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青い髑髏  作者:
4/14

第4章:予兆

その夜もまた、マクレガンは寝つけなかった。


 テレビもPCも、ただの雑音にしか思えず、彼はソファに腰を沈めたまま天井を見つめていた。

 不眠症ではない。疲れているのに、眠るのが怖かった。


 それでも、夜が深まりすぎたあたりで、まぶたが自然に落ちていった。



 目を覚ますと、そこは見知らぬ廃ビルの中だった。


 壁は剥がれ、床には瓦礫とガラス片。どこかで水がぽたぽたと滴る音がする。

 冷たい空気が肌にまとわりつき、金属の臭いが鼻をついた。


 「ここは……」


 マクレガンは懐から銃を取り出し、薄暗い廊下をゆっくりと歩く。

 足元には、乾いた血の跡が不規則に続いていた。


 奥の部屋の扉が、かすかに開いていた。

 近づくと、扉の隙間から何かが見える──白い、死体のようなもの。


 マクレガンは扉を押し開けた。


 部屋の中には、女性の遺体があった。

 顔はぐちゃぐちゃに潰されていて判別できない。だが、首元に付けられたペンダントが目に入る──“L・C”と刻まれたロケット。


 そして、その隣に立っていた“誰か”が、マクレガンを見た。


 ──それは、現実で捜査中の事件の被害者、ローラ・カーティスだった。


 だが彼女は、生きていた。しかも、うっすらと笑っていた。

 そして囁くように言った。


 「次は、私じゃないわよ」


 マクレガンが息を呑んだその瞬間、背後から冷たい指先が首筋をなぞった。


 振り返ると、そこには髑髏がいた。


 青黒い光を放つ、奇妙な、笑う髑髏。


 「お前が望んだんだ。死を。終わりを。ようやく……それが近づいている」


 ──次の瞬間、マクレガンは飛び起きた。



 心臓が、全力で悲鳴を上げていた。額には冷や汗。

 だが、いつもの悪夢とは違う何かがあった。


 それは、夢というにはあまりにも“現実的”だった。


 彼は無意識にPCを開き、ローラ・カーティスの事件記録を検索した。

 住所、生活圏、友人関係、勤務先──廃ビルなど関係あるはずがない。


 だが、ふと目に止まった。ローラの元恋人が、現在住んでいる場所。


 ──グリーンライン沿いの、閉鎖された工業倉庫地区。

 そこには、取り壊し予定のビルが数棟、放置されたままになっていた。


 夢で見た廃ビルと、限りなく似ている場所。


 (まさか……)


 マクレガンはコートを掴んで外に飛び出した。



 未明の工業地区。街灯は壊れ、風が鉄骨を軋ませていた。


 夢で見た廃ビルを探して歩く。冷たい雨が降り始め、アスファルトを黒く染めていく。


 ──そして、見つけた。


 夢で見た、ガラスの割れたドア。

 血が乾いたような痕。剥がれた壁、割れた床。あの冷たい空気。


 マクレガンは無言で銃を構え、そっと中に入った。


 ──夢と同じ廊下を進む。


 ──夢と同じ扉を開ける。


 そして──そこに、現実の死体があった。


 女性。顔は潰され、身元の確認は困難。だが、首元のペンダントがそれを証明していた。


 “L・C”。


 ローラ・カーティスだった。



 夢の中で見た死が、そのまま現実に起きた。


 彼の中で、なにかが崩れ始めていた。

 これは偶然なのか? それとも──髑髏が、次に見せてくるのは……自分自身の死か?


 マクレガンは膝をつき、血まみれの床を見つめながら、唇を噛みしめた。


 「……これは、始まりにすぎない」


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