5章 地球世界最強女軍人VS異世界格闘チャンピオンAランク
そこはファンタジーな異世界ではよくあるような王城の大広間である。王座に続く赤いカーペットが広がり、金の装飾が施された凝った造りの柱や壁が広がっている。王座の紅い壁紙には王家の紋章か、蝙蝠のマークが施されているものがあった。
そこに座るのは当然にフランシス・ヴァーニ公爵であった。両隣にはフルプレートの衛兵が剣を持って構えている。王座に近い場所には左右に軽装の鎧の兵士が連なっており、一人の客を持て成すのには大袈裟な警備に見えた。
兵士列から離れた柱の隙間には煌びやかなドレスで着飾った貴婦人や貴族風な刺繍が施された豪華ウェストコートを着た紳士達が観客としている。兵士と貴族も含めてフランシスと同じヴァンパイアなのか、頭の上と背中に蝙蝠の翼のようなものが生えている人物が多かった。他には30パーセント近くが狼の耳と尻尾が持つ男女が混じっている。
異世界ファンタジー好きには生唾が出るほどのシチュエーションであるが、軍人として経理も担当した身としては無駄が多い人員配置に見えた。
「貴様に魔王討伐の任を与える!」
大臣と思しき者に手渡された高級そうな革のスクロール(巻物)が読み上げられた一言であった。
周りの観客達はまるでそれで栄誉であるかのように拍手し【おー!】や【おめでとうございます】【なんと栄誉な事なのでしょう!】などの声が何処からからか男女の声が聞こえてくる。
王室の接待に招かれた事もあったので、マキナは現代式のマナーで跪いていたが、思わず顔を上げてしまう。
「……なんと? 作戦会議も無しに魔王討伐命令ですか? それは辞令という事でしょうか?」
マキナは思わずフランシスを睨むような目つきになる。
「栄誉な事であろう? その為にこの世界に来たのであろう?」
首を傾げるフランシスにマキナは溜息をつく。
「魔王討伐が斬首作戦であるならば……このような公の場所で公表する事ではありません。そもそも私はここに来たばかりで……部隊はおろか一人の兵士すらもいない。武器や資金すら渡されていないのですよ」
マキナの不満の声に貴族達がざわつき始める。
「ふむ……そのへんに関しては抜かりはない。仲間は我が見繕ってやろう。そなたに特別な武器と防具……それなりの資金を提供しよう。持ってまいれ!」
フランシスが手を叩くと、フルプレートの兵士が高級そうな大きな宝箱を二人がかりで持ってくる。宝箱を置いて金の鍵で開けると、金の装飾が施された剣、盾、鎧、3色の薬瓶、魔導書と書かれた分厚い本、スクロールの地図、通行証と書かれたカード、許可証、革袋にパンパンに詰まった金貨が入っていた。
「……これは何です?」
マキナは思わず脱力した口調になる。
RPGゲームと異世界ファンタジー好きだったらこの初回特典はかなりの喜ぶべき品々だろうが……ここはリアルな現実なのだ。一人で旅する前提なら多少は役に立っただろうが、人が多い軍隊を指揮する立場としては一人分の物では全く役に立たないのである。敵対する軍と戦うにはどうしても人も武器も数がいる
周りの観客達はまた豪華な贈り物に拍手し【おー!】や【なんと神々しい品々】【どれも一品ばかりですぞ】などの声が何処からからか男女の声が聞こえてくる。
「冒険に必要な物はある程度、揃えた。オリハルコンソード、オリハルコンアーマー、オリハルコンシールド。買える物としては最高級で最強装備になる。赤の瓶は傷を治すライフポーション。緑はマジックポーション、魔法を使う為のマナ(魔法残量)を回復させる。黒は解毒ポーション、毒などを打ち消す薬じゃ。魔導書は初期の基礎魔法の物だが、しっかり覚えるようにだ……貴重なこの世界地図は必須であろう雨にも強い、高級羊皮紙でな。さらにこの通行証は聖魔連合に加盟している国なら無料で通行できる代物でな。それと許可証は我の権限で平民からあらゆる物を贈与が許される。さすがに商人の物の贈与は無理だが、あらゆる家、施設、土地は立ち入りが許される。便利であろう?」
(ずいぶん薬のバリエーションが少ないな。麻痺解消ポーション、石化解消ポーション、アンデッド化を回復する聖水、盲目を解消する目薬、最低でもあらゆる状態を治す万能ポーションは欲しいところだ。奴め、マキナに盛る気か?)
