3章 地球世界最強女軍人VS異世界女騎士B級
更新だいぶ遅れてすいません! 3章UPできました!
ズドーン!と、雷が落ちたような強烈な音と光が全空間を掌握した。マキナはまるで高い所から落ちたような衝撃があったが、両足の着地は成功し、かがんだ状態で跪いた状態でなぜか動けなかった。バッテリーかコンセントが漏電したかのようにマキナの裸の身体中に電気を帯びていた。
まるで隕石が落ちたかのように天井は壊れ、石床はクレーターの窪みができていたが、マキナの裸の身体は不思議に傷一つなかった。
『おおっ!? 勇者召喚が成功したぞ!』
幼い少女の声と共に大人の男女の歓声と拍手喝采が起こる。
目の前にはゴスロリチックな真紅のドレスを着た金髪の幼い少女がいる。頭の上と背中に蝙蝠の翼のようなものが生えており、瞳は紅かった。長い髭の大臣風の男と何やら喋っている彼女の口元には八重歯が見え隠れする。
(すまないマキナ……召喚はフランシスが失敗したようだ。カムロスが全力でお前が肉片にならないように衝撃は抑えたつもりだが……)
テレパシー(思念通信)がきて、まだ慣れていないせいか。耳を塞いで、秘匿通信のイヤホンマイクのような対応をしてしまい、小声で喋ってしまう。
「ん? この声はヨルムか? 肉片……さらりと恐ろしい事を言うな」
ジリジリと詰め寄る幼いゴスロリ少女に何やら喋っていたが、自身の喋った声とヨルムのテレパシー(思念通信)の声で遮られ、聞き取れなかった。
話を聞かないマキナに腹を立てたのか、ゴスロリの幼い少女はむすっとして睨んでいた。
『我を無視するな女勇者! お前がマキナ・エクスというヨルムの一番弟子なのであろう?』
ランゲージリング(言語通訳魔法機)は機能しているようだが、同時通訳のようにルーマニア語に似た言語が聞こえてくる。
「そうだ」
マキナのその受け答えにもなぜか納得せず、より怒りの色を強くした。
「ヒューマン(人間)ごときが! 裸で謁見とは無礼な! 跪け!」
(マキナ、奴の目を見るな! 洗脳されるぞ!)
ゴスロリ少女の紅い瞳が一瞬輝いたかと思うと、カメラのフラッシュでも明滅したかのように目がくらんだ。
「……?」
マキナは一瞬よろけたが、何もなかったかのようにゴスロリ少女を見る。
(何だ今のは? あの言葉だけで洗脳だと? 海兵特殊部隊にいた時にやられた超過酷な拷問の誘導尋問の訓練を思い出したぞ……強制的に命令を従わなければいけない何かを感じた)
マキナはテレパシー(思念通信)でヨルムに応える。
(さっきのはフランシスのヴァンパイア(吸血鬼)の種族スキル、マインドハック(瞬間暗示)だ。本来なら瞳を見ただけで、相手の命令を強制的に従わせるが……そうか、お前は俺と同じ洗脳に耐える訓練を受けていたんだったな)
(フランシス……奴がお前が言っていた噂の侯爵令嬢か……召喚者にして上官ではないか……厄介なお嬢様だ)
「やはりヨルムの弟子か……ヨルムと同じように我のマインドハック(瞬間暗示)が効かぬとは!」
吸血鬼少女は従わないマキナに思わず拳を握り締めた。
「貴様! ヒューマンの分際でフランシス様に盾突くか!」
叫ぶように迫ってきたのは猫耳と尻尾の生えた中性的容姿の人物だった。衣装は羽根帽子に紋章の付いた前かけ、分厚いグリーブ(鉄拗ね当て)が特徴だった。それがサーベルを抜いて、マキナに向かって突いてきた。
「やめろ! 奴は勇者だ! 殺すな!」
吸血鬼少女は止めるが、貴公子風の女騎士は止まらない。
そしてその剣先の速さから威嚇でも、寸止めでなく、殺意のこもった明らかに急所の頭部を狙った攻撃だった。
周囲の人々は凄惨な殺傷が起こると想像してか、思わず目を覆った。
だが、倒れていくのはサーベルを持った猫耳女の方だった。マキナが避けた瞬間、猫耳女は宙を舞い、地面に叩き付けられた。マキナはその隙をつくように素早く、倒れた猫耳女の顎に拳を強打させ、気絶させていた。
「なっ!? 馬鹿な!? がはっ!?」
「貴様、な、何をしたっ!? キャット・ロングブーツは我の近衛兵で、名のあるBランクの冒険者でもあるんだぞ!?」
慌てる吸血鬼少女フランシスに対し、周囲の取り巻きも「何をしたんだ!?」「エルダーアースの魔法か!?」「呪文詠唱無しで勝手に吹き飛んだんだぞ!?」と、聞こえる声量で騒ぎ始める。
「我が世界の最新の近接格闘とCQC技術を合わせたマーシャルアーツ(近接格闘術)ですよ。フランシス・バーニ侯爵令嬢。さっきの技はテコの原理を利用して相手を投げ飛ばし、当身をする技です」
「……ヨルムのしーきゅーし?の投げ技とはだいぶ違ったように見えたが……」
「現代では常に様々な国々の格闘技などを取り込み、新しい格闘戦術に進化しております……あの投げ技も日本という国の合気道の技術を取り入れたものです」
マキナは侯爵令嬢だという事を配慮し、跪いて頭を下げた。
(マキナお前……海兵隊のマーシャルアーツ(近接格闘術)のレベルをどこまで上げた!?)
