1章 異世界からの領空侵犯
どうもかむけんです! ずいぶん待たせてすいません! とりあえず1章書き終えました! やたら戦闘機の設定やら各兵器、戦艦やらを調べるのに苦労しました^_^; F2、F16、F15、オスプレイ、パトリオット、スティンガー、MQ4、SU57、SU37、キンジャール、サイドワインダー、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦、まや、きりしま、単語だけでもあげればキリがありません。とりあえずタイトル通り、ミリオタ知識全開で行くのでよろしくお願いします!
日本国、東京都の5市1町に跨がっている横田基地は日本国内最大のアメリカ空軍基地である。今は夜となり、イベントの友好祭が終わり、兵士達やイベントスタッフはその祭りの余興を楽しんでいた。
だが、この時は日本やアメリカは知らなかった。テロリストや仮想敵国、他国からではない異星の異世界の使者に対する攻撃は誰も想像していなかったのだ。
横田基地の敷地内にけたたましいサイレンと基地内にはアムラームが鳴り響く。それはスクランブルを意味し、敷地内から基地内ではリフレッシュ中の兵士達が慌てて駆ける騒ぎとなった。普通の領空侵犯なら自衛隊が対処するが、この基地が狙われているなら話は別となる。
「アラート発令! 自衛隊の三沢基地から飛行中のE2ホークアイがミサイルを確認! ソ連のウラジオストクから複数の戦闘機と思われる飛行物体から空中発射弾道ミサイル!? キンジャール級と予測します! 基地周辺に着弾する到達予測時間は8分~10分!」
管制官のオペレーターがパソコンのモニターを見ながら叫ぶように言う。
横田基地の管制塔内ではさらに慌ただしかった。マニュアルを落としたのか、その解けた資料を拾い集める新人臭い男性、短気なのかパソコンのキーボードを激しく叩く中年、受話器を持って早口のような暗号を連呼し、状況を確認する女性。ただ1人の少女のような見た目の背丈の低い白髪の女性だけは冷静にレーダーのモニターを見ていた。
「思ったより速いな。CAI(アメリカ中央情報局)の報告ではソ連軍が謎のテロリスト軍に襲撃され、空軍基地が占拠されたとあったが……まさか戦闘機まで鹵獲されたのではあるまいな?」
少女と思しき白髪の少女が言う。背丈の小さと白い肌、蒼い瞳、純白のセミロングの髪、整った顔立ちからは黙っていれば等身大の最高級のビスクドールと言われれば誰しもが納得してしまうだろう。だが、その人形のような容姿の少女の頭の制帽には立派な白頭鷲のエンブレムの装飾が施されており、佐官級のものである。その胸の左の階級章にも同じく白頭鷲の紋章が備わっており、階級は大佐を意味した。
「しかしマキナ大佐。ソ連軍の攻撃の可能性はないのでしょうか? 基地襲撃は自作自演という可能性も……」
女性オペレーターが次の言葉を言う前に少女のような見た目のマキナ大佐が言う。
「無いな。ソ連はアメリカや日本とは険悪な状態ではあるが、紛争中にここを攻撃するメリットはない。我が軍はソ連とは見なさずこれをテロリストと処理する! 幸い……友好祭の地上展の展示中のパトリオットミサイルがある。まだ撤去は終わっていないな? それを使う! 横須賀基地の協力も視野に入れ、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の艦隊にミサイル迎撃要請! それと日本の自衛隊にもな! ミサイル到達前の5分でやれ! 良いなリンダ・オルト曹長」
マキナ大佐の指示通りにリンダ・オルト曹長は慌てながらも同僚の女性オペレーター3人と連携し、無線通信機器とメールを使い分け、各基地に迎撃の命令を出し続けている。マキナ大佐はミリタリーウォッチで時間を測っているようであった。
「は、はい! 横須賀基地に入電……アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の艦隊はミサイルで迎撃できそうです。日本の横須賀基地のまや、きりしまも迎撃参加できそうです! パトリオットミサイルは日本の千歳、入間、PAC3の迎撃準備に入ってます! こちらの横田基地パトリオットも迎撃できます!」
「よし! 各迎撃準備!……ミサイル到達まで1分!……50!……40!……30!……」
30秒カウントで管制塔の窓から遠くで打ち上げ花火のような音と共に夜空に爆発が見えた後、衝撃音が鳴り響いた。
マキナは器用にミリタリーウォッチを見ながらも、胸ポケットから単眼望遠鏡を取り出し、暗視モードにして見ていた。
――どうやら各基地の迎撃と艦隊のミサイル迎撃は上手くいっているようだ。だが、このまま撃ち漏らしがなければの話だ。
「20!……10……!?」
10カウントから、暗視モードの単眼望遠鏡でおよそ1600ヤードから4発のミサイルが見えてきた。
――何だあれは!? ミサイルの先端が目のように見える。金属部分がおぞましい肉に覆われているような……
パトリオットが迎撃を始めたのか、地上から2発のミサイルが発射され、4発のうち2発が爆発。だが、2発が残っている。
「0!?」
敵の2発のミサイルが500メートル付近で新たな2発の迎撃ミサイルが飛び、目標敵ミサイル着弾し、爆発を起こす。
強烈な光の後、衝撃音と共に管制塔の窓を大地震のように大きく揺らした。
「やりました! 無事に迎撃成功です!」
管制塔内から男女の歓声が上がる。
「まったく……一歩間違えば全員死ぬところだ」
マキナは安堵の溜息をつき、空いた回転チェアに腰を落とした。
「これをやったのはどこのどいつのテロ組織だ!? またミサイル攻撃が来る前にこれをやったテロリストに通信し、目的を吐き出させろ! テロリスト機の近くで飛行している我が軍のアメリカ機でも、自衛隊機でも良い。ソ連から奪った戦闘機なら、同じ公開周波数が使えるはずだ」
「しかし……宣戦布告や要求も無しに攻撃した相手に応答に応じるでしょうか? 相手がソ連を偽っているなら、攻撃を仕掛け続け……アメリカや日本にソ連の攻撃を誘導させる目的もあるかもしれません」
リンダ管制官が不安そうに言う。
「その可能性は0ではないが……確かにこちらの基地にはソ連と険悪になりつつある日本とアメリカの軍組織もあるのだが……国連軍本部から、我が基地はNATO(北大西洋条約機構)の空軍輸送機も使用するからな。関係ない国から同盟国まで危険に晒すリスクをなぜ犯すのか? ここを攻撃する理由に私は何か引っかかりを感じるのだ」
