[第十六話]迷宮
「迷宮ですか?」
「はい、ファニス地方の方らしいです」
あのオーバーキル過ぎる初陣から3日。
あの日素晴らしい戦功を上げた勇者達に王様もホクホク顏だった。
当然、その日には盛大なパーティが開かれ勇者達に「この調子でいけば魔族などすぐに倒せますな」と、ウォルレアンス王が言ったためにますます勇者達には期待が掛けられるようになった。
そう言えば戦いの時にグラビティの姿が見えなかったので聞いてみたら「あんなもの行かなくても同じだクソッタレ」と返事をしてきたので恐らく面倒だったので参加しなかったのだろう。
そして現在。蓮が何時ものように手榴弾作りをしていると、ザフィードさんがやって来て"簡易迷宮"というモノがあると教わっていた。
「簡易って事はやっぱり簡単な迷宮って事ですよね。所謂、初心者用の」
「はい。ウォルレアンス王が明日、その迷宮に勇者方に向かって欲しいと」
ザフィードさんが頷く。
思わず溜息をつきそうになった。
…戦闘訓練に参加できて来ない自分では恐らくただのお荷物だろう。
…アレを抜けば…だが。
どちらにせよボッチであるのは間違い無い。
ちなみにアレ…手榴弾の現在の手持ちは4個程度である。威力は約5m級の岩を粉々にする程度だ。およそ、中級魔法程度だろうか?
まぁともかく、周りに人がいないことを前提条件として使用する必要があるので結構使い時が限られる。
「でも、俺はパーティ相手がいないんですが?」
「えっとですね。瑠花様方からパーティに誘いが来ております」
蓮がパーティを組む相手がいないことを告げると、ザフィードさんがかなり驚きの言葉を告げた。
瑠花のパーティか……。入れてくれるのはありがたいのだが。
ヒカル君とかもいる、勇者達の中じゃ最強パーティ…。
自分が入っても邪魔にしかならなそうだし、周りからの評価が「どうしてあんな雑魚をパーティに入れたんだろ?あぁ、ヒカル君が、弱い蓮の為に入れてあげたんだ。優しいね。それに比べて蓮は〜」
みたいな事になりそうで怖い。
ちなみに、最近の蓮はもっぱら手榴弾製作とこの世界についての知識を得ることしかしていない。
一応毎日身体は鍛えているし、筋肉がついてきた感覚もするがステータスは変わらず。やはりレベル上げをしないといけないのだろう。
「分かりました。じゃあ明日の朝に王の間に向かいます」
「はい、頑張ってくださいね」
とにかく蓮は返事をして作業に戻る。
そして手榴弾を作りながらも先程の言葉について考えていた。
(普通に考えれば大勇者がいるパーティだと俺が……いや、どのパーティでもだけど俺は足手まといになる。
だから周りからかなり叩かれそうな気もするがあのヒカル君だ。
きっと、俺みたいな"無能"でも戦わせて、一定のラインみたいなのを超えないともっと頑張れだとか、なんで出来ないなど言って来るはず。ヒカル君は、人は良いし正義感の強い人間だが、その分人に対するハードルが高いからな…。)
そこまで考えながらも筒の中に火薬を詰めて少し押しこむ。これを必要以上に押し込むととんでもないことになるので注意が必要だ。
(だけど、あいつらが"優しさ"とか"温情"で俺を誘ってくれているのも分かる。
それに現実問題、瑠花達のところ以外俺をパーティに入れても良いなんて場所は無い。なら選びようも無い…か?)
