15◆アリエス最後の死亡フラグ回収?
◆アリエス最後の死亡フラグ回収?
── 後に、第三側妃だったジェミニ・トクソテス・ディデュモイ侯爵令嬢は、証拠や情報を集める途中でカプリコとの仲が急接近し、アリエスを虐めていたという名目で第三側妃を返上。皇帝から下賜され、カプリコ・アクイラ・シュタインボック第三王子に嫁ぎ、シュタインボック王国との同盟の橋渡し役として貢献することになる ──
── 後に、第四側妃だったラヴィエルジュ・レプス・ヴァルゴ辺境伯令嬢は、父親の密輸や内乱、アリエス殺害未遂の証拠を集める途中で、シュティア皇国の辺境と商人を取りまとめている第二皇子ルサジテール・コロンバ・シュティア辺境伯に見初められたが、ラヴィエルジュ嬢は侯爵令嬢と同じくアリエスを虐めていたという名目で第四側妃を返上。
皇帝からルサジテール辺境伯に下賜されて、婚姻後シュティア皇国の辺境伯夫人となって、帝国で皇国と国境を女性ながらも豪快に守るユングフラウ辺境伯夫人を介して、帝国との同盟に一躍貢献した ──
*****
── 原作ゲームでは。
既に殺されているはずのアリエスだったが。
現世界では。
アリエスが前世でこの世界にそっくりな物語の出来事を知り、生きのびたいがために皇帝の思惑と違う行動ばかりするので、寵愛まで受けた。
しかしそのせいで、ヴァルゴ辺境伯のスパイで、貴族派のヒュドロコオス子爵以下数名の文官と、男爵以下兵士たちに、アリエスの存在が自分達の今後の計画の邪魔になり、また逆に皇帝を失脚させるいい脅迫材料になるのではないかと、目を付けられてしまったようだ。
首都に、商人として本物の商人たちと同行して入り込んだルサジテールは、調査する途中で闇の取引があるという情報を得て、入り込んだ建物の中で殺されそうになっているアリエスと、一見シュタインボック王国の兵士に似せた制服を着せられた男の死体を発見したのだった。
アリエスにとって二度目の今回の誘拐では、シュティア皇国人(実は、パイシーズ王国人)の振りをしたフィシェと名乗る人物と手を組んだヴァルゴ辺境伯が、シュタインボック王国の兵士に化けさせた捨て駒の傭兵とアリエスを、駆け落ちに見せかけて殺害する計画寸前だったが……
今回は、従兄カプリコ扮する騎士リコと、皇帝ルリオン扮するレオン、更に従弟ルサジテールまでもが手を組んで無事救出してくれたらしい。
おかげで、アリエスを害そうと剣を首に突き付けたヴァルゴ伯は、その場で捕らえられ、宰相の厳しい尋問と、薬学師の才能を見出されて皇帝に薬学所で働くように大抜擢されたルカケルが、最近アリエスが発見した薬草から更に研究を進めて作り出した自白薬で、陰謀が露見することになった。
更に。
今回の騒ぎのおかげで、ヴァルゴ辺境伯をはじめとする貴族派たちの悪行が次々と明るみに出るきっかけにもなった。
一連のアリエス誘拐暗殺未遂事件の時に、皇帝扮するレオンの怒りが爆発。
『おれの……俺の大事な側妃をよくも……下らんことに巻きこみやがって!』
ラヴィエルジュ嬢とルサジテールらにも協力要請。もちろん皇帝に忠誠を誓う『影』など、使えるもの全て利用し、貴族派の密会の場所を強襲。
そこに、ヴァルゴ辺境伯がシュティア皇国から鉱石を密輸していた証拠書類の押収もなされ、闇の商人も確保。
見つかった証拠書類、証人らから、今回捕まったヴァルゴ辺境伯や文官たち、兵士たち以外にも、貴族派全員を、アリエス殺害未遂、内乱未遂、シュティア皇国の鉱物密輸の下手人として捕縛連行。
これら一連のことを、アリエスの祖父であるタウルス皇王も当然、見逃す理由もない。
全面的にクアトロファイア帝国に協力し、盗掘・密輸・密売されただろう鉱石の正確な情報などを、サジタリウス王太子からルサジテールを介して惜しげもなく開示提供してくれた。
それだけではなかった。ヴァルゴ辺境領地でこもっていたと思われていたユングフラウ辺境伯夫人も、実は独自に夫の悪事を調べ上げ、娘でありながらもラヴィエルジュ嬢自らも証拠を開示して父親を糾弾。
シュティア皇国、ヴァルゴ辺境伯の妻であり皇帝の叔母であるユングフラウ辺境伯夫人及びラヴィエルジュ嬢、皇帝ら三方向から睨まれ、ユングフラウ夫人からは離縁、爵位を剥奪後、宰相の判断では恐らく永久に国外追放の判決だろうとなるはずが……
『アリー……俺の大事な側妃が暗殺未遂で済んだから、結果的にはそうだろうが。処刑しかなかろうが!
