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ただ一人の無能勇者(凍結)  作者: Yuupon
【一章】神隠しと異世界と勇者達
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[第一話]神隠し

これからよろしくお願い致します!

重力に逆らって蓮は空中へ引っ張られていた。蓮の目の前には泣きながら手を伸ばす幼馴染が居る。その背後…つまり、引っ張られる方向にはよく分からない蒼い世界が見えていた。次に視界に入るのは巨大な龍。

その龍に誘われるかのように蓮の身体は、ドンドンその蒼い世界へと引っぱられて行った。それと同時に幼馴染がいる方の世界には段々と境界が構成されていき、蒼い世界と幼馴染のいる世界が区切られていく。その様子はさながら新たな世界の構築。元居た世界との決別を意味している。


そしてその境界はドンドン大きくなり、やがて、完全にその場所を遮断した。





彼の名は日向(ひなた) (れん)

ごく普通の少年だ。生まれた日から今年で15歳にもなるが、特に死ぬ寸前になるという事態や、ましてや常識が通じないような事件に巻き込まれるなんてことも無かったし、親もそこそこ裕福で殆ど不自由無く育てられた。


そして趣味は読書や、工作。

読書で様々な知識を得てそれを実践するのが好きだった。

自分で欲しいものを作るというのはとても楽しく、中学一年の時にはなんと独学でロボットを作るというレベルにまで達していた。

そして今ではもっと様々なものを作り上げている。

例えば、家で使っている家具。

ベッドや、テーブル、椅子。果ては冷蔵庫や洗濯機まで自作。

そしてそれを作る為に得た知識も豊富で、それらには関係無い雑学や生活に関する雑学なども沢山知っていた。


しかし、そんな彼も高校一年生。

当然ながら作る事や本を読むだけしているわけにはいかない。

つまり、高等学校には通わなくてはならないのだ。



現在朝8時20分。普段通りに登校した蓮は何時も通り学校の机で手を組み頭を乗せて目を瞑っていた。


朝はあまり得意では無い。

目覚ましをセットしても無意識に解除して二度寝してしまうくらい苦手だ。

だからこそ学校に遅れぬよう、少し早めに登校し、夢の世界へと旅立っていると言うわけだ。


「おはよう!蓮君!」

「ん…瑠花(るか)…か…おはよう」


そうしてウトウトしていた蓮の頭上で不意に元気な少女の声が響く。

その声を聞いた蓮は少し頭を上げて怠そうに返事をした。


立花(たちばな) 瑠花(るか)

彼の4歳の頃からの家がお隣さんであり、幼馴染。そして重要なのが、彼女は美少女だ。

肩までかかる長く、そして綺麗な髪の毛。顔も良く、十人中十人が可愛いと断言する顔。

胸も同級生と比べ、かなり大きい。

そして瑠花は過去、中学で男共が女子人気ナンバーワンは誰か!?決定戦という、アンケートを実施し、堂々の一位を勝ち取った少女である。


「どうしたの?蓮君。また寝不足?」


瑠花が心配そうに蓮の顔を覗き込む。

しかし、蓮としてはあまり構わないで貰いたいというのが本心だ。

何故なら、瑠花は中学の時でナンバーワンという人気を誇っていた。と先程言ったのを皆さん覚えているだろう。


「あぁ…まぁ大丈夫だ」


当然、この高校でも彼女は凄まじいほどの人気っぷりを誇っている。

すると必然的に……。


「「「「…………………っ!」」」」


こうなるわけだ。


周りのクラスメイトの男子からの人を殺せるような視線が蓮を貫く。

もし、蓮がかなりのイケメンならクラスメイトや瑠花の追っかけなどの男子連中からも認められただろうが、蓮の見た目はごくごく普通。更に家で引きこもって様々なモノを作ったり、学校では良く読書をしていてあまり社交的ではない人物。ハッキリ言えば、蓮は学校に来ているものの、他の人からは引きこもりや、それに準ずる人物と評価されている。