ヨルムの解説が入ると、この冒険者セットに薬以外のツッコミが無いのもそうだが、余計にマキナは苛立ちが顔に出てしまい、頭を痛めたかのように思わず頭を押さえた。
「これは私、一人分の装備ではありませんか? 私は元軍人の指揮官です。敵軍が一人ではなく、多くの兵力があるなら私一人の力では只の人間でしかありません。仲間とその人数分の物資を求めます」
「……そうであったな……もちろん仲間を用意しておる……何人欲しい?」
フランシスは訝しげにマキナを見る。
「相手の軍……ヘル帝国軍の規模は何人ですか?」
「ヘル帝国軍領は魔大陸全土で3036万キロ……それに対して聖魔連合の領土、聖魔大陸は1707万キロ……その850万キロが支配されている。ヘル帝国軍の兵力300万人以上……聖魔連合の150万人以上いた兵力は今では100万人以下であるな」
フランシスの言葉にシーンと静まり返る観客達。
「では……この国の兵士をどれだけ貸していただけるのですか?」
フランシスは間を置いて、上を向いて何かを考えてから重い口を開いた。
「……暗殺部隊を編成し……目立たない数の少数精鋭の4人で魔王ノブナガの暗殺を考えていた」
「本気で言ってるのですか? 最低人数の分隊規模でも7名以上は必要です」
「……無理なら和平条約でも構わん……貴様はヨルムの弟子のようなものだと聞いている……何を心変わりてヨルムを裏切ったかは知らぬが……ノブナガにまだ人の心があるなら交渉に世界の半分をくれてやっても良い」
「……正気の意見とは思えません。既に世界の半分が侵略されているではありませんか。交渉カードすら無ければ、話し合いにもなりません。敵軍が勝ち続けているなら尚更です。一方的に師のヨルムを殺し、街を破壊し、侵略を続けるならば、降伏せずに戦うべきなのです公爵!」
マキナが声を上げると、周囲の貴族達がまたざわつき始める。
「ではマキナ……人数と武器を用意すれば良いのだな? その人数分の多量に銃の材料も欲しいという訳か?」
フランシスが笑みを浮かべて言う。
(これは一本取られたか?)
ヨルムのテレパシー(思念通信)が苦虫を嚙み潰したように言う。
「いいえ、先日言ったように銃は作れません。別の武器のアプローチを考えます」
その返答にフランシスは腕を組み、何かを考えこむように下を向く。シーフ(盗賊)のアルセーヌによって銃器が造れる事はバレてはいるが。銃器の事を深く追求しないのはシーフ(盗賊)をけしかけた事を周りの貴族や兵士に露呈されたくないからなのだろう。
「……ふむ……良いだろう……貴様の考えた通りにやるがよい。ただし! 全て我の配下が用意し、我が資金を用意するのだ。貴様の世界の武器や防具ができた際には融通してもらうぞ」
「……分かりました」
返答すると、フランシスは満足したように笑みを浮かべた。
「見よ! この屈強な戦士達を!」
マキナがフランシスに案内され、通された場所はサロンのような場所であった。上質な絨毯が敷かれ、ソファにハンモック、ベッド、テーブルが並び、筋肉質な男達が座っていた。
室内は異様な雰囲気であった。妙な匂いのお香が炊かれていたせいなのか、妙にリラックスしているというか、フランシスとマキナが入ってきたものの、一言も発せずに目が合わない。
「これが……屈強な戦士ですか? 栄養失調に精神疾患……薬物中毒者、アルコール依存症、腰痛の者までいるな……」
マキナが周囲の筋肉質な男達を見ると、がっかりしたといった風に溜息をつく。その中でも貧血気味の者も多い。首筋や肩に犬か何かに噛まれた牙の跡があった。下手をすれば、狂犬病のような感染症に発症している者さえいてもおかしくないだろう。
「貴様は元医者か何かなのか?」
「我が国の軍では医学を学びます。応急処置程度ですか、自身や他者を守る為です。衛生兵に頼ってばかりではいられない人手不足でもありますから」
マキナは瞬間記憶で怪我や病気などの疾患は全て認識していた。その身体の動作、皮膚やその状態に至るまで。
「全てヒューマンとはいえ、よりすぐりは40人以上はいるのだぞ……使える奴はいるであろう?」
立ち上がり、ゾンビのようにふらつく屈強な男を見て、またマキナは溜息をつく。
「彼らは駄目ですね……食べ物が悪いのか貧血気味の者が多いですね。彼らをなぜ自由にしないのですか?」
「ちゃんと飯を与えておるぞ……過酷なトレーニングに耐えるには多少の娯楽は必要だと思ってな」
フランシスの言葉からなぜか焦りと動揺が見える。
「話になりません」
「何処へ行く!?」
マキナはお香の煙を吸わないように口を塞ぐと、逃げるように室内から出て、ドアを閉める。
フランシスも慌てて部屋から出て、広い廊下を歩くマキナを追いかける。
「マキナ、あの中に使える者はいないと言うのか? 同じヒューマンだぞ、それを率いて軍隊にすれば箔が付くであろう?」
「煙草やアルコールですら運動能力や思考力を低下させるというのに……中毒性の高い薬物を与えるからです。しかもです。彼らを完全にコントロールする為に薬物で催眠し、マインドコントロールしていますね?」
「そ、その方が……指示が通るであろう。貴様も将軍か何かの立ち位置なら、手足のように動く部下が理想であろう?」
「それでは只の人形ではないですか……自分の意思がないものをどうやって動かすというのです? 傀儡では自分の命の危機管理すらできないのです。上官の指示に従い、命令以外の事態が起きた時、アドリブで臨機応変に行動できる兵士こそ理想なのです」
(マキナ、男どもの肩や首の傷に気付いたか?)
