6章 策略の洗礼儀式
「貴様には洗礼の儀式を受けてもらう」
入ってくるなり、豪華な扉を開けて偉そうに言うフランシス。
マキナに用意された豪華な一室では下着姿のマキナにヴァンパイアメイド達がメジャーのような物で寸法を測ったり、様々な靴を履かせ、靴サイズまで計測している。
「洗礼の儀式? それで……このような物々しい状況になっている訳でございますね」
窓辺の光に照らされ、寝ぐせ姿のマキナが嫌そうに言う。スケジュールを聞かされずにこのような状況であり、勝手に4人のヴァンパイアメイドが入ってきた時には襲撃かと思い、隠していた銃を思わず身構えるところだった。
「勇者である名誉ある貴様には洗礼の儀式を受けてから……魔王討伐を行ってもらう」
「公爵様はまだ斬首作戦にこだわっていますか? 私が提案した作戦があるので、聞いていただけるとありがたいのですが」
「ふむ……洗礼の儀式が終わってから聞こう」
フランシスの返答は聞くか聞かないか分からない素っ気ない返事であった。
「そもそも洗礼の儀式とは何ですか? 宗教的な儀式で、公の場でやる大きな催しなのですか?」
「公ではないが……貴様のステータスUPに貢献する重要な儀式だ。もちろん貴様の仲間になったアルセーヌやローブもだ」
「仲間なら断られましたよ……いったい何が嫌なのやら」
「アルセーヌやローブは仲間を断った時……我に対して何か言っていたか?」
氷の眼差しのような視線を向けてくるフランシス。心なしか、メイドのヴァンパイア達も何かを身構えているようなそんな面持ちだ。
「いえ……何も……」
マキナの返答にフランシスが何かを考えた後、笑みを浮かべる。
「では儀式は貴様1人で受けることになるな」
「ちなみに……儀式はどういった事をやるのかお聞きしても?」
「簡単な事だ……聖杯のワインを飲み……シスターに祝福を受ける」
「どういった祝福ですか?」
「肩にキスをする程度のものだ。儀式に合わせ、この肩を出したドレスを着てもらう」
フランシスは部屋に飾ってあった絵画の黒いウェディングドレスを着た女性を指差した。
「この地域では夜が長く、昼間は短く、雨の代わりに雪が降るような寒い地方です。いくら私でもそのような格好でいるのは耐えられません。暖かいデザインに変えていただけますか。でなければ、その下に何かを着込むような対策はさせていただきます」
「儀式は1時間もかからぬ……多少は我慢してほしいのだが……」
困惑するフランシスにマキナは首を振る。
「儀式に出るメリットは私にありません。敵の暗殺のリスクはありますし、寒さでは手が麻痺するような状態にはしたくはないのですよ。ただでさえ……コロシアムであのような状態です。公ではないとしても儀式中に暴徒や嫌がらせ、最悪の場合は暗殺やテロが起こる可能性が充分にあり得ます。ここにいる配下ですらヒューマンの私をよく思ってない連中は多くいるでしょう」
「うむ……しかし……儀式衣装のデザインは決まっているしな……」
「では、防寒対策がしっかりしていれば良いのですよね? このようなデザインはどうでしょう?」
笑顔のヴァンパイアメイドがスケッチブックに描いていく。
「上半身部分を毛皮で覆い……毛皮の襟巻を付ければ……素肌が出ている腕部分も長手袋で覆うだけです。後は既存のデザインで発注すれば問題ありません」
ヴァンパイアメイドがスケッチブックを見せると、服のデザインから色まで見事な儀式ドレスが仕上がっていた。
「上手いな……デザインはたいしたものだがしかし……儀式が……」
唸るように言うフランシス。
「このドレスでなければ、私は洗礼の儀式に出ないぞ」
「わ、分かった!? ちゃんと洗礼の儀式に出るならそれで良い! 洗礼の儀式は明後日だ。それまでに準備しておくのだぞ!」
フランシスは言って、逃げるように部屋を出ていく。すると、ドレスをデザインしたヴァンパイアメイドが親指を立て、サムズアップをする。実はこのヴァンパイアメイドはアルセーヌが化けた姿なのであるが、服の提案をするまでは気づかなかった。
(ドレスを変更したところでどうする? ヴァンパイアの牙は厚い毛皮でも簡単に貫通するぞ。金属のナイフ以上の鋭さはある)
ヨルムがテレパシー(思念通信)で伝えてくる。
アルセーヌはヴァンパイアメイド達と同じようにドレスの制作を始めていた。
(そんなことは分かっている……奴らの人員配置が把握できていない。儀式を回避できても集団で襲われたらひとたまりもないからな)
(マキナ、お得意の人海戦術はどうした?)
(ローブを説得できたとしても……正直、アルセーヌを足してもまだ人数が足りない。2日間の猶予で仲間を集めようにも、仲間のコネも無いし、公に仲間を集めようとすればフランシスに気づかれる。私を捕らえる為にどれだけの人数を用意してくるのやら)
(Aランクが2人以上いるなら楽勝ではないのか? 俺もいるぞ)
楽観的なヨルムにマキナは少しむすっとした表情になる。
(聖杯のワインに毒を盛られたらと考えるとな……Bランクの集団で取り押さえられたら太刀打ちできない)
(じゃあ、兵器を解禁するしかないな)
(明後日の期限でそれに対抗する兵器を作れと?)