そして当然ながら他の男子は、そんな蓮と、クラスどころか学校じゅうのアイドルとも言える瑠花は釣り合わないと考えているというわけだ。


更に蓮の態度にも問題があるのだろう。

普段、蓮は瑠花が話しかけてもあまり長く話そうとはしない。

これが他の男子ならば何としてでも会話を長くしようと様々な話題を提供しようとするのだが、蓮はまるで眼中に無いかのように瑠花に接する。


まぁ理由はあまり目立ちたく無いからの一つなのだが。

だがそれだけでは無い。そんな蓮に瑠花がよく話しかける事も、この事態の原因でもあった。


それを周りの人は、家が隣同士だからという理由でクラスの中であまり話したりせず、孤立しかかっている蓮に構ってあげていると思っているのだろう。


「蓮君!昨日は頼んだの出来た!?」

「あぁ…作ったぜ。ほらよ」


瑠花が蓮に尋ねる。

その様子に少し苦笑しつつも蓮はポケットからあるものを取り出した。


「わぁ〜!可愛いヘアピン!」


そう、蓮が取り出したのは可愛らしい黄色のヘアピンであった。

昨日頼まれた…というのは、昨日体育の時間にヘアピンを外しておいたら知らないうちに無くなっていたらしく、替えが偶々家に無かったので作って欲しいと頼まれたのである。


ヘアピンの大きさはあまり大きく無いが、それでも見た目は小さな花のような模様が付いており、とても綺麗に作られている。

そして、蓮がそれを手渡ししようとすると瑠花は首を横に振り、こう言った。


「えっと…付けてくれない…かな?」


その恐る恐る言う仕草は可愛らしく、普通の男子なら「はい!付けさせて頂きます!」と即答するようなものだったが、蓮にとっては慣れたもので、特に気にせず「分かったよ」と一言だけ言って瑠花の髪の毛に触れた。


その瞬間……!


「…………ギリッ」


クラスの男子が一斉に歯ぎしりする。

そして無言の威圧も先程よりも強くなった。そんな様子を女子達は蓮への同情半分、男子って馬鹿ねと言いたげな表情を浮かべるのが半分と言ったところだろう。


しかし蓮はそれに構う事なく慣れた手付きで瑠花の頭で小さいヘアピンを右の側に結んだ。実際相手にするだけ無駄だと思っているからだ。


「よし…出来たぞ」

「ありがとう蓮君」


結び終えると同時に蓮は椅子に寄りかかる。そして結んで貰った瑠花は嬉しそうにお礼を言った。




「瑠花さん…俺と付き合って下さい!」

「ゴメンね…(さとる)君。」


放課後。一日の授業が終わり各々部活や帰宅など動き始める。

そんな中、教室では男子が瑠花に対して告白を行っていた。

これも見慣れたものである。

毎日…とまではいかないが、三日に一度は見る光景だ。普段もこのように素早く断ってそれで男子がorzするのが日常なのだが、今日は少し違った。


「何でですか!なんで俺じゃダメなんですか!?」

「え…?えっとぉ……」


断られたのにも関わらず、聡と呼ばれた男子が尚も食い下がる。

そして、基本的に断りづらい性格の瑠花は困ってしまったようだ。


「理由が無いならオッケーなんですよね!振るなら理由を言って下さいよ!」


聡…誰だっただろうか?

……あぁ、思い出した。確かバレー部員だっけ?、そして性格はねちっこかった筈だ。


「ええっと……うぅんと……」


瑠花が振る理由を必死で考えている。

蓮個人としては誰と付き合っても良いと思うのだが、瑠花は何故か何時も告白を断っている。どうして断り続けているのかが不思議だ。


「ええっとぉ……」

「理由が無いんですよね!だったらオッケーじゃないですか!付き合って下さい!」


瑠花の断りづらい性格を利用し、執拗に付き合えという聡。

その言葉に瑠花は何と言えばいいのか分からず泣きそうな顔になっていた。


「オイ、流石にやめとけよ」


これは…と思った蓮は二人の間に割って入ったのだが、不意に蓮は胸ぐらを掴まれた。


「なんなんだよ…てめぇ。家が隣同士だからって瑠花さんに気に掛けて貰いやがって…邪魔なんだよ!どけ!

俺は瑠花さんに告白してるんだよ!

てめぇはお呼びじゃねぇんだ!帰れ!」


そう言って蓮を押し退けようと手で身体を押す聡。聡のいきなりの豹変に蓮も瑠花も驚愕を隠せなかった。

だが、蓮は直ぐに我に帰り聡に向かって口を開く。


「お前は断られたんだ。なのにも関わらず何度もアプローチするのは嫌われるぞ」

「うるさい!てめぇはどうでもいいんだよ!どうせ瑠花さんを騙してるんだろ!