「引っかかりですか?」
リンダは首を傾げた。
(全ミサイル防衛。さすがといったところだなマキナ・エクス。だが、これはほんの序の口にすぎぬ。貴様が死ぬまで第二撃、第三撃、第四撃と……儂は貴様が死ぬまで攻撃を続けるだろう)
管制塔内にエコーがかかったような初老の男性の声が響く。その声に反応してか管制官の皆がきょろきょろと見回し、音の発信源を探しているようだった。
「何だこの声は!? 放送室がジャックでもされたか!? 警備の兵は何をやっている!?」
「……いいえ、違います!? 放送室からも管制塔に声の主の特定を求めています!」
(ククク……うろたえているなマキナ・エクス……予言ではここの過去の時代が貴様の起源だと分かったが……まさか赤ん坊ではなく、私に会う前のお前とはな)
「声の主は私を知っているのか?……だが、聞き覚えのない声に訛り、英語にも日本語にも聞こえる発音……それにこいつは何を言っている? なにかオカルトじみている」
アサルトライフルを持った二人の警備兵が駆けこんでくるが、マキナが睨むと、異変が無い事に気付き、呆気にとられている。
「す、すいません!?……放送室から連絡があって、大佐の名前が出ていたので、てっきり管制塔が占拠されたのかと……」
(今の貴様に魔法が理解できないなら好都合というものだ……貴様的に言うならすたんど・おふ・みさいる? という奴だ……次に攻撃されたくなかったら雑兵どもはマキナ・エキスを差しだせ! 無論、自らの投降でも構わぬが)
「ふざけた事を抜かすじじいだ」
リンダがヘッドマイクから無線通信を受け取ったのか、何かを話し始めた。
「いったいどうなっている!? この声は何だ?」
「通信科から入電!? 声が聞こえている時間帯に横田基地内に強力な電波を観測しています!? 我が軍が研究している6G(第6世代移動通信システム)相当の特殊な電波で……脳に直接、声を届けるものです。発信源はソ連の大規模ミサイル攻撃があったウラジオストクのエリア……人工衛星級の電波……いえ、電波塔か特殊な電波船舶、電波航空機の使用があり得ます」
「LRAD(音響兵器)いや……ボイス・トゥ・スカル(脳内音声兵器)、つまりは人工テレパシーか。テロリストにしては厄介なものを使うな」
ボイス・トゥ・スカル(頭蓋骨への声)は音声を記憶させたパルス波形のマイクロ波を特定対象者に照射すると、外耳を介さずに頭蓋骨伝導で脳神経に共鳴し、特定対象者の潜在意識にメッセージとして形成する事が可能な神経系のサブリミナル音響操作、または不可聴音技術とし、複数の米国特許番号とそれぞれの開発者が公表されている。
「各員、声に惑わされるな! 声に応えれば、洗脳される恐れがある! 声の主とは私が交渉する! 各員は持ち場に戻り、引き続き対処を!」
「しかし危険です! 奴の目的は貴女です! もし、貴方が洗脳されたら……」
受話器で対応をしていた男性のロバート少尉が受話器を切り、声を上げるが、マキナがそんなことかと笑みを浮かべると、すぐに押し黙った。
「洗脳には私にも心得がある。逆にテロリストを洗脳しても良いかなロバート少尉。恐らくこの6G相当の電波は我々が研究しているものと似ているものなら、応えようとする意思が強い者に反応する。交渉次第ではこちらが優位に立てる! リンダ曹長、メモの準備と録音を頼む!」
「は、はい!」
リンダが引き出しからメモ、ペン、ボイスレコーダーを取り出し、デスクに並べ始めた。
「各員、もしもの時は私の手足を撃ち抜いてでも拘束しろ! ふふ、私を拘束できるならばな」
兵員達がごくりと生唾を飲み「大佐、ご冗談をと……」誰かがぼそりと呟いたのが聞こえた。
「聞こえるテロリスト! 私がお望みのマキナ・エクス大佐だ!」
(クク、まさか応えるとはな勇者マキナ……貴様の作戦が筒抜けだぞ)
先ほどの初老の男性の声が基地内にエコーするように声が返ってくる。
「勇者? まあ、いい。聞こえたのなら話が早い。貴様、さっきの攻撃は何のつもりだ? ここは日本でもあり、アメリカでもある。それにここには国連軍後方司令部があるし、NATO(北大西洋条約機構)加盟国であるフランス空軍も使用する基地である! 貴様がやった事は全世界を敵に回す行為である!」
(この世界の国々など、どうでも良いわ! 貴様が儂に命を差し出せば、雑兵を助けると言っておるのだ!)
声音(?)から凄まじい殺気が漂ってくる。確かに対テロリストの統合特殊作戦には関わっていたのだから、恨みを買うのも分かる。もちろんテロ組織に攻め入る際には自衛や人質救出の為とはいえ、人を殺めた事もある。その同僚、上司、部下、兄弟、親、同じテロ組織に関与しているならば、キリがないだろう。だが、記憶の中の声をいくら思い出しても、独特のこの声の訛りから記憶に一致するものはない。
――何せ私は忘れようとしても忘れられない厄介な呪い(ギフテッド)を持っているのだから。
「貴様、何を言っている? 私にそれほどの恨みのある奴か? 誰かと勘違いしてないかね? 勘違いしているなら、ソ連軍に私から謝っておこう。何せ私はソ連軍の将校ともウォッカを飲み交わした事があるのでな。ソ連と交渉ならすぐだ……待て、名前を言えば思い出すかもしれないが」
むーと苛立つような唸るような声が聞こえ、すぐにマキナは名前を聞き出した。
(勘違いしているのは貴様だマキナ・エクス! このモロー・ドクターの儂の顔に傷を負わせ、撤退させた事を忘れたとは言わせんぞ!)
さらに聞き覚えのない名前が出てくると、マキナは呆然とするしかなかった。
――何だこいつは……この男は私に攻撃されたという妄想癖に囚われているとでも言うのか? 私の名声を聞き、自軍がやられたと思い込むサイコパスなテロリスト。
「リンダ! 全世界のテロリスト組織、軍組織、諜報機関、過激派組織、右翼、左翼、カルト組織、マフィア、麻薬組織、犯罪組織集団、国際指名手配犯から名前を検索してくれ」
「やってますが……モロー・ドクターに一致する名前が一つもヒットしません!」
検索に一致しないせいか、パソコンのキーボード操作をするリンダの手に焦りが見える。
「馬鹿な……奴はどこの組織に属しているというのだ!」
(まあ、いい。魔法が使えぬ今の貴様にとっては所詮、未来の出来事という事か? 儂の恨み、ヘル帝国の繁栄の為! 魔王ノブナガ様の為にジハードウォーに終止符を討つ為に二度と生き返らぬように貴様を粉微塵にし、未来に貴様の存在を無かった事にしてやろう!)