さらに国際問題に発展しかねない、友好国の鉱石を掠め取っていたのだぞ。下手すればシュティア皇国との関係を悪化させたかもしれないのだからな。
おまけに、シュタインボック王国にまで濡れ衣を着せるつもりでいたんだ。三国揃って戦争に突入するところだったぞ!
しかもシュタインボックに似せた偽者兵士と駆け落ちに見せかけようとしただあ? 俺のアリーがホイホイ俺以外の男についていくわけがなかろうが!』
の皇帝の声で、処刑後、表向きは他国の特産物を盗んだ見せしめとして、シュティア皇国方面の辺境の砦の上に、シュティア皇国側から、
『もういい。気は済んだ』
と打診されるまで、数か月ほど晒し首にされた。
長年連れ立ってきた、仮にも夫だった元ヴァルゴ辺境伯に対しての所業としてどうなのかと、宰相がユングフラウ夫人に確認したが、さらし首の提案をしたのが何と、ユングフラウ夫人自身だったと教えられて、豪胆な夫人だと宰相は冷静に返した。
『長年連れ立ってきたからこそ。元夫を甘やかし、手綱を緩め過ぎたのだと。私自身への戒めと反省もこめているからなのよ。
元夫になったとは言え、愛人は作らず、一応私一筋ではいてくれたのだから。私と大好きな辺境の地にいられて満足でしょう……』
これを聞いた宰相だけでなく、世の男性たちは、妻の愛情とはかくも深く男では理解できない域で、怒らせたら恐ろしいのだと心に刻んだ。しかし皇帝だけは
『ユングフラウ夫人の想いに感動した。男女の仲とは確かに死んでも想い続けることだと。そうあるべきなのだろうが、俺はまだまだその域までには至っておらぬなあ……生きてきた経験が違うからなのか』
とひとしきり感心していた。さすが国民を背負う皇帝は、覚悟が違うのだなと宰相は見直した。
他の貴族派たちは、直接的に協力したのはアリエス誘拐時の手引きだけで、それ以外は率先して加わったわけでなく、金銭的に脅迫されて嫌々ながらも共犯者にされた者もあったので、爵位を落とされるか領地や私財を取り上げられるか、規模を縮小させられるかなどで死罪だけは免れた。
彼等の内、既婚者たちは、妻に長年頭が上がらなくなったとか。
しかし、シュティア皇国人(実は、パイシーズ王国人)の振りをしたフィシェという人物にだけは逃げられてしまった ──
*****
「── ルサジテール殿下とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
どうしても二人きりではだめだ! と言明する皇帝扮するレオン立ち合いの元、アリエスは従弟でもあるはずのルサジテールと対面していた。
もちろん、レオンの後ろ、商人ジュゴスが用意してくれた商会の部屋の入口には二人の男性も立っている。片方はルサジテールが信頼する側近であり自身も爵位持ちだが商人のが気が楽だと豪語するジュゴス、もう片方は皇帝が最も信頼する宰相扮するどこかのいいお坊ちゃまである。
「今さら、何を遠慮することがあろうか。パイシーズとの国交問題がなかったら、僕ももっと早くに、ずっと従姉にお会いしたいと思っておりましたから。
伯母上の葬儀の時に遺体を国に返すのでさえ、大雪の季節で遅れてしまい、やっと叶ったのは僥倖であったとは思うけれどね……」
アリエスにとっては、本来生きてないはずの未来の時間に、やっとここまで漕ぎ着けたかと感無量である。
「……もうこれ以上、隠しておく必要はないかもしれませんね……いい潮時です。この際母の真実を……ここにいる方々に知っていただこうと存じまして。これからお話する内容は、真実嘘偽りないことを、この世界の創成神様に誓います ──」
── アリエスの告白に、ルサジテールのみならず、レオンも、ジュゴスも目を見開いて吃驚したようだった。レーヴェ宰相は冷静に表情を殺している。
