開扉し転ずる死者について
内装に合致した役所らしいシンプルな扉には『転生室』と書かれたルームプレートが貼られていた。
一応ノックを三回。間を置いてからドアノブを回す。
「すみません。案内を受けてーー」
開かれた先。待っていた風景に言葉を失う。
四十畳はあろうかと思われる室内には、机や椅子どころか備品らしい備品も一つとしてない。
しかしそんな事はどうでも良いのだ。
言葉を失った理由。
「どうぞこちらへ。情報用紙をお預かりさせて頂きます」
それは袈裟を着た鬼が、実に一クラス分はいるだろう人数で壁に沿うように整列していた事にある。
「……どうかなさいましたでしょうか?」
俺の対面、扉と正対する位置に立つ職員が不思議そうにしている。
しかし、三メートルはあるだろう巨躯を誇る鬼。
それが色取り取り何十人もいて、しかも僧着を来ていたら、呑まれない人間はいないだろう。
「いえ……何でも無いです」
用紙を渡そうと言葉を発した職員の元へと向かうが、部屋の広さ故に若干の距離がある。
その間に、四方から視線の雨が透けた身体を打ち回した。
随分と見慣れた気がしていた鬼も、逆の立場だとこうも違うとは。豪鬼院主任を敬服する。
見過ぎだろ、とか。
待ってないで用紙取りに来てくれ、とか。
何で鬼が袈裟を着てんだよ、とか。
思う所は多々あるが、完全なアウェイ感に沈黙を押し通す。
「有り難う御座います。
私、転生技術班 第一班長を務めております鬼瓦と申します」
室内唯一の発声鬼ーー鬼瓦班長は訓練された事を窺わせる綺麗なお辞儀を披露すると、渡した用紙に視線を走らせた。
「鳥羽秋人様。転生では無く復活ですね。復活先は異世界、特典は決定済み、と。
それではこの条件で復活の儀を執り行わせて頂きます。
お手数ですが室内中央に在ります、黒い円ですね、あちらの上にお立ち頂けますでしょうか?」
ごつい手が、俺の後方を示す。妙な緊張から見落としていたのか、確かに直径一メートル程の黒点が床には描かれていた。
「お立ち頂きましたら、復活の儀を開始致します。初めての事で不安に思われる事もあるかと思いますが、肩の力をお抜き頂いて、私共にお任せ下さいませ」
「宜しくお願いします」
「はい。誠心誠意努めさせて頂きます」
踵を返して、黒点の上に立つ。いよいよか。魔法のある異世界。
不安は少なくない。しかし期待も小さくはない。何より、特典もあるのだ。
ーーすぅぅぅうっ。
不意に何かを吸う様な音が聞こえて振り返る。
ーーおぅ! オメェらぁ! 鳥羽様の門出じゃぁぁあ! 全力で転生の儀に取り組みやがれっ!
ーーうすっ!!!
ーー行き先は異世界a20-WUO94327! 特典付与は俺が仕切る! 後に続けェ!
ーーオオッ!!!
絶句。
テンションの急転に二度目となる自失状態へ落とされた俺を余所に、鬼達は一斉に何かを口ずさみ始める。
袈裟を着ているからか、まるで読経のように聞こえるそれ。
何で他は現代的だったのに、ここだけ儀式風なのか。
少しずつ戻ってきた意識が、取り留めの無い思考を浮かび上がらせる。
鬼達に囲まれて読経をされる死者。
第三者が見たら、地獄の住人に浄霊されそうになっている幽霊の図だろうか。シュールだ。
「……ん?」
不意に身体が沈む様な感覚を覚えて、下を見る。
「は!?」
視線の先には黒点へと沈み込んで行く自分の脚があった。
ズブズブと、底なし沼に沈むとはこんな感じだと思わせるように、黒点が俺を吸い込んで行く。
「ちょ、ま。鬼瓦さん!!!」
徐々に早くなる沈むペースに慌てて助けを求めるが、呼ばれた鬼はぐっと親指を立てるだけ。
そのサムズアップはいらねえだろ!
心中の突っ込みが気に食わなかったのか、黒点が一気に俺を飲み込もうとする。
「鬼瓦さーー」
再度の呼び掛けを言い切る前に、俺は闇の中へと沈み込んだ。