さらにむすっとなるマキナは苛々したような足踏みをする。
(そうだな)
「他人事だと思って簡単に言う!」
思わずテレパシー(思念通信)ではなく、声を上げるマキナに近くで掃除していたヴァンパイアメイドが小動物のようにビクっとなる。マキナは誤魔化すように咳払いした。
アルセーヌ以外のヴァンパイアメイド達は何事かと顔を見合わせていた。
それから洗礼の儀式の当日になり、儀式のドレスもアレンジがどうにか間に合い、ヴァンパイアメイドの着付けも完璧だった。
儀式はちゃんとした教会でやるようで、煌びやかなテオス神のステンドグラスが中央には見え、巨大なパイプオルガン、座席数は9000人近くが座れそうで、外観と内装はノートルダム大聖堂に似ていた。下から見下ろせる周回廊もある。
周回廊の左右にはファンタジー王道の2人の男性エルフ(耳長族)のアーチャー(弓兵)が周囲を警戒しているのが見える。その向かい側の周回廊には黒いローブを着たも左右に黒肌の耳長の男性2人がいる。ヨルムから聞いていたダークエルフ(黒耳長族)で、恐らくは杖を持っているからソーサラー(攻撃魔法士)だろうとも言っていた。
「これが……私に対する暴漢や暗殺に対する警備ならいいが……」
(お前を亡き者にしてでもゾンビにしたいのだろうな)
ヨルムのテレパシー(思念通信)が聞こえた。
(これを切り抜けるのは至難の業だぞ)
溜息をつくような口調のテレパシー(思念通信)でマキナは返した。
「それで……どうにかできるんです~?」
マキナの耳元で言うヴァンパイアメイドに扮したアルセーヌ。
「手筈通りで頼む……ローブにも説得したが、間に合うかどうかだな」
マキナは肌が見えなくなり、厚くなった黒のドレスを何度か胸、腹、足と触って確認していた。
「そうですか~失敗しないでくださいね……貴方がゾンビになったらローブはおろか、わたしも仲間から抜けますからね~」
「……手厳しいな」
そう返すと、アルセーヌは何処かに消えていた。
「それではこちらへ」
10人の黒いシスター服を着た女性の一団がマキナに近づき、手招きする。どの女性も頭の上と背中に蝙蝠の翼のようなものが生えており、瞳は紅かった。フランシスの手のかかった同じヴァンパイア(吸血鬼)なのだろう。黒シスターに混じって違う種族もいる。白いローブに杖を持った少年アルミラージ族の者と、もう一人は種族は分からないが、重そうなプレートアーマーと身体が見えなくなりそうな大楯を持った黒肌の少女が居た。黒肌少女の背中には厚く長い大剣が斜めに背負っており、それでも床に付きそうなレベルの代物だ。
「救護班のプリースト(僧侶)のデルタです……体調不良の場合はお申し付けください」
アルミラージ族の少年、デルタは軽く会釈して前に出たと思えば、すぐに引き下がる。その後に前に出たのは黒肌の大剣女だった。
「警備を担当する事になったウォーリア(戦士)のジーヒルト・シグルズだ……よろしく」
握手を求めて手を出すジーヒルトにその好意的な視線にマキナは握手を交わした。
「エクス・マキナだ」
「元は私もヒューマンで……ヨルムの憧れの的ではあった。その弟子とならば……戦いたくもあるし、友人になりたいとも思う」
笑顔で言うジーヒルトにマキナは呆気にとられる。
――ジーヒルトだけは何も伝えられていないイレギュラーなのか、それとも殺意を隠すのが上手い暗殺者なのか……
「君は……ヒューマンなのか?」
「あーあ。だから元だ。ヘル帝国軍に国ごと殺されてな……今はグール(屍鬼)の身体となって……復讐の為に冒険者をやりながら様々な国でガード(護衛)をやっている。マキナもヒューマンじゃなくてグール(屍鬼)になれば、もっと強くなれるのに」
「さすがにそれは……」
笑って言う彼女に周囲が凍り付くのを感じた。
「こほん……洗礼の儀式の準備をします……ジーヒルトさんは余計な事は喋らないように……」
黒シスターが言うと、ジーヒルトは顔を曇らせ、返答もせずに黙ってしまう。そうして全てを拒絶するように机に置いていたクロスヘルムを被り、バイザーを閉め、周囲の警戒をするように歩き始めた。
「マキナ様はこちらへ……」
もう一人の黒シスターに言われ、マキナはゆっくりと歩く。
「物騒な警備だな……」
「マキナ様を良く思わない輩の仕業か……警告文が出回っており……フランシス様からマキナ様を守るように言われております。我々も含め、Bランク以上の者で固めております。特に警備のジーヒルトさんに関してはAAランクのウォーリア(戦士)で申し分ないかと」
黒シスターが前に進み、祭壇に飾ってあった黒い聖杯を持ち上げると、祈りを捧げる。そうしてからマキナに手渡した。
「これをお飲みください……この神の血が……貴方の肉体を浄化し、更なる高みへ導くのです」
受け取ったマキナ。黒い聖杯の中には血ではなく、アルコール度数の高そうな赤ワインの匂いがした。さらにこの匂いは……
「ワインの匂いに混じって海の幸のような……カキの匂いがするな……なぜワインにこんなものを入れた?」
ワイングラスのように揺らし、手で煽り、匂いを嗅いでいた。
「どうしました!?……お、お飲みください……」