ヨルムのテレパシー(思念通信)の声が聞こえた。
(ああ、噛み傷だろ? 只の貧血ではない事は想像がついた。ホラー映画じゃヴァンパイア(吸血鬼)の眷属化はセオリーだからな)
(マキナ、お前も気をつけろ。フランシスは俺には吸血はしなかったが……お前と銃を手にする為なら何をするか分からない)
(だろうな)
「マキナ、あの兵士が駄目なら貴様はどういった兵士を望む?」
フランシスはあの干されてやつれたような燻製人間が最善策で、良い人材だと言わんばかりだ。
「まずは貴方の兵士を1000人ほど貸していただけないでしょうか? その兵士を運用する資金と武器調達の資金もです。50億ゼニほど貸していただけると……」
「兵士1000人に50億だと!? 貴様はふざけているのか! ミレニアムウォー時代はヨルム、ドロシー、アリス、ノブナガの4人で旧ヘル帝国(バルザフ魔王国軍)の我とマリアを仲間に下し、わずか3年で魔王バルザフを討伐し、我とマリアの助力で和平交渉に至り、2000年続いたミレニアムウォーに終止符をうった。ヨルムの弟子の貴様が多くの仲間と資金が無ければ、ヘル帝国軍の魔王ノブナガは倒せないと申すか!」
声を上げ、側に居た守衛の槍を奪い、床をその柄の石突で床を叩いた。続けてトントンと槍の石突で床を叩くフランシス、今にも首を狙って斬りかかっていきそうな勢いがあった。
「私の師のヨルムはゲリラ戦を得意とする兵士です。その人数で勝利できたのは納得できます。しかし……元仲間のノブナガという者は裏切ったとはいえ、元仲間。ヨルムの戦略を熟知しています。ヨルムの暗殺と共にヨルムが統治した国を滅ぼしていますし、ヨルムと同じゲリラ戦を仕掛け、斬首作戦をするのは得策ではありません。モロー・ドクターの手にした戦闘機や他の兵器が気になります」
「セントウキ? 何を言って……しかし、モロー? モロー・ドクターか? その名は確か裏切り者のドワーフでそのような者がいたな……ヘル帝国の捕虜になってからは……違法なキメラ(合成魔獣)実験に手を出し……聖魔連合軍に猛威を振るっていると聞く。しかし奴はドワーフでも武器ではなく、モンスターと魔獣の研究者……奴が兵器や武器を作るとは思えぬが」
唸るように言うフランシス。マキナはモローの特徴の不一致に唖然とするしかなかった。
「奴は兵器を……武器を作らないのですか?」
「ドワーフは鍛冶師を生業としている者が多く、武器、防具、攻城兵器には興味は持つが……奴はドワーフでも特別でな……モンスターや魔獣にしか興味は持たなかった。モンスターを魔獣化し、より速く走り、騎乗できる種を研究していた。奴が兵器を作るなど聞いた事が無い。奴が兵器を作るとしたら、同姓同名のあかの他人であろう」
「そんなはずは!?」
(ヨルム、どうなっている?)
テレパシー(思念通信)で確認すると、間を置き、ヨルムの返答が返ってくる。
(気にすることはない。あっちのモローとこっちのモローは違う時代の産物だ。未来のお前がモロー・ドクターと戦い、奴の研究の方針転換をさせただけの事だ)
(そういえば……未来から来た奴だったな……ファンタジーなのかSFなのかややこしいな)
「……まあ、よい。どうしても資金と仲間が欲しいと言うなら……コロシアムのタクティスバトルに出るが良い。武器はもちろん、魔獣を召喚しようが、魔法を使おうが何でもありのバトルだ。そこでエキシビションマッチを貴様の為に開催する。50億ゼニは無理だが……ファイトマネーとして1億ゼニは用意しよう。仲間の公募にも協力しよう。ただし負けたら……」
フランシスがニヤリと笑う。
「……負けたら貴方の要求を飲むと言う事ですか?」
「分かっているではないか。負けたら我の奴隷になってもらう。我の指示は絶対、決めた仲間と資金も我が決める。命令を聞かぬなら貴様を人形にする方法はいくらでもある。これは我なりの譲歩だ。貴様がヨルムの弟子という事を考慮してのな」
「……分かりました。日時は?」
「明日の正午にコロシアムで開催する。時間近くに使いの者を出す。相手は当日に発表になるが……ヨルムの弟子ならどんな相手でも問題なかろう?」
「了解いたしました」
マキナは会釈すると、踵を返した。
「気に食わん女だ……ヨルムの弟子だと思って調子に乗りおって!」
廊下の扉が閉まる瞬間、フランシスの不満の声が聞こえた。
コロシアムでは人の歓声が響き、熱気で溢れていた。ローマのコロッセウムのような造りの円形上のコロシアムには観客席があり、石板型の巨大モニターでこちらの姿が拡大されて写されていた。どうやら周囲を囲む宙に浮かぶ幾つもの水晶玉がカメラのようであった。色は黒く、水晶の中心には一眼レフカメラのレンズが備わっている。それを操っているのは頭と背中に蝙蝠の翼を持つヴァンパイア(吸血鬼)や花冠を被り、煌びやかな白いローブの幼い少女がいる。ヨルムに聞いたところ、どうやらハーフリング(勇気ある小人)という種族であれで大人らしい。
『クソヒューマン! まだのうのうと生き残っていたのかよ!』
黒肌と長く尖った耳が特徴のダークエルフ(黒森人)の男が罵声を浴びせ、腐ったトマトを投げつけてくる。それに合わせて他の客も投げつけ、ベチョベチョとコロシアムのダスト舗装したような砂地を汚していく。中には腕力とコントロールが良い奴がいるのか、当たりそうになり、腐ったトマトをなんとか避ける。
「はぁ……」
『裏切者の種族が! 死ねよ!』
今度は人相の悪いワーウルフ(人狼)族の男が腐った卵を投げてくる。それも合わせるかのようにベチャベチャとコロシアムの砂地を汚していき、腐ったトマトも合わさり、吐きそうな匂いを充満させる。
(ヨーロッパのサッカー試合のフリーガンを思い出させる。アウェイ感が半端ないな……ヒューマンとはここまで嫌われているのか……裏切り者がいるにしてもヨルムもヒューマンの英雄だろ?)
