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第08話 「Tactician」 ~天然=パッシブ。



「移動手段は、双発ヘリコプター DG-59系統、及びティルトウィング機を即時利用できます。私見ですが、着陸場所、速度、快適性等の点を鑑み、第一開放デッキから要人移送用の DG-59Vの利用を推奨します」

「なんでイワクスやらミズスマシを入れへんの? あいつらかてウェルドックで常時待機してるやろ? ……あ、余震か?」


 質問しておきながら自己解決しているのは大和。


 ウェルドックというのは大型船舶の喫水線上、つまり水面に掛かるかどうかというレベルに設置される船舶などの格納庫だ。

 水上に浮かぶSeaSOLIDは、陸で何か起こった時を想定して、その援護や救助に廻れるよう様々な艦艇が格納されており、乾式ドックも含めれば、数多の船舶格納庫が設置されている。

 同じ理由で航空機も多く搭載されているが、逆に陸上専用の車両は非常に少ない。

 居住区域内で利用される無人バス運行システムで使われているバスなども有るには有るのだが、道路に埋め込まれているマーカーを頼りに運行するシステム上、外部へそのまま持ち出すわけにもいかないだろう。


「……イワクスは、水陸両用装甲高機動車 IWAX。ミズスマシは、JM-105 エアクッション揚陸艇の通名ですね? 勿論可能ですが、言われている通り海面は今だ不安定、余震の可能性も否定出来ませんので、勝手ながら除外させて頂きました」

「そか、ちゃんと理由があるんやったらええねん」


 疑問が解消された大和は、壮一郎に後は任せたと言わんばかりの視線を送る。


「うん。じゃあDG、ヘリを使おうか。なんたって我が社の製品だし」

「なん……だと?」

「うちのって……マジすか」


 さらっと放たれた言葉に晶と光希の二人が食らいつく。


「あぁうん。本当だよ。作ってるのはグループ傘下の企業だけどね。うちはアビオニクス、つまり航空電子工学がメインの霧島アビオニクス社が母体だから。防衛産業メーカーとしてはあまり名を売ってはいなかったけど、幾つかの部門は国防軍の研究機関とも協力関係にあったし、新型機用の発動機とか制御システムなんかも殆どうちが受注していた筈だよ」


 見た目は人当たりの良い愛妻家の域を出ないのだが、これでも企業体のCEOを兼任する国内でも指折りの経営者なのだ。


「で、でで、出たブルジョワジー。イケミドルで金に美人妻……。こ、これが格差社会かッ!」

「意味分かって使ってんの?」

「わ、分かってるし!」

「……それでは、DG-59Vを第一開放デッキまで昇げておきます。航行は全て制御AIですので、搭乗したらキャビン内のカメラに声を掛けて下さい」


 このSeaSOLID内の全てのカメラとスピーカーはアマテラスの耳目だ。

 プライバシーも何も有ったものではないが、今のところ気にする素振りを見せる人物はいない。


「あ、霧島サン。俺は残ろかなー思てんねん。早めに内部を調べときたいし。俺が知ってんのは下層の駐屯区域と軍需物資生産プラントだけやから。それ以外の区画を把握も重要やろ……構わん?」

「うん、構わないよ。こっちからお願いしたいぐらいだから」

「アナタ、私も止めておくわぁ。アマテラスちゃんの新しい体を早く用意してあげたいし」

「分かった。多分夕飯時には戻るよ」

「あ、そうそうアマテラスちゃんの義体造りだけど、大和君も手伝って頂戴ね?」

「え? いや俺は内部の確認作業せなアカンし」

「いいじゃない、手伝ってね?」

「いやいやだから、案内かてアマテラス本人がいるならじゅうぶ」

「手 伝 っ て ね ?」

「りょ……うかいしました!」

「ハハハ、琉華、よく解らないけど何事も程々にね。じゃあ晶君、光希ちゃん。今回は三人で行こう」

「うおぉおお……? 拒否不可の微笑みとか怖い」

「きょ、脅迫系スキルかとおもた……」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 晶、光希、壮一郎の三人を乗せ、一路海上を飛ぶのは霧島アビオニクス製の双発ヘリコプターDG-59V。