黒シスターの声に焦りの口調が見えた。他の黒シスター達にも動揺が見える。
「麻痺性貝毒を知っているか? 特定の有毒な植物プランクトンを摂食した二枚貝に蓄積される。食後30分程度で口唇・舌のしびれ……しびれが手足に広がり、麻痺、運動失調、言語障害などが起きる。最悪の場合は重症化すると呼吸麻痺で死に至る可能性がある。つまりは毒を持った貝のオイスターソースをワインに混ぜた……違うか?」
マキナは黒シスターの顔に聖杯の神の血をかけていた。
「ああああああああああああああああああっ!?」
聖杯の液体は黒シスターの目に直撃し、絶叫を上げて膝を突くと、全身を震わせて痙攣を始めていた。
「まさか即効性の麻痺毒とはな……この世界の毒は思った以上にヤバいな」
「何をするのですか!?」
麻痺毒を喰らったうずくまる黒シスターA。それに駆け寄った黒シスターBが思わず声を上げる。
「それはこちらの台詞だ! なぜ毒を盛った!」
「雷より現れし沈黙の鎖よ、今ここに束縛を与えよ! パラライズ(麻痺電光)!」
「詠唱!?」
呪文は詠唱しているアルミラージ族にマキナは飛び退いた。そのマキナの行動は全く意味を成さなかった。デルタの杖の先から電気を帯びた五本の光の筋がマキナの両手足と胴体に向かった。
マキナは雷の光に直撃し、片膝を突いた。パラライズ(麻痺電光)が直撃した部分の布地は焦げ、マキナの身体に電気を帯び続け、凍えるように身体中が痙攣していた。
「ぐっ!? 痺れて!?……スタンガン並みの威力……それ以上か!?」
「凡人なら気絶レベルの魔法なんですが……麻痺だけですか」
呆れたように言う僧侶の少年、デルタにマキナは笑う。
「スタングレネードやスタンガンに関しては訓練や実践で充分に味わっているからな……すぐに動けるようになる」
マキナはなんとか立ち上がろうとするが、その両足は震えて、また片膝を突く。その両手や指先すらアルコール依存症のように震え続けている。
「無駄です……悪くは思わないでください。これも仕事なので……」
「では……儀式をしましょうマキナ・エクス……汝に祝福を……」
震えるマキナにシスターヴァンパイアの1人が背後に回り、首筋に牙を突き立てていた。
「無駄なのはお前達だ!」
マキナの首はシスターヴァンパイアによって牙を突き立てられたと思われた。だが、牙は食い込んではおらず、ドレスの下の衣服のネックガードに守られていた。
「馬鹿なっ!?」
パンッ!? という爆発のような音が教会に反響していた。マキナの拳銃、シグ・ザウエルM17の銃口が煙を上げ、シスターヴァンパイアのシスター服の腹部が赤にゆっくりと染まっていく。
「我が世界で使われるボディアーマーに使われる防刃用のアラミド繊維だ。ナイフでも通らんぞ。弓矢でも同様だし、耐火性能もある」
マキナはぎこちない動きながらも、倒れそうになるシスターヴァンパイアの背中を掴み、盾にしていた。そして人質とばかりにマキナは拳銃のM17の銃口をシスターヴァンパイアの後頭部に当てていた。
「ひっ!?」
血まみれのシスターヴァンパイアは何度も膝を突くが、マキナに何度も立たされ、引きずられ、後退させられていく。
「およしなさい! そんな身体で何ができます? 僕達はその穢れたヒューマンの身体から貴方を解放し、貴方の仲間に加えようとしてるだけです!」
「こっちの意思も聞かずに何が仲間だ! フランシスの犬め! 私を人形にして斬首作戦を強行したいだけだろ!」
「くそっ! やるぞ!」
「死ねヒューマン!」
周回廊の左右には二人の男性エルフ(耳長族)のアーチャー(弓兵)が矢を放つ。二本の矢はマキナの頭部に直撃すると思われた。だが、マキナは防刃グローブの手で払い、矢を粉砕していた。
「無駄だ! 私の交渉に応じろ! 私の仲間が火を放つ手筈になっている。その自慢の不死身の身体が瓦礫の山に埋もれ、延々と焼かれ続ける事になるぞ!」
「こっちには魔法があるんですよ! パラライズが(麻痺電光)が効いたところを見ると、雷魔法の耐性は無さそうですね」
リーダー格っぽい髪の長いシスターヴァンパイアが笑みを浮かべ、手を上げる。それを合図に黒いローブを着たダークエルフ(黒耳長族)のソーサラー(攻撃魔法士)が呪文詠唱を始める。
2人の杖がマキナに向けられ、詠唱を終えようとした刹那。何かが唸りを上げる。「ダダダダダダッ!」と乾いた銃声が周囲に響き渡り、空気を切り裂くような連続音が何処からか響き、無数の火の礫の軌道が貫くと共に壁に火花を散らし、左右にいたダークエルフ(黒耳長族)のソーサラー(攻撃魔法士)の男性2人と男性エルフ(耳長族)2人のアーチャー(弓兵)が鮮血を散らせて倒れていた。
「おお、やっぱ噂に聞く銃って凄いなこいつ……一回の引き金で連射してくれるし、遠くの敵にも届く……フランシスも欲しがるわけだ。クイックドライブ(時間停止魔法)でこれだもんな」
周回廊にいつの間にか来ていたローブがFNP90、特殊部隊用の短機関銃を上げて笑みを浮かべていた。
それも当然だ。最大射程1800メートル、150メートル内でならボディアーマーすら貫く代物である。
「ローブ! 余韻に浸ってないで、私の援護をしろ!」
