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1◆異世界に転生しちゃった様です?

漢数字の「一」(いち、イチ)ですが、マイナスなのか語尾伸ばし棒なのか使う機種の画面によっては判別しにくいと思い、使用する箇所によっては、あえてわざと「1」にしてます。他は気付いた限りは漢数字で書くようにしますが、普通の数字が混じって変でもごめんなさい。

◆異世界に転生しちゃった様です?


 ── なーろっぱ異世界の某星の、後に教えられるフォーリーヴス大陸西に位置するパイシーズ王国の王族の1人として、私ことアリエスと名付けられた不遇な王女は生まれたようだ ──



 吟遊詩人の男性と駆け落ちしたシュティア皇国の元姫だった母が、夫の吟遊詩人と歌姫として旅芸人一座とパイシーズ王国に滞在中、パイシーズ王国の国王イクテュエス・ブーツェス・パイシーズに見初められたせいで、吟遊詩人の男は刺し殺され、なかば無理やり手籠めにされて生まれたのが……アリエスだった。


 アリエスは生まれた時から既に前世の記憶があった。


 ただ前世の記憶と言っても、人格をそのまま引き継いだ人間ではなく、本を読んだり映像などを観ているような、経験してきた知識を利用できるだけの記憶なので、人格は生まれた環境とアリエスと名付けられた人間で形成されて行った。


 いつ死んだのかはわからないが、多分病気か何かで亡くなったようだ。病院らしい白い部屋とベッドとカーテンと何かの機械に囲まれていた。ただ、眠るように死ねたのか、苦しんだのかまでは判らないし、思い出せない。


 何歳だったのか。家族とは疎遠だったのか。孤児だったのか。結婚はしていなかったのか。あるいは病気のせいでできなかったのか。ただ所謂喪女世代だった気もするし。


 それから薬剤師か何かで、もちろん1人暮らしが長く、料理やお菓子作りがそれなりに普通程度には熟せたようだ。


 前世の名前は……だめだ、思い出せないけど多分、りえ、だったかも。


 初めは……


 ……あれ? 日本語と違う言葉みたい。日本語って何だっけ? とかから始まり。


 まあ、お母さんらしい人が、一生懸命に色々話しかけてくるから、それがこの世界の言葉で言語なんだろうな。


 お腹空いたー。はいはいミルクちょうだい。うー……いつか飯テロできるかな? 飯テロってなんだっけ? とか。


 パイシーズ王国ってどこ? 日本じゃないの? 外国のどこにあるの? とか。


 お母さまって、銀髪紫目なんだよね? 映画かドラマに出てくる女優さんみたいに綺麗だな? 女優さんって何だっけ? むしろ絵かアニメで描いたような美人だなー? アニメって何だっけ? アクエリアスって名前なの? どこの国の外人さん? とか。


 もちろん、お母様以外の人達にもたまに会う。


 国王と兄達と姉達らしい人。たまにお母様と私を虐めるために来るだけだけどね。嫌な奴ら。カラースプレー塗りたくったみたいに、紺だの紫だの緑だの黄だの。カラフルな髪色しちゃって。カラースプレーって何だっけ? とか。


 魔法ってあるの? 無いの? へえ、代わりにまじないがあるのか。


 俺TUEEEE~はできないのか。残念だな? とか。


 でもね、前世の記憶があろうと、そんな私も曲がりなりにも一国の王女達の内の1人なのよ?


 まあね。この国の王様イクテュエスであり父親だと思った男は、ほんと変態好色王で、王女だけで十三人も作ってる。


 妃は、紫髪の正妃、青髪や藍髪の側妃、緑髪や黄髪や茶髪の愛人、妾妃の母含め、七人もいる。先に説明したように、母親の髪色や、または瞳の色が似た王女が私以外に十二人いる。


 王子は、少なくとも王女の倍はいるらしい。王子たちの髪色は、母親より父寄りの髪色が多いみたい。紺とか紫とか青とか藍とか。国王が紺髪なのだが、それに近い髪色の王子達は母親の出身爵位自体が高いが、性格も能力も高いらしく、上位を占めてよく威張っているらしい。