じゃなきゃてめぇみたいな男に瑠花さんが気にかけるわけがない!」


蓮はあくまで冷静に諭すが、聡は逆上し、大声を上げた。その声に近くにいた生徒がビクッと驚いたような反応をして一斉に聡と蓮の方を向く。どうやら聞く耳を持たないらしい。


どうするべきか…?と考えているとある人物が教室へと駆け込んで来た。


「どうした!これは一体何事だ!」


担任の先生だった。

そして教室に来た先生は蓮と聡の方を見た後すぐに


「これから何があったかじっくり説明を貰うぞ。着いてこい」


と一言。

そして蓮と聡、瑠花は職員室へ連れ去られて行った。




職員室での蓮達による説明は終わり、蓮達は夕日が沈む空の下、帰宅していた。


ちなみに結果は、蓮と瑠花はお咎め無し。その代わり聡はこっぴどく叱られた。


そのせいか、先に帰る蓮達を恨みがましく…いや、蓮に対しては人を殺すような目で見つめ、舌打ちをした聡だったがそれにより、更に聡の帰宅時間は遅くなったようである。まぁ自業自得だろう。


「ゴメンね…蓮君。私のせいで帰るの遅くなって…」

「気にすんな」


瑠花が申し訳なさそうに謝る。

しかし、蓮はどうでもよさそうに手を振りながらそう言った。

まぁ別段気にすることでも無いだろう。


すると瑠花は普段の笑顔に戻り話しかけてきた。


「そう言えば蓮君。最近日本で起こってる"神隠し"って知ってる?」


神隠し…知っている。

確か、十五歳の少年少女が次々と行方不明になってる事件だ。

犯人や攫った方法も分からず、捜査は難航しているらしい。

既に九十八人もの少年少女がいなくなっていることもあり、警察は何処もフル稼働している。日本としても、由々しき事態だろう。


「あぁ、知っている。それがどうかしたか?」

「いや、ね。私達も十五歳じゃん。

だから怖いなぁって」


そう言って瑠花が少し俯いた。

まぁ確かに怖い。

少なからず犯人は"十五歳"だけを九十八人も攫ってる訳だから、一人一人を調べているのは確実だ。そして、中には柔道や剣道などの武道を嗜んでいる人もいるのにも関わらず、僅か五分程友達と離れた間に攫うという行為を行っている。

相当腕があるのか…あるいは。

…少なからず何らかの組織による犯行に間違いは無いだろう。


「蓮君?」

「あ、悪い。考え事してた」

「もう、昔から何時もそうなんだから」


そんな風に二人は談笑しながら帰路に着いていたのだが。


突然それは起こった


ブォン!


不意に何も無い場所で音が響いた。

そして目の前で信じがたいある現象が起こる。


「「ーーえ?」」


二人が驚いたのも無理は無いだろう。

何せ、"目の前の空間がいきなり切り取られ白い世界が見えたのだから"


ちなみにこれは比喩では無く、本当に目の前の空間が切り取られ、別の世界が見えているのである。


「な…なんだ?」


蓮は驚きと、中を見たいという興味により一歩踏み出す。

しかし、それを見た瑠花が突然蓮の腕を掴んだ。


「ダメだよ…蓮君…。行っちゃやだ…」


蓮には何故瑠花がそう言ったのかは分からなかったが、その言葉に驚き蓮は後ろを振り返った。瞬間。それは起こった。


不意に足元が光り輝く。

青く…そして、幻想的な光だ。


「「きゃあ!(なっ!)」」


それぞれ驚きの声を上げる二人。

しかし、その光はドンドン強まっていく。次から次へと起こる非常識な事態に二人の頭な処理が追いつかなくなっているようだ。


だが、光は更に強まる。


そしてーーー。


バンッ!!


爆発音のようなものを立てて消えた。


魔法陣も、空間も。

そして、蓮と、瑠花も。


後に残されたのは静寂。


この日、日向(ひなた) (れん)と、

立花(たちばな) 瑠花(るか)はそれぞれ、

九十九人目。百人目の神隠しによる行方不明者となる。


そしてその日を最後に神隠しは終わった。



2014年10月19日。修正を加えました

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