「悪りぃ!?」
ローブが慌ててマキナを囲むシスターヴァンパイアに向けてP90を発射する。
【きゃっ!?】
連射された短機関銃の銃弾は火花を散らして、教会の石床、柱、椅子を穿つが、シスターヴァンパイア達の足元の床を抉るだけだった。
「下手くそ!? 何処を狙っているのだ!?」
流れ弾がマキナの髪を掠め、思わずうんざりとした表情になる。
「ま、マジか!? さっき当たったのに思ったより当てるの難しいな……えとこれは……!? 弾切れ!? マガジンはどうやって外すんだっけ? 予備のマガジンは!?」
ローブが何度も引き金を引くが、弾は発射されずにローブは慌てて、懐をまさぐったり、マガジンを指で擦るようにロック解除ボタンを探している。
「い、今です! 取り囲みなさい! デルタ! マキナを殺してでも構いません! 魔法を!」
リーダー格のシスターヴァンパイアが命令すると、デルタは先ほどとは違い、銃の制圧力に戸惑いを見せている。
「む、無理でしょ!? 人質をとって盾にしている相手に……しかもプリースト(僧侶)の僕に!?」
「なら、私がやる!」
ジーヒルトは盾を捨て、背中の大剣を抜くと、刀身を引きずり、火花を散らしながら神速で向かってくる。
「動くな! といっても向かってくるか!」
マキナは人質を引きずりながらバックしながらM17の引き金を引き続ける。銃弾はジーヒルトの鎧のパーツ的に弱そうな膝、脇腹、肩、こめかみと、当ててみたが、銃対策が完璧で、鎧に火花を散らすのみだった。
「はあああっ!」
マキナは咄嗟に飛び退くが、ジーヒルトの横に振られた大剣は人質のシスターヴァンパイアと共に真っ二つにされた。その刃はボディアーマーの腹部を引き裂き、マキナの腹にわずかに鮮血を散らせた。
「アラミド繊維と中のセラミックプレートまでもが簡単に引き裂かれるとは……腕力が凄いのかそれとも剣の素材か!?」
「銃なんかより……不死身の身体の方が良いだろ? お前も私と同じグール(屍鬼)となって、私の仲間になれマキナ!」
手を差し伸べるジーヒルト、その片手には隙のない構えで大剣が握られ続けている。
「自分の仲間を斬って、何が仲間になれだ……貴様には騎士道精神というものが無いのか?」
「どうせ生き返る。真っ二つになってもヴァンパイア(吸血鬼)やグール(屍鬼)なら回復魔法で元に戻るんだ。マキナはなぜ戦況に有利な身体にしない? 魔王に勝ちたくないのか?」
首を傾げるジーヒルトにマキナは溜息をつく。
「貴様は生命を冒涜している! 不死身だのなんだの言って仲間の痛みを知らずに斬り捨てているのだからな! そんなもの作戦でも戦略でもない! 只のごり押しで勝利し、仲間の心も労われぬ奴などに真の平和は訪れない! 内乱を生む有象無象の衆に成り下がる!」
「ち、違う! 仲間を信頼しているから斬った! シスターだって……」
『……痛い……助けて……』
胴体を真っ二つになったシスターヴァンパイアは虫の息で胴体だけで這いずっていた。
「……私は……」
驚愕の表情で首を横に振るジーヒルト。
「今だアルセーヌ! そのP90なら至近距離で貫ける!」
マキナが叫んだ瞬間、床を歩く足音と共に流れ弾で壊れた床の石破片がわずかに動く。
「ステルス(透明化魔法)か!?」
ジーヒルトが気付いた時には遅かった。「ダダダダダダッ!」と、透明の残像から複数の火花が走り、無数の鉛玉がジーヒルトの鎧を貫通し、水風船が破裂したかのように鮮血が飛び散っていく。
「ああああああああああああああああああああああああっ!?」
絶叫と共にジーヒルトは仰向けに倒れた。
「な、何をやっているのです!? 回復を!」
「あ、はい!? 癒しの水よ、傷つきし者に降り注げ、痛みを断ち切り命を紡げ……がっ!?」
僧侶のデルタが震える声で回復魔法の詠唱を始めた刹那。
「やらせるかよ!」
再び「ダダダダダダッ!」と、今度は周回廊の上に居たローブがP90を発射していた。
無数の鉛玉が降り注ぎ、デルタの胸を銃弾が貫通し、鮮血が舞ってうつ伏せに倒れた。
「け、警戒を!?」
また、「ダダダダダダッ!」という音が無残にもシスターヴァンパイア達の胴体と手足を撃ち抜いていき、鮮血が舞っていく。次々と倒れていくシスターヴァンパイア達。
「このおお!」
銃弾を受けつつもマキナに向かって突っ込んでくるシスターヴァンパイア、その手にはレイピアが握られており、マキナの頭部に迫る刹那。それよりも速くマキナのM17の銃弾はシスターヴァンパイアの頭部を捉え、撃ち抜いていた。レイピアはわずかにマキナの頬を掠め、鮮血の線をつくる。
「まったく……これで生き返るというのか?」
透明化が解けたヴァンパイアメイドの変装をしたアルセーヌが姿を現す、手にはP90を構えている。
「生き返りますよぉ……脳を撃たれようが、心臓を撃たれようが、何をやっても回復魔法で治る程度なんですよぉ。ヴァンパイア(吸血鬼)に関しては時間が経てば回復しますしねぇ」
笑って言うアルセーヌ。
「末恐ろしいな……援軍が来ることを予測していたが……不死身なら話は違ってくる、爆破するしかないか?」
(ヨルム、空から見て援軍は来そうか?)