アリエスが静かに、母アクエリアスが死の間際まで秘匿し続けたアリエスに関する出生の秘密と、本当の父親の死に関する真相を話し終えた時、ルサジテールは涙せずにいられなかった……
しかし未だこの時点では、父親がシュタインボック王弟でなく吟遊詩人のライヴラと言う男だったとしか話せなかった。母親がライヴラの正体を匂わせる言はあったが、母から彼の正体を知っていたとはっきり聞かされたことがないし、最期まで教えてくれなかったから。
例え前世のゲーム設定から知り得た情報でも、今世では母親から告白されてはいない。
それにアリエスの特殊な瞳だけで、本当の父親が現在のシュタインボック王族の兄弟か叔父か甥の誰かか。確かに血族だと証明できる手立ても方法も判らない。現在のアイゴケロス王に覚えがなくとも、王族たちの先祖だった誰かの落胤による系譜から生じたと言われたらそれまでだ。
「……そうだったのか……ああ、何と言う事だ! 伯母上には気の毒であったな。そのことがもっと早く判明してたらシュティア皇国から直ぐにでも会いに行ってたのに……
言われてみれば、何故、君が予定よりも早く生まれ過ぎたのかという噂を耳にした時に、もっと早く調査しに行かなかったんだろう……今更だけどね、全てが悔やまれるよ」
「いいえ殿下。もし真実が判明したとしても……多分パイシーズ王やレポワソン王太子がお許しにならなかったかと思います。
……母の葬儀はとても王妃としても、側妃としても、扱われるようなものではありませんでしたが。
立ち合ったのは、母のことを誰よりも真実慈しむ私と乳母だった人と、その旦那さんだけで十分でしたし。大雪の季節でシュティアのお爺様が駆け付けるのが遅かったとはいえ、祖国の土に戻すことは叶ったのですから……」
従弟として抱きしめても構わないだろうか? とルサジテールはその場にいる全員……特に厳しい目を向けるレオンに断ると、14年の時を得て、やっと出会えた従姉を抱きしめて慰めるのであった……
アリエス救出劇と、ヴァルゴ辺境伯の顛末後。
ルサジテールを通して、シュティア皇国への橋渡しを頼み、皇国の祖父であるタウルス・モノセロス・シュティア皇王や、従兄のサジタリウス・リンクス・シュティア王太子に、アリエスの母アクエリアスが死の間際まで秘匿し続けたアリエスに関する出生の秘密と、本当の父親の死に関する真相。イクテュエス・ブーツェス・パイシーズ国王が本来の父親とは違う全く赤の他人であるという情報を流してもらい、パイシーズ王国を滅ぼすそうと帝国もシュタインボック王国も動き出す覚悟を見抜いた。
が、シュティア皇国には、ゲームと違う意味での傍観をするように密かに頼んだ ──
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── 今回のもう1つの事件。
レジェモ嬢の毒殺騒ぎのおかげで、ツヴィリング・ウルサ・ディデュモイ侯とディデュモイ侯爵家の悪行が次々と明るみに出るきっかけになったようだ。
一連の毒殺未遂事件の際に、宰相と共に騎士として潜入してたカプリコが、一歩間違えば友人の命がなくなっていたじゃないか、と憤慨。
侯爵家内に金髪のかつら被って貴族出身のうだつの上がらない何番目かの令息に見える使用人として上手く潜入し、重要な密約書類と密輸取引の商人を確保した。
この際、身分など色々調べられそうになったが、レジェモ嬢の件で一時帰宅しにきた、ジェミニ嬢が機転を利かせて、
『私の信頼する友人の兄ですの。これ以上の保証がありまして?』
と庇ってくれたおかげで、事なきを得たらしい。
だが後で、
『髪色が違いますが、帝国城では騎士の格好してませんでした?
