【漫才】女子大生キョンシーの御手製カレー
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「あのさ、蒲生さん。こうして日本へ留学して初めて知った事なんだけど、日本には三大国民食があるんだってね。」
ツッコミ「ああ、よく言うよね。グルメ番組とかでもよくランキングとか特集とかしているね。」
ボケ「そうそう!寿司、天ぷら、すき焼き!みんな大好きだよね。」
ツッコミ「えっ?いやいや、確かに三つとも人気の和食だけど、それはむしろ日本に来る欧米人観光客が好きな和食じゃないかな?」
ボケ「あとは、サムライ、ニンジャ、ゲイシャとか…」
ツッコミ「それも日本に来る欧米人観光客が好きなものじゃないの!しかも食べ物じゃないし…」
ボケ「そうだよね、みんな人間だものね。『人間は』食べないよね…」
ツッコミ「キョンシーの貴女がそんな事を言ったら、色々と洒落にならないんだよ。日本の三大国民食と言ったら、ラーメンとハンバーグとカレーライスだよ。」
ボケ「ああ、そっち?だけど三つとも、日本の食べ物じゃないよね。カレーはインドの煮込み料理全般を指す言葉だし、ハンバーグはドイツのハンブルク地方が名前の由来でしょ。特にラーメンに至っては中華圏の食べ物だし…」
ツッコミ「元を辿れば確かにそうだけど、今じゃ三つとも日本で独自の進化を遂げているからね。おでんカレーとか和風おろしハンバーグとか、インド料理やドイツ料理と呼ぶには無理があるでしょ?」
ボケ「そう言えば名古屋名物に台湾ラーメンがあるけど、私の地元の台湾にはなかったなぁ…」
ツッコミ「まあ、そういう事。異国の文化を上手く取り入れて新しい物を生み出せるのは、日本人ならではの持ち味と言えるかな。ところで貴女は、日本の三大国民食でどれが好きなの?」
ボケ「どれも美味しいけど、日本で食べて気に入ったのはカレーライスかな。ハンバーグなら瓜仔肉や獅子頭っていう似たような料理を地元でもよく食べてきたし、ラーメンにしても牛肉麺や担仔麺を夜市の屋台でよく食べてきたからね。だけど日本のカレーライスは県やお店によって色々な特色があるから、食べていて飽きが来ないんだよね。」
ツッコミ「台湾から来た貴女にそう言って貰えると、日本人の私としても嬉しいよ。この近畿地方でも、淡路牛と淡路島産玉ねぎを使った兵庫県のカレーとか和歌山県の熊野牛カレーとか色々あるからね。」
ボケ「だけど、こないだの昼休みに一緒に行ったお店のカレーは合わなかったね。テレビやネットで人気のお店かも知れないけど、私には白ご飯しか食べられなかったよ。」
ツッコミ「あの時の事は私もよく覚えてるよ。ほんの少し食べるなり、『蒲生さん、私のも食べて。』って言ってソースポットごと私に押し付けちゃったじゃない。一体何があったっていうの?」
ボケ「よく調べてみたらさ、あそこのお店のカレールーには桃のジャムが隠し味に使われているみたいなんだよね。だから、そのまま食べるのは良くないかなって…」
ツッコミ「えっ、キョンシーって桃の果肉やジャムも駄目なの?確かに道教の道士は、桃の木で作った剣を使ってキョンシーと戦うけど…」
ボケ「単なる心因性の恐怖症なのか体質的なアレルギー反応なのかまでは、まだ分かんなくてね。永住ビザを取得して神戸の元町に住んでいる御隠居キョンシーに、また相談に行かないとなぁ…」
ツッコミ「キョンシーのコミュニティにもいるんだね、そういう生き字引や御意見番みたいな御隠居さんが。」
ボケ「生き字引と言うけどね、蒲生さん。私も御隠居さんも、もう死んでるんだよ。だってキョンシーだもの!」
ツッコミ「威張って言うような事じゃないでしょ、それ!」
ボケ「それでね、蒲生さん。今回の桃ジャムの一件で、私も考えたんだ。この際だからカレーを自炊してみようって。」
ツッコミ「成る程。確かに、自炊なら苦手な食材が入るリスクは防げるね。」
ボケ「その上、自分の好きな食材を好きなだけ入れられるじゃない。」
