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16◆二十五年の時を隔てて……アリエスの真実?

◆二十五年の時を隔てて……アリエスの真実?


 ── カプリコは、パイシーズ王国側がクアトロファイア帝国に冤罪をなすり付け、同盟を破棄せざるを得ない状況に追い込む計画を知り、これを見事阻止した。


 カプリコのこの行動のおかげで、前世ゲーム上でアリエスが捨て駒として殺される原因の死亡フラグが全て潰えたのである ──






     *****






 更にカプリコは、赤毛のかつらを被った旅人としてパイシーズ国内に入り込み、宿屋を営む夫婦、女将のルベリエと旦那のクリオスから、密輸商人の情報と同時に、


「── あら。そう言えば、あんた不思議な瞳の色をしてるねえ。そうそう。あんたと同じ瞳の色をした人は、アリエス王女様以外にはもう一人いたわねえ」


 と言われた。急いでいたためと、雑多な旅人が立ち寄る宿屋なら瞳の色が多少珍しくても気にされないだろうと油断して、偏光眼鏡を掛けてこなかったおかげか。


 え!?


 それはいつ?


 何処で?


 どのような人でしたか?


「なんでそんなに食いついて聞きたがるんだい。おかしなお人だねえ」


 女将のルベリエは笑って誤魔化そうとしたが。


 もしかするとその人は自分が探してる人かもしれない。自分の叔父が二十五年前に行方不明になって、ずっと探しているんだ。その人じゃないかもしれないけど、どんな情報でもほしいんだ。


 と、本音をブチ撒ける……と。


「うーん……関係ない話かもしれないけれどね……あんたのその探してる人かどうかわからないし……でもあの方と同じ瞳の色をしているのも確かに何かの縁かもしれないねえ。ただし、これから話す話はここだけに留めておいてほしいんだ」


 カプリコは大きくうなずいて快諾すると、話の先を勧める。


「アクエリアス王妃様に最初に会ったのは二十年位前だったかな。当時は旅芸人一座の歌姫の格好をして。そうそう。旦那さんの吟遊詩人のライヴラと名乗る、その方があんたと同じ綺麗な瞳の色をしていてね。旅芸人一座の人達と一緒に歌使いのご夫婦として有名でね。


 旅芸人一座の皆様がこの王国に立ち寄る際は、必ずこの宿を定宿として利用してくれてね。ホントに懇意にしていただいたんだよ。


 それが……十六年くらい前の出来事なんだけどね……アリエス王女様がお生まれになる年のことなんだけどね……


 再度旅芸人の皆様がこの国に立ち寄ってくださってね。もちろん、歌姫と吟遊詩人のご夫婦もね。


 アクエリアスさんは既に妊娠二か月目に入ってつわりが始まっていたようで。他の一座の人達は、急ぐ旅ではないし二人には歌でとてもよく稼がせてもらった。たまにはゆっくり休みなさいと、先に出立された。


 残ったお二方には、あたしが腕によりをかけて妊婦の奥様の為に食べやすいものを工夫をこさえて提供していたんだよね。


 だがねえ……歌姫だと評判の美貌と容姿がパイシーズ王のお目に留まってしまってね……


 連れ去ろうとするアクエリアス様のそのすぐ後を吟遊詩人のライヴラ様が追ってね……


 アクエリアス様を、連れ去ろうとするパイシーズ王に


 『ええい、鬱陶しいわ! 離れろ下郎が!!』と、心臓を突かれて刺し殺された上に、


 『わはは。好いた男の前で抱かれるのはさぞかし気分がよかろうよ』と、アクエリアス様はご主人の遺体を前に抵抗したんだけどね……手籠めにされたんだよ、何と惨いことだろうね。


 それを、たまたま街に仕入れをしに出てたうちの旦那のクリオスが目撃しちまってね……ああ。今旦那は裏で調理で忙しいけど、必要なら後で呼んで来ようかい?


