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3◆最初の死亡フラグ?

R18に抵触しないように気を付けて修正したつもりですが、R15でもこれくらいの単語は許容範囲かな? と確認しつつ元のままの箇所もあるかもです…だめだったら、どうしよう…ごめんなさい。

◆最初の死亡フラグ?


 ── 最初から殺されるのが前提の捨て駒脇役側妃。モブに転生していたのだ。とアリエスが思い出した時には、すでに遅かったようだが ──






     *****






 ── 原作ゲームでは。


 王女が馬車で嫁ぎに行く時、天候が快晴で、日中の陽が高いうちだと、崖ルートで落とされて殺され、暗殺者の侍女がベール被って身代わりに皇帝に嫁ぐ。


 王女かどうかは、御者の証言と、殺した王女から奪った紋章付きの指輪で王女だと認めさせる。


 そのまま王女に成りすましてまんまと帝国に入り込んだ侍女は、皇帝を怒らせてわざと斬り殺されて、戦争を引き起こさせる ──






  ── と言うことを前世知識で朧げに思い出したアリエス。


 それらを避けるため、暗殺者の侍女や、意地悪レポワソン王太子によってつけられた御者に、薬草の知識使って下剤しこませた飲み物を隙を見て持たせ、御者が頻繁に休憩とるように仕向けた。


 御者が頻繁に休憩とったおかげで行程の時間を稼ぐと、小雨が降ってくる。


 途中の崖越えルートになる道だと


『地すべり起こして落ちませんか?』


 と、御者と暗殺者の侍女になんだかんだいちゃもんつけて、生き残るために盗賊出没ルートの荒野突っ切らせて、国境越えようルートに変更できる ──






 ── 但し、原作ゲームで。


 ここで気をつけなければならないのは、荒野突っ切り盗賊出没ルートに、陽が高いうちに変更されてしまうと、帝国側から護衛兼監視と迎えとして駆けつけてくるはずの騎士達の助けが間に合わなくて、盗賊の餌食にされて純潔奪われるだけでなく、散々輪姦された上で嫁ぐ羽目になる ──






 ── ここでの選択肢は二つ。


 自害を選んで、侍女ヴィダーがアリエスに成りすますルート ──






 自害を選ばず盗賊に強姦されたことを隠して嫁ぐと、処女性が重視されるような時代ではないみたいだが、曲がりなりにも天下の皇帝様に嫁がせた『献上品』だからね。


 月に一回ある側妃達の健康診断か何かの時だったかな? 非処女なのが露見して、パイシーズ王国は我が帝国をバカにしてるのか、とばかりにアリエスは斬り殺され、戦争の火種になる ──






 ── なので、これも下剤のおかげで頻繁に御者は休憩をとる。もちろんさりげなくアリエスも、


『御者さん、喉渇いてしまったわ。休みましょ?』


『御者さん。緊張しすぎたみたいで……お花摘みに行きたいのだけれど……』


『御者さん。そろそろお昼ですわね。何だか小腹が空いたわ。休憩とっていただけません?』


 など。これぞ


『ザ・必殺御者さん休みましょ? 作戦』


 で、帝国の騎士達がタイミングよくちょどいい時間に駆け付けれるように微調整。






 ── 但し、ここでも選択肢を間違えちゃいけない。


 盗賊たちが襲ってきて、


『何事かしら?』


 と窓から王女が顔出すと、盗賊の目には美女……とバレるらしい。


 仮令たとえ顔バレしなくても、高貴そうな衣装や派手な見た目の馬車のせいで、さぞかし身分の高い貴族か富豪商人の女性だろうと目を付けられるため、引きずり出されて盗賊に暴行される ──






 なので、侍女に


『なんだか外が騒がしくなってきたわね? 何事かしら? 侍女さん、ちょっと窓から確認してくださいませんか?』


 と言葉巧みに窓から侍女に顔を出させた途端、盗賊に射殺させる。


 御者も既に弓矢で射殺されて暴走し始めた馬車はこのままでは横倒しになるだろう。


 アリエスは侍女に声をかけた時点で、手早く急いで唯一離宮から持ち出した母親の形見の手鏡と、自ら選んで安全を確認しておいた道具だけ馬車の座席内の仕込み隠し箱に入れた上、侍女が矢で射られたと見た瞬間、自分も座席の箱の中に身を潜ませて隠れる。


