[第十二話]証明編その1
パーティテーブルは無残に壊れ、多くの勇者達や兵士達が倒れている。
…そんな正に地獄絵図…とも言えなくもないこの場所で。
ただ一人余裕の表情を浮かべた少年が楽しそうに口を開いた。
「さっき言った事をォ……
取り消してもらうぜェ?大勇者様ァ?」
彼ーーーグラビティが言った。
今この場を支配しているのは、凄まじい程の重圧と重力だ。
そしてその中心にいるのは蓮とグラビティ。そしてヒカルにウォルレアンス王だ。
周りではテーブルの殆どが粉々になっており勇者達が倒れている。
しかし数人を残し殆どが立ち上がれていない。
そんな中でヒカルがグラビティを睨んで言った。
「……君は……。何のつもりだ…?」
そう言うと共にヒカル君の周りを白い光のようなモノが包み込む。
そして腰に差している剣に手を付けた。
対するグラビティは、どこ吹く風で飄々としている。
そもそも、これほど沢山の人を地面に押し倒し、尚且つ俺にはそのチカラが掛からないように配慮している事を考えると、いざとなれば能力でどうとでもなるのだろう。
「何のつもりたァ……どォ言う事かなァ?大勇者様ァ?」
「言葉通りだ…!こんなことをして……
君は何を企んでいるッ!!」
グラビティの人をバカにしているのかのような話し方に、ヒカル君が声を張り上げた。
それと同時に、心なしかヒカル君が纏っている白い光の出力が上がったような気もする。
しかしーー。
「おォ、怖い事でェ。大勇者様っつっても所詮無駄な正義振りかざして結局暴力にはしる馬鹿って事かァ?」
そう言ってグラビティは笑った。
……アレ?…心なしか煽っているように感じたのだが気のせいだろうか?
「うるさいッ!!それよりも何を企んでいるんだッ!!」
そう言ってヒカル君が剣を抜いて前に向ける。
「チッ……これだから考えを辞めたクソ共は……。」
そのヒカル君の態度に、グラビティは舌打ちした。そして溜息をつくと口を開いた。
「まァいい…一から説明してやる。
まずは、さっき話してた俺達があのクソ野郎共を襲ったとか根拠のねェ馬鹿みてェな件についてだァ。」
その言葉と同時にフッとここらを覆っていた何かが消えた。そして皆を押さえつけていた重力や場を支配していた重圧も跡形もなく消え失せた。
それにより、動けるようになった勇者達が立ち上がる。
そして言葉にヒカル君が不可解と言った表情を浮かべ、言った。
「どう言うことだ…!証拠はあったはずだぞ!瑠花さん達に聞いたから分かる!
大昌君達が携帯の録画機能で君達が襲いかかった所をキチンと録画した筈なんだからな!!そうだろう大昌君!!」
そう言ってヒカル君は大昌の方を向く。
「あ…あぁ…。そうだぜ…」
その言葉に少しどもりつつも大昌が答えた。
するとグラビティは笑みを浮かべて口を開く。
「ほォ…?じゃあそれを見せてみろよォ?今、この場で」
グラビティが興味深いと言ったように大昌達に向かって発言した。すると大昌が激昂したように顔を赤くして叫ぶ。
「な…何で見せなきゃいけないんだよ!俺達はお前の部下じゃないし、お前は俺達を襲ったんだ!!」
大昌の声がホールに響き渡る。
するとーーー。
「って言ってるんだが…どォ思うよ?
ウォルレアンス王様ァ?」
そう言ってグラビティが王様に向かって口の端を吊り上げながら、まるで狂気に満たされたかのような目をして振り返る。その威圧かは分からないが。
「う……うむ。そうじゃな…。
私も気になるから是非見せて欲しいのじゃが……」
ウォルレアンス王が頷いた。
頷いたのだ。
つまりーーー。もう大昌達に逃げ場は無い。
なんせ、王様から証拠を見せろと言われているのだから。
「王様命令だ。見せてみろよォ?