……まあよろしいわ。どうやら私たち、二人とも共通の目的があるようですから。邪魔しなければ協力して差し上げてもよろしくてよ』
と鋭い指摘があったらしい。
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宰相も手を拱いていたわけではない。
今回のアリエス及びラヴィエルジュ毒殺未遂のことが皇帝の耳に既に入っており、厳しい叱咤の後、独自のルートと、皇帝に忠誠を誓う『影』など使えるものは全て使った。
潜入調査していたカプリコが協力者として流した情報と、見つかった証拠書類、証人らから、侯爵邸を急襲。
パイシーズ王国のスパイとして入り込んだ自称外交大臣フィシェと侯爵とは密約を交わし、帝国内に麻薬や毒草などを密輸し流した上で、帝国内の情報を逆にパイシーズ王国に流していたこと。
ジェミニ嬢の両親とレジェモ嬢たちは私財を肥やして、ジェミニ嬢を皇妃にした後、レジェモ嬢を側妃として後宮入りさせた暁には、どちらかに生ませた子供に皇帝位を早々に継がせ、皇帝もろともジェミニ嬢を暗殺。
側妃になったレジェモ嬢を皇妃にすげかえて帝位簒奪か。周辺国と結託して後ろ盾になってもらうか。国を売って一度滅ぼしてもらい新帝国の新皇帝になろうかと画策していたことが判明した。
帝国を転覆させる謀反を企んだことで、いくら皇帝の叔父とはいえ許されるはずもなく、爵位返上の上で侯爵夫妻は処刑され、レジェモ嬢は生涯娼館に沈められた ──
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── 侯爵家とレジェモ嬢が断罪される過程で。
パイシーズ王国との密輸商人に潜入したり証拠を集めてる時に、カプリコは、パイシーズ王国が国境の盗賊に依頼し、ディデュモイ侯爵を通して入手しておいた、クアトロファイア帝国の兵士の服装を渡された盗賊を殺そうとしている現場に居合わせた。
そう言えばアリエスが二度目の救出劇の後、
『シュティア皇国での密輸。偽物とわかったからいい物の、成功してたらシュタインボック兵士と帝国の側妃の1人が駆け落ち。どちらもクワトロファイア帝国との関係にひびを入れさせるような行為よね?……
でもこれって……三国だけを三つ巴にして戦争起こさせることが目的じゃない気がするの。
もしや……パイシーズとの関係ももっと険悪にさせるような……そう。例えば国境に兵士を越えさせる冤罪とか仕掛けて、四国全て巻き込もうとかしてないのかな?』
と、ルリオン皇帝陛下を心配して訴えていたことを思い出した。
カプリコは侯爵邸で見つけた密書の指示書の中に、
【兵士の格好した盗賊は口封じに殺せ。その死体を利用する。
パイシーズ王国側に国境を越えてクアトロファイアの兵士が入り込んできて、小競り合いになったから殺した。
悪いのは国境を越えさせたクアトロファイア側だ。と主張して同盟を破棄させる】
と言う内容が書かれた書類でその計画を知り、これを見事阻止した。
しかもカプリコのこの行動のおかげで、前世ゲーム上でアリエスが捨て駒として殺される原因の死亡フラグが全て潰えたのである ──
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