「名称がどこの組織にも該当しません!?」
リンダのキーボードがさらに焦るように速くなる。
「分かっている! 奴はどこのどいつなんだ!」
マキナは思わず声を上げ、思わずリンダに怒鳴っていた。あり得ない事が多く起こりすぎて、冷静さを保っていられなくなっていた。
マキナの怒鳴り声、あり得ない事が起こり、管制塔の空気が一気にピりついたものに変わっていく。
「……すまない」
思わずマキナが日本式に頭を下げると、リンダも頭を下げ返していた。
「……いいえ、私のリサーチ不足かもしれません。善良と思われる各国、友好国、元軍人、自国組織から洗い出しを始めます」
マキナが謝ると、リンダが冷静さを取り戻したかのようにキーボードを打つ手には焦りは無くなっていた。
「リンダ、リサーチはもういい……私の記憶には全くないのだからな」
「航空自衛隊から入電!? 三沢基地から飛行中のE2ホークアイがウラジオストク方面から戦闘機部隊……日本海付近にて100機を確認したとの事です! 機種はSU57フェロンとSU35スーパーフランカーに似た戦闘機との事です!」
ロバートが今度は受話器から手を離さずに言う。その手は彼にしては珍しく震えていた。
「どうしたロバート少尉?」
「それが……SU57フェロンとSU35スーパーフランカーに似た機体はどれも生物的な見た目になっていたと報告がきていて……三沢基地の偵察中のRQ-4Cトライトンの航空写真です……共用のモニターに映します」
ロバート少尉がパソコンを操作し、映したのはグロテスクの見た目の戦闘機だった。周囲の兵員がざわつき、出しかけた悲鳴を押し殺す者さえいた。
「騒ぐな! 敵テロリストの視覚的に恐怖を煽る塗装にすぎない!」
SU57フェロンとSU35スーパーフランカーに似た機体のキャノピーにはどれも生物的な一つの眼球が取り付いており、塗装はまるで生物的な肉が貼り付いているような見た目だった。
「まるでアニマトロニクス(生物を模したロボット)ですね。戦闘機をサイボーグ化するなんて」
周囲の反応とは裏腹にリンダ曹長は驚きもせずに感心したように言う。
「只の視覚的に恐怖を煽る迷彩だ……見た目に惑わされるな……」
一時的に凍り付いていた兵員がマキナの言葉に促されるように作業を戻り始めた。
「しかし、よりによってキンジャール級が発射できる機体がソ連から鹵獲されているとはな! これから遭遇するソ連からの鹵獲機体をSU57フェロンとSU35スーパーフランカーを日本から来たという事で〈魔改造〉と予期せぬ国の世界から来た〈魔界〉から来た者を指す魔改と呼称。今後、テロリスト機のSU57フェロン魔改、SU35スーパーフランカー魔改と呼称する!」
【了解!】
マキナの声にオペレーター達が一斉に返事をする。
「自衛隊基地から……佐渡島近海でSU57フェロン魔改およびSU35スーパーフランカー魔改とコンタクト……自衛隊機のF15イーグルの警告の通信を無視、その後の威嚇射撃やフレアにも怯まずにこちらに進行してきます!」
「警告の通信に威嚇射撃だと!? 日本は、自衛隊機は何をやっている? こちらをアメリカの領土とも思っているのか? 先にミサイル攻撃を仕掛けられているのだぞ! 仕方ない……テロリストは既に日本の領空侵犯を犯している! 我が軍は全ミサイルが基地の射程圏内に入る前に撃ち落とせ!」
「次のミサイル来ます!? レーダーに複数のミサイル反応!? こちらに向かって来るミサイルを巡回中の各偵察機が確認!? 対レーダーミサイルKH-58U級!? および対艦ミサイル発射!? 空対地ミサイル発射!? 空対空ミサイル発射!? キンジャール級ミサイル発射!? 敵戦闘機が艦隊や各基地、戦闘機などの複数を攻撃対象にしています!」
「先に防衛システムと防衛の要の艦隊を破壊する気か!?」
「先に防衛システムを破壊する気か!?」
「各基地から入電!? 後続の戦闘機にパトリオットミサイルは日本の千歳、入間、PAC3破壊されました!?」
「馬鹿な!? テロリストどもは事前にパトリオットの位置を把握していたというのか!?」
管制塔の窓に閃光の後に衝撃音が走り、窓ガラスにヒビが入る。
「本基地のレーダーが大破!? レーダーミサイルが着弾したと思われます!?」
リンダが予備の無線機に応答しながら言う。
「ロバート少尉……防衛の状況は!?」
「はっ、はい!? 横須賀のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦が大破!? 同じく横須賀のきりしま大破!? 米軍三沢基地のF16ファイティング・ファルコン4機撃墜!? 同じく米軍厚木基地のFA18Eスーパーホーネット2機撃墜!? 自衛隊の小松と千歳の基地のF15イーグル4機撃墜!? 自衛隊の三沢のF2バイパーゼロの3機が破壊されています!?」
(馬鹿め! テレパシーの対処の仕方さえ忘れたか? 貴様の雑兵から作戦が筒抜けだぞ!)
モロー・ドクターが笑うような口調が何処からか響いてくる。どうやらマキナ以外の人間ともテレパシーをし、作戦を暴くような手段をとっているようだ。
「他の者ともテレパシーか? まさか戦闘機だけで攻め入れられ、ここまで好きなようにやられるとはな……アメリカも日本も空戦の防衛はまだまだという事か?」
「敵ミサイル発射を確認!? こちらにミサイルが向かってきているとの事です!?」
リンダが焦るようにデスクに受話器を置き、マキナの顔を見る。
「こちらのパトリオットは生きているな! 迎撃準備!」
「目視で戦闘機を確認!? ミサイル多数!? 間に合いません!?」
ロバートが叫ぶように言う。
「まさか基地付近にまで攻め入るのか! 戦闘機の使い方がまるで素人ではないか!」
先ほどよりも強い閃光が走る。咄嗟に備え付けていたヘルメットを被り、リンダを押し倒し、デスクの下に滑るように潜り込んだ。衝撃波が走り、管制塔の兵員達が散りのように吹き飛び、雨のように鮮血が散った。破片がマキナの両頬を掠め、血の跡を作る。
キンキンと鳴る耳。片耳の鼓膜がやられてしまっている。機械天使の髪と褒められた髪は焼け、ところどころ枝毛のようになっている。それでも比較的に身体は運良く、無事を保っていた。
「リンダ、起きているか?」
瓦礫が突き刺さったヘルメットを捨て、上空の爆発の光とフレアの火で照らされたリンダの手を引っ張る。
「はい……大丈夫です」
リンダは首を横に振り、立ち上がる。その後、何をするのかと思えば、懐中電灯で照らし、デスクの引き出しから突き出したタフネス仕様のノートパソコンを引っ張り上げた。
「他の救助者を探す……可能なら救護班を……」
「は、はい! 衛星通信はまだ可能なはずなのでいけます!」
リンダはヘッドセットをノートパソコンに繋ぎ、無事なデスクにノートパソコンを置いて、キーボードの入力を始めた。
「誰か無事な奴はいるか! 返事をするか手を上げろ!」
管制塔の天井は完全に吹き飛んでいた。キィーンという音と共に飛び交い、SU35スーパーフランカー魔改の2機が滑走路に爆弾を落とし、マキナの声を遮っていく。