テレパシー(思念通信)で送ると、ヨルムの返答がすぐに返ってくる。
(俺は死んだとはいえ……行方不明扱いだ。魔王ノブナガと一緒に共謀しているという噂も流れている)
(お前はどんだけ人望が無いのだ)
(だが、お前を応援している者もいるぞ)
『可愛いわね♡ 貴方、お願い! 私のペットとして飼わせて!』
と、女性貴族のような身なりのヴァンパイアの貴婦人が叫ぶように言う。
『絶滅危惧種のヒューマンは貴重だ! 死ぬ前にわしと契約し、研究させてくれ!』
長く尖った耳が特徴のエルフ(長耳族)の学者風の身なりの老人男性が叫んでいた。
幾つかの高級そうな羊皮紙の契約書が投げ込まれ、腐ったトマトと腐った生卵の混じった床にそれが落ちていく。
(あれは応援と言えるのか? ファンというより……いろいろな意味での身体目的だろ)
巨大石板モニターの画面が映り変わり、司会席のような部屋と二人の女性が写されていた。マイクかカメラの機能があるのか水晶玉のような物も置かれている。
【このナイトメアコロシアムにお集まりいただきありがとうございます! 司会はハーフリング(勇気ある小人)、子供じゃないぞ♡ 人気バード(吟遊詩人)のカルミナ・ブラーナが送りします!】
化粧が濃く、人形のようなゴスロリチックな衣装で、まるでアイドルみたいなハーフリング(勇気ある小人)の少女が声高らかに解説している。
【解説は元総合魔法剣技大会チャンピオンのエルフ(森人)最強と言われているグラディア・トリクスさんです!】
カルミナの隣の席には片目を眼帯で覆っているエルフ(森人)がいる。こちらはカルミナと対照的で簡素な外套を纏っていて、グラディアと思われる者は飾り気がない。
【ウォーリア(戦士)のグラディアだ……訳あってBランクに降格したが、武器、格闘はもちろん。サブジョブ(副職)はソーサラー(攻撃魔法士)の経験もあり、魔法の事ならある程度は解説できると思っている】
巨大石板モニターに二人の映像が映ると、歓声が上がった。
『カルミナちゃん! 俺だ結婚してくれ!』
『グランディア様が私を見た!?』
そんな声が最前列の席から聞こえてくるようだった。知名度の雲泥の差と、人気バード(吟遊詩人)と元チャンピオンでは観客の扱いも違うのだろう。悔しくはあるが。
【今回のフランシス・・ヴァーニ公爵様主催の特別開催のエキシビションマッチですが……なんと初参加のマキナ・エクス選手、ギルドランクはC……種族はハイヒューマン(選ばれし人間)のブレイブオフェンサー(勇者)のポテンシャルでも厳しいと思いますが……】
カルミナががっかりしたように言う。
【確かにランク差はあるが……彼女は噂ではエルダーアース(現代世界)から来た元兵士と聞く。さらに魔王バルザスを倒したSSランクのヨルム・ガンドの弟子で、サポートジョブ(副職)はアルケミスト(錬金術師)別世界の武器を造る技術があるなら、私でも予測不可能だ。特にエルダーアース(現代世界)のジュウという武器は矢より速く、小さな鉄礫を連射可能だ。いくら相手がチャンピオンでも不意打ちをつかれたら……】
【なるほど……エルダーアース(現代世界)の武器が勝ち筋になってくる訳ですね。彼女のアルケミスト(錬金術師)らしい戦いに期待しましょう! それでは……】
巨大石板モニターにはマキナのジョブ(職業)やステータスが数値化されたものが表示されていた。レベル9が強いか分からないが、生命力258・攻撃力62・守備力33・回避能力26・魔力11・魔法残量80とあった。
(ヨルム、このステータスは強い方なのか? そもそもこの数値は何処で測ったものだ? 安いスマートウォッチみたいな信用できない心拍数や歩数みたいな数値なら意味がないが)
数値化する事に抵抗はないが、この魔法世界でどのようなシステムが構築され、どこまで正確で信用されているのか個人的に興味があった。ヨルムはテレパシー(思念通信)を送ると、すぐに返ってきた。
(アリス・ハートが考案したステータスシステムだ。ギルドカードを手にした瞬間、ステータスは計測される。ギルドカードの複雑なシステムを考えたのも彼女だ。天才プログラマーの正確性は魔法の世界でも活かされている。ステータスの数値は信用性は高い。ハイヒューマンでレベル9でこのステータスなら平均ステータスの上をいっている)