マキナはテレパシー(思念通信)でヨルムに聞く。
(兵の動きは全くないな。呑気に見回りしている兵がいるぐらいだ。なにせフランシスは仲間を無駄に消費するのを嫌う。特に税に関してもだ。旧ヘル帝国《バルザフ魔王国軍》時代は私利私欲の為に税を使う浪費家であったが、こっちに寝返ってからは良い意味でも悪い意味でも税を節約するようになった。金のかからない少数精鋭にこだわるのはそのせいだろう)
ヨルムの解説が入る。
(兵員の使い方を間違っているな。敵が50なら、味方は100はいる。倍の兵力を使うのがセオリーだ。我が指揮官の戦略がこちらの援軍の予測も無しに少数精鋭でのごり押しとはな。おかげで援軍の到着は来ずに助かってはいるが……)
『癒しの水よ……傷つきし者に……降り注げ痛みを断ち切り命を紡げ……アクアヒール(水回復魔法)』
消え入りそうな声の詠唱、カタカタと杖を震わし、床に何度か当たる音。
「回復魔法かっ!?」
マキナがM17の銃弾を放ち、詠唱していたデルタの頭部を撃ち抜くが、アクアヒール(水回復魔法)は既に発動していた。
ジーヒルトの身体に水の膜が覆い、傷口と血のりを洗うように鎧から穴が消えていくのが見えた。そしてそれらはジーヒルトだけでなく、シスターヴァンパイア達とエルフのアーチャー(弓兵)2人と、ダークエルフのソーサラー(攻撃魔法士)と2人にも水の膜が覆っていた。
水の膜は接着剤か穴埋めのパテのように穴だらけになったエルフ達や真っ二つになったシスターヴァンパイアまで、逆再生したかのようにボロボロの衣服すら完全に治していくようだった。
(マキナ、気をつけろ! ゾンビは知性は落ちているが、グールは知性は落ちずに脳の汚染を免れた種族だ。こいつらは全員がグールだ!)
今更かといったタイミングでヨルムのテレパシーの解説が入ってくる。
(全員がグールだと!? それを早く言え!)
「うう! アルセーヌ!」
バーサーカー(狂戦士)のようにアルセーヌに狙いをつけ、向かってくるジーヒルト。
「本当に厄介ですねぇ!」
アルセーヌがP90を連射するが、ジーヒルトの巨大な盾で防がれ、貫通した弾は火花を散らして鎧をへこませる程度だった。
「うおおおおおお!」
「しくじりましたぁっ!? あううっ!?」
アルセーヌは巨大な盾で体当たりされ、衝撃で化石のように柱に埋め込まれる。アルセーヌの手から落ちたP90が銃身がぺちゃんこになるほどの衝撃だった。
「アルセーヌ!? ローブ、援護を!」
「炎の渦よ我が命に応え、蛇炎となりて我が敵を焼き払え! フレイム!」
「うわああっ!?」
ダークエルフの男性ソーサラー(攻撃魔法士)の一人が詠唱し、ローブの足元に炎の渦がとぐろを巻くように全身を覆い、火だるまとなった。さらにエルフアーチャー(弓兵)の2人の放った矢が火だるまのローブの右肩と片膝に突き刺さった。
「ローブ!?」
「時の流れよ、今静止せよ。我が手の中に全ての瞬間を集め、天地の息吹よ……」
ジーヒルトが詠唱しながら向かってくる。それは間違いなくローブが使う魔法と同じ時間停止魔法だった。
「時間停止の魔法詠唱!? ジーヒルトのサブジョブがファイター(拳闘士)か!? ヨルム!」
(分かった! 代わる!)
【クイックドライブ(時間停止魔法)!】
マキナの片目が金と茶が混ざったアンバー色に変わり、詠唱の代わりに指を鳴らした。
「沈黙の帳を下ろせ! クイックドライブ(時間停止魔法)」
ほぼ同時といったタイミングのクイックドライブ(時間停止魔法)。ヨルムの経験と勇者パーティーの1人、絶対音感を持つドロシー・オズとプログラマーのアリス・ハートが共同開発した詠唱方法フルート(短略詠唱)だ。足踏みと一定のリズムで指を鳴らし、反響させて疑似詠唱を行うことができるいわゆる裏技(バグ技)だ。
ジーヒルトの大剣が迫り、マキナは咄嗟に避ける。その隙にマキナはジーヒルトの片手を持ち、背後に入り、ラリアットのような入り身投げをしていた。
「投げられっ!?」
「不死身でも、貴様はこれで立っていられるか!」
さらに倒れたジーヒルトにマキナはオンタリオM11EODのサバイバルナイフを抜き、頭、首、腹、肩を連続して突き刺していた。
「がはっ!? がっ!? がっ!? がっ!?」
ジーヒルトの鮮血が連続して飛び散り、マキナの髪、顔、腹部が赤く染まる。
「後はローブが攻撃に耐えて、やってくれる事を祈るしかないが……」
銃声が鳴り響き、男性の悲鳴が何処からか聞こえる。次々と倒れていくエルフのアーチャー(弓兵)とダークエルフのソーサラーの4人の男達。
「マキナ、すまん! しくった……」
カチカチとむなしい引き金の音。それは周回廊の上でローブが何度もP90の引き金を引く音だった。燃えたポーチから銃弾が火花を上げて飛び散っていた。
「残弾もマナ(魔法残量)0だ。銃はおろか、さっきのでクイックドライブ(時間停止魔法)も使えない。ソーサーラー(攻撃魔法士)を仕留め損ねた」
離れた周回廊にはダークエルフのソーサーラー(攻撃魔法士)が血まみれで這いずっている。震えるような声で何かを詠唱していた。
(まずいマキナ!? あの魔法詠唱は回復魔法だ!)
