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青い髑髏  作者:
2/14

第2章:眠れぬ夜

午前3時。

 シカゴの街は静まり返り、郊外の住宅地にも音一つしなかった。マクレガンのアパートの窓にはカーテンが引かれ、外の街灯がぼんやりと室内を照らしていた。


 彼はベッドの上で目を閉じていたが、眠れなかった。

 寝返りを打っても、シーツの皺が気になっても、脳裏に浮かぶのはあの青い髑髏のことばかりだった。指先には、まだあの冷たさが残っている気がする。まるで何かが皮膚の下に入り込んで、じわじわと広がっているようだった。


 (クソ……)

 彼はうめくように呟き、重い体を起こしてベッドを出た。


 暗い廊下を通り、洗面所のライトをつける。

 鏡に映る自分の顔は、疲れきっていた。目の下には深いクマ、頬はこけ、無精髭が生えたままだ。


 「……俺も、歳を取ったな」


 独り言の声すら、掠れていた。

 顔を洗い、タオルで水気を拭き取ると、薬棚を開けて睡眠導入剤を一錠口に放り込む。


 それでも、胃の奥のざわつきは消えなかった。


 電気を消してベッドに戻る。薄暗い部屋。時計の秒針の音だけが、耳にうるさいほど響いていた。


 ──そして、眠りが訪れる。



 夢の中。

 彼はまた、あのビルの中にいた。


 死体の輪の中心に、青い髑髏があった。

 ただし、現実と違ったのは、髑髏がこちらを見て笑っていたことだ。

 眼窩の奥に、青白い光が灯っていた。ゆっくりと口が開く。


「よく来たな、マクレガン。お前は、ようやく“望んだ場所”へ辿り着いたんだ」


 声は低く、しかしどこか懐かしさすら含んでいた。誰の声にも似ていない、けれども、心の奥に直接響くような声だった。


「お前は、ずっとこうなることを望んでいたんだろう?……死にたがっていた。違うか?」


 髑髏の言葉に、マクレガンは口を開こうとする。だが声が出ない。

 体が動かない。手も足も、鉄のように重く、凍りついていた。


「妻と娘を失ってから、生きてる意味なんてなくなった。そうだろう? お前が望んだんだ。“終わり”を」


 その瞬間、死体たちが一斉に顔を上げた。

 眼球のないその顔が、ぞっとするような無表情で、マクレガンを見つめている。


 「お前のせいだ」

 「全部お前のせいだ」

 「殺したのは……お前だ」


 何十もの口が、同時に言った。全く同じトーンで、同じタイミングで。

 そして、彼の前に現れたのは──血まみれのワンピースを着た、娘の姿だった。


「パパ……どうして助けてくれなかったの……?」


 少女はそう呟くと、髑髏の前に座り込み、首を傾けた。笑った。

 その笑みは、もう人間のものではなかった。



 マクレガンは叫び声と共に目を覚ました。


 汗びっしょりの体。シーツは乱れ、心臓は凄まじい速さで打っている。喉がカラカラだった。

 だが、異変はそれだけではなかった。


 机の上に、置いた覚えのないテープレコーダーがあった。


 電源が入っており、赤い録音ボタンが点滅していた。


 マクレガンは手を伸ばし、震える指で再生ボタンを押す。

 テープから、小さな少女の声が流れた。


 「パパ……どうして助けてくれなかったの……?」


 それは──夢の中で、娘が言った言葉とまったく同じだった。


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