テレパシー(思念通信)でヨルムに呼びかける度に魔法残量の数値が1ずつ減っているのに気付く。
(アリスは今も生きているのか? ぜひ仲間にしたい相手だが……)
(ノブナガが裏切った事とヒューマンの迫害もそうだが……アリスは暗殺されかけた事もあり、元から気難しい人間で人間不信に拍車がかかっている。コンタクトは俺でも難しいかもな)
【対するは我が国ナイトメアキングダム出身、各国の闘技大会でも優勝し、九冠を達成! トーナメントやエキシビションマッチも勝ち続け、戦績も99戦と99勝と、無敗王者の世界チャンピオン! ギルドランクAA。種族はワーウルフ、ジョブはファイター(拳闘士)、我らのローブ・ウルフガイド!】
歓声と共にラッパなどの楽器のファンファーレと共に巨大な門扉が開け放たれ、入ってきたのは赤毛の狼の耳と尻尾を持つ少女だった。顔立ちは少しボーイシュッで、髪型はウルフカット、髪色と耳に合わせたかのような狼耳の紅フードを被り、エプロンのような金属の前掛け、人の拳の倍以上ある金属手甲と爪が付いた金属グリープから、より暴力的な格闘大会だと感じてしまう。
そんな彼女は観客に笑顔で手を振り、八重歯を見せている。
『裏切り者のハイヒューマンなんてブッ殺せ!』
『キャー! ローブ様!』
観客の声援の数からローブの応援者は多く、マキナとは雲泥の差であった。そしてステータスの差も雲泥の差であった。
巨大石板モニターに映し出されたローブのステータスはレベル50、生命力4386・攻撃力250・守備力210・回避能力152・魔力81・魔法残量191。マキナと比べると、どの能力に関しても桁違いである。
(あれが正確なステータス値なら桁違いだな……私には勝ち目がないだろそれにAAなんだ?)
(Aランクの中でトップ10に入る実力者をAAと呼んでいる。例えばBランクの中でトップ10入りなら、BBとなり、別のランクでも同様に同じアルファベッドが並ぶ)
【オッズを見てみましょう……オッズはなんとマキナ・エクス2026倍!? エキシビションマッチでは過去最高額です!? 対するローブ・ウルフガイドのオッズは1.1倍となっております】
(ヨルム、ちなみに私が勝てる方法はあるか?)
(普通なら勝てないだろうな)
【なお……この大会ではプリースト(僧侶)が常駐しています。アクアヒール(回復魔法)などが間に合わなかった場合……リバイブ(蘇生魔法)をかけさせていただきますが……それでも間に合わなかった場合は大会のルールにのっとり、ターンアンデッド(不死化蘇生魔法)をかけさせていただきます】
アルミラージ族と思われるうさ耳と角を持つシスター風な黒いローブの少女二人が笑顔で会釈する。
コロシアムの一番高い特等席には王座に座るフランシスが笑みを浮かべてマキナを見下ろしているようだった。
(まずいな……お前が死んでターンアンデッド(不死化蘇生魔法)をかけられたら……お前の知力が落ちるどころか、ギフテッド(瞬間記憶能力)までも失い……フランシスに丸め込まれる)
(リバイブ(蘇生魔法)とターンアンデッド(不死化蘇生魔法)は何が違う?)
(リバイブ(蘇生魔法)は電気ショックを数十回を繰り返し、気圧の上げ下げで、胴体の圧迫を繰り返し、鼻と口に空気を送り込み、体液にアドレナリン液とモルヒネに近い成分を生成し、心肺蘇生の手助けをする。さらに酸性液によってあらゆる出血を止め、外傷を治癒する。熱によって血行を良くし、血液の循環を促す。元は俺の心肺蘇生や医術から学んだもので、ホーリーランド聖教皇国のヨルム教団の教皇マリア・リリスが開発したものだ。ターンアンデッドと違い、確実に蘇生しない。上級熟練のプリーストなら心肺停止から1分以内に魔法を発動すれば95パーセントの確率で蘇生する。中級のプリーストなら53パーセント、新米の下級なら15パーセントといったところか。死亡から1分ごとに10パーセント成功率が下がっていく。死体損壊が激しいと17パーセントの蘇生確立となり、肉体が無ければ蘇生はできない)
(リバイブ(蘇生魔法)は蘇生確立が低いか……念の為に聞くがターンアンデッド(不死化蘇生魔法)のメリットは?)