 髪色や瞳の色が国王と遠い王子たちほど、他の上位の王子達の、良ければ側近か侍従。悪ければ下男や使い走りの下級兵士としてこき使われているようだ。休憩時間にお母様と私を虐めに来るのが、そういう底辺にいる王子達ね。


 瞳の色も母親から引き継いだ王子も多いけど、中でも国王と同じ冷淡に見える灰色の瞳を継いだ王太子は性格諸々最強だ。


 全員と会ったことはないし、会えば精神的か物理的に虐められるので、会いたくないし、会う気もないけどね。


 そんな中、お母様とアリエスは、他の王子や王女たちとは隔離された離宮で暮らさせて貰ってるようなので、他の兄姉たちと兄姉喧嘩する心配は少ない……と思う多分。


 末の十三番目の王女だから、王女だけで十三人もいたら、それは面倒見るのも嫌になるのだろうな。忘れ去られたように放置されてるみたい。


 母だと名乗るアクエリアス様と、母が歌姫の旅人としてこの国に来てから世話になり、乳母と称して面倒見てくれるルベリエがいなかったら、とっくにアリエスはのたれ死んでたかもね……


 ルベリエと言うのは、母と吟遊詩人の男性に限らず、大体の旅人がパイシーズ国に入った時に立ち寄る峠と王都内を繋ぐ中間にある宿屋の女将さん。旦那さんのクリオスさんとはとても仲睦まじく、二人とも庶民的な茶髪茶目の風貌で、人懐こくて人の懐に入り込むのが上手い笑顔の素敵なご夫婦達だ。


 母と吟遊詩人と国王との間に起きた出来事を知り、経営する宿屋から離れてまで母についてきてくれた。宿屋は、たまたま息子さん夫婦が子供を見せに里帰りしてくれたおかげで、旦那さんと息子さん家族の四人でなんとかするからと、女将さんが母についてきてくれるのを容認してくれた。本当に優しくて信頼のできる人達だ。


 そんなお母様とルべリエから、他の兄姉や自分と母を取り巻く環境とか教えてもらった。他にも、この世界の言葉や言語、常識、地理、礼儀作法など。必要最低限の知識や勉強を教えて貰った。


 そう言えば母から色々教えてもらっている時、歌姫として旅芸人だった母が、礼儀作法やマナーに何故とても詳しいのか疑問に思わなかったのだろう? 貴族の前で演ずることもあるから詳しいのかと思い込んでいたのと、前世の知識に引っ張られていたせいかな?


 後、母と乳母以外の使用人たちからも遠回しに虐められたけど。乳幼児期の私が、言語や言葉を絶賛学習しながら前世の記憶を引っ張り出しつつ、ほとんど喋らない温和しい変な娘だと使用人たちから侮られているおかげで、得られた情報もある。


 フォーリーヴス大陸は、字面でも想像したような四葉のクローバーみたいな形で四国で成り立っている。北側の葉っぱが東西より一回り大きめで、南側の葉っぱは北よりも更にやや大きめの地形らしい。


 それと、フォーリーヴス大陸の四国は各々そんなに大きな国ではなく、元々物凄く大きな一つの国で、思想や宗教や人種や資源で争っていた豪族たちが、四国に分かれて小国の集まりに変わったらしい。


 長い年月かけて住むうちに、肌の色や髪の色も別れたようだが、4か国とも使う言語と言葉訛りみたいなものはあっても、ほぼ共通らしい。


 アリエスが暮らすパイシーズ王国は、フォーリーヴス大陸西に位置し、森と湖が多く、資源はそこそこだが、職人やまじない師などの人材が豊富な国。肌の色は白に赤寄りっぽく、髪色は王族を始めとした紺など青系で濃い色が多く、逆に瞳の色は薄い者が多い。