 それからアリエス様がお生まれになったんだけど。側姫とは名ばかりの妾妃としてアクエリアス様は扱われてね。それを風の知らせで聞いたあたしは、旦那に相談して乳母としてお城に上がり、蔑ろにされて離宮でお暮しになってるアクエリアス様と、王女とは名ばかりの扱いを受けてらっしゃったアリエス様のお側に仕えることにしたんだよ。


 ただアクエリアス様は、アリエス王女様のことだけは、ずっと早産だっただけだと言い続けて庇っていたらしくてね。でないとあの鬼畜兄や王たちに、アリエス様まで手籠めにされてたに違いないよ。ええ。不敬だなんて構いやしないよ」


 乳母にまでなった女将ルベリエは、確かにアクエリアスが亡くなるまでは最後までアリエスの味方になってくれた。


 ただアクエリアスが亡くなると、アリエスは自身でなんとか身を守れる程度に(前世の知識を駆使していたことは誰も気づかないが)成長していたから、それ以降のことは風の噂でしか知らないと。


 ただカプリコは、女将ルベリエの証言から、アリエスの真実と叔父の最期が判ってしまった ──






     *****






 折を見て従妹アリエスと対面する機会を得たカプリコは、自分の正体を告げることに決めた。


 もちろん二人が対面する接客室のテーブルからやや離れて、アリエスの後ろに立つ、皇帝扮する護衛騎士風レオンが睨みを利かせながらであるが。


 何しろこの護衛騎士リコは、記念式典でアリエスにべたべた触っていたし(ルリオンの思い込み補正)、二度のアリエス誘拐劇でも、何故かアリエスの後ばかり付け(ルリオンの嫉妬補正)ていたが、結果的には仕事熱心なだけだとわかり、事件解決に貢献したので見直しはした。


 しかし、アリエスに対する態度や気配りの様子がどうしても気に入らなくて、アリエスと二人きりで何をするのか、自身が同席して見極めようと疑ったのだ。


「申し訳ありませんが、アリエス第五側妃様。完全なお人払いをとお願いしませんでしたか」


 アリエスも、前世ゲームでお気に入りだった人物の、しかも本物から二人きりで内密に何を話したいと言われるのか。告白だったら、皇帝陛下がいるから無理だと断らないととか、違う意味で緊張しながらリコの内密の話を受け止める覚悟で臨んだ。


「ごめんなさいね。ルリオン……皇帝陛下がどうしても二人きりは許さない。護衛騎士を絶対に1人はつけろと厳命されるものですから。


 ですがリコも知っての通り、レオンの人柄は良く分かっているはずじゃありませんか。一緒に事件解決のために協力し合ったお二人でしょう?


 ですから大丈夫ですわ。レオン護衛騎士様は、政治的な判断が必要な場合や内密にしなければならない会話は決して口外しないとお約束できますし、本当に口が堅くて信頼のおける人だとリコも理解しているはず。


 どうしても気になるのでしたら、ただの壁の飾りだとでも思ってくださればよろしいのです。うふふ」


 その通りだとレオンは大きく頷き、騎士の礼をカプリコに向けた。


「そうですか……では、アリエス第五側妃様だけいるものとして告白したい義がございます。


 自分は側妃様方の輿入れに伴い、急遽採用された護衛騎士の一人リコとして名乗って参りましたが、実は……


 ……実は自分は……


 シュタインボック王国の第三王子……とは名ばかりの妾妃の息子であり、カプリコ・アクイラ・シュタインボックと言うのが自分の本名であり、真実の姿でございます。


 それと恐らく、自分が姿を偽ってまで調査した中で、アリエス第五側妃様は……もしや自分の従妹ではないかとも疑っております」


 そう告白しながらリコは……カプリコはかつらを取って地毛の黒髪を晒し、偏光眼鏡も外してシュタインボック王族特有の瞳を晒した。


 レオンも彼を採用する際、さすがによく出来た偽造の身元確認証を見抜けなったばかりか、今まで何度も共に事件解決時に尽力してくれた人間だっただけに、まさか隣国の王位継承権を放棄しているらしい王族の1人だったとは思わなかったのだろう。一瞬驚愕した表情を見せた。


 アリエスの方でも。


 リエとして変装したことがバレて、何かとんでもない要求か脅迫でもされるのか? でも正義感の強い主人公だから脅迫はないよな。とか違う意味で身構えていただけに、まさか正体を打ち明けて来るとは思いもしなかった。


