだ。千年前、我がご先祖様が封印した次元龍が眠る祭壇じゃな。ここは、今では魔族との戦いの前に戦勝祈願としても使っておる。ご先祖様のご加護がありますようにとな」
現在はチンピラに絡まれたあの休日の翌日。
あの後は特に絡まれることも無く楽しく過ごすことが出来た。
…戻った時に瑠花と紫苑が心配した様子で慌てて駆け寄って来てくれた時かなり嬉しかったのは内緒だ。
そして、手榴弾を使ったがエターナル王国には報告が上がった様子は無く、勇者がチンピラを倒した〜なんて報告も無かった。
まぁ、これは逆に良かったのでは無いだろうか?無駄に報告されて誰がやったかなんて調べられて、俺だってバレた場合、着の身着のまま放り投げられる可能性もあっただろうから。
……今から思えば頭に血が上ったとは言え、軽率な行動をしたものである。
そして現在。
勇者達が迷宮を攻略したことを知り、いよいよ魔族との戦いに勇者達も参戦させようという話がエターナル王国の重役会議で固まったらしい。
それで、まずは戦勝祈願の為にかつてこの地を襲ったウォシュムガルムが封印されている遺跡へと赴こうではないか。という訳だ。
ちなみに先程も言ったがここには全ての勇者が集まっている。各々、「やっと本番か」や、「少し不安だけど練習通りやれば」と声をあげている。
……戦争に身を投じるのになんでそんなに元気なのか良くわからない。
蓮としては気分はだだ下がりである。
というよりも逃げ出したいのが本音だ。
にしても、ウォシュムガルムか……。
確かこの世界に来た日にチャールズさんから聞いたような覚えがある。
確か昔。エターナル王国が王国では無く、ただのリデアルという街であった時。
エターナル・ドラストという男が領主をしていて、魔族と人間族が激しく争っている中、リデアルの街はとても平和だったそうだ。
そしてその彼自身も高名な冒険者で、その政治はとても立派なモノであったらしい。
しかしその平和なリデアルの街をかつてない災厄が襲った。
次元を操る龍と呼ばれているウォシュムガルム。その龍がリデアルの街を襲ったのだ。
当然、次元を操ると呼ばれていたウォシュムガルムの力は強大だった。しかし、この街を守る為にリデアルの街の領主であったエターナル・ドラストとその仲間達は立ち上がり、蒼天龍ウォシュムガルムと激しい戦いを繰り広げたそうだ。
一人、また一人とエターナルの仲間達は倒れて行った。次々と倒されて行く仲間達を前に、エターナル・ドラストはあることを決断した。
自分の命と引き換えにウォシュムガルムを封印することを。
そして彼は自分の命と引き換えにウォシュムガルムを封印したのである。
そしてその後エターナル・ドラストの息子であるラーシャル・ドラストがそこに国を建てた。その国の名はエターナル王国。命を投げうって街を守った自分の父であり、英雄であった男の名を付けたのである。
そしてそのエターナル王国は今まで続いている〜って話だった筈だ。
「まぁその祭壇。次元龍の眠りし祭壇なのじゃが。そこへ向かおうと思ってな。
勇者様方には、二週間後くらいに本格的に戦いに身を投じてもらう予定じゃ。」
ウォルレアンス王がホッホッホと言いながら答える。と言うか「頼むぞ」とかじゃなく何故笑っているのだろうか?
勇者達が命懸けで魔族を滅ぼしていくのを高見の見物でも…とでも思っているのだろうか?
…だとしても二週間後にもう戦争に参加させられる事になる。それはかなり辛い。
どうすれば良いのだろうか?生き残る映像が浮かばない。
「分かりました。皆!後二週間したら本当の戦いが始まる!僕は誰一人欠ける事無く絶対に勝つつもりだ!だからまずは戦勝祈願をしよう。大丈夫!きっとウォルレアンス王のご先祖様も見守ってくれる!僕らがこの世界を救うんだ!」
例によってヒカルが演説を始めだした。……
…その様子が酷く滑稽に思えてくる。
確かに強いし正義の心も持っているが、
何処かズレていて、なまじ強い分たちが悪い。
蓮自身としては、あの迷宮で殺されかかった時からヒカルは信用していなかった。
…なんとなく。ヒカルには裏がある。そんな風に感じていた。
それに、一度人を殺しかかったにも関わらず、一度謝った後に普通に話しかけてくるのにも少しおかしいと思った。……少しは話しづらくなったりするもじゃないのだろうか?