(ブラックベルトのレベル6だが)
(兵員に教えられるどころか、トレーナーのレベルの最上位じゃないか!? よくそんな暇があったもんだ!?)
「教える立場としては当然だ」
「貴様、誰と話している!? 下位召喚補助魔法のテレパシー(思念通信)が使えるのか? 我を無視するな!」
「失礼しました侯爵様、お召し物を頂けますか? 衣服を事故で無くしてしまいまして……」
「ふん……用意した物をくれてやれ」
フランシスらしき奇抜なメイド服を着た侍女が畳んだ衣服を丁寧に手渡してきた。それはなぜか革ジャンとダメージジーンズだった。受け取って匂いを嗅ぐと、匂い消しのつもりか、女性の香水の匂いと男性の臭い、しかも……。
「微かにヨルムの臭いがするな。奴が使っている独特な整髪料の臭いだ」
(あまり嗅いでくれるな……フランシスと初期に会った俺の服じゃないか!?)
「良い趣味をしているな。上下とも古すぎてビンテージ物だ」
(だいぶ時がたったからな。ジーンズ自体は新品でボロボロじゃなかったが……いろいろあったからな)
「だから我を無視するな! 誰と会話していると聞いている!」
神速。フランシスはスポーツカーでも通り過ぎたかのような速さでマキナの首に紅い刃の切っ先を首が当たる間近まで近づけ、寸止めしていた。それは血が滴る刃で、剣身には血を凝縮したような玉が宇宙空間に漂っている。何か特殊な剣なのだろうか? 得体の知れない物を扱う相手にさすがに勝てる気はしない。
「わが師、ヨルムです」
マキナは臆する事なく、膝を突いて答えた。
(構わんなヨルム?)
事前に話すべきだったが、事態は深刻化している。ヨルムから警戒すべき相手とは聞いているが、テレパシー(思念通信)で通じている事は話すべきだろう。テレパシー(思念通信)が不慣れなためか、相手を警戒させてしまっている。
(構わん。フランシスには伝えてある)
「やはりそうか……貴様がヨルムの言っていた弟子か……もっと屈強な女戦士をイメージしていた」
フランシスはそう言って、意外にも笑顔であっさりと剣を納めた。
(今、フランシスの奴に事情を話した……ここにいる全員にもだ)
「もっと早くに事情を説明すべきではないのか……」
(お前の容姿をじっくりと説明すべきだったな。素っ裸だから侵入者……刺客のホムンクルスだと思ったらしい。ただ、警戒を緩めるな。フランシスはお前を試す為に事前に猫の女騎士をけしかけた可能性もある)
(……だろうな)
テレパシー(思念通信)で答えて溜息をつくマキナ。フランシスが無視をして怒っているのかと思えば、殺すなだ。周りもこちらを勇者と疑っている者はいない。無礼な態度が気に食わなかったのか、猫女騎士が攻撃しただけだ。動機はこちらを敵として疑って攻撃したものではない。
「すまぬな……緊迫した状況ゆえに……召喚に失敗し、敵を招いたかと思ってしまったのだ。しかし、このような状況になったのだ。警戒もしよう」
フランシスが親指で瓦礫を指し示す。無数の瓦礫の隙間には階段らしきものが見え、天井は崩壊していた。空いた天井からは夜空と紅い月、無数の星々が見える。
「失礼いたしました。召喚に応じたとはいえ……修繕費いえ、修繕を手伝う事しか……」
膝を突いたまま、マキナは頭を下げる。
「よい。このような事は把握済みなのでな」
フランシスはそう言った後。何かの呪文を唱え始める。
【闇よ、我が声に応え、我と、かの者を遥か彼方に遠くに届け、転移せん! テレポート(瞬間転移)!】
フランシスがその呪文を唱えた瞬間、幾何学模様の魔法陣が地面に光がレーザー光線のように何かをなぞるように展開し、周囲が真っ白に包まれた。
マキナが気づけば、フランシスとその部下と一緒に床の魔法陣と共に別の広い室内に移動していた。シャンデリラが並び、凝った造りの壁と柱、赤い絨毯が敷かれた迎賓館のような場所に。
(フランシスは何をした? 今のも魔法か?)
マキナは察せられないように心の中でヨルムに念じてみた。
(テレポート(瞬間転移)だ。フランシスはサモナー(召喚士)でもあるからな。あらゆる場所に移動でき、あらゆる者、あらゆる武器を召喚できる)
(敵にすれば厄介な能力だな)
「テレポート(瞬間転移)は結界で制限している為にこんな場所にしか転移できぬが……いや、貴様の身支度もあるゆえ、丁度良いかもな」
フランシスはマキナに振り向き、にやりと笑みを浮かべ、八重歯を見せた。
お仕事の都合で4章もいつになるか分かりませんが、頑張って書いていきます!