F16ファイティング・ファルコン1機とSU35スーパーフランカー魔改の1機がすれ違うように機関銃の撃ち合いを展開する。だが、SU35スーパーフランカー魔改が曲芸飛行のようにループを描くと、回転しながら機関銃を放ち、F16ファイティング・ファルコンの後方エンジンに直撃させ、爆破していた。
マキナが懐中電灯で照らすと、兵員は天井の瓦礫に潰された者が多数、血の海に埋まっている者、瓦礫の破片が頭部に直撃し、真っ赤な顔でピクリとも動ない者。ほとんどが死んでしまっているようだった。脈をとっても、呼びかけても、身体を動かしても、答える者はおろか、動く反応すら示さなかった。
「良かったロバート少尉……お前が無事で……」
馴染みのある倒れたロバートを見つける。血の跡もなく、無事なのだと身体を起こすと、その胸には鉄骨が刺さり、驚愕な表情で目を見開いたまま絶命していた。
「マキナ大佐、間もなく救護班が来ます……あ!?」
ノートパソコンを持ったリンダが駆け付けると、ロバート少尉の死体を見て、思わず悲鳴を押し殺した。マキナはロバートの瞼を閉じさせ、十字を切る。
「救護班はもういい……リンダ・オルト曹長、この基地の退避を命じる……」
「いいえ、マキナ大佐をサポートさせてください! この基地の消化が必要なので、消防隊の出動要請は必須です。それにまだ生き残っている兵員の救護の要請も必要になるはずです! もちろん退避経路の誘導も行えるはずです!」
真剣な眼差しで真っすぐの視線を向け続けるリンダにマキナは溜息をつく。
「お前は優秀で良い奴だったが……時々、上官の命令を聞かないからな……リンダ曹長、ナビゲートの指示を頼む。ただし、本当に命の危機が迫るようなら退避を優先しろ! 良いな?」
「はい! 肝に銘じておきます!」
リンダは敬礼した後、マキナにイヤホンマイクを投げ渡した。
「避難用の輸送機かヘリを確保してくる。基地内で連絡がとれる班はいるか?」
マキナはイヤホンマイクを耳に付け、胸の無線機にコードを繋ぐ。
「基地内の救護班と消防班は対応に追われています……他の各班とは連絡とれません」
「分かった……格納庫を確認してくる。輸送機か輸送ヘリか……最悪、輸送車両が確保でき次第、負傷者を優先して運ぶ。リンダ曹長は目視で敵機の監視をし、負傷者の確保ルートと安全な順路をナビゲートだ。あと、できればSU35スーパーフランカー魔改、SU57フェロン魔改の弱点を知りたい」
「弱点ですか?」
リンダ曹長が不思議そうに首を傾げると、マキナは適当な推理を話した。もちろん推察にすぎない部分が多くあり、こうであって欲しい願望があったかもしれない。
「……そんな弱点があるなんて……」
リンダ曹長が下を向いて何かを考える素振りをする。
「もちろんこの推理は推察にすぎん。我が軍の兵器の開発でヴェノム・プロジェクトと同じような計画があったというだけだ……もちろん同様の兵器とは限らないし、テロリストのモロー・ドクターの私兵や捕虜が戦闘機に乗っているだけかもしれない。いくら私に私怨があったとしても全てを一人でやるような無謀な策だ。私なら絶対にやらんがな」
「分かりました……通信班に依頼して調べておきます……」
「ただし、無理はするな」
「了解ですマキナ大佐。ご武運を……」
マキナが駆けると、リンダ曹長は敬礼をして見送っていた。
格納庫はSU57フェロン魔改とSU35スーパーフランカー魔改の誘導爆弾にことごとく爆破され、ほとんどが瓦礫の山になっているか、火の海になっているかだった。まともな格納庫の一つは半壊し、炎を上げていたが、無事な箇所は多くあった。だが、この格納庫は友好祭の展示物として扱われる他所の機体が預けられていた。
マキナが格納庫に足を踏み入れると、毛髪を焼いたような匂いが漂っていた。倒れたまま焼かれている遺体、鋭い瓦礫が突き刺さってピクリとも動かない兵員から、手足がぼろ雑巾のようになった兵員まで様々だった。どの兵士達も生きている者は誰一人いなかった。
「良かった! まだ生き残りがいたか!」
聞き覚えのある男性の声にマキナは反応に困った。駆け寄ってきたのは実の父親であった。
「カリバー・エクス中将、ここで何をしている? この格納庫は他所の基地展示物の戦闘機しかなかったはずだが」
マキナが首を傾げる。普通なら逃走用の輸送機、ヘリ、車両を確保しようとするはずなのだ。
「ふふ、そう言うなマキナ。預かり物をさすがに壊す訳にはいかなくてな。なにせ他国の戦闘機で機密情報もある。この機体だけでも日本の基地に帰してやらねばな」
「なんだ蒼い塗装にしたF16ファイティング・ファルコンじゃないか。私の為にマーキング塗装までしてあるとはな」
壁や天井が燃えている炎の明かりで蒼い塗装の戦闘機の1機が照らされる。その戦闘機の尾翼には機械の翼を持つ少女の祈る姿が描かれており、主翼には白の機械の翼が塗装されていた。
「まさか……これは日本のアニメ会社とのコラボ塗装だ。このF2バイパーゼロ戦闘機をモデルにした天使の少女が乗って戦うアニメがあったらしい。名前は忘れたが……」
――1機の戦闘機を守ろうとする愚かな父に少し冗談交じりの皮肉のつもりで言ったが、我が父はあまり冗談は好きではないらしく、苦笑いした。
「出せるのか? 戦闘機1機に時間をかけるより、輸送機と逃走車両を探した方がこの基地の為になるだろう」
「確かにな……だが、お前ならこの戦闘機1機で戦況を変える自信はあるか?」
「冗談にしては笑えない。私は海軍にいた事もあるが、ほとんどが特殊部隊ネイビー・シールズとしての活躍が長かった。だいたい下積み時代は整備兵で、戦闘機に乗ったのはテストパイロットとしてだ」
戸惑っているマキナにカリバー中将は微笑む。本当に何を考えているのだこの男は……我が父ながら考えている事が読みにくい。
「だが、これがF16ファイティング・ファルコンに見えているのならば……もちろんテストパイロットとしてF16ファイティング・ファルコンに乗った事があるのだろう?」
「もちろんF16ファイティング・ファルコンには整備から、搭乗した事もある。だが、実戦とテストでは話が違う!」
マキナが声を上げると、カリバー中将はマキナとF2バイパーゼロを見比べた。
「本当に日本の百里基地に届けるだけでいい……運良くテロリストは他の戦闘機に気を取られている」
「ボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)が聞こえなかったのか? 標的は私なんだぞ! だいたい機体に武装なぞ無いぞ! 逃げるだけでは行く手を阻まれる」
「運良く大規模演習に使う際のF16の武装がアメリカからこの基地に運び込まれている。本来は緊急着陸の際のテストケースとして武装整備の経験を積まないといけないからな」
カリバー中将がLEDライトでF2バイパーゼロの主翼下部を照らすと、ミサイルが搭載されていた。
「中将が一人で整備したというのか?」
「もちろん私も下積み時代は整備兵だったのでな。もちろんお前と同じ子供時代からNGOでは車両からヘリまでプラモのように組み立てた事もある」
「装備は何だ?」