俺の命令じゃねェぜ?それに、携帯ならちゃんと持って来ている所をチャールズに確認して貰ってるからなァ。
部屋にあるとか無くしたって言い訳は出来ねェ……。」
そう言ってグラビティが一歩前に出る。
すると震えたように大昌達は一歩下がった。
「ほらほらァ?見せてみろよ。
あるんだろォ?…絶対の証拠って奴が」
そして更に一歩前に出る。
「おっと…消したって言い訳も意味はねェからなァ…。城の中には記憶蘇生のフォーチュンスキル持ちがいるからなァ。
確か効果は、失った記憶を取り戻す。
勿論、携帯の情報でも元に戻せるのは確認済みだァ。」
記憶蘇生
主に記憶喪失の人間や、失われた古い文献の情報を蘇らせることの出来る能力。確かチャールズさんの部下のザフィードさん。
昼間、証人になってくれたあの人が持っているらしい。
ちなみに今言うことでは無いがザフィードさんも中々の美人さんだ。見た目は20歳くらいだろう。とはいえ彼女はチャールズさんが気になっているようで、時折熱い視線を向けている。
恐らく、チャールズさんもまだまだ27歳と若いし、見た目もなかなか良い上、優しく仕事も真面目だ。
そんな所に惹かれたのだろう。
まぁそれはおいておいて、このザフィードさんの能力は、かなりエターナル王国でも重要視されている。
まぁそれもそうだろう。
千年以上前の古代兵器などの情報を蘇らせたり、古代に無くなった魔法などを蘇らせたり。
国を発展させるのに充分な程の能力だ。
それに、彼女は周りからかなり評価されている。疑われることはまずないだろう。
「ぐっ……分かった……。も…森山。こ…これを…」
もう、引くに引けない所まで追い込まれてしまった大昌が森山と呼んだ少年に携帯を渡す。
「え……あ……橋下……頼む…」
しかし、森山にそれを流す勇気は無かったらしく橋下に渡す。
その橋下もかなりオドオドしていたが、諦めたのか携帯を操作して画面を空中に浮かべた。そして、スクリーンのように拡大化する。
思えば、元の世界はかなり発展していた。
人間そっくりのロボットとかが街を歩いていた事もあったし蓮もプレイした事があるが、自身の精神をゲームの仮想世界に飛ばしてプレイ出来るVRMMOなんてのもあった。
学校とかでも場所によれば、ノートとか鉛筆とかは不要で全て機械を使用したりもする。
当然携帯も太陽光発電などで充電の必要は無く、画面を浮かび上がらせて沢山の人に見せられるように拡大することも可能だ。
まぁこのようになったのもたかが、十年前だ。第二次産業革命。と言うのが日本で起こったのが始めなのだが、ここでは省いておこう。
「じゃあ……流します」
ちなみに、動画自体は幻惑に耐性があるヒカル君でも見れる。
幻惑で作り上げられた動画だが、効果としては人を騙しやすくするといった効果だ。
矛盾点を言い当てれば簡単に崩壊する。
「では…スタート」
そう言って端下君が動画再生のボタンを押した。
そして動画が流れ始める。
大体は、言われたことと同じような内容だった。
まず「あ〜やっぱこっちの世界は凄えなぁ…」という大昌の声が響いた。
大昌の姿が映っていないのは、恐らく大昌が録画しているからだろう。
そしてその言葉に「そうっすね〜」と橋下が答えた。
そして三人で会話しながら暫く歩いていたのだがーー。
「うわぁぁぁぁ!!」
不意に後ろを歩いていた橋下が悲鳴をあげた。
「「なっ!!?」」
それを聞いた二人が慌てて振り返る。
そこにいたのはーーー。
肩でハァハァ息しながら、血のついたナイフを持っている蓮と、その隣で笑っているグラビティ。
そして地面に倒れ血を流している橋下の姿が映し出された。その悲惨な様子に、女子の方から「きゃっ」と悲鳴に近い声が聞こえてきた。
そして森山が慌てて橋下を回復させる。
しかし、それを逃さずグラビティが森山に攻撃をし始めた。
その横では蓮が大昌に襲いかかっていた。しかし、此方は一方的でナイフを簡単に取り上げられた蓮は大昌に殴られ地面に転がされる。
そこから、森山と橋下を守るように大昌が立ち塞がり、グラビティと戦闘を繰り広げた。
しかしそのせいで近くにあった木が倒れ、大きな音を立てたので倒れている蓮をグラビティが抱えて逃走した。
そこで映像が途切れる。
疑問点としては戦闘をしていたのにブレは無く、動画に大昌のモノと思わしき二本の腕が蓮を押さえたする様子も映っていた。
そこを突けば偽造の証拠となるだろう。
一応言っておくが、元の世界の携帯の録画機能はかなり高い。だが、流石に動きが激しすぎると多少ブレたりはする。
特にこんな魔法とかがありの世界なら尚更ブレが起こる筈なのだ。
更に本当なら携帯には自律機能は無いので両手が映った時点ですぐバレる筈だったろう。しかし大昌には人を騙す能力である幻惑を持っている。
だから騙されてしまったのだろう。
しかしーーー。
「こ…これを見て分かったろ…!
俺達は悪くない!あいつらが襲いかかって来たんだ…!」
大昌が言い張った。
それに同調するかのように森山と橋下も頷く。
周りの勇者達もウンウンと頷いている所を見ると大半が幻惑に掛けられているようだ。
しかし、耐性を持っているヒカル君は、
あれ…?と言いたげな表情を浮かべていた。
「おかしい所なんて無いだろう!お前らの言いがかりだ!」
森山が大声を上げた。
それに同調してーー。
「そうだそうだ!!」
「素直に罪を認めろー!!」
などのバカらしい勇者達の意見が飛び交う。
するとーーー。
「馬鹿じゃねェのか?てめェら」
グラビティが声を上げた。
その声は、明らかに侮蔑の声であり、
目がそれでも勇者なのかァ?と言いたげな表情を浮かべている。
「な……なにがだよ…!」
グラビティの言葉に大昌が反論する。
するとグラビティは「ハァ……」と溜め息をつき、呆れたような表情を浮かべながら口を開いた。
「じゃあ、もォ一度動画を流してみろ。
矛盾点を言ってやる」
そう言ってグラビティは面倒くさそうに頭を掻いたのだった。
どうも、ゆうポンです。
やっと証明編に入りました。
三話くらいで終わらせて戦闘に早く移りたいです。
それと、感想や批判などありましたら
よろしくお願いします!
2014年10月19日。修正を加えました