(ターンアンデッド(不死化蘇生魔法)は水分と熱によって特殊なウイルス細菌ゾンビパウダーを生成培養し、対象の肉体を発酵させ、アンデッドとして生き返らせる魔法だ。元はヴァンパイアの吸血によるアンデッド化の細菌を研究し、魔法化したものだ。肉体はゾンビとなり、死ぬ事ができない身体になる。各回復魔法でも回復でき、身体能力は向上する。ヴァンパイアのように使用者の意のままに操られる効果はないが、人によっては思考能力が低下したり、無気力になるデメリットもある。聖水でアンデッド化は元に戻せるが、24時間が経過すれば細菌が全身に浸食し、アンデッド化は元に戻らない。ゾンビパウダーはがん細胞に似たウイルス細菌で、時間経過で傷が回復したり、死んでも数時間で蘇生する。肉体を消滅させられたり、石化して捕らえられても教会に肉体の一部を預ければ、復活する事ができるメリットはある。お前の場合はギフテッド(瞬間記憶能力)の失うデメリットの方が高い)
(普通の思考としては2年という短い命のホムンクルス(人造生命体)にとってはアンデッド化は望ましいと思うが……)
(本気か?)
ヨルムが鼻で笑うように言う。
(まさか……私の脳が老人のように衰えるなら……短い命で終えたほうが良い。そもそも一度死んで生き返った命だ。仲間の仇のチャンス以外望まない)
【今回の審判は慎重な審査と判定を含める為にフォトクリスタル(魔力撮影水晶)で撮影を行っております。審判はジュリア・キャメロン! 貴族の撮影家といえばこの方しかいない!】
ヴァンパイアの少女が宙に浮いた水晶玉を操り、腕で転がしてキスをし、会釈する。
ジュリアの会釈と同時に歓声が上がる。
(ならいい……大会ではお前の銃の使用を期待しているが、銃は禁止だ。ここで銃を見せれば、フランシスはもちろん武器商人どもが押し寄せる事になるだろう)
【副審は……マーガレット・バーク! シーフ(盗賊)でありながら幾つもの情報を盗み、提供する。戦場を撮影する撮影家! まさに勇気あるハーフリングだ!】
ハーフリングの少女がフォトクリスタル(魔力撮影水晶)を踊るように操り、観客の母娘や幸せそうな男女カップルを撮影し、歓声を上げさせる。
(勝っても負けてもフランシスの思惑どおりか……だが、この勝負で勝てる自信はないぞ。装備はオンタリオ USマシェット、砂地仕様の迷彩服に防弾・防刃仕様のボディアーマーだ。フランシスに貰ったオリハルコンを使わせてもらったが、これはタングステンより軽く、強度が高いぶん。鉄より硬い強度の鎧でも刃を通すかもしれないが……魔法を使われたら、終わりだな。正直、奴の熊っぽいそれ以上のパワーに防刃やら防弾が役に立つかどうかだな)
マキナは胸や腹を触り、防具を確認する。腰に鞘付きのオンタリオ USマシェット。全長59センチで刃渡りはあるが、戦闘向きの鉈(山刀)でしかない。迷彩服はコロシアムの砂地や壁に合わせた物であるが、遮蔽物が無い場所ではあまり効果がないだろう。
「お前がマキナ・エクスか? ずいぶん細身だな飯食ってんのか?」
立ち位置につくと、ローブ・ウルフガイド嬢が不良みたいな目つきで睨んだ。
「これでも適正カロリーはとっている。訓練時にはMREで1日あたり約3700~6300カロリーを摂取している。一般市民よりはカロリーは摂取しているが……いや、この身体は違うか」
過去と今の自分の身体を見比べ、ヨルムの軍隊戦術指導を受けながらPKOの活動を手伝っていた頃の身体つきだった事を思い出す。レーションよりヘビ肉やワニ肉の方が多かったか?