『癒しの水よ……傷つきし者に……降り注げ痛みを断ち切り命を紡げ……アクアヒール(水回復魔法)』
「ソーサーラー(攻撃魔法士)のサブジョブがプリースト(僧侶)だと!?」
再びジーヒルトの身体に水の膜が覆い、傷口と血のりを洗うように鎧から穴が消えていくのが見えた。そしてそれらはエルフのアーチャー(弓兵)2人と、ダークエルフのソーサラー(攻撃魔法士)の2人にも水の膜が覆っていた。
ゆっくりと立ち上がるジーヒルト、ローブが必死に倒したはずのエルフのアーチャー(弓兵)2人と、ダークエルフのソーサラー(攻撃魔法士)2人もゆっくりと立ち上がっていく。
「どうです! 私達の不死身のパーティーの連携は! 誰か一人でも残って、回復手段があればこうやって復活できるんです! 古の勇者もこの回復魔法の連携で魔王を退けたとも言います! 不死身ではない貴方達に勝ち目はありますか? 降参するなら今ですよ! こういう戦い方ができるように貴方達も不死身の軍隊に加えてあげます!」
狂ったような笑みを浮かべ、叫ぶように言うリーダー格のシスターヴァンパイア。
「……分かった。貴様達がゾンビ作戦を使うなら……容赦なく私はあれを使う」
「あはっ!? 何を言っているんですか? 今更、脅しですか? どんな銃を出しても私達は生き返ります!」
マキナがドレスの下の迷彩服のポケットからスマートキーを取り出し、ボタンを押した。すると、周回廊から迷彩柄の布カバーがバサリと落ち、機械音と共に何かが動いた。銃架に備えられたP90より何倍も大きい機関銃であった。下にはカメラらしき物が見える。
(プロテクターRWSか。ブローニングM2重機関銃を備え付けるのはさすがにエグいな。しかも自動車のスマート―キーで操作できるように魔改造し……これはエルダーアース(地球世界)でやったら戦争法違反いや、軍法会議ものだろうな)
「はっ? そんな大きな銃で……しかも人がいないではないですか!? そんな物で何ができると言うのです!」
「そうか、ミドルアース(異世界)ではそういう風に見えるか? RWS。つまりは遠隔操作式の銃架だ。本来は戦艦、航空機、装甲車などに乗ったまま操作するものだが、単純なリモコン式に改造した」
マキナがスマート―キーの矢印ボタンを押すと、機械音と共にプロテクターRWSが向きを変え、M2重機関銃の銃口がエルフ男性アーチャー(弓兵)2人組に銃口が向けられる。
アーチャー(弓兵)2人組が矢を向けるが、既に遅かった。M2が機械音と共に銃身から噴き出す巨大なマズルフラッシュ、「ダダダダダダッ!」という音と共に50口径の12.7×99ミリNATO弾がわずか毎分1200発の速度で連発し、軽装甲車の20ミリ近くの防弾鋼板を撃ち抜く威力があった。厚くて長い鉛弾は数秒であらゆる人体に当たり、ぼろ雑巾のようにして、エルフの男2人を吹き飛ばした。壁には鮮血と共に無残な男2人組が貼り付いていた。
「うわああああっ!?」
「化け物!?」
ダークエルフ2人組のソーサラー(攻撃魔法士)が叫ぶと共に詠唱するが、こちらも遅かった。プロテクターRWSをマキナはすぐに操作し、マズルフラッシュと「ダダダダダダッ!」という重低音が響き、ソーサラー(攻撃魔法士)の二人組は至近距離近くにいた事もあり、鮮血と共に肉片が飛び散り、ダンスを踊るように風穴が空いていき、床に転がっていった。
「な、何をぼうっと見ているのです! 銃を操っているマキナを攻撃すればすむ事です! ジーヒルト!」
「わ、分かっている! ぐうううっ!?」
リーダー格のシスターヴァンパイアが命令すると、ジーヒルトがマキナに向かっていくが、マキナが操るプロテクターRWSはまた向きを変え、マズルフラッシュ、「ダダダダダダッ!」という音と共に銃弾を受け、鮮血を流して横に倒れた。鎧も盾も貫通し、全く役に立たなかったのだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
回復魔法の呪文詠唱が上手くいかないのか、発狂するデルタ。その隙をマキナが逃すほどマキナは甘くなかった。M2を容赦なく発射し、頭部、両肩、胴体、両足を撃ち抜いていき、デルタは鮮血を散らして倒れた。
「あっ!? あっ!? あっ!? あっ!? ああああっ!?」
「マキナあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
叫ぶリーダー格のシスターヴァンパイア。M2はマズルフラッシュの光を放ち続け、シスターヴァンパイア達の身体中を撃ち抜いていく。
「大丈夫かアルセーヌ?」
メイドヴァンパイア姿のアルセーヌを背負い、マキナは言う。わずかな動きがあったので、目覚めたと思ったのだ。
「すいませんねぇ……まさか一撃でやられるとは思ってもみませんでしたぁ」