 母と共に旅してた吟遊詩人の故郷のシュタインボック王国は、フォーリーヴス大陸東に位置し、資源に乏しいが、東と南は海に面していて海上貿易や船便でしか入手できないような珍しい品々が入手し易く、商人の出入りと技術や知識が多い国。北と西に高い山がある。肌の色は黄色寄りが多く、髪色も黒が多い。瞳は王族に近い血筋以外金や青が多い。


 髪色のおかげか日本人に近い外人みたいで、親近感が沸く。


 母の故郷のシュティア皇国は、フォーリーヴス大陸北に位置し、南側のほどではないがそこそこ広大な土地だが高い山で囲まれている上に年中大雪に悩まされている。しかし鉱山資源と密偵が得意な人材が豊富な国。肌は白く、髪も銀髪や水色など薄く、瞳も紫とか銀とか水色とか薄いのが多い感じ。


 ついでに三方の国に対峙する四葉の中でも1際強大なクアトロファイア帝国は、フォーリーヴス大陸南に位置し、軍事力の高い人材と、年中温暖で肥沃な大地により、穀物・農産物・畜産物が豊富な国。パイシーズ大国とは小高い丘を隔てて隣接していて、南はいくつかの島々と海に面している。肌の色は浅黒い者が多く、髪色は金髪から赤に近い髪色。瞳は赤が多い。


 ただ、どこの国の庶民も茶髪茶目が多いのは、色々混ざったから?


 父親譲りのアレキサンドライト色の瞳は、このフォーリーヴス大陸内のシュタインボック王国の王族だけの特徴なんだって。


 ……ん?


 ……あれ?


 ……と言うことは?


 ……イクテュエス王はアリエスの父親じゃない?


 ……なんてこった! ……ばれたらアブナイなんてものじゃない……


 だからアクエリアス母様から、常に瞳を隠しておくようにとよくよく言いつけられたのね。だからなのかな。なので長く伸ばした前髪で隠すようにしていた。


 兄姉に合う時は、用心して目を瞑ってやり過ごしたり、俯いたまま何とか誤魔化した。


 ただねえ。会う度に態度が生意気だってすぐ殴る蹴る。棒や鞭や扇子でぶたれるのは当たり前。例の下男や下級兵士にされた底辺王子たちからは、習いたての剣で切りつけられる……


 ……危ないだろ。死んだらどうするんだ。


 まあ大人しくしている分には、飽きてさっさと諦めて離宮に戻れるからね。


 だから、なんやかんやで兄達には会いたくないのだけれど。


 行事があるから? 王族は全員参加が鉄則です?


 とか言われて呼び出されそうになる時は、どうせ参加させてもらえないからと、仮病装って毎回断りまくり、できる限り逃げ回った。


 ……と言うか。ご飯すらも世話してくれる使用人も料理人も、少なくともお母さまに与えられるはずの品質維持費を横領してさぼって逃げたから。離宮周辺に生えてるその辺の草はもちろん、毒草や、残飯まで食べれそうな植物なら何でも食べてたからね。本当に熱出したり具合悪そうにしてたら、呼び出しに来た使用人も諦めて引いてくれた。


 母親譲りの銀髪も、碌なご飯食べさせてもらえないからね。くすんだ元気のない灰色みたいになってしまったよ、もったいない。


 まあ、ルベリエにお願いして、彼女から独立した子供達のお下がりや、同情した人から古着とか貰って、町の子供たちと似た格好して、ちょくちょく離宮抜けだしてたから。事情をよく知る人に、売れ残った食べ物や試食の食べ物恵んでもらって、母と分け合って食べたり、街の川や池で身体洗ったりしてたから。


 お母様も旅芸人として生活してたから。使用人の世話とかなくても自分のことは自分でやるという生活に、抵抗なかったみたい。でもこの時はまだ知らなくて、後から教えてもらって吃驚したのが元姫だったこと。


 うん。そんな私達だったけど、意外と何とかなるもんよね?