「何を言ってるか分からないが……まともに剣術や魔法が使えない奴がコロシアムに立つんじゃねぇ。フランシスはお前を殺してアンデッド化させても良いと言っている。早めに降参しろ」
男勝りな口調でローブはでかい両手の手甲同士を打ち付け、挑発を続ける。
「私には引けない理由がある。お前もチャンプなら戦う理由はあるだろ? それこそフランシスや観客はそれを望んでいないだろう? これが競技なら戦ってこその兵士、戦ってこその格闘家ではないか」
「ちゃんと言ったのによぉ……お前は分かってないんだ。これはフランシスと貴族様を喜ばすたけの賭け試合だ。俺は弱い者いじめは嫌いなんだ!」
「お前は戦ってもいないのにレベル差やステータス差で勝敗を分けるのか? アルセーヌにお金を借りて、賭けてもらって良かった。お前に勝った賞金と配当金で私は大金持ちだ」
余裕な笑みを見せるマキナにローブが足を強く踏み込むと、固めたような砂地が砂埃と共に足跡より広い穴が空いた。
「どうやら運良くアルセーヌに勝ったのは本当らしいな。運も実力のうちってか? そんなに賭けが好きってんなら……俺に勝ったのなら何でも言う事を聞いていいぜ」
「なら、条件は厳しいが……私の仲間になってくれないか?」
「アルセーヌだけでなく俺もか……いいだろう! ただしお前が負けた場合はジュウとかいうのも含めて、エルダーアース(地球世界)の技術を全て話してもらう! アンデッド化した腐った脳じゃまともに説明できるかどうか分からないけどな!」
【それでは両者構えて……レディーゴー!】
審判のジュリアの操るフォトクリスタル(魔力撮影水晶)からマイクのような音声が流れ、腕が振り下ろされ、ゴングのような音がコロシアムに響いた。
【始まりました! 試合開始です!】
カルミナの声と共に歓声が上がる。
「時の流れよ、今静止せよ。我が手の中に全ての瞬間を集め、天地の息吹よ、沈黙の帳を下ろせ! クイックドライブ(時間停止魔法)」
ローブが詠唱を終えると、コロシアムは一時の静寂に包まれる。腕を上げていた観客達はスローモーションのように口はゆっくりと開き、ワーウルフ(人狼)の子供が落とした紙コップの数個のポップコーンすら地面に落ちずにゆっくりと落下している。
「悪いな……どんな速い武器を使おうが……ファイター(拳闘士)の上位力魔法には強力な魔法を使うソーサラー(攻撃魔法士)や射撃の名手のアーチャー(弓兵)であっても敵わない。敵うのは時間停止時間の10秒の間に俺の連続攻撃に耐える生命力と防御力を持った奴だけだ」
ローブはマキナに向かおうとした刹那。妙な黒い物体が顔面に向かって飛んできていた。
それはフランシスに説明を受けていた銃のパーツであった。回収して欲しい物の一部、マガジンがローブの顔面に直撃していた。
「なっ!? 馬鹿な!? 何でこんな物が飛んで……!?」
敏感な鼻にクリティカルし、防御を崩しそうになる。そして神速で向かってきたのはマキナだった。
「動けるはずがっ!? そんな……がっ!?」
マキナがローブの腕を掴んだ刹那。
その身長173センチ、体重59キロのローブの体格が宙を舞い、地面に叩き付けられていた。ヒューマンの貧弱な体格と力で、しかも恐らくはマキナの身長は162センチ、10センチ以上の差はあったはずなのに。
「降参しろ! このオリハルコンという金属は切れ味は相当だ」
まるで歩兵の補助武器であるクシポスのような中途半端な刃渡り剣で首に刃を当てていた。しかも背後に手に取り、アサシン(暗殺者)のような隙もない完璧な立ち回りだった。
コロシアムに歓声とどよめきが起こる。チャンプが一瞬で追い詰められるなど過去でも一度もなく、実況すら沈黙していた。
「お前、何で動ける!? 特殊な魔道具か何か!?」
抵抗しようとすると、頸動脈近くが赤いすじを作り、わずかに血が流れた。その手に持つ刃は震えも躊躇いもない。まるで何人も人を殺してきた人間のようだ。
――噂ではエルダーアース(現代世界)ではほとんどの国が平和で、兵士ですら人をまともに殺した事がないと聞いていた。なのにこいつは……いや、そもそもなぜクイックドライブ(時間停止魔法)の中で動ける。動ける手段としては同じクイックドライブ(時間停止魔法)を先に発動か、ほぼ同時発動の確立だ。
「本当に首を斬るぞ……傷は魔法で塞がるみたいだからな。死んでゾンビ(不死者)になりたくないだろ?」
「先に答えろ! お前のステータス表示はジョブはサポートジョブ(副業)アルケミスト(錬金術師)、サモナー(召喚士)、マーチャント(商人)だろ? そのレベルの魔力で、その魔法残量でファイター(拳闘士)クイックドライブ(時間停止魔法)が使える訳がない! お前がエクステンド(違法職業者)なら魔法を発動した瞬間に石化の呪い(カーズ)がかかるはずだ!」
「……エクステンド(違法職業者)何の事だ?」
マキナの蒼だった片目の色が変わっている事に気づく。それはかつての英雄の瞳、独特な金茶色の瞳。
「中位召喚魔法……トランス(憑依操作)か……どうりで……さすがに魔王討伐者のSSランク冒険者相手じゃ勝てない訳だ……参った! 降参だ!」
降参の声のローブに審判が気付き、試合終了の合図か、ゴングのような音がフォトクリスタルから鳴り響いた。
それと同時に歓声とブーイングの嵐が巻き起こった。
『ふざけんな! 金返せ!』
『ヒューマンの癖に反則技だ! エクステンド(違法職業者)だ!』