 長年の僅かな量の食事と栄養不足と身長や横幅の成長度合いが小さいおかげで、ぎりぎり隠し箱の中に入れる大きさって……どうよ。






 ── そう、ここで行動を間違ってはいけない。


 アリエスが隠し箱に潜らない選択肢を選んだ場合、更に四つの選択肢が選べる。






 ── 贈答品を全て隠すか、アリエス自身が姿を見せたままなのはどちらも悪手なのだ。


 もし高価な品々を惜しんで隠し箱に全て隠すを選ぶと。


 豪華な馬車の、割と派手な格好した御者と侍女の死体以外、空っぽな馬車内から、脅えて馬車の中で震えて蹲るアリエス以外、何も入手できないと知ると、


『この馬車内には私以外何もございません、どうか御者と侍女の命を奪ったことで満足してくださいませんか。私の命ばかりはお情けを』


 盗賊にアリエスと言う一番の戦利品を晒したまま対峙して命乞いするのは一番最悪のパターン。






 では高価な品々だろうと手を付けずに放置したままアリエス自身も逃げも隠れもせずに


『高価な品々を犠牲にするから、自分の命ばかりは奪わないで下さいませ』


 と、高価な品々と引き替えに盗賊に懇願するのは? これも悪手。






 だったら高価な品全てと一緒に隠れると。


 何も入手できないと知った盗賊が怒り狂って暴れた拍子に隠し箱の存在が暴かれ、アリエスも見つかり引きずり出されて、


『盗賊が目の前の一番豪華な戦利品に何もしないわけがなかろう。バカめ』


 と暴行される。






 だからこそ、ここで行動を間違ってはいけないのだ。


 御者と侍女を盗賊に殺させたら、毒薬・毒針・毒のついた刃物や装飾品。自分自身の身にまとうドレスさえにも自分を殺すために縫い付けられた毒針や刃物がついているので、そのドレスも。贈り物に潜ませた危険な道具は、盗賊に餌としてわざと盗ませる。アリエスはたとえどんなに高価な品々だろうとほとんど手を付けずに放置した。






 ── しかし、だからと言ってこれで油断してはいけない。


『荒野突っ切り盗賊出没ルート』最後の選択肢である。


 騎乗した帝国の騎士達が探しに来てくれる蹄の音に安心して、どんな僅かな気配さえも戦利品を漁る盗賊に気付かれてしまうと、帝国の騎士が駆け付ける前に、座席内に隠れたアリエスの存在が暴かれ引きずり出されて、盗賊に暴行される ──






 だからこそ、後はただひたすら息を潜めて、待つ。


 待、つ……


 ……待……


 ……つ…… ──






 ── 結果。


『ザ・必殺、御者さん休みましょ? 作戦』で、時間をかなり稼げたおかげで、馬車内の高価な餌を漁る盗賊に、アリエスが潜んだ座席内の隠し箱も見つからず、帝国の騎士達が探しに来てくれ、見事無事に救け出された。


 ちなみにアリエスは、パイシーズ王国の偽兄姉達の意地悪のせいで、碌な食べ物しか食べれなかった。


 離宮抜け出しては街に出たはいいけど、金銭的に大してお小遣いすら持ってないので、入手できる食べ物では栄養状態が悪く、十六歳とは思えない十代前半程度の子供と同じくらいの身長と成長で、かなり小柄で痩せている。


 でも胸だけはしっかり年齢相応に育っているらしく、Cカップ近くはあるよなあこれ、何でだ。


 まあとにかく、小柄で痩せたお子様サイズなおかげで、狭くて小さな馬車の座席内の仕込み隠し箱の中であっても悠々潜り込み、戦利品を漁る盗賊に気配の一欠片も悟らせることなく隠れ続けていることができた。