「固定武装のM61A120mmバルカン砲には弾が装填してある。F16ファイティング・ファルコン用のデコイ・フレアも積んである。お前が言うようにF16ファイティング・ファルコンと同じものだからな。だが、F16ファイティング・ファルコンと違い、F2バイパーゼロは多くのハードポイントを備えている。相手に合わせて空対空ミサイルを多く積んだ。中距離空対空ミサイルのAIM7スパロー、AIM120アムラーム、赤外線誘導ミサイルのアスラーム、短距離空体空ミサイルのAIM9サイドワインダー。各ミサイルは必要な距離に応じて使い分けろ」
「F2バイパーゼロはF16ファイティング・ファルコンと同じくマッハ2.0まで出せるが、この速度で完全なステルス機ではない機体だ。逃げる手段や囮としては二流の戦闘機だと思うがね。せめてマッハ2.5のF15イーグルを用意できなかったのかね? 鹵獲機とはいえ、元の性能のSU57フェロンはステルス戦闘機でマッハ2.1、SU35スーパーフランカーがマッハ2.25なのだぞ」
マキナは溜息をつくように言う。
「F2バイパーゼロの代わりにF15イーグルが展示されていれば良かったな。知ってのとおり、この基地は空輸航空基地で、戦闘機は運用していない。性能の差は技術でカバーしろ。これは命令だ」
カリバー中将には有無を言わさない圧があり、これ以上の拒否はできないと、マキナは二度目の溜息をつく。
「私はテストパイロットだと言っているのだが……まあ、上官の命令とあらば従うがね」
文句を言いつつ、マキナは梯子に登り、キャノピーを開き、座席につく。
「計器類はF16ファイティング・ファルコンとほぼ同じだ……離陸準備および離陸後は周波数(114.539MHz)で行う」
カリバー中将が無線機の周波数の数値を見せる。
「了解……コックピットはF16ファイティング・ファルコンとほとんど同じじゃないか……計器盤とヘッドアップディスプレイ、操縦桿の位置まで同じだぞ」
マキナがスイッチでF2バイパーゼロのキャノピーを閉じると、カリバー中将が敬礼する。
「リンダ、応答できるか?」
マキナはイヤホンマイクのスイッチを入れ、リンダのチャンネルに合わせる。
『はい、いけます』
「逃走の輸送機と車両確保は無理になった……急遽、上官に命令され、日本のF2バイパーゼロを百里基地に届ける羽目になった。進路を確認できるか?」
『待ってください……F2バイパーゼロの保管格納庫は確か……16F番格納庫でしたよね?』
「ああ、そうだ。使える滑走路はあるか?」
『そうですね……使えそうな滑走路は……36番滑走路が使えます。輸送機のオイル漏れの炎上がありますが、離陸には問題ないレベルです』
「分かった。これより離陸準備に入る。ALT FLAPSスイッチ……NORNを確認……トリム設定確認……ENG CONTスイッチPRIを確認……キャノピー確認……STORES CONFIGスイッチ設定確認……CATⅠ設定……CATⅢ設定」
マキナは各スイッチを押し、F2バイパーゼロの確認を行っていく。すると、F2バイパーゼロのエンジン音が鳴り響き、後部に陽炎を発生させ、エンジンノズルの左右が萎んでは開きを繰り返すと、オレンジの炎が噴き出していく。
「スピードブレーキ格納確認……IFF設定確認……外部燃料タンクからの送油を確認……FUEL QTY SEL NORNを確認……」
FUEL QTY SEL ノブを NORM」
カリバー中将はエンジンノズルの爆音、熱や炎にも臆せず、機体部分のチェックを始めていた。
『異常無しだマキナ大佐……いつでも出れるぞ』
「……駄目だ……開口扉が熱と衝撃で変形しているのを目視で確認……離陸はできない……格納庫内の発砲の許可を願う」
格納庫の開口扉は今も燃え続け、爆発か何かの衝撃で、大きな金属片が直撃したのか、巨人が殴ったかのようにへこみ、漏れたオイルやら燃料の燃焼によって、金属部分のレール部分は飴のように溶けて変形していた。
『何をする気だマキナ大佐?』
無線機で応答するカリバー中将の表情が不安顔になる。
「サイドワインダーで開口扉を爆破後……離陸する!」
『危険です! 他の燃料や機体を巻き込んで誘爆する可能性があります……それに格納庫から出られたとしても、開口扉の爆破で敵機に気付かれて、離陸前に集中砲火ですよ』
リンダが思わず強い口調で言う。
「開口扉を爆破と共に交戦中の機体にフレアを要請……爆弾や機関銃以外のミサイルなら防げるだろうからな」
『無謀ですマキナ大佐……戦闘機より脱出を優先してください』
必死に止めようとするリンダ曹長の声がイヤホンマイクから響く。
『構わんリンダ曹長。私が許可する……』
カリバー中将がゆっくりとした口調で言う。
『カリバー中将!? しかし……』
「発砲の許可を確認! サイドワインダー発射後……発進する!」
マキナは専用ヘルメットとマスクを装着し、操縦桿を握る。
『進路クリア! 行けマキナ大佐!』
「FOX2!」
マキナは操縦桿のスイッチを押し、ミサイルの一つ、サイドワインダーを発射していた。サイドワインダーは短距離空体空ミサイルであるが、燃えている開口扉の高温の赤外線に反応して飛んでいき、目標の開口扉に直撃し、爆破していた。
炎上していた開口扉は粉砕されると、炎上する滑走路がマキナの視界に入ってきた。墜落する1機の戦闘機が滑走路の一部に当たり、爆発炎上するのを確認するが、迷っている暇はなかった。
「発進する!」
マキナは操縦桿とペダルを動かし、F2バイパーゼロを前進させる。ペダルブレーキの余裕はなかった。
(のこのこと! このタイミングで出てくるのは……貴様かマキナ・エクス!)
モロー・ドクターのボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)が聞こえたかと思うと、SU57フェロン魔改とSU35スーパーフランカー魔改の2機ずつが隊列を組み、空対地ミサイルを発射していた。
『フレアお願いします!』
リンダの英語とは違う、日本語の叫びと共に低空飛行していた自衛隊機のヘリOH-1ニンジャがフレアを放ち、空対空ミサイルを誘導していく。
「まさか日本の自衛隊機が支援してくれるとは……」
F2バイパーゼロを滑走路で方向転換させ、36番滑走路に向かって加速させる。
『油断するなよマキナ! 誘導爆弾や機関砲は防ぎようがない!』
罵声のようなカリバー中将の声が無線機から聞こえてくる。
「分かっているが……方向転換したばかりで、もう少し加速が欲しいところなのだ……あと1分は欲しい!」
『SU35スーパーフランカー魔改の4機からレーザー誘導爆弾の投下を確認!? およびSU57フェロンの4機の滑空式精密誘導爆弾投下!?』
マキナの乗るF2バイパーゼロのキャノピーの頭上で隊列を組んだSU35魔改の4機とSU57スーパーフランカーの4機が爆弾をそれぞれ数発の爆弾を落として、通り過ぎていく。
「無誘導爆弾ではなく、誘導爆弾だと!? さすがにまずいのだが……」
敵戦闘機から投下された無数の爆弾が磁石のように吸い寄せられ、マキナ機のF2バイパーゼロの頭上に迫る。
「こなくそ!」
マキナは気合の声と共に操縦桿を傾ける。
落ちる爆弾を滑走路で走るF2バイパーゼロをマキナはジクザクに動かし、避けていくが、爆風によってか横に傾きかけ、右へ左へと芝生に何度もコースアウト寸前となり、まともに直線コースに入ることができない。
(なぜ当たらない! ちょこまかとレーダーから消えおって! 中途半端なステルス戦闘機めが!)