【なんということでしょう!? 勝ったのはマキナ・エクスです! 信じられません!? 無敗の王者が地面に伏して負けを認めました!?】
カルミナが本当に驚いた口調で声を上げ、巨大石板モニターに映っている彼女の映像も驚いた表情のままだった。
また観客達に腐ったトマトや生卵が投げつけられ、マキナは嫌そうに避けていく。
【勝った要因はなんでしょうグラディアさん……さすがにエクステンド(違法職業者)はあり得ないと思いますが……】
【その可能性も私は一瞬、思いましたが……彼女はトランス(憑依操作)を使ったんでしょう。トランス(憑依操作)を使用すると、一定時間内は憑依者のジョブやステータス、使用できる魔法などが反映されます。彼女、マキナは親しい友人、親、兄弟、の英霊級を憑依させて戦った。先ほどの映像を見せてください)
【このあたりですかね?】
巨大石板モニターにスローでマキナが消える、瞬間移動したようにまるで空気を投げるかのような挙動で、ローブが投げられている映像が見えた。
【投げ技はマキナのオリジナル技でしょうが……ジョブ、レベル、魔力、マナ(魔法残量)から魔法の技術と身体能力は違います。試合開始時にマキナのステータスが底上げしているのが分かります】
【本当です!? しかもレベル99!? こんなヤバいステータスを持っている英霊なんて聞いたことありませんよ!? まさか……】
観客達がカルミナとグラディアの実況を聞き、ざわつき始める。
【ヨルムの弟子と名乗っているのなら確実にヨルム本人でしょうね。ヨルムのジョブは同じブレイブオフェンサー(勇者)。サポートジョブ(副業)はファイター(拳闘士)サモナー(召喚士)シーフ(盗賊)ですから】
【おや……審判と副審が審議をしているようですが……】
巨大石板モニターには審判のジュリアがマーガレットが話し合っている姿が映像に拡大されていた。フォトクリスタルの映像を確かめ合っているようであった。
【後は公爵様がどう判断するかですかね……彼女の意見は絶対ですから】
【反則! 反則! 反則! 反則! 反則! 反則! 反則! 反則! 反則! 反則!】
ブーイングと共に観客達から一斉に声を合わせて反則コールがコロシアムに反響する。
「これもフランシスの目論見通りなら厄介だが……」
独り言のように言うマキナは睨む先にフランシスが座る王座には既に付き人すらおらず、誰もいない状態であった。
審判と副審が手で同時に丸の合図をする。
【やはり覆りません!? 今大会のエキシビションマッチはマキナ・エクスの勝利です!】
カルミナの実況の後、歓声とブーイングの嵐はしばらく止まなかった。
控え室に向かう廊下で、マキナを待ち構えるようにローブが壁に寄りかかっていた。
「なんだ? リベンジマッチならやらないぞ」
マキナが無視して控室に入ると、ローブが入ってくる。
「心配するな俺は観客と違ってお前をチート(反則者)だと思っちゃいねぇ。トランス(憑依操作)は召喚魔法だ。精霊の使用を公式に認められている。完全に俺の完敗だ……さっきのもお前の投げ技なんだろ? さすがエルダーアース(現代世界)の技だ。それに凄い成長率だ。ハイヒューマン(選ばれし人間)はヒューマン(人間)の種族スキルも持っているから、経験値倍化を持っている。さっきの戦いでもうレベル25だろ? すげぇな!」
笑顔で肩を叩くローブにマキナは溜息をつくように肩を落とす。
「何が言いたい? お前は何かを言いたそうな顔をしているな」
「……なら、言わせてもらう! 仲間になるのは賛成だが……一緒にゾンビ(不死者)になるのは勘弁だ。ヨルム教団の信者というのもあるが……それともお前はブラム教団と同じ思考で頭が悪くなっても不死身の身体が欲しいか?」
ローブはマキナを壁に追い詰め、張り手をすると、壁にヒビが入る。何を怒っているのか尻尾は逆立ち、睨む表情であった。
「おい……何を言っている? ヨルム教団? お前はヨルムの信者か何か?」
「そうさ、ヨルムがヒューマンだろうと、ハイヒューマンだろうと関係ない。英雄ヨルムに憧れて冒険者ギルドに入っている。ヨルムの弟子でヨルムと同じ思考ならフランシス様いや、フランシスに従うな。奴はお前とその仲間のパーティーメンバーをゾンビ化させて従わせ、少数精鋭の不死身の暗殺部隊を作ろうとしている」
「……そんなことは知っている! 私自身や仲間にもゾンビ(不死者)などにさせはしない!」
マキナはローブの両肩を掴み、押し返す。
「だが、フランシスは違う。聖魔連合は負け戦続きで、狂ってやがる。ゾンビ(不死者)になれば、死体の一部さえあれば教会で復活できる。それこそお前の肉体が滅びようが、石化しようが、教会に髪の毛や爪の一部さえ預かってもらえば何度でも復活できる。お前にフランシスから指令が下るのは終わりなき斬首作戦だ!」
「……やはりフランシスは無理矢理にでも私をゾンビ(不死者)にしたいのか?」
「フランシスはお前を殺してでも勝てと言っているからな……次の手を打ってくるだろ。フランシスの策をかわし、ゾンビ(不死者)化を防ぐ事だ。お前の仲間になるのはそれからだ! フランシスの何の策もない不毛な戦術は脳筋の俺でもさすがにごめんだ! お得意のエルダーアース(現代世界)戦術かその反則スレスレのトランス(憑依操作)で何とかするんだな!」
そう言ってローブは逃げるように控室を出ていった。
「脳筋人狼め……お前が協力すれば多少はその戦術が上手くいくかもしれなかっただろ」
マキナは開け放たれたドアを恨めしそうに見た。