 まさか人間が入ってるとは盗賊も夢にも思わないのが普通だ。


 ゲームで見つかったのは、物音や気配がして、動物でも入っているのかと思い込んだ盗賊の好奇心のせいだ。結果乱暴されるのは、ゲーム設定での不遇な王女故だろう。


 それと、実はアリエス宛ての帝国からの召喚状と共に使者から渡された鳥籠。


 パイシーズ王国の王族たちは、庶民たちが良く利用する鳥の早便の存在を実は知らない。だって誰かに伝言や手紙や荷物を頼む時、命令さえすれば何でも言う事聞く使用人や侍従たちがいるからね。


 彼らが鳥便を利用するかは、彼らの采配や処理能力に任せるまでだ。


 でだ。とても派手で多色な羽根色のオウムによく似た大きさの鳥さんが入った籠に付けられた手紙には、


『必ず己自身の手で帝国の使者に返せ』


 の一言しかなかった。


 少なくともパイシーズ王国内で、派手な鳥を早便に使っているのを見たことはない。小型でも大型の鳥に狙われないように素早く飛べる種類か、隼、鳶、烏、鷹、鷲などでも、縄張りを荒らさないように訓練された鳥を使う。


 なので天才肌の王太子でも、籠の中の鳥を、アリエスへの支度金を含めた只の贈答品だと思ったようだ。支度金はほとんど奪ったくせに。面倒な動物の世話をしたくなさそうだったし、飛び散る鳥の羽根に不快そうにしてたので、自分の物にしようとはしなかった。


 それと、わざわざ一度持ってきて渡した物を、また返せとは。和平協定を必ず守ることや、アリエスが王女でなく偽者で、間者を送り込むためだと疑われないようにか? と思い込んだようで。出発前にアリエスの手に持たせられたのだ。


 渡されるのはいいけど、ちゃんと餌と水あげたのでしょうね? ……ああ、そう。ふーん。一応使用人が上げてたのか。ご苦労様です。これが餌の入った袋ね。水はストロー付きペットボトルみたいだね。


 で。馬車内では、長丁場になるかもと思って出発後様子見て餌と水をやり、荒野ルート変更後、すぐに餌と水を上げておいた。


 それから手紙の通り、侍女が盗賊の矢を受けた直ぐ後に、急いで鳥を飛ばした。律儀に和平協定を守って国境を越えずに迎えに来ているだろう帝国の騎士達がいる場所へ。鳥便を訓練した人間の下へと、返してあげたのだ。


 そう。籠の鳥は、アリエスへの贈り物ではなく、鳥の早便だったのだ。


 鳥の早便で異変に気付いた帝国の騎士達は、実際は人質とはいえ、名目上は皇帝への献上品である側妃となる女性だ。傷一つ付けずに無事に送り届けなければならない役目を負っているため、今回ばかりは和平協定での『国境を越えてはならない』条件が例外となる……らしい。


 おかげで盗賊の大半は、優秀な帝国の騎士達が退治したり追い払い、アリエスはやっとここで難を逃れることができた。


 こうして、帝国の皇帝に嫁ぎに来たアリエス王女であったのだが ──






 ── 横転した馬車から、いくつかの高価そうな戦利品を抱えて逃げ出そうとする盗賊達を、駆け付けた帝国の騎士達は片っ端から斬って捨てた。


 馬車内に真っ先に入ってきた帝国の騎士の一人は、遺体となった侍女の様子を確認し、戦利品を漁った盗賊のおかげで散乱した馬車内の様子を調べる……


 ……と座席内から、


「何だ? ……怪しい音は何処から?」


 と気付いてくれた。


 隠し箱内で外の様子を息を詰めて聞いていたアリエスは、もう完全に安全なのを確信し、隠し箱内をコンコンと叩いて、馬車内に入った騎士に自分の存在を知らせる音を出した。


 騎士はこの時までは未だ、


(もしかして被害者の振りして、その実スパイか刺客として帝国に入り込もうと目論む妖しい間者かもしれぬ)


 と用心しながら座席の隠し箱の蓋を開けた。


 アリエスは、隠れたはいいが狭くて小さな箱だったためと、汗で前髪がべたついていた。


 出発前に、今世では多分初めて普通のお風呂にちゃんと入れられてきたのに。その後磨かれて、似合わないゴテゴテ派手なドレス着せられたけども。狭い隠し箱の中で助けが来るまでの緊張と、もしかして原作の強制力で盗賊に乱暴されるかもしれないと怖くて、息苦しかったせいだ。


