[第十八話]ボス戦
ボス部屋ーー。
この言葉を聞くと何を思い浮かべるだろうか?ゲーム?レアアイテム?強い敵?力試し?
何にせよ大体の人は嬉々としながら攻略しようとするだろう。だが、彼は違った。
(俺……。生きて帰れるのかな……)
絶望に近い感情。一度でも攻撃を食らったら死ぬのでは無いかという不安。
どう考えても良い感情では無かった。
「蓮…大丈夫?」
紫苑が不安そうな顔つきで尋ねてくる。
「あ…あぁ、大丈夫大丈夫。何の問題も無い」
少し棒読みになりながらも答える。
だが、あまり不安にさせるわけにはいかないだろう。頑張って生き残るしか無いのだ。
「蓮君…大丈夫だよ!もし怪我しても私が回復させるから!」
瑠花が「安心して」と言いたげな表情で言った。その笑顔に向かって、うんありがとう。だけどね、一撃で死んだら回復も何も無いんだよ。とは言うことが出来なかった。
「あぁ…ありがとう。頼む」
せめて精一杯の強がりで笑みを浮かべてそう答える。
ともかく、足手まといになるわけにはいかない。弱いなりに精一杯戦わないと…。
蓮は心の中でそう結論付けた。
するとーーー。
「よし、じゃあいよいよ迷宮を攻略する。一応、さっき罠が無いかは調べたから大丈夫だ。」
ヒカルが声を上げた。
蓮も含めて皆がヒカルの方を見る。
「前衛は、僕と和正君。それから隙を見て蓮君も頼む」
「分かった」
ヒカルの言葉に和正が肯定する。
蓮はコクンと頷いた。
「後衛は瑠花さん、紫苑さん、心優さん頼む」
「うん!」
「「分かった」」
此方も三谷が「うん」と頷き、瑠花と紫苑が肯定した。
すると、ヒカルが真剣な表情に変わる。
「最後に一つだけ……。誰も死なずに勝つぞ!」
「「「「「えぇ(あぁ)!!」」」」」
ヒカルの言葉に蓮以外の皆が声を上げた。雰囲気もかなり良くなっている。
これもヒカルのカリスマ性というやつなのだろう。
そして蓮達、最強勇者パーティ(蓮除く)は、ボス部屋へと足を踏み入れたのであった。
ボス部屋に足を踏み入れた蓮達は油断無く辺りを見渡していた。
しかしーーー。
「あれ…ボスがいねぇな……」
和正が呟いた。そう、ボスの姿が見えなかった。まるでもぬけの空である。
いや正しくはいたのだが、気付いていなかったと言うのが正しいだろう。
しかしいなかったということに勇者達の殆どは安堵した。安堵してしまった。
そして次の瞬間!!
「横に避けろ!!」
ヒカルの声が響いた。皆が咄嗟にその指示に従い転がる。
するとズシァーン!という音を立てながら何かが降ってきた。それとともに土煙が上がる。
「「「きゃあ!!」」」
女子陣が悲鳴を上げる。
しかし、蓮は油断無く剣を構えていた。
(ゲームだと、ボスが天井に張り付いているのは意外とテンプレだからな…。
それに、油断したら死ぬし)
こんな事を考えていたのだが。
しかし、目の前に降ってきた何か。
恐らく、ボスで間違いは無いだろう。
まだ土煙が晴れていないので姿は大まかにしか分からないが、大きさは約2m。
かなり大きな巨体だ。
「構えろ!!」
ヒカルが叫ぶ。それを言う彼は既に油断無く剣を向けていた。
それとともに土煙が晴れる。
そして目の前に居たのはーーー
「か…亀!?」
「お…大きい……」
高さが2m。幅は4mくらいの巨体。
そして亀らしからぬ牙と爪。台のような足には30センチ程もありそうな爪が3本ついていた。そして顔は凶悪な顔つきで此方も30センチ程の牙が2本生えている。
…一体どうやって天井に張り付いていたのだろうか…?
「あれは大地亀だ!
迷宮には、最終層に必ずボスがいる!
