[第十五話]オーバーキル
本日二回目の投下です。
「魔族…ですか?」
ヒカル君が驚きの声を上げた。
「そうじゃ…。とは言っても1匹の低級魔族と、後はただの魔物らしいからの。
勇者様方の初陣に丁度良いであろう」
ウォルレアンス王が頷いた。
その言葉に勇者達が安心したかのような「ハー」っと息を吐く。
「まぁ、ブライアス兵士長以下200名の兵士もお供に付けるからの。問題は無かろう」
そう言ってウォルレアンス王がカラカラと笑った。
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【ピルニス街辺境】
ここはエターナル王国の端に位置する辺境の街だ。ここら辺一帯は一面麦畑が広がっている。それと、平原だ。
後は小さい村が幾つかと、ピルニス街がポツンと存在している。
ここはエターナル王国の小麦の生産の約7割を担っている。それ故に此処を落とされると一気にエターナル王国の食事情が悪化してしまうのだ。それだけに、重要な場所と言っても過言ではない。
「随分田舎だね…蓮君」
「あぁ、そうだな」
瑠花が周りの様子を見て呟いた。
確かに、周り一面小麦畑と平原。
それとポツンポツンと存在している家だけだ。
小麦畑の側にある小屋のようなものには鍬が立て掛けられている。
勿論周りを見ても機械は全く無く、昔ながらの農業をしている姿が予想出来た。
「そうね。今時こんなのは珍しいわね。異世界だからかしら?」
紫苑も辺りを物珍しそうに見つめながら呟いた。キョロキョロとあちこちを見ている。
「そうだね、瑠花さん達はこう言うのは始めてかい?」
ヒカルが尋ねて来た。
……あれ?ヒカルとはあまり接点無かった筈だが。
「ん、あぁ、蓮君はヒカル君とあまり接点無かったね。えっとね、蓮君。
ヒカル君は私と紫苑ちゃんと同じパーティメンバーなんだ」
疑問の表情を浮かべていた俺に瑠花が説明した。なるほどな。それでか。
「うん、そうなんだ。改めてよろしく、蓮君」
ヒカル君が頷いてから手を出して来た。
俺はその手を取る。
「あぁ、よろしく。ヒカル」
ヒカル君と握手した際、周りの女子陣から睨むような視線を感じたが気のせいだろう。……気のせいだと信じたい。
するとーーー。
「おーい、勇者共。そろそろ目的地だ。
今の所はピルニス街の警備隊が防衛している。その間に一気に入るから戦闘準備整えておけ」
前方の方からブライアス兵士長の声が響く。戦闘準備か。横を見ると瑠花が背中に背負っている杖を手に取っていた。
「それが瑠花の武器か。初めて見たな」
俺はそれを見て瑠花に言う。
「うん。妖精杖って言うんだ。効果は妖精の加護と魔法効果上昇」
妖精杖ねぇ…。
確かに、瑠花がはしゃいでいる姿などはまさしく妖精であるが。
にしても妖精の加護が気になるな。
魔法効果上昇はそのまま、発動した魔法の威力を高めるんだろうけども。
妖精の加護はどんなものなのか想像出来ない。
「蓮君は準備しないの?」
瑠花が尋ねて来た。
「ん〜。一応剣は持ってるけど…。
やっぱり持っておくべきか。」
一応、蓮も剣は持っている。
ただし一般兵に支給される剣であるが。
しかし蓮はステータスが低いせいか幾ら頑張っても一般並みと評価されるのが精々であった。
そのせいで戦闘面は諦められて修行させられなくなったのだったが。
(でも……それもコイツがあれば…!)
蓮はポケットに突っ込んでいる手榴弾を触る。
2m級の岩を一発で粉々に出来る威力。
魔法使いなら大体が出来るらしいが、ただの人間では相当ステータスが高くないと不可能だ。少なからず100はいるだろう。
「問題無いよ。一応万が一の時はアレがあるし」
「アレ…?」
蓮が答えると少し疑問の表情で瑠花が尋ねて来たがスルーした。
するとーーーーー。
「来たぞ!!魔法隊!一気に魔法を放て!」
ブライアス兵士長の声が響いた。
そっちを見ると、変な狼のようなモンスターや、その他幾つかのモンスターの姿が見えた。
その瞬間魔法が使える勇者達が一斉に魔法を唱える。
隣を見ると、瑠花や紫苑も唱えていた。
「降り注ぐ光の矢よ。光線弓!!」
「生命の命たる水よ。今此処に顕現せよ!水弾幕!」
瑠花からは沢山の光の光線が。
紫苑からは水で出来た大量の弾幕が一斉にモンスター達へと照射される。
他の勇者達もそれぞれの魔法を唱え、
沢山の光の渦が少ないモンスター達へと降り注ぐ。
(……オーバーキルじゃねぇの?コレ)
その凄まじい様子を見て蓮は内心そう思いつつも、生き残りが居た場合に備える
(ってか小麦畑は大丈夫なのか…?)
かなり不安だ。もし勇者達が小麦畑を破壊したなんて噂された日には目も当てられない。
そして、魔法によって激しい土煙が上がっていたが1分ほどして土煙は晴れていった。
そして残っていたのはーーー。
「がっ……ぁ……」
ヨロヨロと動く一匹の魔族。
もう満身創痍と言っても過言では無い程のダメージを受けている。
逆にあれだけの弾幕を受けてよく耐えたものだ。感心する。
しかしブライアス兵士長と勇者達には
"情け"や、"容赦"と言ったものは無かったらしく。
「前衛隊!一気にスキルを!」
ブライアス兵士長が武器のスキルを持っている勇者達に指令を下した。
「光よ…!我が身に纏え…!
この世界を照らすのだ!!
光魔法!!光魔装!!」
ヒカル君が叫んだ。
その瞬間、ヒカル君の身体からは光が溢れる。そして、ヒカル君が走り出しーー
「光覇閃!!」
剣を横に振るった。
その瞬間、光の斬撃が音速を超える速度で満身創痍の魔族へと迫る。
しかし、それだけではない。
その他勇者達もそれぞれ技を放っている。そしてまたもや光の渦のような激しい攻撃が一匹の魔族を襲う。
「が…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
断末魔の声を上げる魔族。
明らかにやってることが勇者じゃない気がするのは気のせいじゃないだろう。
オーバーキル過ぎる上にただのリンチである気もする。
…本当にこれで良いのだろうか?
「敵の状態を確認する!下がっていろ!」
蓮が内心疑問に思いつつも、ブライアス兵士長が真剣な表情で走り出した。
そしたあっという間に先ほど断末魔の声を上げた魔族の元まで辿りついたブライアス兵士長がその場にもはや何も存在しないことを確認した。
そしてーーー。
「我らの勝利だぁぁぁ!!魔族は死んだぞぉぉ!!」
ブライアス兵士長が叫んだ。
その言葉に勇者達が「おおおお!!」と雄叫びを上げる。
ーーーこうして。
蓮達にとっての初陣はあまりにも呆気なく終わったのであった。
やっと戦闘が書けたので気分が乗り、
ついつい二話目を書いてしまいました
感想などありましたらよろしくお願いします。
2014年10月19日。修正を加えました