「本当に……騎士リコ様は、シュタインボック王国の第三王子、カプリコ・アクイラ・シュタインボック様だったのですね。  


 以前は、誘拐された私の救出を手伝ってくださって誠にありがとうございました。ずっと直にお礼がいいたかったのです。


 それと、おっしゃる通りです……


 ……実は……


 カプリコ様に隠していたことがございますの。私は今際の際の母や、乳母であったルベリエの様子から、本当の父親がシュタインボックの王弟だと言う真実を知ってました。


 改めて初めまして。私の嫁入り前の本当の名は、アリエス・シュティア・シュタインボック。


 ですから……カプリコ様にとって本当の父とは叔父と甥の関係であり、私とは従兄だということも……」


「えっ……そうだったのか……」


(本当はゲーム知識からだけどね。それに母は、ラヴァロンスをシュタインボック王家の落胤かもしれないと思っていたかもしれないし。これくらいは許されても、もういいよね。創世神様)


 ルリオンは、アリエスのアレキサンドライトの希少な瞳は、両親のどちらかから継いだと推測はしていた。それが先のルサジテールとの会談で、母親がシュティア皇族だったなら、では父親の血筋だろうなと。しかし考え付いたことと実際に告白されるのとでは違うようで……


 おい! 母親の話は聞いたが、父親まで他国の王族とは聞いてないぞ。


 ごめんなさい。ルリオン……あとでお叱りは受けますから。


 それからカプリコは、アリエスの本当の父親である吟遊詩人ライヴラと言う名前は、王弟ラヴァロンス・ペガスス・シュタインボックが市井に町人の振りをして出た時によく使っていた名前だ。と教えてくれた。


「ところで、従妹と判ったところでアリエス第五側妃様……いや。アリエス。貴方の侍女のリエ殿から話を聞いたことがあるが。たまにお使いになっていると言う母君の形見の手鏡を、今もお持ちであろうか?」


 母の形見の手鏡……と言っても、持ち歩くのに支障のない小さな大きさのコンパクトなので、胸元に下げたお守りのような巾着からそれを取り出した。


「壊さないようにしますので、鏡を見せてもらっても? それと。顔をよく見せてもらってもいいだろうか?」


 リコが椅子から立ち上がってアリエスに近づいたが、レオンは従兄が相手なら大目に見てやろうと軽くアリエスに目配せした。


「? あ。はいどうぞ」


 カプリコはアリエスを威圧しないように跪いて見上げると、感慨深げに前髪をよけて素顔をさらしてくれたアリエスを見て、納得したように頷く。


「思えば……


 この顔だけでもよかったのだ……


 瞳だけでなく、これほど要所要所に叔父上を彷彿とさせる面影があるのに……


 なぜもっと早くに気付いてあげれなかったのだろうか……


 それに、この手鏡……ああ。やはりそうだ……


 其方の母君の形見と言うだけではない。


 元々は叔父上が母親の先代の王后から、いつか一生を共にしたい伴侶が出来た時に渡しなさいと譲り受けた、夫となる男性から妻とする女性に渡す風習の鏡。其方にとっては本当の父君の形見でもあるのだ。ほら、蓋の模様の中に王家の家紋と先代の王后の実家のぺガスス侯爵家の家紋が紛れ込んでるだろう?


 何しろ、自分も同じものを持っているからね」


 そう言うとカプリコは、懐の隠しポケットから王家と母方の実家のアクイラ子爵家の家紋らしい模様の入った蓋つきのコンパクトを出して見せた。


「それにこれが魔鏡だったことは教えてもらえなかったか、知らなかったようだね」


 確かに。


 カプリコが自分の鏡に光を反射させると、若きアイゴケロス王とカプリコの母親らしき女性と、幼いカプリコの姿が壁に映った。


「もちろん。其方のも」


 カプリコがアリエスの手鏡の蓋の模様を確認し、鏡に光を反射させたら、若き先代の王と王后と、おそらく幼いアイゴケロス王太子とラヴァロンス王子の姿が壁に映ったのだから。


「ずっと隠し続けているのは辛かったであろう? もう泣いてもよいのだぞ」


 鏡を返してくれたカプリコが立ち上がると、本当の妹か娘にでもしてやるかのように、アリエスの頭を優しくなでて微笑んだ。


「!」


 その一言で……


 ああ……


 そうだ……


 そうだったのだ。


 私は……


 母が亡くなった時も……


 従弟に会えた時も……


 自覚してなかったのだ。


 もう……


 泣いていいのだと……


 カプリコ様は堰を切ったかのように涙するアリエスを優しく抱擁すると、自らも静かに感涙に咽び泣いた。


 レオンも今回だけはお互いに隠していた素性をやっとさらけ出すことができたわけだし、異性だが従兄として胸を借りるのは構わないかと、数奇な二人の出会いに感動したようだ。