 アリエスが座席の箱内から出る時に、暑苦しさから解放されたことと、ゲームと違って乱暴されずに生きて助けられたことで油断しきったために、すっかり素顔を晒してしまった。


 なぜか驚愕して暫し茫然としているらしい? 騎士。


「?」


 わかってない鈍いアリエス。


 見つめ合っていたのは数瞬か。もっと長い時間か。


 この時、アリエスは冷静に状況を分析していた。


(あ。これが帝国の騎士の甲冑か。仮面かぶってるんだね。ゲームだと適当なグラフィックで分かりづらかったんだよね。生で見ると本物の金属の光沢はすごいなあ。それにデザインも格好いいじゃない。なんか感動だわ)


 一方、騎士は警戒していただけに、現れた美少女の出現に動揺していた。


(光り輝くような銀の髪。狭い庫内に閉じ込められていたために汗で濡れそぼる透けるように白い肌。そして深い緑の瞳……否。光や陰の加減で碧にも紫にも見える……綺麗だ。いつまでも見つめていたい。イヤだ。目をそらしたくない……)


 アリエスは鈍くて気付かないが、どうやら騎士に一目惚れされてしまったようだ。


 暫くすると、別の騎士の


「王女様はご無事であらせられますか?!」


 の声で我に返った騎士は、


「お手を」


「……あ。はい」


 とアリエスが伸ばした手を取ると、横抱きに抱きあげた。


(わ……騎士様って……なんか着痩せする人? 帝国の騎士はみんなこんなに鍛えてるのかな? しかも憧れた本物のお姫様抱っこ!)


「馬車が横転していて危険なので、このまま外の安全な場所までお連れします。しっかりしがみ付いていてください」


「わ……わかりました」


 しかし実は不埒な考えの騎士の呼びかけだったのだが。アリエスは疑問に思わず素直に身を寄せぎゅっと首と肩にしがみつくと、妙にうきうきと嬉しそうな様子の騎士に、運び出された。顔見えないから判りにくいけど多分かなり喜んでるようだ?


 その様子を見た騎士団長っぽい一際立派で一番上官らしい甲冑を身に着けた人(騎士団長みたいな立場か地位の人かな?)や、他の騎士達が、呆れたような信じられないモノを見てしまい、吃驚したような様子だったのは何でだろ? 中には大笑いする強者も。兜でみんな顔見えにくいけど。


 こうして無事に、盗賊たちの魔の手からアリエスを真っ先に救け出してくれた騎士様は、仮面かぶって顔が判らないが、声質から駆け付けてくれた騎士達の中でも一番年若そうな騎士のようだ。


 年配の騎士団長と、話し合い、敗走する盗賊を深追いさせるのはどうするか。亡くなった御者や侍女や盗賊の遺体を埋める人手の手配は。横転して盗賊に傷つけられた馬車の、替えの馬車の準備は。


 遺体を放置しないのは、野獣が食い散らかしたり、疫病の素になるから。ちょうど盗賊が潜んでいたかもしれない森が、荒野から近い位置にあるので、適当な場所に遺体は埋められた。


(? あれ? 年若そうだと思った割に、実は優秀な参謀様かな? 騎士団長様っぽい人からかなりな信頼を寄せられてるご様子)


 ただもちろん、アリエスが手放しに帝国の騎士たちに受け入れられたわけではない。


 参謀格……とアリエスが勝手に思い込む騎士様が代表で、


「確かにアリエス王女様であらせられますか?」


 と身許証明として皇帝と婚姻契約した時にしか外せない、特殊な条件下でまじないをかけられた、鈍い黒鉄でできた首輪を見せて確認してもらう。


「首輪? ……」


 一瞬嫌悪したか躊躇したような空気が漂った気がするけど、


「……確かに」


 と納得してくれた。


 でも騎士様は、


「なぜ王女の証が首輪なんだ?! パイシーズ国の王族は何を考えている!!」


 と、とても憤慨して怒ってくれた? それとも皇帝に奴隷を嫁がせるのかと侮辱されたと思われたのかな?


