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世界言語の簒奪者〜無能と追放された【解読士】は、奈落の底で神のソースコードを書き換える〜  作者: 時山 悟


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第11話 初期化と、復讐

王城の大広間は、静寂を超えた「死」の空気に支配されていた。

神話級(ミシック)の宝箱を開け、黄金のアーティファクトを腕にはめたボロボロの青年。

アレスが暴露した、レオンとセリアの「魔王軍幹部からの逃亡」と「アレスの生贄」という衝撃的な真実は、この国における「絶対の真実」を根底から崩壊させていた。


「嘘だ……俺は、勇者だ……ッ! そいつは、俺の嘘をバラすための悪魔だぁっ!!」


レオンが、顔を真っ赤にして叫んだ。

これまで積み上げてきた富と名声が、指先一つで崩れ去っていく恐怖。

彼は自棄を起こし、腰の聖剣を抜き放った。

勇者の莫大な闘気が聖剣に集中し、広間の空気がビリビリと震える。


「死ねッ! アレスッ! 勇者の、鉄槌ッッッッ!!!!」


レオンが最強の剣技を放ち、光の嵐となってアレスに斬りかかった。

迷宮の階層主をも粉砕した必殺の重撃。

誰もが息を呑み、アレスの死を確信した。


——だが。


「……五月蝿い。少し静かにしろ、モブ」


アレスは、迫り来る聖剣の刃に対し、避けることも、防御魔法を張ることもなかった。

彼は、レオンが持っている聖剣の物質コードに、指先でポンと触れた。


【Material : Holy_Sword(聖剣)】


「【Command : Format(初期化)】。ただのゴミになれ」


パサァッ。


レオンの全力のオーラが込められた聖剣が、アレスの指先に触れた瞬間。

音もなく、まるで最初から砂の塊で作られていたかのように、ボロボロと崩れ落ちた。

柄だけになった聖剣を見つめ、レオンが素っ頓狂な顔をする。


アレスの指先は、そのままレオンの胸元に浮かび上がっている「ステータスコード」へと向けられた。


【Target_Id : Leon_001】

【Class : Hero(勇者)】

【Level : 999】

【Status : Active(稼働中)】


「お前には、その重すぎるステータスはふさわしくない。…レベル1(どん底)の景色を見せてやる」


アレスの手の中で、青白い文字列がバチバチと火花を散らす。

彼は、【Hero】の文字列を【Villager_A(村人A)】へ。

そして、【Level : 999】を【Level : 1】へ。

さらに、【Status : Active】を【Status : Forbidden(禁止・封印)】へと、強制的に上書きした。


『————バチィィィィィィィンッ!!!!』


直後。レオンの肉体から、眩いばかりの光の奔流が溢れ出した。

それは勇者の闘気ではない。彼の肉体を構成していた、桁外れの経験値が、世界のシステムへと強制的に「返還」される光だった。

勇者の強靭な肉体が、瞬く間に貧弱になり、肌に張り付いていた筋肉が削げ落ちていく。


「な、なんだこれは……! 俺の力が……抜けていく……ッ!?」


光が収まった後。

そこに立っていたのは、純白の鎧こそ纏っているが、その中身は驚くほど貧弱な、ただの一般人の青年だった。


【Target : Leon_001】

【Class : Villager_A】

【Level : 1】

【HP : 15 / 15】


「ヒィッ……嘘だ……嘘だぁっ! 俺の勇者の力が、全て消えた……!?」


レオンが顔面を蒼白にし、震える足でその場に崩れ落ちた。

頂点から、最底辺へ。

これまでの彼の人生、積み上げてきた努力、そして彼の誇りであった「勇者」という存在そのものが、アレスの指先一つで完全に消去されたのだ。


「【Command : Cursed_Bind(呪われた拘束)】」


アレスが指を鳴らすと、床から無数の青白い光の鎖が現れ、Lv.1の一般人となったレオンの体を雁字搦めに縛り上げた。

抵抗する力すら残っていないレオンは、大広間の大理石の床に、ただの虫ケラのように這い蹲ることしかできなかった。


「さて。次は……お前だ、聖女」


アレスの視線が、這い蹲るレオンの背後で、恐怖のあまり失禁しかけている聖女セリアへと向けられた。

ドレスの裾を摘み、涙ながらに命乞いをするセリア。


「アレス……お願い、許して……っ! 私はレオンに脅されていたの! アレスを生贄にするなんて、私は反対したのよ! だから……だから私だけは助けて……!」


「……脅されていた、か」


アレスは静かに、這い蹲るレオンの目の前——セリアの真正面まで歩み寄った。

そして、彼女の美しい顔を見下ろし、そのステータスコードにアクセスした。


【Entity : Celia_001】

【Class : Saint(聖女)】

【Title : Holy_Mother_of_Charity(慈愛の聖母)】

【Status : Beautiful(絶世の美女)】

【Faith(信仰心) : 100】


「【慈愛の聖母】……笑わせるな」


アレスは、セリアの美しい顔を構成している【Status : Beautiful】の文字列を指先でなぞった。


「孤児院のミラを蹴り、子供たちに鞭を振るい、俺を生贄にして英雄に成り上がった。……そんなクズが、聖女のフリをしてちやほやされているのが、俺はどうしても我慢できない」