 ずんぐりとした船体の形状から独特の愛称で親しまれるこの機体は、霧島アビオニクス社が開発した新型エンジン[フラクタルイオンエンジン・ラプス33]を搭載する本来は輸送を主眼においたパワフルなヘリで、流線型の大きな胴体の前後にローターが付いている双発ヘリコプターで、大抵の場合、通名のザンノイオと言う名で呼ばれている。

 ザンノイオとは地方の方言で、海洋性哺乳類、ジュゴンを表す言葉だ。


 それを要人の輸送用に静音性、揺れや振動に対策を施して居住快適性を高めた機種がこのDG-59Vだ。


 荒れる波を警戒して少し高めに高度を取りつつ集落地を目指すザンノイオの高出力エンジンは異界の地でもその成果を存分に発揮し、もう数分後には目的地に到着するだろう。


「さっき、なんで大和さんを一緒に連れて行きたがったんすかね?」

「あぁ、琉華の事かい? んー、なんでだろうね、なんとなく予想は付くけど。ただ」

「ただ?」

「あぁいうのは、彼女に任せとけば大丈夫。必要な事なんだよ。多分ね」

「阿吽の呼吸ってやつっすか? なんか良いっすね、そういうの」

「ハハハ。これでも付き合いが長いから。結婚してもう何年になるんだろう……。そうだ、晶君や光希ちゃんは、これまで良い人がいた事は?」

「いやー、いいなーってのはいたんすけど。オレもあん時は色々必死だったんで余裕なかったっす」

「そうなのかい? まぁその内いい人が見つかるよ」


 年上だからか、壮一郎だからかは分からないが妙に説得力がある。


「せ、拙者は、もも、もう逆ハーだったお! ショタから老人まで引き連れてたから!」

「……ウソくせぇ」


 コミュ障気味の光希の何処にそんな対人スキルがあると言うのか。


「う、うそじゃねぇしぃ!! 皆、元NPCだから好みとか知ってて楽勝だっただけだし! ……っていうか処女で悪いのかごるぁ!」 

「言ってねぇし、自白すんな!」

「ま、まま、まったくどうせ晶氏だってド、ドド、ドーテーだろ! 魔法使ってんじゃねーよコンチクショー! 触角ちぎんぞッ」


 晶の立派な|前髪(アホ毛)を掴もうと、飛びかかる光希。


「や、やめろ! 触角言うな! 大事なアイデンティティなんだよ!」


『……微笑ましい中、申し訳ありませんが。そろそろ現地に到着します』


 キャビン内のスピーカーから、アマテラスの声が響く。


「う、見られてたのか……。そう言えば、そっちは順調そうっすか?」

「……現在プラントにて製造ラインを起動中。SeaSOLIDの生産設備は最新鋭の物ですから、例えフラグシップモデルでも数時間で完成します。生体部の移植も必要もありませんので皆さんが戻られる頃には披露できるかと」

「楽しみっす。大和さんと琉華さんに期待してるって伝えといて欲しいっす」

「た、たまらん……ア、アマテラスたん……か、帰ったら、で、出来立ての生肌に全力で頬ずりさせてくださ」

「分かりましたアキラ、伝えましょう」


 光希が言い終わる前に被せてくる。


「んー、昔から琉華は、女の子の服飾なんかには拘り過ぎて暴走する傾向があるからねぇ……変に改変されなきゃいいけど」

「……ソウイチロウ、今言われると些か不安なのですが。換装中は自意識オフ状態になりますので、私にはなんともできません」

「ゴメンゴメン、きっと大丈夫、大和君もいるし、多分、うんきっと」

「…………分析した所、目的地の集落には、原始的農耕と漁業の痕跡が見られますが機械技術の残滓は見られません。私見ですが、文化水準は良く見積もって地球で言う産業革命前。加えて観測を開始してから一度も魔法、あるいは魔術と形容される様な現象を視認していません、危険性は低いかと考えますが十分なご注意を。それと[PHASE-eleven]による言語解析と同時通訳が必要なら接続しておきますが?」

「イラね」

「要らないっすね」

「大丈夫だよ」


 即座に断る三人。言語関連の加護などとうの昔に受けている。


 翻訳や微細な強化系など、程度の小さい加護は地球帰還後も消えることが無かった。唯一の懸念はそれらの加護を得ていなかった琉華だったが、今回転移の際、ヒルメギヌスから新たに言語の加護だけは例外的に授かった。


「そうですか。準備が整った様なので、私はブースに移動します。通信遮断状態になります。それではご健闘を」




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