(あ……なんかごめん。これわざとなんだ……)


 とは自分の身の安全の為に言えないアリエスである……


 首輪……


 ……パイシーズ王国のレポワソン王太子やイクテュエス国王の嫌がらせで、奴隷みたいにつけられた首輪に、確かに十三番目の王女証である紋章が刻印されているので、嫁いでくる五人目の側妃だと確認して貰えた。


 そういえば救出してくれた時にいた騎士達全員に見られちゃったから今更だけど、帝国入る前に人目が増えるので、


「申し訳ありませんが。母親の遺言で瞳を晒し続ける真似はできません。お許しください……」


 と断って前髪で瞳と顔を隠させてもらう。


 「?」


 何か参謀騎士様がっかりしてます? 顔見えないけど。


 そう言えば、盗賊や馬車の後始末で混乱してたし、アリエス自身も実際は動揺してたようだ。


 あれ? もしかして怪我してる?


 色々処理が終わり、現場もアリエス自身の精神も落ち着いてきたので、参謀騎士様を観察する余裕が出てきた。そこで参謀騎士様の左腕に血がついてるのを発見してしまった。


「騎士様。左腕のこれ、返り血ではありませんよね?」


「ん? ああ。馬車内にいた盗賊に思わぬ反撃受けた時だな。こんなかすり傷、何ともない」


「ダメです! いけません。盗賊たちの中には、毒矢や毒刃を塗った武器を使う者もいるんですからね」


 アリエスは騎士を叱りつけると、甲冑からはみ出た左腕の、切れた袖を確認させて貰った。


「……ああよかった。毒は使われていないようです。傷薬があるので、軽く手当だけでもさせてください」


 薬草や薬学の知識あってよかった。


 アリエスはゲームの強制力で何が起こるかわからないからと言うわけで薬を持っていたのではない。出発直前まで監禁されて、侍女たちに着飾られて、馬車に押し込まれたから。


 王太子たちに呼び出された時に、嫌な予感があったせいだ。普段から色々作った薬を容器に小分けし、まとめて小さな袋に入れて持っていた。母の形見だと言い張って取り上げられなかったおかげでもある。


 袋から傷薬の容器を出すと、先ず自分の左手の甲に塗って害がない事を確認してもらう。納得した騎士様は自分で薬を塗り込んだ。アリエスがハンカチを裂こうとすると、下級騎士っぽい人が端切れ布を渡してくれたので、傷口を縛って手当した。


「よろしければ、こちらをお使いください」


「包帯をありがとうございます。使わせていただくわ」


 アリエスがお礼をした下級兵士を、なぜか参謀騎士様が睨みつけた気がする。何でだよ。可哀想じゃないか。怯えて行っちゃったよ、もう。


「きつくありませんか?」


「……いや。心配無用だ……その……助かる」


「いいえ。遅くなりましたが、こちらこそ。盗賊達から助け出していただいて、本当にありがとう存じます」


 帝国側が用意してくれた替えの馬車まで、参謀騎士様の馬に一緒に乗って移動した。


 とりあえず無事にクアトロファイア帝国の国境を越えて入国することができた ──






 ── 指輪や腕輪でなく首輪にしたのは、指や腕だとゲーム通りに殺されて切断するだけで奪いやすくなるから。


 それに特殊なまじないでしか鍵をロックできないので、成りすましや偽者王女の身代わりを考えている暗殺侍女や間者でも、首に嵌めるために頭をちょんぱしてからくっ付けるなんて、物理的に無理だろうと考えてだ。


 言葉巧みにレポワソン王太子。名目上の異母兄。実際は血のつながらない男に、


『指輪だと簡単に抜けちゃいますよね~。あ~でもいくら自分が政略の道具としての奴隷だと理解してても、奴隷と同じ首輪だけは嫌だわ~御免被りますわ~』


 と、レポワソン王太子の虐めドS気質を大いに刺激してやった。すると


『いいや。貴様は奴隷と同じ扱いをするのが当然だ! それほど嫌がるなら、首輪を嵌めてやる! さぞかしクアトロファイア帝国の残虐な皇帝にかわいがってもらうがいいわ! わっはっは!! 』


 と、邪悪な笑顔でまんまとアリエスの作戦にひっかかるレポワソン王太子 ──






     *****


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