プロローグ
(;^_^A 初めましての人、久方ぶりの人、閲覧ありがとうございます。ひっそりこっそりMLでの古い作品でお恥ずかしいですが多少頑張って手入れしたけど所詮この程度でした。それでもご興味のある人は読んでいただけたら嬉しいです。
◆プロローグ
【── 中世ヨーロッパ風? ……と言うか、多分? 古代ローマや古代エジプトとか中世スペインのようで、自分が知り得る中での何処かの城の雰囲気にとてもよく似た帝城内の一室 ──
何処かのお金持ちの貴族か、もしくは王族でもないと住めないような、百人くらいの人間が入れるような広い室内だ。
周囲の壁にぐるりと置かれたちょっとした高さの彫琢品や家具も、それなりの材木に名のある職人が手掛けた馬鹿にならない値段のモノを使っているのかな。
その部屋の穏やかな陽が射し込む窓際に、詰めれば四、五人で使える程度の質素な作りの長方形のテーブルが設えてある。
テーブルの片方の長い辺の上座に一人掛けのソファー。もう片方は二人掛けのソファー。
女性のメイドらしき人物が、一見質素に見える真っ白い陶磁器の西洋カップを卓上に二つ置いた。
メイド……侍女さんは手慣れた手つきで、お茶を適切な高さと温度でティーポットから注いだ。
二人掛けのソファーにいる女性は小さく縮こまり、緊張しているのか怯えているのか、下を俯いて震えているように見える。
小柄……どころか痩せ過ぎて、10代前半にしか見えない。これで本当に15歳前後だったっけ?
くすんだ灰色の髪を無造作にだらしなく腰くらいまで伸ばし、よく見ると長期間きちんと手入れされていないのか、枝毛や傷んで色がおかしい部位がある。前髪も腰まである後ろ髪と同じくらい長いせいで、顔が見えなくてどんな表情かわからない。
着ているドレスも何だか薄汚れて、着回しているのではないと思えるくらい生地が傷んでいるようだし、デザインもシンプル過ぎて上等な生地には見えない。宝飾品の一つも身に着けていないが、体面に座る人物の態度で、多少は高貴な身分の女性なのではないかと思える。
一人掛けのソファーには、高位の貴族様か王様みたいに偉そうな態度の20歳前半の男が座している。
服装はシンプルで黒を基調とした衣装だが、絹とか高級な生地に、よく見ると金や銀で小さく細かい刺繍が施されている。装飾品は複雑に編まれた金鎖のネックレスと、玉璽を兼ねた左手中指の指輪のみ。左腰に長い剣を細かい意匠の鞘に納めて帯刀している。
癖のある金髪を無造作に肩まで伸ばし、赤い目を鋭く光らせて西洋カップに入ったお茶に手をつけようとした。
口に着けようとした途端、唇についた味の感覚か匂いだけで判断したらしく、一瞬驚愕したように目を軽く開いた後、苦虫を嚙み潰した厳しい表情に変え、肩を怒らせてすっくと立ちあがって女性を睥睨した。
『── やはり貴様、俺を謀っていたのか!』
部屋は、帝国の第五側妃となった王女が後宮に宛がわれた室内。
放置されていた彼女だったが、数か月ぶりに皇帝陛下と対面できたお茶会だった。
数か月ぶりに会えたと言うのも、王女に関する酷い噂のせいだ。
噂と言っても、全て自分に無理矢理付けられた侍女や、他の四人の側妃たちや、彼女たち付きの使用人達が流しているモノだったが。
1つ、陛下からの贈り物に礼も言わない……らしい。
しかし贈り物を貰っているはずだといくら言われても、贈り物どころかメモ書きの一つすらも一度も貰ったことすらないのに、何故そのような嘘でいわれのない誹りを受けなければならないのか。
1つ、陛下からの月に一度のお茶会や食事会に、病気だと偽って出席しない……らしい。
これも一度もそのような伝言どころか、招待状も手紙すらも受け取ったこともないのに。どうして皇帝陛下の侍従から、忙しい合間を使って時間を空けたのにと言われて文句を告げられなければならないのか。
1つ、後宮を抜け出しては、男兵士や下男と遊び回っている……らしい。
それすら、祖国からの監視に付けられた侍女のせいで、一度もこの部屋から出ることも叶わず、皇帝陛下の許可を取ろうにも女官長たちに何度頼んでも
『陛下はお忙しい身でございますから』
の返事だけで取り次いですらもらえない。
結果、息を潜めるように静かにひっそりと暮らしているのに?
それに皇帝陛下と一度も閨を共にできていないのに。他の男の先に触らせるわけ……否。むしろこの国に来るまでの事故を知られてしまったら……きっと陛下にその場で斬り捨てられていただろう。だから、知られないままで嘲笑されているだけなら、まだましなのか。
1つ、他の側妃達を虐めている……らしい。
逆に私の部屋の前に、汚物や動物の死骸などがよくぶちまけられているのですが?
1つ、料理人たちに我が儘ばかり言って、食事を何度も作り直させている……らしい。
蓋を開けるといつも、虫入りやら動物の死骸やら、腐った食材やらカビの生えたものやら捨てるだろう切れ端などがお皿にのっているのですが? たまに真面そうな料理であっても、泥水や砂などで料理を無駄にされているのですが?
王女はどの噂について陛下から言及されて叱責されるのだろうか。それとも全てについて? いや中でも例のあの事故の件でだったとしたら?
と、眼前の皇帝陛下が何について怒ってるのか訳が分からなかった。
しかし皇帝陛下が怒鳴った原因は、王女が危惧したそのどれでもなかった。
王女付きの侍女の手によって配られたお茶を皇帝が飲む寸前、お茶に仕込まれた毒に気付き、傾けたカップからお茶を床にわざと零しながら、悪意のある笑みを浮かべた。
それで冒頭のように突然怒り出した皇帝陛下は、後宮において唯一帯刀を許された身であるが故に、腰に差していた剣をいきなり抜刀して、テーブルと共に王女の左肩から右腰に向かって斬った。
政略だけの関係とは言え、皇帝に斬り殺される王女。
王女は驚愕して倒れる寸前、前髪から覗く景色に、皇帝陛下の後ろで口元を隠しながらにやりと邪悪な微笑を浮かべる侍女を見てしまった。
『── そんな……私は何もやっていないのに ──』
王女は信じて欲しかった……いや、閨を共にしたら何れは斬られていたかもしれないのだから。
毒を盛ったかもしれない罪程度で殺されるなら幸いかも、と枯れていたはずの涙を一滴こぼした。
……ああ、それでも……
……そんな冷徹な皇帝陛下でも、何と凛々しく素敵で格好良く見えることよ ──】
*****