F2バイパーゼロのステルス性向上を狙った電波吸収材 (RAM)や多少のステルス機能が役に立っているのだろう。本格的なステルス機には劣るが、ステルス性能を施したF16ファイティング・ファルコンよりステルス性能があると言われている。
「爆風で操縦桿が持っていかれるのだが!? 爆風で直進すらできないぞ! 地対空ミサイルか、対空機銃でもいい! 支援はできないのか!?」
『……支援はできるぞ……C-130Jスーパーハーキュリーズに乗せていた紛争中の支援国に渡す物があってな……FIM-92スティンガーがある……炎の中、誘爆覚悟で持ってきたかいがあったな』
カリバー中将は笑うように言うが、FIM-92スティンガーとは携帯型地対空ミサイルなのだ。生身の人間が持って撃つミサイルで、狙っている間に戦闘機に反撃されて、機銃を喰らえば一溜まりもない。
「死ぬ気か中将! FIM-92スティンガーでは攻撃ヘリか、ドローンのような低速戦闘機しか撃ち落とせんぞ!」
『ふふ……囮にはなるはずだ。なーに、弾数もバッテリーもろくに無い兵器だ。一発を撃ったら退避する』
「ろくでもない事はやめろカリバー中将!」
マキナが叫ぶように言うが、カリバー中将の無線がノイズと共に切れる。
『SU35スーパーフランカー魔改1機、SU57フェロン魔改1機、近づいてきます!』
リンダ曹長から無線が入り、マキナは再び操縦桿を左右に動かす。
滑走路をジグザグに走行するF2バイパーゼロにSU35スーパーフランカー魔改1機、SU57フェロン魔改1機がそれぞれ機銃を発砲し、左右の主翼と尾翼に掠め、火花を散らした。
「くうっ!? 本格的にまずいな!? せめてこの機体がSTOVL(垂直/短距離離着陸機)方式なら短い距離で離陸できるのだが……」
『SU35スーパーフランカー魔改1機、およびSU57フェロン魔改1機来ます!』
擦れるかというぐらいの隊列を組み、SU35スーパーフランカー魔改1機、フェロンSU57フェロン魔改がF2バイパーゼロの主翼の横方向から迫る。今度は低空飛行でそのキャノピーには不鮮明な映像と違い、2機の生物戦闘機には間違いなく巨大な動く眼球がマキナに視線を向けた。
「馬鹿な!? あれでは本当に生物ではないか!?」
驚いている暇はないが、SU35スーパーフランカー魔改とSU57フェロン魔改の巨大な眼球に威圧されたせいか、暗示にかかったように身体が膠着し、操縦桿がおぼつかない。
SU35スーパーフランカー魔改とSU57フェロン魔改の機銃部分から、火花が見えた。
『マキナ!』
無線機から聞き覚えのある声と共に横にジープに似た車両、ルーフ無しのグロウラーITV(軽四輪駆動車)が猛スピードで迫り、F2バイパーゼロの主翼の横に付いた。もちろん機銃は放たれた中で、銃弾がF2バイパーゼロの主翼下を掠め、グロウラーITVのフロントガラスと、ボンネット、フェンダー、フロントドア横、ホイールに穴を空け、滑走路に銃弾の火花を散らす。
だが、カリバー中将は恐れる事なく、座席に立ち、FIM-92スティンガーに照準を向け続け、通り過ぎるSU35スーパーフランカー魔改の1機に煙と共に地対空ミサイルを放った。
FIM-92スティンガーから発射されたミサイルはSU35スーパーフランカー魔改の1機の後方エンジンに向かって誘導し、爆発し、制御を失って墜落して滑走路から外れた場所に叩き付けられて、爆発していた。
『ははは! やったぞマキナ! 高速戦闘機を落とすなんてなかなかの腕だと思わないか?』
無線機から子供のようにはしゃぐカリバー中将の声が聞こえる。
「馬鹿か中将……車両が炎上しているぞ! タイヤもパンクしているのだ……すぐに降りて退避しろ!」
マキナが言う通り、グロウラーITV(軽四輪駆動車)はボンネットから炎上し、軽い爆発を起こし、後輪と前輪のタイヤにも銃弾が当たっていたのか、変形したタイヤが嫌な音を立て、スピードを落としてF2バイパーゼロの後方に下がっていく。
――無理もない。カリバー中将は先ほどの機銃から守るように盾になったに等しい。
『マキナ大佐!? カリバー中将!? 後ろから先ほどのSU57魔改が来ます!』
『マキナ……後は任せた……』
カリバー中将の消え入りそうな声がマキナの無線機から聞こえてきた。
「車両から退避しろカリバー中将!」
マキナがコックピットから背後を見ると、UターンしてきたSU57魔改がカリバー中将が乗るグロウラーITV(軽四輪駆動車)に向かっていた。その車両は炎上し、制御を失っていた。SU57魔改はその今にも爆発しそうな車両に一発の爆弾を投下していた。
爆弾はボンネットに直撃し、カリバー中将の両足をもぎ取り、その残った身体を吹き飛ばし、吹き上がる炎の中に消えていった。
『そんなカリバー中将……応答してください……救護班を呼べば助かると言ってください……じゃないと……』
泣きそうな声のリンダ曹長の今にも消えそうな声がノイズと共に入ってきた。カリバー中将のチャンネルは砂嵐の音だけが響き、誰も答えなかった。
「貴様らあああああああっ!」
マキナは叫ぶように声を上げ、スロットルを上げ続け、F2バイパーゼロを離陸させていた。
『マキナ大佐!? SU57魔改1機がコンタクト!? ミサイルきます!?』
離陸直後のマキナ機のF2バイパーゼロに向かって、SU57魔改が2発のミサイルを発射し、体当たり覚悟でマキナ機に向かってくる。だが、マキナはミサイルや体当たりを恐れずにF2バイパーゼロを加速させ、操縦桿のボタンを押し、M61A1バルカン砲を発射していた。
F2バイパーゼロのキャノピー左下のガンポッドのM61A1バルカン砲が火を噴き、1秒で100発が放たれた弾丸は二発のミサイルを撃ち落とし、SU57フェロン魔改の眼球が貼り付いたキャノピーを撃ち抜き、鮮血を舞わせ、すれ違いざまにエンジン部分にさらに機銃を被弾させ、爆破炎上させ、落下させていた。
「怒りのあまり思わず無駄弾を使ってしまったな」
(馬鹿な! そのふざけた絵が描かれた戦闘機で儂の傑作機を破壊したと言うのか!)
恐らくモロー・ドクターはF2バイパーゼロの尾翼に描かれた機械天使の少女の事を言っているのだろう。確かにスクランブル時にこんな記念塗装の戦闘機で出撃するのはB29スーパーフォートレスの爆撃機に描かれた裸の女性のノーズアートのような挑発的なものに見えるのかもしれない。
「こんなふざけた戦闘機で攻撃されたくなかったのなら、友好祭終了直後に襲撃など考えない事だな! 仲間と……父の仇をとらせてもらうぞ!」
(ほざけ! 貴様に数多くの仲間を葬られたのはこちらも同じ! 貴様も粉微塵にして、儂の傑作機の一部にしてくれる!)
「何が傑作機だ! 貴様の操る機体は鹵獲機の改造だ! 上の許可さえ貰えば貴様より数段上の戦闘機を作れるぞ」
(《ヘル帝国軍》の障害としてやはりお前はなんとしても抹殺する!)
SU57フェロン魔改の3機とSU35スーパーフランカー魔改3機が編隊を組み、矢じりのような形のフォーメーションでマキナの操るF2バイパーゼロに向かっていく。
(勇者のなれそこないのハイヒューマンが! 死ね!)
SU57フェロン魔改の3機とSU35スーパーフランカー魔改3機が合わせたように一斉に12発の空対空ミサイルを放っていた。
「照準を合わせればすぐミサイルか? 無駄弾だな! 素人でなければ冷静にドッグファイトをやれ!」
マキナは敵機から離れるようにF2バイパーゼロを加速させ、直進すると見せかけ、翻るように上昇して、アーチを描くようにインメルマンターンで無数のデコイ・フレアを放った。
F2バイパーゼロに壁のように立ち塞がったオレンジの光と煙を上げたデコイ・フレアが12発のミサイルを誘導し、その熱源に耐えられなかったミサイルは次々と爆発していく。
(馬鹿な!? 全てのミサイルが誘導されるなど!?)
「モロー・ドクター、指示がなってないぞ! 隊列を立て直せ! 他の戦闘機がフリーだぞ!」
マキナは妙な動きをするSU57フェロン魔改を見つけると、すれ違いざますれすれで、空対空ミサイルのサイドワインダーを放ち、1発をエンジン部分に直撃させ、墜落させていた。
(しまった!? 儂の傑作機が!?)