「それよりもあれは仕掛けを終えたか?」
「言われた通りにちゃんと仕掛けましたよぉ」
親指を立てるアルセーヌにマキナは溜息をつく。
「ならいい……それよりもローブは……」
「マキナ!」
マキナにジーヒルトの大剣が迫る刹那。金属音と共に火花が散る。
「おい! もう決着がついてるだろ! いい加減に諦めろよ!」
ローブがマキナの前に立ち、分厚い手甲でジーヒルトの大剣を防いでいた。
「まだ終わってない!」
「じゃあ! いつまで戦い続けんだよ!」
右手で大剣を抑えたまま、ローブが腰の左手でベレッタM9の拳銃を抜き、至近距離でジーヒルトの両足を撃ち抜いていた。
「ぐっ!? だが!」
ジーヒルトははライフポーションを投げ、デルタの死体に振りかけていた。アクアヒールと同じ効果があるのか、デルタは水の膜に覆われ、風穴のような傷口が塞がっていく。
「これでまた戦える! 私達が諦めない限り、負けはない!」
デルタはゆっくりと立ち上がり、呪文詠唱を始める。だが、死んだ魚のように虚ろで、こちらに視線すら向けられていない。デルタの呼吸は荒い息遣いで両手足は震え、心は折れているように思えた。
「ふざけんなよ脳筋が! いくら回復してもマナ(魔法残量)や体力は回復しないんだ! 心もな! 味方同士で何の大義もない! 無能な指揮官や公爵の命令でそんなくだらない戦いを続けるのか!」
「諦めなければ……戦い続ければ正義だ! 私はフランシス公爵を信じる! それで聖魔連合の勝ちに繋がるのなら、その命令を信じ、例えそれが味方同士であっても戦い続ける!」
「お前はこの戦い方が正しいっていうのかよ!」
ローブは強烈なフックをジーヒルトの顔面に当て、吹き飛ばしていた。転がったジーヒルトは教会の椅子に叩き付けられ、木っ端と埃と共に見えなくなる。
呪文詠唱を終え、デルタが杖を掲げると、アクアヒールが発動する。再びシスターヴァンパイア達が立ち上がっていく。アーチャー(弓兵)エルフやダークエルフのソーサラー(攻撃魔法士)、ジーヒルトも立ち上がっていく。大儀なき戦いに。
「……正しいんですよ! そいつはよそ者のエルダーアース(地球世界)で、ハイヒューマンの(選ばれし人間)で、どこの馬の骨かも分からない! ミドルアース(異世界)で地位も名誉もほとんどない! そんな奴に誰が付いてくると言うんです! そんな奴の言うことより、名の知れたフランシス公爵の指示に従うでしょ!」
「いくら六英雄の公爵様であっても、こんな戦い方をさせる奴を信用するなんてな……やっぱりお前らグール(屍鬼)になって、脳味噌腐ってるぜ」
「もういいローブ、増援が来られても面倒だ」
「ああ」
踵を返すアルセーヌを背負ったマキナとローブ。
「逃げても無駄だぞ! マキナ! 何処までも追いかけてやる!」
マキナに向かってくいくジーヒルトに再び無数の弾丸が貫通し、鮮血と共に吹き飛んでいく。
再び詠唱を始める周回廊にソーサーラー(攻撃魔法士)とアーチャー(弓兵)、マキナが操るプロテクターRWSのM2が弾詰まりか弾切れか、カタカタと妙な音を立てて止まった。
「逃げる……何かと思えば逃げる理由は弾切れですか! 時間をかけて戦った甲斐があったようですね。所詮は武器、弓も矢が無ければ撃てませんし、銃も弾が無ければ撃てない! あっははははっ! 私達の勝ちです!」
リーダー格のシスターヴァンパイアが笑う。
「そうだな……このまま戦い続けたとして、お前達は瓦礫に生き埋めになった状態でも動けるのか?」
マキナはスマートキーを投げ捨て、新たな複数のスイッチが付いたスマートキーをポケットから取り出していた。
「な、何を言ってるんですか? ジーヒルト、マキナを殺してでも連れて来なさい!」
リーダー格のシスターヴァンパイアはジーヒルトに命令する。倒れたジーヒルトは回復魔法を受け、ゆっくりと立ち上がる。
「これでミッションコンプリートだ!」
マキナはスマートキーの1と記載されたボタンを押すと、視界が真っ白な閃光に塗りつぶされた。コンマ数秒遅れて、鼓膜を直接殴りつけるような轟音が響く。
「うわあああああああああああああああああああああああああああっ!?」
直後、熱を帯びた暴力的な爆風と一緒に教会の柱の一部が倒れ、ジーヒルトを押し潰した。
「バーストフレア(爆裂魔法)でも発動したというのですか!?」
慌てるリーダー格のシスターヴァンパイアに構わずマキナは2、3のボタンを押すと、周回廊が爆発し、アーチャー(弓兵)とソーサラー(攻撃魔法士)二人組のペアが燃えながら落ち、悲鳴と共に瓦礫に埋まっていく。
次にマキナが4、5、6とボタンを押すと、教会の天井が炎と轟音を発して爆発し、瓦礫の雨が降り続ける。
「そんな馬鹿な!? この私がヒューマンごときに!? きゃああああああああああああああああああああああああっ!?」
