最終話 書き換えた未来
王城の大広間にて、偽りの勇者レオンがLv.1の村人へと初期化され、聖女セリアが精神を破壊されたあの日。
王都ガルディナ、いや、世界そのもののパワーバランスは、一人の【解読士】の手によって完全に崩壊、そして再構築された。
その後、世界に何が起きたのか。
それは後世の歴史書において『神のハッキング』と呼ばれる、わずか数日間の出来事だった。
--掌を返した王族と、教会の完全解体--
英雄のメッキが剥がれ落ちたレオンたちを見捨て、国王と貴族たちは即座にアレスにすがりついた。
「真の勇者よ! 莫大な富と権力を与えよう、我が国の将軍に——」
だが、アレスは彼らの醜い欲望を一瞥し、虚空に指を滑らせただけだった。
【Authority_Level : King】を【Null(無効)】へ。
アレスは王族や腐敗した貴族たちから「権力」というシステムコードを根こそぎ剥奪し、彼らをただの平民へと強制フォーマットした。
さらにその足で教会の『本山』へと乗り込んだアレスは、孤児たちから搾取し、裏で私腹を肥やしていた高位聖職者たちのステータスを全選択し、一括で【Delete(削除)】。
巨大な権力機構は、血の一滴も流れることなく、物理的かつシステム的に完全に解体されたのである。
--魔王軍の討伐--
残る世界最大の脅威、大厄災の元凶たる『魔王』。
人類が数百年かけても到達できなかった魔王城の最深部へ、アレスは空間転移のコードを書き換えてたった一秒で姿を現した。
「我こそは深淵を統べる——」
玉座から立ち上がり、世界を滅ぼす魔力を放とうとした魔王。
だが、アレスの目には、それもただの巨大なデータファイルの塊にしか見えなかった。
【Entity : Demon_Lord_Lv9999】
【Action : Delete】
アレスが指を鳴らすと、魔王も、その背後に控えていた数十万の魔王軍も、まるでPCの電源を落とされたかのように一瞬でブラックアウトし、空間から消滅した。
人類の悲願は、アレスの「ワンクリック」によって、わずか三秒で達成されてしまったのである。
--偽りの英雄たちの末路--
全てを失ったレオンは、王都のスラム街で残飯を漁る日々を送っていた。
Lv.1の肉体ではスラムのゴロツキにすら勝てず、かつて勇者だと名乗っても狂人扱いされて石を投げられるだけ。彼は泥水を啜りながら、自分がアレスを突き落としたあの日の選択を、一生涯後悔し続けることとなった。
その傍らには、絶世の美貌を醜い傷跡に変えられ、感情を失った空っぽの人形が、ただ虚空を見つめて座り込んでいる。誰からも見向きもされない、世界の不要ファイルとして。
--新たな『管理者』の平穏--
そして、現在。
かつて王城があった場所は、アレスによってシステムを書き換えられ、難攻不落の絶対防壁に守られた『世界で一番巨大な孤児院』へと改築されていた。
「アレスおにいちゃん! 見て見て、お花が咲いたよ!」
純白のワンピースを着たミラが、花壇から満面の笑みで手を振っている。
彼女の首にはもう隷属の痣はなく、かつて泥にまみれて石を運んでいた子供たちも、今はふかふかのベッドで眠り、腹一杯のご飯を食べ、笑い声を上げて駆け回っている。
「ああ、綺麗だな」
アレスは子供たちの声を聞きながら、穏やかな日差しの中で目を細めた。
彼の腕には、いまだに神話級の宝具が光っている。
世界の理を全て掌に収めた最強の簒奪者は、もはや王になることも、神になることすらも望まなかった。
ただ、この小さな家族たちの笑顔を守るための『システム管理者』として、今日も密かに、世界のバグを取り除き続けている。
一応完結です!