「何か妙だな……一斉に動く機体がいるかと思えば……周囲を警戒するように孤立する機体がいる……それなら!」
マキナは孤立したSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改を見つけると、すれ違いざますれすれで空対空ミサイルを放ち、エンジン部分にミサイル1発を直撃させ、1機、2機、3機と墜落させていく。
(ぐぬぬっ! 油断したとはいえ……ここまで正確にミサイルを直撃させてくるとは……しかも一歩を間違えれば、衝突すらしてしまう距離でのミサイル攻撃……正気の沙汰とは思えん! だが! 儂にも秘密兵器がある!)
孤立した戦闘機が集まり、さらに巨大な矢じりのような隊列を組んでいく。
(クク、まだ数度のテストでしかやっていないが……貴様に対して出し惜しみなどせん! サイクロプスミサイル一斉発射じゃ!)
80機近い数のSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改から一斉に発射されたのは80発以上のミサイルで、近付くにつれ、露になった。それは肉で覆われ、先端には巨大な目玉が付いたグロテスクなミサイルだった。
「兵器すらグロテスクな物に変えるか……ミサイルならフレアで!」
マキナは再びインメルマンターンでフレアを放つ。肉で覆われたサイクロプスミサイルはフレアに誘導される事なく、マキナ機のF2バイバーゼロに執拗に獲物を狙うトビのように追い続ける。
(馬鹿め! 儂の傑作機にフレアなど通じるか! そのまま死ねマキナ・エクス!)
「新型ミサイルの特性が見抜けなかった私のミスか!?」
――避けられない!? ソ連の戦闘機と同じ搭載のR73ミサイルシリーズの改造版であるならば、マッハ2.5以上は確実に出るのだ。このF2バイバーゼロのマッハ2.0の性能では確実に尻を突かれる。
モロー・ドクターが率いる目玉ミサイルがマキナ機のF2バイパーゼロが背後を捕らえた。
『支援します! マキナ大佐!』
『世話の焼けるアメリカ大佐だ!』
無線機から英語と日本語が交互に聞こえ、機銃の雨が降り注ぎ、80発以上のミサイルが次々と爆発していく。
隊列を組んできたのは、日本の自衛隊基地のF15イーグル、F2バイバーゼロ、同じ在日米軍のF16ファイティング・ファルコンとFA18Eスーパーホーネットだった。
『ま、間に合いました!? 在日米軍基地と自衛隊基地に支援を求め、各軍にF2バイバーゼロの拝借を説明しておきました!』
「リンダ曹長、助かった……数的にも性能的にも私だけではどうにもならない相手だ」
(雑兵どもが! 邪魔しおって!)
ミサイル一斉発射で仕留められると思っていたのか、ばらけていたモロー・ドクターが率いる戦闘機が隊列を組み直し始める。
『自分、F16ファイティング・ファルコンのマクドナルド少佐です! マキナ大佐の逸話はいつも耳にしています! 百里基地までF2バイバーゼロを届ける任務……いえ、やるなら地獄までもお供しますよ!』
在日米軍の無線チャンネルで交信してきたのは20~30代近くの男性の声音だった。
『こちら和民2等空佐だ。F2バイバーゼロは祭りの為に貸したんだ! 機密保持にも関わるから至急に返却を求めたいが……戦うって言うなら手伝うぜ! モロ? 何とかはどうせお前を狙い続けるだろうからな。逆に百里基地にあいつらを連れてくんじゃねぇよ迷惑だ。半分は冗談だが……あはははっ!』
こちらは自衛隊機の無線チャンネルで、30~40代くらいの男性声音の日本語で、気さくに話しかけてくる。
「もちろんだ! 各軍と各機に力を貸してもらいたい!」
正面から4発の敵ミサイルが接近すると、マキナ機のF2バイバーゼロは機銃とミサイルを放ち、上昇した。
敵ミサイルはマキナ機のF2バイバーゼロの機銃とミサイルによって、狙いすましたかのように爆破されていた。
『ふぉー! 空対空ミサイルとバルカンでミサイルを撃ち落とすなんて普通の芸当じゃねぇな』
「簡単な事だ。多くいる敵戦闘機にロックし、飛んでくるミサイルと合わせてぶつける。それより……リンダ曹長、モロー・ドクターの戦闘機の弱点については調べはついているか?」
レーダーの反応が気になり、マキナがF2バイバーゼロをロールして見下ろすと、いつの間にか低空飛行していたのか、マキナ機のF2バイバーゼロの真下には友軍のV22オスプレイと少し離れた所にMQ4Cトライトンが飛行している。
『はい、空軍と海軍の通信班からSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改の周囲に電波をMQ4CトライトンのESM受信機、AIS受信機とV22オスプレイのレーダー警戒受信機で調べましたところ……ボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)中や各敵機のミサイル発射時から異なるマイクロ波を検出しました。正確にはボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)中は電波天文学で使われる超大型干渉電波望遠クラスの100GHzのwバンド、ミサイル発射時も同じくwバンドが使用されています。つまりはこのマイクロ波を利用して、ボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)や戦闘機を操る)システムを確立しているものと思われます』
リンダが伝えた事でボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)で兵員の何人かの思考を読まれたのか、SU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改の戦闘機群の狙いが低空飛行していたV22オスプレイとMQ4Cトライトンに変わり、機銃とミサイルで撃墜されていく。
「オスプレイが!? 奴はどうしてそんなにも人を殺したがる! 今更壊したところでもう遅いというのに……」
モローの愚策とV22オスプレイの兵員の無事が気になり、マキナは思わず舌打ちをする。
『おいおい!? 英語はただでさえ苦手なんだ。短い分かる言葉で言ってくれ』
自衛隊の和民が英語翻訳の問題ではなく、分かりにくい、理解しがたいといったニュアンスの日本語が聞こえてくる。
「つまりは戦闘機群を操っているのは1人で、その元のモロー・ドクターの操っている戦闘機を撃墜すれば全ての戦闘機は落ちるという事だ」
マキナは日本語と英語を交えて説明する。
『そんな単純なシステムなんですか……確かに敵機の戦闘機は皆が同じ動きをするような感じはしますが』
マクドナルド少佐が不安そうに言う。
『マイクロ波の観測データからは1つの戦闘機がラジコンのように遠隔操作しているのは間違いありません。1つの戦闘機から膨大なマイクロ波を観測しており、ボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)中やミサイル発射時に1機の戦闘機からwバンドを検出しています』
「リンダ曹長、そのモロー・ドクターが乗る戦闘機の把握はできるか?」
巨大な矢じりのような陣形から、SU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改が中心部の何かを隠すような陣形に変わり始める。
『戦闘機群の中心部のSU57フェロン魔改の1機です。1機の戦闘機を守るようにカバーしているので、ステルス機であろうと分かりやすいです』
リンダ曹長の自信ありげな声が各戦闘機内に響く。
『木を隠すなら森の中、戦闘機を隠すなら戦闘機ってか?』
和民が皮肉っぽく言う。
「みんな私に付いてきてくれるか? 勝てる方法が1つだけある」
『お供しますマキナ大佐!』
『聞こうじゃないか! 機械天使様!』
マクドナルド少佐と和民2等空佐が応えると、マキナは作戦内容を伝えた。
『確かにそれなら確実です!』
『まどろっこしいが……確かにそれが確実だな!』
(死ぬ準備はできたか? 愚かな雑兵が!)