アレスの手の中で、青白いコードが邪悪な光を放つ。


「お前には……お前が子供たちに刻んだ傷と、同じだけの呪い(罰)を与えてやる」


アレスは【Status : Beautiful】のコードを【Command : Copy(複製)】した。

そして、そのコピーした文字列を、ザコフ司祭の鞭に刻まれていた【Status : Scar(鞭の跡・傷)】へと変換する。


「お前のその美しい顔、黒い文字で塗りつぶしてやる」


【Command : Paste(貼り付け)】


「——ッ!?」


直後。セリアの美しい顔面から、パチパチと不吉な音と共に、無数の『黒い線の文字列』が溢れ出した。

文字列は彼女の白い肌を侵食し、瞬く間に、ザコフ司祭の鞭の跡と同じ、醜く赤黒いミミズ腫れのような傷跡へと変貌していった。絶世の美女の顔が、たった数秒で、見るも無惨な「傷だらけの顔」へと蹂躙されたのだ。


「ギャアアアアアアッ!?」

セリアが顔を抱えて絶叫する。


だが、アレスの復復讐は、まだ終わらない。

彼は、【Class : Saint】の文字列を【Class : Slave_Orphan(孤児奴隷)】へと書き換えた。

さらに、彼女の心(精神)を定義している『心のソースコード』に、指先を深く突き入れた。


【Mental_Status : Human_Will(人間の意志)】


「お前は、自分の心があるから、他人を蹴って笑えるんだな。……なら、その心も【削除(Delete)】してやる」


アレスの手の中で、セリアの精神の根幹が、ぐしゃりと握りつぶされた。

彼はその文字列を、【Mental_Status : Empty_Doll(空っぽの人形)】へと書き換える。


「あ、ぁ……」


絶叫していたセリアの瞳から、スッと感情が消え失せた。

苦痛も、恐怖も、怒りも、全てが消失し、彼女の瞳は、何の光も宿さない、ただのガラス玉のようなものへと変わった。

彼女が孤児たちにしたように、精神を、尊厳を、そして女性としての存在そのものを、アレスのコード書き換えによって、レオンの目の前で完全に蹂躙され、破滅させられたのだ。


「セ……リア……?」


這い蹲るレオンが、震える声で尋ねる。

Lv.1 Villager Aの体で。聖剣をゴミにされ、レベルを初期化され、そして自分の目の前で、かつて自分が愛した(あるいは利用した)絶世の美女が、かつて自分たちが蔑んだ「役立たず」の手によって、精神も美貌も、聖女としての地位も、全てを簒奪され、何の感情も持たない「ゴミ」へと成り果てた。


レオンは、ただ見ていることしかできなかった。

Lv.1の貧弱な体では、鎖を解くことも、セリアを助けることも、アレスに抗うことも、絶対に不可能だ。

圧倒的な、言葉にできないほどの絶望が、レオンの全身を包み込んだ。

自分がこれまで手に入れたと思っていた全ての力は、アレスの掌の上で、ただの数字の遊びだったことを、彼は最底辺の一般人(Lv.1)として、ようやく理解したのだ。


「……さて。精算は終わった」


アレスは立ち上がり、這い蹲るレオンと、抜け殻となったセリアを見下ろした。

その瞳は、ゴミを見るよりも冷酷だった。


「国民の皆様。これが、お前たちが崇めていた英雄の正体だ。レベル1の一般人と、精神が壊れた元聖女。……さて、このゴミをどう料理するかは、お前たちに任せるよ」


アレスは振り返り、広間の入り口で待っていたミラの元へ歩み寄った。

子供たちを安全な場所に確保し、自分を奈落へ突き落とした偽りの英雄たちを、最悪の形で破滅させた最強のハッカーは、自らの『次のターゲット』を明確にロックオンした。


「行こう、ミラ。次は……教会の『本山』を掃除しに行くからな」


復讐の第一幕は完了し、最強の簒奪者は、腕の中の小さな温もりを確かめながら、更なる圧倒的な蹂躙を求めて、王都ガルディナの尖塔を、氷のように冷たい瞳で見据えていた。

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