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青い髑髏  作者:
9/14

第9章:唯一の出口

部屋中に転がる髑髏の残骸──それは砕けても、砕けても、数を増やし、笑い声だけを残していた。

それでもマクレガンは引き金を引き続けた。だが、やがて弾が尽き、静寂が戻った。


手に残った拳銃の重さと、全身を包む空虚。

──ふと、時計が目に入った。


秒針が、逆に動いていた。


彼は立ちすくんだ。

もはや時間さえ正常には流れていない。

だがその瞬間、脳裏に“ある可能性”がよぎった。


「ループには“起点”がある」

すべてを繰り返す中心。

その中心にたどり着けば──終わらせられるかもしれない。



彼は車を走らせた。

向かったのは、妻と娘が殺された家。

あの夜を“やり直す”──そんな錯覚に囚われながら。


住宅街の中、当時のまま閉鎖された家は朽ち果てていた。

だが、玄関の鍵は開いていた。

引き寄せられるように、彼は中へと足を踏み入れる。


リビングに入った瞬間、空気が変わる。


──そこには「誰か」が座っていた。


暗がりの中に、女と少女の後ろ姿。

マクレガンは言葉を失った。

あまりに自然な光景──だが、それは現実ではない。


「……ローラ?」

「……エミリー?」


背を向けたまま、二人は答えない。

だが、少女の肩がわずかに震えた。


やがて、ゆっくりと妻が立ち上がり、彼の方へ振り向く。


──その顔は、髑髏だった。


「私たちは、お前の中にいる」


声は女のものでも、少女のものでもない。

低く、冷たく、青い死の声だった。


「お前はこの地獄を望んだ。

 生きて償うより、終わらせる方を選んだ。

 我々はそれを与えているだけだ」


「違う……!」


「違うと言うなら、選べ。

 “彼女たちの死を受け入れ”、この場所を去るか。

 あるいは、“もう一度、繰り返す”か」


マクレガンの頭の中で、記憶が閃光のように駆け巡る。

署のデスクで一人呆然とした日々。

夢と現実が混ざる感覚。

鏡の中の老けた顔。

そして──あの日、間に合わなかった自分。


「……俺は……」


声が震える。

だが、絞り出すように言った。


「俺は……生きて、償わなければならない。

 逃げるのは、終わらせるのは、……それは“罰”じゃない。

 本当の罰は、生き続けることだ……」


沈黙。


妻と娘──髑髏の仮面をかぶった存在は、しばし彼を見つめていた。

やがて、声が響いた。


「ならば……生きろ。

 だが忘れるな。

 お前が望めば、いつでも“戻れる”。

 このループは、お前自身の選択でできているのだから」


その瞬間、世界が崩れた。


床が、壁が、空が砕け、光と闇が入り混じる渦が彼を包み込む。

意識が、断ち切られる。



目が覚める。

ベッドの上。

朝の光が差し込む窓。

静かな自室。


時計は正常に時を刻んでいた。

PCも、携帯も、昨日までの記録を正確に示している。


ただ一つ──夢のような“記憶”だけが、胸の奥に残っていた。


マクレガンはゆっくりとベッドから起き上がった。

鏡の前に立つ。


そこに映る自分は──やはり老けていて、疲れていた。

けれど、目の奥にかすかな意志の光が戻っていた。



デスクに向かい、彼は捜査資料を手に取る。

写真、報告書、証言。

それらの断片の奥に、“何か”が隠れている気がした。


──髑髏は終わっていない。

──だが今の自分なら、向き合える。


マクレガンは静かに呟いた。


「……もう一度、やってみようか」


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