「……戦が終わったら……パイシーズに眠る父を祖国に帰してあげてくださいね?……」


 約束しよう。とカプリコ様は静かにつぶやいた。

 

 レオンも、二人の約束が1日でも早く叶えられる様に俺も尽力すると、二人に確約した。







 なにはともあれ、見つけたどんな証言よりも……先代の王后から息子のラヴァロンスに譲られた手鏡の件でも充分だが、何よりもアリエスのその容姿と瞳が一番の証拠であると。


 そう、アリエスの容姿は、美姫と謳われた母親のアクエリアスから受け継いだだけでなく、本当の父親であるラヴァロンス・ペガスス・シュタインボックもまた、美形だったと評判の王弟であった。その彼からも受け継いだ容姿だったのだから。


 父親が、アイゴケロス・ペガスス・シュタインボック王の王弟であり、アリエスはその娘であることが証明されたのだった。


 そしてラヴァロンスを殺したのがイクテュエス王であり仇だと。


 やっと、身内だったのだと打ち明けあった従兄カプリコや従弟ルサジテールを介して、シュタインボック王国だけでなく、シュティア皇国にも、本当の父母の事もアリエスの出生の真実も知らせることができたのである。 






     *****






 ── 戦争締結後の話になるが。


 ライヴラと名乗っていたラヴァロンスの墓は、目撃していた宿の旦那クリオスが丁重に、しかし隠すように密かに埋葬してくれていた場所にあった。


 アイゴケロス・ペガスス王以下、王の妻で金色の瞳のルトロ・エクレウス王后、息子のルキャプリコルニオ・エクレウス王太子、青い瞳のシュチェ・グルス王太子妃、ルヴェルソ・カネスヴェナティシ第二王子、カプリコら自らその地に赴き、ラヴァロンスの遺体を手厚く掘り起こすと、二十五年以上の時を隔ててやっと、祖国へ帰すことができた。


 またシュティア皇国に断りを入れ、アクエリアス妃の墓を移転することを承諾させた。


 タウルス・モノセロス・シュティア皇王自身も、


『生前に無理矢理死に別れさせられたのだ。死んでまで引き離すことはなかろう』


 と。


『但し最低でも年に一度は墓参させてほしい』


 という条件をつけて。


 こうして十六年以上の時を隔てて引き裂かれた二人が、やっと同じ墓に眠ることができたのである ──






     *****






 「── この無能者めが!」


 つい本の数刻前まで。


 早すぎる祝杯を掲げようと、取って置きのワインを注ぎ入れたお気に入りの銀で意匠がされたグラスを、さあいざ飲み干そうとしていたパイシーズ王国の王太子レポワソンは、怒りに燃えて床に叩きつけて粉々にした。


 その冷酷な灰色の瞳を、更に底冷えするかのような冷たく光らせて、報告者を睨みつける。


 帝国内に潜入させているスパイからの情報で、異母妹アリエス殺害計画が悉く潰えたこと。のみならず、クアトロファイア皇帝側から和平条約を破棄させ戦争を発起させるのも不成功に終わったこと。 


 それだけではない。


 更にシュタインボック王国、シュティア皇国との密約も。ディデュモイ侯爵やヴァルゴ辺境伯を言葉巧みに抱き込んだまではいいが、彼らの暗躍が露見したことで上手くいくどころか、逆に帝国側に有利に働くようになったこと。


 さらに。


 ディデュモイ侯爵と協力して、クアトロファイアの兵士が国境を越えて小競り合いに見せかけた死体を利用し同盟を破棄させる計画まで、何者かに阻止され、依頼した盗賊はクアトロファイア側に捕らえられ、パイシーズ国の仕業だとバレるのも時間の問題だろう。


 ということなどを、臍を咬むくらいに知らされたせいである。


「── いいや……まだだ……最後の手段が残っているではないか」


 しかし、謀略に関しては右に出るものがいまい、と自負するレポワソンである。ただでは転んで起きないらしい。


 にやりと邪悪な微笑を浮かべると、帝国内に潜入しているスパイに、すぐさま命令を下すように告げた ──






     *****


おおお? 何と! 自分で書いておきながら全然気づかなかった『最初の死亡フラグ?』に出てたあの小道具が……実はここでこんな形で役に立つとは……作者も吃驚! ってアホ過ぎだろう(汗。前回R18版ではホント全く無視して活かし切れておりませんでした……トホホ……生きのびたいタイトルに偽りありでしたかねい。

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