そして一人も欠ける事無くとか言っているが、戦争で誰も死なずに勝つなんてあり得ない。例えどれだけ強くても少なからず死人は出る。
元々、この戦争に巻き込まれると分かった時点で蓮は死を覚悟した。本当なら断って、何処か安全な所で暮らすのが1番なのだろうが、その時点ではそう言った伝がなく、今では裏切れないような状況をウォルレアンス王が作り出している。
「出発は明日じゃ。明日、戦勝祈願を行う。では、これにて解散。」
ウォルレアンス王の言葉で会議が終わった。勇者達がそれぞれ謁見の間から出て行く。
留まっていても仕方が無いので俺も謁見の間から出た。
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現在は夜だ。
電気が無いからか蓮達の世界では見れないような幻想的な空間を空が創りあげていて、無数の星がキラキラと瞬いている。
そんな中、蓮はエターナル城の三階にある大きなベランダで外の風を浴びていた。
…この世界の空気は元の世界と比べて信じられない程澄んでいて、そして綺麗だ。
ヒュォォオという風が蓮の頬を撫でる。
髪の毛が少し風に沿って揺れ、通っていった。そして蓮は静かに口を開いた。
「明日…戦勝祈願をやってから二週間後に戦争か……」
自分が思ったよりもとてもか細い声だった。
だがそうなってしまうのも無理はなかった。
何故ならそうなれば最初に死ぬのは間違いなく自分だからだ。
…自分には力が無いから。
最初から全員が元の世界に帰れるとは思っていなかった。
必ず犠牲は出る。勇者達も…この国の兵士達も。絶対に被害は出る。
蓮の目標は戦争に参加することではなく、生きて帰ることがこの世界での最終目標だ。
寧ろ、無駄に命を散らすような真似はしたく無いと考えている。
(戦争中に死んだように見せかけて逃げるのが…一番か…?)
逃げるという案。確かに、この案は、危険があるものの"生き延びる"という点では最も良い選択だろう。
しかし、この手はあまり積極には取りたく無い。
(でも……瑠花が…な……。あいつをおいて自分だけ逃げたくは無い)
瑠花は小さい頃からの付き合いだ。幼稚園。小学校。中学校。ずっと同じだった。
自分にとって今現在一番大切な人だ。
蓮は悩んでいた。どうすれば良いのか。自分はどの未来を選択すれば良いのか。
どの選択をした所で絶対に何処かで後悔する。
そんな中で自分はどうすれば良いのだ…と。
するとーーー。
コツっという音がベランダの手すりから聞こえた。蓮がそちらを向くとそこにはーーー。
「よォ…しけた面してんじゃねェか」
手すりの上にグラビティが立っていた。
ポケットに手を突っ込んだまま面倒臭そうな表情を浮かべている。
「……グラビティか…」
その姿を見た蓮は特に危険だとか注意することなく呟いた。
「隣。邪魔するぜェ」
そう言ってグラビティが許可を貰う前に蓮の横にスタっと音を立てて降りた。
そしてポケットから手を出して手すりの上に載せる。
そして暫く二人は何も喋らず無言のまま。ただ、手すりの上に手を載せてボーッとしていた。
そうして、十分程が経過した時であっただろうか?蓮は唐突に口を開いた。
「なぁ……」
「………あァ…?」
呟いた後に蓮がそのままのポーズでグラビティの方を向いた。
グラビティはどうでも良さそうに星を見つめているが、目だけは真剣な表情を浮かべていた。
自分と同じステータスしか無く、俺と違う点は能力の有無だけの男。ヒカルとは違い、不真面目で自分がやりたい事しかやらない男だが、物事の本質を見極める力を持っている少年。
少なからず、蓮は彼の事を"友達"だと思っていた。そして内心不安になっていたこともあったからだろうか?
「俺…どうすれば良いのかな…?」
蓮は、自分の本心を初めて口にした。
この世界では、相手を普通に騙す演技と話術。そして弱みを握られない技術が必要だ。
その世界で、本音を言う。
本当に信頼している相手か、自分の心が揺らいでいる時につい言ってしまう。
この場合蓮は後者であった。
「戦争…。ハッキリ言って生き残れるとは思えない…。でも俺は死にたくないし元の世界に戻りたい。だけど、瑠花達を放っておきたくもない…」
そう言って蓮は俯いた。片方は捨てなくてはならない。自分が帰る道を探り、瑠花達を捨てる道か。もしくは瑠花達と一緒に戦う道か。
蓮はどちらも選べなかった。
出来るならば、瑠花達とも平和に過ごせて元の世界に帰る。
その最高の未来を選びたかった。
だが、一緒に戦ったとしても現在の自分の待遇を考えるといずれ居場所が無くなるのも時間の問題だった。
戦えない勇者はいらない。
その一言で蓮は城を追い出される。
例え兵器を開発してもその製法を奪われたら蓮は用済みだ。
火薬を使った質量兵器の作り方。
それ一つが分かっただけでこの世界は一気に発展する。
重火器が作られるだろうし、勇者達も大砲などを提案するだろう。
要するに自分に力が無い時点で詰んでいるのだ。
「分かってるんだよ…。ヴァーサタイルカードを見て自分に力が無いと分かった時点で」
蓮は弱音を吐いた。普段の蓮からは考えられない事である。普段の蓮は本音を隠し、出来るだけ言質を取られたりしないよう行動し、警戒をしている。
