転生時の注意事項について
四つの窓口にはかなりの人数が列をなしていた。
並んですぐ後ろにも列ができたので、後発組というわけでも無かったらしい。
周囲を見やれば、離れた場所で地獄ツアーへ行くのだろうと思しき半透明の人々が群れを作っている。
『地獄ツアーを楽しもう!』と書かれたタスキを纏った姿を見て、流石は自己啓発セミナーと独り言ちる。
ビデオ鑑賞も何も嫌がらないのは、やはり『普通』とやらになったからだろうか。
自分と他者との違いが分からないので、答えらしい答えもではしないのだけれど。
「次にお待ちの方、どうぞ」
気付けば、列の最前列に居たらしい。呼ばれたのは一番端、十一番窓口だった。
若干反応が遅れている間にも、残りの窓口では流れるように受け付けが消化されて行く。
「そちらの方、どうぞ。他の方々の御迷惑になりますので」
「あ、すみません」
後ろの人達に頭を下げてから窓口へと足早に向かうと、女性職員だろう、髪の長い鬼が窓の向こうからこちらを覗きこんでいた。
「お名前と、生前の生年月日をお願いします」
「鳥羽秋人。平成元年の四月六日生まれでした」
「ありがとう御座います」
女性職員は傍にあるパソコンらしき巨大な機器へ手を延ばし、指を滑らせるする。
「……はい。結構です。
お若いのに非常に高い徳をお持ちですね。
これでしたら容姿は上の中、頭脳面、芸術面に高い才能を振って、上流家庭に生を受けると良いかと思います。
母国はフランスをお勧め致します。性別の御希望は御座いますか?」
捲し立てる様に、早口で進められる誕生プラン。
能面を思わせる無愛想な受け付け嬢。どうやら彼女はお役所らしい職員のようだ。
「あの、一つ希望があるんですけど」
「はい? 身体能力系に才能をお振りしたかったのでしょうか?
しかしお積みの善行の質的には頭脳面や感性面の方が適性も高く、やはりお勧めとしてはーー」
俺の発言で、却って彼女のマシンガントークは銃弾の充実を得てしまったらしい。
希望内容など一切聞かずに話が進めらつつある。
このままでは、記憶の消去へと突き進みかねなそうで不安だ。
「ちょっと待って下さい。希望内容を聴いてもらいたいんですけど」
「ーーであるからして……何でしょうか?」
「案内係の方に可能だと聞きまして」
「はい」
「記憶を引き継ぎたいんです」
「……はぁ?」
何言ってんのこいつ。
何こいつめんどくさ。
そんな心の声が聞こえてきそうな声色で、受け付け鬼嬢は顔を顰めた。
これだからお役所仕事は嫌いだ。
生前も見知らぬ婆さんに道を尋ねられ、市役所へ連れて行った事があった。
年金か何かの手続きがしたかったらしく、窓口まで手を引いた。
俺としては翌日の食事がかかった故の行いだったが、悪い事をしたわけでは無い。
にも関わらず、対応した職員は俺に対して顔を顰めた。
ーーめんどくせえの連れて来やがって。
そんな表情である。
どうやら婆さん、軽い痴呆があったようで同じ手続きをしに頻繁に市役所を訪れていたらしい。
確かに面倒だ。分かる。面倒臭い婆さんだったのだろう。
だが! だからと言って俺に非難の眼を向ける理由にはならない!
今回もそうだ!
確かに面倒臭いのかもしれない。しかしそれも含め、しっかりとした態度と対応を取るのがプロというものではなかろうか。
ルーチンワークを乱されただけでこの態度。
こういうお役所共の勘違いした態度がーー
「聴いてますか?」
「……はい?」
「……はぁ」
「す、すみません」
盛大に溜め息をつかれ、前髪が揺れる。
ヤバイ。この人、いや鬼、苦手かもしれない。
「では始めから説明致します。御希望でした記憶の引き継ぎですが、確かに可能です。
可能ですが、生まれ変わる事はできません」
「はい?」
今度は俺が何言ってんのこいつ、といった表情を浮かべた事だろう。
俺と受け付け嬢はどうもターン制の展開関係にあるらしい。
「簡単ながら理由をお話させて頂きます」
と、彼女は苛立ちを顕に言葉を紡いだ。
「生まれ変わった場合、人は当然新生児として誕生します。
しかし新生児の脳に前世の記憶を引き継ぐという事はハイリスクです。まだそれだけの記憶を焼き付ける準備ができていないわけですから。
故に記憶を引き継いでの生まれ変わりはできません。実行致しかねます」
「じゃあ、無理って事ですか?」
「はい、生まれ変わりは。ですが、復活でしたら可能です」
「復活、ですか」
「はい。生前と同じ肉体を再生し、前世と同じ人間として生きて頂きます。基本的には享年時の肉体年齢で再生致しますが、積み重ねた善行によっては年齢を変化させる事も可能です。
勿論、記憶の焼き付けに耐え得る年齢に限りますが」
つまり生き返れるという話か。
人格の消失どころか、ありのまま俺として下界に戻れるなら、それ以上の望みはないだろう。
沸々と湧き上がる喜びを胸に、俺は大きく頷いた。
「それでお願いします!」
「畏まりました。では……はい。復活先に地球は選べませんのでご了承下さい」
「……え?」
「何か?」
「地球に行けないって、どういう事ですか?」
ていうか地球以外の何処に行けと。
混乱する俺を、彼女は嫌そうに見ている。やはりターン制に間違いは無い。
「当然でしょう。気付いて無いようですが、貴方が亡くなって既に数日経っています。遺体は既に焼かれてますし、亡くなった人間が蘇れば大変な事になります」
「数日?
いや、だって、生き返れるって話じゃないんですか?」
「数日です。貴方の魂魄がここに来るまで掛かった日数です。無意識下の移動ですから、気付かなかったんでしょう。
それと、あくまで肉体の復活ですから、死んだという事実のある地球に行く事はできません。
種族的危険の及ばぬよう、人間が住む世界を今リストアップしています。
更に戸籍や人民管理の観点から考えると、余り近代化していない方が良いでしょうね」
淡々と、受け付け嬢は話を進めていた。