シスターヴァンパイア達は悲鳴を上げ、轟音と共に瓦礫に潰されていった。
マキナ達が瓦礫や爆発に巻き込まれないのは全て計算してコンポジションC4(プラスチック爆弾)を仕掛け、安全な位置と敵の配置を予測したものである。
「しかし、容赦ねぇなマキナは。さっきのも武器? 攻城兵器か何かか? 上位魔法のバーストフレア(爆裂魔法)並の威力がありそうだ。普通、ソーサラー(攻撃魔法士)でもこんなもん施設内で使わないぞ。下手すれば味方もろとも瓦礫の下敷きだぜ」
「ちゃんと計算している。アルセーヌが望んだところにコンポジションC4(プラスチック爆弾)を仕掛けてくれたからな」
「お褒めいただきありがとうございますぅ」
マキナに背負われたアルセーヌが嬉しそうに笑顔で返事を返す。
「確か増援を見越して、もっとバクダン? というのをいろんな所に仕掛けたんだよなぁ? この教会を破壊し尽くすぐらいの量を……」
その刹那、紅蓮の光が衝撃波と共にマキナ、ローブ、アルセーヌの背中を押した。
「あらま~」
「今のは何だ!?」
ローブが振り向くと、紅蓮の業火が迫ってくるのが見えた。
「熱と衝撃で残ったC4(プラスチック爆弾)が連鎖反応的に爆発を始めたな。建物が全部、崩れるぞ! 走れ!」
マキナが走ると、爆発が次々と起こり、柱が倒れ、天井が粉砕し、瓦礫や柱の一部が凶器となってマキナ達を襲う。遅れて、ローブも全速力で走る。
「計算間違ってんじゃねぇか!? ちっくしょおおおっ!? お前なんか信じるんじゃなかったあああっ!」
紅蓮の炎と大、中、小の瓦礫が何度もマキナ達の頭、背中、足、を掠めていくようだった。
「ぼやくな! 飛べ!」
マキナが教会の扉を蹴破り、火の輪くぐりのようにマキナ達は飛び込んでいた。その刹那、紅蓮の炎と共に強烈な衝撃波を発し、ノートルダム大聖堂のような巨大な教会施設が瓦礫となって崩れていく。
「……マジかよ!?」
芝生に転がるマキナ、ローブ、アルセーヌ。
「……みんな無事か?」
マキナが荒い息遣いで仰向けになると、左右に倒れているローブとアルセーヌを見る。
「……な、なんとかぁ……」
アルセーヌは苦笑いして言う。
「これでどうすんだ? あっちが先に仕掛けたとはいえ、ここまでやったら国家反逆罪だぜ……国外逃亡でもするか? 下手したら聖魔連合にも追われるかもしれないが……」
「それ良いですねぇ♪ 3人で気長に冒険して、トレジャーハンターでもやりましょうよぉ♪ 国家に追われながら冒険なんてワクワクしませんかぁ?」
「それも良いが……私には生憎、時間がない。フランシスを説得して、魔王ノブナガとヘル帝国を倒さないとな」
マキナは立ち上がり、すぐに樹木に隠れていた。周囲にはざわめき声と一緒に野次馬と兵士が駆け付けていた。
「説得って……これだけの事をやってどう説得すんだよぉ!? アンデッド化(不死化)は断るぜ!」
マキナに続き、ローブ、アルセーヌが匍匐前進し、茂みの中に突き進んで行く。ローブとアルセーヌは見様見真似で、マキナの匍匐前進をなんとか真似ている。
「……奴は私の身柄と銃を欲しがっていた。銃を交渉材料にすれば……説得できるかもしれないが……ネゴシエーター(交渉人)が欲しいところだ」
「交渉人ですかぁ……気が進まないですがぁ……凄腕の交渉人を知っていますよぉ。ですが、腐れ縁でしてぇ……」
「紹介してくれ」
マキナは大金貨を指で弾き、アルセーヌの頭に乗せた。
「毎度♪ ナイトメアキングダム公国のスラム街に隠れ家的な宿を知っています。そこで落ち合いましょう」
アルセーヌはそう言って、マキナにメモと巻物を手渡すと、茂みの奥へと消えていった。
「こういう事を見越して、アルセーヌは事前に脱出ルートを確保していたのか……しかし、何だこれは?」
メモには隠れ家的な宿の住所と日付と時間が記載されていた。マキナが渡された巻物を開いてみると、レジャーシート大の羊皮紙に魔法陣が描かれていた。
「ああ、そいつはテレポータル(転送陣)だな。事前に設置したもう一つのテレポータル(転送陣)に繋がっている。呪文詠唱無しで踏むだけで、テレポート(瞬間転移)が使える優れ物だぜ。使えるのは一回限りだがな。しかも3人用とは、あいつも用意周到だな」
「それでどうやって使うんだ?」
マキナがテレポータル(転送陣)を地面に敷き始める。
「普通に数秒間、その魔法陣の上に立っていれば良いだけだ」
「おい! そこに誰かいるのか! 出てこい!」
マキナとローブの声に気づき、衛兵が茂みに槍を突き刺していた。グサリと何かが突き刺さった。
「何か手応えが……ゴミ?」
衛兵が槍を引き抜くと、突き刺さった白紙の羊皮紙がヒラヒラと舞って、地面に落ちていた。
「確かに誰か居たと思ったんだがな……」
踵を返す衛兵。落ちた羊皮紙の周囲にはマキナとローブの姿はおろか、人の気配すらなかった。