ツッコミ「キョンシーの貴女が、好きな食材を好きなだけ使うのね。あまり良い予感がしないけど…」
ボケ「題して、キョンシー三途の川クッキング!今日のメニューは、キョンシー風カレーで御座います!」
ツッコミ「って、何か妙なコーナーが始まったよ。しかも何処かで聞いた事があるし…」
ボケ「えっと、まずは野菜の下処理から…」
ツッコミ「こらこら!額の御札にレシピをメモ書きしないの!」
ボケ「まずは人参と玉ねぎと馬鈴薯を手頃なサイズにカットし、カレールーを溶いた鍋に入れます。」
ツッコミ「あれ、意外とマトモじゃない。だけど野菜だけって、ちょっと寂しくない?肉とか魚とか、そういうのは入れないの?」
ボケ「大丈夫だよ、蒲生さん。これから豆腐とソーセージを入れるから。」
ツッコミ「成る程、豆腐とソーセージ…って何これ?この赤黒い物体は?」
ボケ「何って、豚の血を使った血豆腐とブラッドソーセージじゃない。」
ツッコミ「そんな当たり前のように言わないでよ!日本じゃ馴染みの薄い食材なんだから。確かに血豆腐は中華料理のスープや火鍋の具材に使われているし、ブラッドソーセージはモンゴルや北欧で食べられているかも知れないけど。」
ボケ「甘いなぁ、蒲生さん。このブラッドソーセージは日本産だよ。」
ツッコミ「まさかの国産!?」
ボケ「栃木県日光市のジビエ専門店から調達した、ニホンジカのブラッドソーセージなんだ。それそれと言って、日本のキョンシーの間ではブームなんだよ。」
ツッコミ「そんなマニアックなブームは私には分からないよ!元町の御隠居さんと貴女にしか通じないネタはやめて!」
ボケ「う〜ん!血豆腐とブラッドソーセージから溶け出す血の匂いがたまらないなぁ!」
ツッコミ「キョンシーの本能剥き出しにしないでよ、怖いから。しかし貴女ったら死後硬直しているはずなのに、よくそんな軽やかに料理が出来るわね…」
ボケ「鍋を温めるためにガスコンロをつけてるからね。温かくなれば、死後硬直も自然と緩んでくるよ。」
ツッコミ「そんな物かな…って、今度は何か赤黒い液体を注いでいるし!」
ボケ「ああ、これは鴨の血だよ。ポーランドから来た留学生の子から教わった、チェルニナってスープを参考にしたんだ。ポーランドだと、プロポーズを控えた若い男性が飲んでいたらしいんだって。」
ツッコミ「血豆腐とブラッドソーセージが具材に使われ、オマケに鴨の血まで注がれて、凄いカレーになっちゃったなぁ…血を使った料理が世界各国にこんなにあるのも驚きだけど。」
ボケ「そして忘れちゃいけないのが、我が台湾の米血糕だね。」
ツッコミ「今度は台湾料理…」
ボケ「豚の血と餅米を固めて作った米血糕をご飯に乗せて、そこにカレールーをかければ…ジャジャ〜ン!これぞキョンシー風カレーだよ!」
ツッコミ「こんなに血を使ったカレーなんて見た事ないよ!」
ボケ「こないだ島之内の姐さんに御裾分けしたら喜んで貰えたんだ。『美竜ちゃん、ええの作るやん。』ってね!」
ツッコミ「その島之内の姐さんって人もキョンシーでしょ!貴女達の味覚で美味しいと言われてもなぁ…」
ボケ「そんなこと言っちゃいけない!日本と台湾とポーランドの三ヶ国の友情が育んだ国際交流の味がするんだよ、このカレー!」
ツッコミ「そう言われたら無碍にツッコめないけど…随分と赤黒いカレーになっちゃったなぁ…」
ボケ「ブラックカレーの一種でどうかな、蒲生さん?」
ツッコミ「ブラックカレーというか、これじゃブラッドカレーだよ!」
ボケ「よし、ブラッディメアリーをお供に食べよう!」
ツッコミ「ってウォッカを使ったカクテルじゃん!こんなの刺激が強過ぎるよ!ウォッカのアルコール度数の高さを甘く見ないで!」
ボケ「刺激が強くても大丈夫!これだけ血を使ったブラッドカレーだもの、貧血になる心配はいらないね!」
ツッコミ「いや、貧血云々の問題じゃないから!そもそもキョンシーに血を吸われたらみんな貧血になっちゃうんだよ!」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」