あいつを倒せばここは攻略だ!」
ブライアス兵士長が告げた。その言葉に皆が「なるほど」と合点が言ったように頷く。そして次の瞬間ーーー。
「光魔装」
ヒカルが自分を強化する魔法を唱えた。それと同時にヒカルの周りに白い…気のような光が生み出される。
「天下無双!」
和正もだ。彼の場合は空気がピリピリとしたものに変化する。そして持っていた槍が剣に変わり、形が鋭くなった。
恐らく身体強化魔法だろうか?
「グルルルルッ!!」
亀が吠えた。そして甲羅が大量に剥がれて宙に浮かび上がる。次の瞬間。
「グルルァァァ!!」
「いけ!」と言ったのかは分からないが、甲羅の一枚一枚が弾幕のように飛ぶ。
「うおっ!!」
蓮はそれを迷わず回避した。防げるか分からなかったし、防げたとしても動きが止まるからだ。
しかしヒカルと和正は違った。
「光覇閃!!」
「爆真斬!!」
ヒカルのウィリアスソードが煌めく。
視認する事すら困難な光の一閃だ。
そして次の瞬間には甲羅が爆散する。
一方、和正は力任せな斬撃だ。
しかし威力は高く甲羅に斬撃が当たった瞬間爆発した。
「魔法を頼む!!」
ヒカル君が甲羅を剣で受け止めながら声を張った。
「分かったわ!!多重弾幕!!」
その声に呼応して三谷が無属性の弾幕を大量に生成し照射する魔法を使った。
これは何の追加効果の無い、ただ魔力を弾幕に変換して放つだけの技だ。
しかし、彼女の魔力は一線を画している。通常の魔法使いよりも桁違いに多いのである。
そして、彼女のフォーチュンスキル。
【月夜の大魔女】。
魔法使いの全能力を上げ、全魔法への耐性と適正。そしてオリジナル魔法の開発まで可能らしい。ただ、オリジナル魔法の場合は作るのに凄まじい魔力を使うらしいが。
「グ…ルァァァァァ!!」
多重弾幕が大地亀に命中した。多少ダメージになったらしく大きく仰け反る。
「光線弓!!」
「水弾幕!」
そこを好機と見たのか瑠花と紫苑が一気に光の光線と水で出来た弾幕を照射する。降り注ぐ光と水の渦が大地亀に容赦無く降りかかる。
「グゴァァァァ!!」
悲鳴のような声を上げる大地亀。それを見た蓮も走った。
「ハッ!!」
持っていた剣を大地亀に振り下ろす。渾身の振り下ろしである。
しかしーーー。
ガィィン!!と大地亀の背中に蓮の攻撃が弾かれた。
腕力が足りなかった…いや、ステータスの問題だろう。
しかし注意は蓮に向かったようで、大地亀がギロリと蓮に向かって目を向けた。
その隙を付きーーー。
「今だ!魔光砲!!」
ヒカルが手を前に向けて魔力を収縮する。段々とエネルギーが凝縮され白……よく分からないが白に近い色の弾幕が出来た。
そしてそこから凝縮したエネルギーをーーー
(あれ…?ここにいたら俺、死ぬんじゃね?)
ヒカルの行動を見て蓮は思った。
あの魔力の凝縮具合。明らかに自分も巻き込むレベルだと思う。
そしてそれに気付いた瞬間!!
「ってうっわぁぁぁぁ!!」
大地亀に後ろから突き飛ばされた。ドッ!!という音が響いたと共に蓮の身体には激痛が走った。
(がっ……あ…!!)
肺から一瞬で空気が抜ける。
身体に衝撃が走った。
そして地面に落ちた感覚。
恐らく壁に叩きつけられて地面に落ちたのだろう。
薄れゆく意識の中で蓮が結論付ける。
そして、意識が暗闇に沈んで行く中、視界の端で光の渦が大地亀を飲み込んで行くのを蓮は見た。
(な…んで…俺を巻き込もう……と)
その疑問を内心抱えつつも、蓮の意識は急速に薄くなっていき…そして完全に意識は暗闇に落ちていったのだった。
とりあえず迷宮攻略回ですね。
ステータスやフォーチュンスキル。
そしてスキルの差が出た話でした。
これで、一応迷宮は攻略完了です。
それと、感想や批判などありましたらよろしくお願いします。
2014年10月19日。修正を加えました