しかし、今の蓮はただ弱音を吐いていた。
「どうすれば良いんだよ…。
どっちの道を選んでも死ぬ可能性はある。だが、片方はほぼ百%死ぬ道と。もう片方は死ぬ確率は下がるけど守りたいモノを見捨てる選択……。どっちも選びたくなんか無いんだよ…」
そう言って蓮は空を見上げた。
空にはただ、大きな月と無数の星が瞬いている。
ベランダからはエターナル王国の城下町も見える。
するとずっと黙っていたグラビティが口を開いた。
「なァ……彼処に飛んでいる鳥が見えるかァ?」
そう言ったグラビティの視線の先を見ると、一羽の鳥が空をすいーっと飛んでいた。
悩みなんか無くこの月明かりが照らす大空の下を自由に。
「自由だろォ?あいつらはこの空を自由に飛んでる。」
そう言ってグラビティが少しだけ表情を柔らかくした。しかしその視線は飛んでいる鳥をしっかりと見据えていた。
「てめェは自分で選択肢を狭めてんだよ。選択肢ってのは二択なんかじゃねェんだ。それこそ無数にある」
グラビティが鳥から目を離して蓮を見た。
「が、俺が言えんのは一つだなァ。
一言で言うなら、"好きにしろ"って事だァ。」
グラビティの表情は真剣でいて。そして蓮を試すかのような目つきを浮かべている。
「好き…に…しろ……?」
「そォだ……。俺が何言った所で最後はてめェが決める事だからなァ」
蓮の小さな呟きにグラビティが答える。
好きにしろ……か。だけど…どんな未来を選んだ所で後悔する…。
だからーーー。
「だけど……俺は…」
蓮は再び俯いた。その様子を見たグラビティが「チッ」と舌打ちする。
そしてため息をつき、蓮に触れた。
「一旦考えるのをやめて脳をリラックスさせろ。良い加減ウジウジする姿見てて腹が立ってきたんでなァ…」
そう言ってグラビティが手すりの上に登って立ち上がる。
すると蓮も浮かび上がり手すりの上に立たされた。
「っ!…能力……?」
少し驚いた。一瞬身体がフっと、宙に浮かびいつの間にか手すりの上に登っていたのだから。
「本来ならこんな事はしねェが、
一度てめェには助けられたんでなァ。
その分だけキッチリ返してやるよ」
そう言ってグラビティが手すりから下。つまり空中を見た。
次の瞬間!!
「行くぜェ」
飛び降りた。蓮も一緒に落ちていく。
ビュオオオッ!と強い風が顔に当たった。
「!?あぁぁぁぁあああ!!」
そのグラビティの突然の行動に蓮は悲鳴に近い叫び声を上げる。
ドンドン地面が近付いていき、思わず蓮は目を閉じた。
しかしーーー。
いつまで立っても地面にぶつかる感覚は無い。寧ろ浮かび上がって行く感覚を蓮は感じていた。
「……っ…!!?」
その感覚にゆっくりと蓮は目を開ける。
そして目の前に広がっていたのはーーー。
「う…浮いてる……」
そう。浮いていた。空にである。
そう言っている間にもドンドン浮かび上がり地面が遠ざかって行く。
エターナル王国が眼下に見えた。そのあり得ない状況に蓮は驚きを隠しきれない。
「空の旅は如何ですかってなァ。自由に飛ばせて貰うぜェ」
その様子を見たグラビティが楽しそうに言った。
その次の瞬間には、空を自由に飛んでいた。横に。縦に。斜めに。
時にクルクル回ったり、自由落下したり。
心地良い風が頬を撫で身体を撫でる。
今まで感じた事の無い感覚であった。
今まで悩んでいたことが馬鹿みたいに感じられるーーそんな感覚。
ただひたすらに楽しかった。
そしてただひたすらに気持ち良かった。
この世界の空はとても大きくてーー。
そしてこの世界を包み込んでいる。
そんな不思議な気持ちになった。
そして空を飛びながら蓮は理解した。
先程のグラビティの言葉。
「好きにしろォ」の意味が。
(そうか……。俺は守りたかったんだ。)
空を飛んで気付いた。グラビティが言ったのは、自分が一番何をしたいのか?と言うこと。
(俺は…守りたかっただけだったんだーー)
自分を。瑠花を。
自分が守りたかったものの全てを。
そして暫くの間。二人は飛び続けたのであった。
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あれから何分経ったのだろう?
分からない。だが、とても長くて楽しかった事は覚えていた。
未だ、空は暗く星が瞬いている。
その月明かりに照らされながら二人はベランダに降り立った。
そして降りた後に暫く時間が経過してからグラビティが尋ねるかのように言葉を紡いだ。
「……理解したか?」
たった一言。だが、その一言で充分であった。
「あぁ」
その日の夜空には立派な満月と無数の星が瞬いていた。
今回はちょっと本音を言わせてみました。
……やばい。グラビティのキャラがわからない。
一匹狼なのか、良い奴なのか。
それとも容赦ない奴なのか。
キャラが固まらないな……。
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ポチッとして頂くとブックマーク数が増えるそうです。気が向いたらお願いします。
それと、感想や批判などありましたらそちらもよろしくお願いします。
2014年10月19日。修正を加えました