 それでも困ったのが成長してから着る服ね。前世知識があったので、そこらじゅうの古くなったカーテンとか敷布の予備とか、生活に不必要な布をアレンジして着てた。前世で裁縫もそれなりに普通にできてたからかな。


 十歳までは、そんな感じで生きていた。






     *****






 ある日、アクエリアスお母様が病気になって、国王たちからも無視されて、ルベリエが町医者を呼んできてくれたけど、町医者程度の腕では治せない病気だったらしく、あっけなく亡くなった。


 アリエスも手を拱いていたわけじゃないよ?


 町の図書館で調べたり、薬学商人や医者たちに拝み倒して薬を貰い知識を学び、前世の知識も駆使して教わってきたなけなしの技術で薬作って、なんとか症状は和らいだんだけど……眠るように静かに亡くなった。


 せめて苦しまずに亡くなったことだけが救いかも……


 葬儀はアリエスとルベリエと、宿屋を経営してるルベリエの旦那さんのクリオスの三人だけでひっそり行った。


 まあ一応王族だから、王族専用の墓には埋葬してもらったけどね……


 その母が亡くなる前に、


『知らせたい親戚とか祖父母や兄弟は本当にいないの? 誰にも助けを求めなくてもいいの?』


 かと、しつこく聞き出したおかげで、実は家出したシュティア皇国の元皇女だったと言うことを、やっと初めて聞かされたのだ。


 この世界には魔法はないけれど、手紙などの伝言は、飛脚ではないが馬に乗った郵便屋さんみたいなモノはある。速達に当る物は、鳥の早便と言われるモノがある。伝書鳩みたいによく訓練された鳥たちを使っていて、帰省場所を大体二か所覚えさせ、近い方に最初に向かうようにするとかで行き先を覚えさせるらしい。


 移動しながら戻ってくるように訓練する場合は、使う鳥によって目印になる人間を覚え込ませ、必ずその人に戻ってくるように訓練する。記号や絵や図形だと、間者に奪われるからね。


 ただ夜間は、特級の梟便やミミズク便を使う。陽が沈んだら普通の鳥便は使えないそうだ。あ。フクロウもミミズクって単語もあるんだ? どうやら、この世界の虫や動物や植物などの名称は、前世の日本の知識と同じで大丈夫みたい。


 母がシュティア出身だったと知り、無駄かもしれないけどルベリエと旦那さんのクリオスさんに相談すると、馬便で手紙を届けてもらうことになった。


 埋葬前にもらった母の遺髪の1部と、母がこれだけは、と故国を家出した時に持ち出したらしい宝飾品の中でも最後まで換金するのをためらい続け、どんなに食費や生活が苦しくなっても、とうとう最後まで手放さなかった家紋を象った古いブローチも一緒に手紙に入れた。馬便で母の故国のシュティア皇国とパイシーズ王国との国境の門番を通じて、伝言を届けてもらった。


 鳥の早便でも良かったけど、シュティア皇国の国境でも、寒さで鳥の翼が凍ることがあるそうなので、馬便にした。






 それから何か月か経って。


 シュティア皇国から、アリエスのお爺様、アクエリアスお母様の父親だと名乗るタウルス皇王という人がやってきた。会いに来るまでの期間が長かったのは、報せが届いたのが大雪の時期のせいで移動が出来ず、大雪期が過ぎたら今度は祖父自身が軽い流感にかかり、回復後移動できるようになったのが数か月後だったから。


 アリエスは会わせてもらえなかったが、アクエリアスお母様の遺体を引き取りにきたらしい。


 国王たちは手放し? で承諾したそうだ。


 でも実は……


 ……後でルベリエから聞いた話。


 タウルス皇王は、アリエスを引き取ると申し出たらしいが、レポワソン・ラケルタ・パイシーズ王太子が、アクエリアスお母様の遺体と引き替えならいいとか無理難題な条件出して、諦めざるを得なかったらしい。

 

 その時ルベリエが文句言ったら、解雇された。もう乳母は必要ないだろうと。


 この辞職の挨拶をしにきたルベリエが、お祖父様と王太子とのやり取りをこっそり教えてくれたのだ。


 おかげでアリエスは離宮でとうとうひとりぼっちになってしまった……


 ……十六歳になるまで……






     *****


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