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一日百善されば三膳  作者: お腹弱い虫
霊界のお役所編
5/22

徳行の転換利用について

気持ちを落ち着けようと目を閉じる。

そもそもだ。

俺は記憶を持って地球に産まれて、何かしたいって展望があったか?


ーーピピッ。


小さな機械音が響いたが、意識的に無視する。


「候補が出ました。人間が住んでいて、個人管理が甘い世界。つまり前世の肉体のままで、どうにか潜り込めそうな世界ですね。

選択肢は二十一世界ありますが、具体的な希望はありますか? キーワードがあれば絞り込めますけど」


受け付け嬢の言葉も聞き流す。今は自己整理の方が大事だ。


記憶を持っていても前世で縁のあった人と関わったか分からない。

いや、多分関わる事はしなかったはずだ。


「聞いてますか? 鳥羽さん、鳥羽秋人さん」


それに生き返るだなんてのもそうだ。

元々生き返れる可能性なんて考えていなかったし、思い描く選択肢にも無かったはずだ。だったらーー


「鳥羽秋人さーん?」


「ーーよしっ!」


「……は?」


気合い一声、両頬を全力で叩く。

半透明な死人だから痛みも音も無かったが、幾分スッキリとした気がする。


「……大丈夫ですか?」


「大丈夫です。お騒がせしてすみません」


頭を下げて謝意を示すと、受け付け嬢は戸惑ったように「そうですか」と呟いた。


「では、復活先に対する希望はーー」


「質問良いですか?」


「ーーはい。どうぞ」


何度めか分からない苛立った表情も、見慣れてしまえば気にならない。仕方ない。相性が悪かったと諦めてもらおう。


少しでも建設的に、可能な限り前向きに事を進めたい。

何せ俺は『普通』では無いらしいので、不安やこだわりは幾らでも出て来るのだ。


「俺が復活できる世界って、地球から見たら異世界って事で良いんですよね? しかも文明的にはあんま進んで無い」


「そうですね。そう捉えて頂いて間違い無いでしょう」


と、なるとだ。

はっきり言って記憶の引き継ぎは大きなデメリットになる。

成人後急に発展途上国へ引っ越すようなもんだ。しかも準備期間や引越し先の情報は皆無と言って良い。

カルチャーショックどころの話じゃあない。


「じゃあ絞り込みの前に聞いておきたいんですけど、転生の特典ってどうやって決まるんですか?」


「特典ですか」


「はい。記憶の引き継ぎは特典の一つだって聞きました。

地球に生まれ変わる場合だと色々特典貰えたみたいですけど、今回のケースも他に特典ってつきます?」


異世界だ。まず言葉や環境が違うだろうと予想すると、普通に考えても生きて行けそうにない。

『潜り込める』という表現からして、そこら辺はどうにかしてくれそうな気もするが、確認は必須だった。


「そうですね」


これまた何度目か分からない面倒臭そうな表情で、受け付け嬢は説明を始めた。


「特典はほとんど無限と言って良い程の種類があります。肉体、頭脳、精神、環境など、様々な点でメリットになるものばかりです。

しかし誰にも無制限で特典をつけるわけにはいきません。ご褒美と言っても過度な優遇は危険だからです。

そのため、ポイント制度を採って、特典の取得に制限をかけています」


「ポイントって善行とか徳行ですか?」


「そうです。生前積み上げた徳をポイントに換算し、その範囲内でのみ特典を取得できます。当然ですが、効果の高い特典程必要なポイントが高くなります。

更に細かく説明しますと、皆様がお持ちの徳にも性質というものがあります。

善行や徳行と一口に言っても内容は様々だからですね。

特典に中には、徳の質に依って取得ポイントが割引かれるものも御座います」


そう言えばそんな事を最初に言っていたかもしれない。


「ですので、ポイントの許す限りは特典を取得する事ができます」


「分かりました。じゃあ俺のポイントと取得できる特典一覧て教えてもらえますか」


「ポイントは元々四百二十ポイント御座いました。ここから記憶の引き継ぎのため五十ポイント引かせて頂きます。

特典については残三百七十ポイントで取得できる物が膨大な数御座いますので、ご相談に応じて絞り込みをかけるのが良いかと思いますが」


「そんなにあるんですか」


「はい。この窓口で最初にプラン提供をしますのはそれが理由ですから」


「なるほど」


あの押し付けごましいプランニングはどうかと思うが、理由を知れば必要処置だったのだろう。

俺みたいにこだわりを持つ死者は少ないようだし。

しかしシステムを知れば知る程ゲームじみた話だ。

今後を左右する転換期にあって、楽しさを感じる自分に苦笑が漏れた。


「それじゃあ」


「はい」


「候補世界の絞り込みをお願いします」


異世界に応じた特典でなければ意味は無いのだから。

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