そう考えながら手榴弾に導火線を貼り付けた。
「よし、完成。問題無く使用出来るはずだ」
5つ目の手榴弾が完成した。
これは威力を狭める代わりに破壊力は上がっている。一応前回一度同じモノで実験した所、10m級の岩の真ん中がポッカリと穴が空いたような状態になった。
つまり、1部分の破壊に特化した手榴弾である。範囲が狭いので安全でもある。
「…とりあえず手榴弾はこれで良い。
自分の鍛錬か…」
しかし、手榴弾だけで戦えると思っているほど蓮も馬鹿じゃ無い。
そもそも、強大な敵であればそこに辿り着く自分自身の力が無いといけないからだ。だから結局は自分自身のレベルも上げなくてはならない。
一応、蓮みたいな無能でもレベルさえ上げれば多少は強くなれる。だからこそレベル上げはこれから先必須になるだろう。
「よし…訓練場の端を使おう」
未だ、訓練自体は参加させて貰えてない。というよりも、待遇も前よりは良いもののまだまだ悪いと言うしかない。
かなり精神的には辛く、逃げ出したいが蓮は、手榴弾という唯一のチカラを持ちなんとかその気持ちを抑えているのである。
(まぁ…痩せ我慢だからそのうち限界はきそうだし、嫌でもあるけど。瑠花とか紫苑みたいな奴もいるからな…。だからやれることはやらないと)
そして、蓮は残りの時間を全て自己鍛錬に当てたのである。
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【ファニス地方辺境】
ファニス地方は、分かりやすく言うならばそこそこ発展している街が多く存在している地方だ。
描写してはいなかったが移動は転移術式を使っている。
転移術式とは、良くRPGで言うワープポイントの事だ。
地面に魔法の術式が描かれ、青い光が現れる。その術式の上に乗れば転移する。
しかし、その術式を使うには一度その場所に行くことが必要不可欠であり、行ったことが無い場所には例外を除いてワープ出来ない。
そして、現在勇者達がいる。ファニス地方の「ギラグラード」では、沢山の家や店が立ち並んでいた。
見た感じはまんまRPGとかに出てきそうな家や店が多い。
そしてそれだけでは無い。
街を行き交う人々。その中には、勇者達を興味深そうに見つめるものなどが居たが、それよりもーーー。
「あれがエルフですか?」
「あぁ、そうだ」
エルフや獣人などの人間とは異なる知的生命体の存在。本来であれば、元の世界だとVRMMOでしか見られない存在(それも偽物)が此方の世界では本物が見れるのである。当然、勇者達の興味もそう言った人間と似た生物や、ファンタジーの世界の生き物に移る。
まぁ蓮もその1人であったが。
「それよりも簡易迷宮はどうなるのですか?」
ヒカル君がブライアス兵士長に尋ねた。
ちなみに今回は100人で行動するのでは無くパーティ単位で行動し、そのパーティ一つ一つに一人ずつ熟練の兵士が着くという形を取っていた。
パーティは、1パーティにつき6人。
蓮のパーティは、ヒカル君。瑠花。紫苑。蓮と、後は戦闘特化の和正君と魔法特化の三谷さんだ。
和正と三谷の二人とは接点が無いが、どうやら和正はヒカル君の親友らしく、三谷はヒカル君に惚れているらしい。ヒカル君に抱き付いている姿を良く見る。
「っていうかヒカル君。良いの?レンを入れても」
三谷 心優がヒカルに尋ねた。その手はヒカルの腕に絡ませている。その顔は嬉しそうながらも蓮が入ったことにより少し迷惑そうな表情を浮かべている。
彼女は、炎、闇、光魔法とフォーチュンスキル持ちだ。フォーチュンスキルが何か分からないが月夜の魔女とか言われていた気がする。
「良いんだよ。危なくなったら俺達がフォローすれば良い」
「ははっ、ヒカルはやっぱ優しいな」
ヒカル君が当然と言ったように答える。
その様子に宮本 和正が笑いながら言った。
和正はありとあらゆる武器に適性を持ち、それぞれのスキルを持っている。
そしてフォーチュンスキルも戦闘特化らしく、無双の武人などと呼ばれていた。
まぁその中2ネームはともかく蓮としては能力が羨ましいの一言である。
グラビティの例を考えると、ステータスが低かったとしても、スキルが無かったとしても、フォーチュンスキル(能力)さえ強ければ勇者達の中で強い存在になれるのだから。
するとーーー。
「あれが、目的の迷宮だ」
ブライアス兵士長がそう言って一つの神殿のような建物を指差した。
蓮達がその声にそちらを向くと、そこにはーーー。
「パルテノン神殿……?じゃ無いよな」
思わずその建物を見て呟いた。
まぁそれも仕方が無いだろう。なにせ、その建物がギリシャのパルテノン神殿ソックリなのだから。
「あれは、パルテラス迷宮だ。
新しく登録したばかりの冒険者達や、新米の兵士達が腕試しをする迷宮。
当然、中にはモンスターがいるが、
勇者達なら問題は無いだろう。
とにかく、パーティごとに別れろ。
1パーティずつ入ってもらう」
ブライアス兵士長が言った。
にしても……パルテラス迷宮ねぇ……。
どうやら見た所地下に繋がっているようだが。…ってこれは?
「この台ってなんだ…?」
その時、蓮は不自然に置いてある台を見つけた。色は黒色の、変な水面のようなモノが浮かんでいる。
「あぁそれは奥にある、攻略の証ってのがあるんだがな。それを取って来てもらったあとに、この中に投げ込めば自動でまた奥の部屋に返却してくれる仕組みなんだ。
本当なら迷宮の奥にある証は持ち帰って良いんだが、ここは初心者の為の迷宮だからな。ちゃんと返却するようにしているんだ」
ブライアス兵士長が答えた。
なるほど…攻略の証か。……まぁ何にせよ、足手まといにはならないようにしないといけないだろう…。
周りの勇者達が"余裕"や、"楽勝"と各々笑ったりしている中、蓮の心だけは暗くなっていたのだった。
前回から戦闘編がスタートしたのですが、オーバーキルすぎる攻撃で直ぐに終わってしまったため、次はパーティ制で迷宮に向かわせることにしました。
ここの攻略も…1、2話で終わるかな。
そしたらいよいよ本編ですかね。
というよりも今までが第一章と言った所かな?
まぁともかく感想などありましたらよろしくお願いします。
2014年10月19日。修正を加えました