モロー・ドクターがボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)の電波を飛ばし、頭がキンキンとなりそうな声量で語りかけてくる。
「心を読まれるな! いくぞ!」
エンジンの爆発音と共に燃えながら横田基地の滑走路にF2バイバーゼロが叩き付けられ、爆発四散していく。
在日米軍機、自衛隊機の戦闘機が1機、2機、3機と次々と撃墜されていく。20機はいた戦闘機も自身とマクドナルド少佐と和民2等空佐を含めても、戦闘機編隊は5機しかいない。
「やはりもたないか……」
(必死に何かを隠そうとし、考えている事が分からぬが……増援? 攻撃? まあ、いい。陽動はおろか、逃げてばかりで攻撃すらできてはいないではないか!)
『準備はできました! 爆発に巻き込まれないように退避してください!』
リンダの無線が聞こえ、マキナは安堵の溜息を漏らす。
「ふふ、間に合ったか! 支援遠距離ミサイル攻撃部隊!」
『こちら支援遠距離ミサイル攻撃部隊……ただちに領域から離脱してください』
さらに別部隊の無線機から退避の指示が流れ、マキナと同じようにマクドナルドと和民は安堵の溜息のような声を漏らす。
『待ってました!』
『この時を待ってたぜ!』
マキナ機のF2バイバーゼロが身を翻し、低空飛行でモローの操る戦闘機編隊から離れてゆく。残りの友軍4機もマキナ機を追いかけるように敵の戦闘機編隊から離れていた。
(何を言っている? 私兵を減らした貴様にもはや勝ち目など……このレーダーに映るのは? 増援? ミサイルか!?)
モロー・ドクターが気づいた時には遅かった。四方八方から飛んできた無数のミサイルがSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改に誘導し、次々とミサイルに当たり、爆発し、撃墜されていく。
(馬鹿な!? 何処からミサイルが!? 他に敵機はいないというのに……)
「貴様と同じ方法だモロー! 50キロ離れた他の戦闘機部隊に中距離空対空ミサイル、AIM120アムラームとAIM7スパローを視程外射程から撃った! 目に見えている私だけにこだわった貴様の負けだ! 日本から離れない限り、中距離空対空ミサイルが貴様を狙い続ける!」
(ふん! 何かと思えばミサイルか……ならばやり返せば良いだけのこと! サイクロプスミサイル一斉発射じゃ! マキナと仲間ともども撃ち落とせ!)
「またあの目玉ミサイルか!?」
生き残ったSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改から次々と目玉ミサイルが発射されていく。目玉が付いたサイクロプスミサイルは意思あるかのように迫るAIM120アムラームを撃墜し、残りのサイクロプスミサイルは生き残ったマキナ機、マクドナルド機、和民機、残った生き残りの戦闘機を追いかけ始める。
『そんな!? これは!? AIM120アムラームと同じ指令誘導じゃない!? まさかAI!? 意思があるミサイルなんてえええっ!? うわああああっ!?』
サイクロプスミサイルが直撃したのか、マクドナルド少佐の悲鳴と共に爆発が起こり、F16ファイティング・ファルコンの1機が火の玉となって、ビルに突っ込んでいた。
「マクドナルド少佐!? 応答せよ!? 脱出できたのか答えてくれ!」
マクドナルド少佐のチャンネルは砂嵐が続き、マキナがいくら応答を求めても返事は返ってこなかった。
『……すまないマキナ大佐……日本の自衛隊機ではこの化け物戦闘機は歯が立たん……後は頼む……』
和民の声が無線機から聞こえたかと思えば、サイクロプスミサイルから逃げる和民機と思われるF2ヴァイパーゼロが通り過ぎた。そして和民機の後方のエンジンにサイクロプスミサイルが直撃し、爆発炎上して商店街に突っ込んでいた。
「和民2等空佐!? 聞こえるか? 応答せよ!? 無事を確認したい!」
『こちらら支援遠距離ミサイル攻撃部隊!? 目玉のようなミサイルが近づいて!? フレアが効かない!? うわあああっ!?』
支援遠距離ミサイル攻撃部隊からも悲痛な叫びと共に無線機が砂嵐となる。
「さらに離れた所からの100キロ、180キロは必要か……支援遠距離ミサイル攻撃部隊応答せよ!」
マキナは支援遠距離ミサイル攻撃部隊の生き残りに新たな作戦を伝えるが、遠距離からのせいか、無線機の電波が悪いのと、この戦場で混乱しているなか、新たなミサイル攻撃指示が通るか、微妙であった。
(無駄じゃ! 貴様のミサイル部隊は今頃、サイクロプスミサイルで全滅している頃合いじゃ! 貴様も仲間と同じ地獄に連れて行ってくれる!)
気づけばマキナ機のF2ヴァイパーゼロの後方にサイクロプスミサイルの目玉が凝視し、追跡していた。
「くうっ!?」
マキナはF2ヴァイパーゼロをロールさせ、急激に下降させ、低位空飛行のまま森の木々の隙間を縫っていく。サイクロプスミサイルも低空飛行でマキナ機を追うが、木々を避けられずに大木に激突し、爆発していた。
(馬鹿な!? あの木々の隙間を抜けたというのか!?)
残りの2機の戦闘機もサイクロプスミサイルを避けられずに駅や民家に墜落し、火の海にしていく。
『逃げてくださいマキナ大佐! 貴女の任務は本来、F2ヴァイパーゼロを基地に送り届けることです! 貴女まで死んでしまったら……』
リンダ曹長の涙を押し殺すような声が無線機から聞こえた。
「どっちにしろ逃げるのは無理だと思うがね……そもそもこの機体は足が遅いし、露払いがいないでは、この戦闘機の数相手だ。だいぶ落としたが、まだ20機は残っている……そしてこのサイクロプスミサイルだ!」
マキナはSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改に守られているモロー機と思われるSU57フェロン魔改を見つけると、照準を合わせてF2ヴァイパーゼロからサイドワインダーの2発を発射する。だが、その2発のミサイルはサイクロプスミサイルを守るように進行を妨げ、爆破されていた。
(くははっ! ミサイルなど当たらなければたいしたことはない! 倍のミサイルでお返しだ! これで地獄に落ちるがいいマキナ・エクス!)
マキナはSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改の戦闘機編隊から無数のサイクロプスミサイルが発射されていた。
「刺し違えても貴様を倒すぞモロー!」
マキナ機は避ける事なくサイクロプスミサイルに突っ込み、複数の爆発を起こし、炎に包まれた。
(この世界で言う飛んで火に入るなんとやらか? 虫けららしい死に方ではないか……くわははははっ!)
モローが勝利を確信したその時、夜空の爆発の炎の中から現れたのは尾翼に機械天使の少女が描かれた戦闘機、マキナ機のF2ヴァイパーゼロであった。
「一か八かで至近距離で機銃とミサイルでサイクロプスミサイルを撃ち落としたが……案外、耐えられるものだな」
(馬鹿なあああっ!?)
「覚悟してもらうぞ! モロー・ドクター!」
(この数相手に何ができる! わしを守れスカイゴーレムども!)
SU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改が密集を始め、逆にそれがモローの位置を特定させた。
「なってないぞモロー! その陣形では貴様の位置が丸見えだ!」
(うるさい死ねマキナ!)
SU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改から20発のサイクロプスミサイルが発射され、マキナは迷わず突っ込んでいく。
「AIM7スパローなら!」
マキナはF2ヴァイパーゼロからAIM7スパローミサイル2発を発射し、飛んでくるサイクロプスミサイルを爆発させ、残りのミサイルもM61A120mmバルカン砲で撃ち抜き、爆破していく。
(馬鹿な!? 馬鹿な!? 馬鹿な!? 馬鹿なあああっ!)
「そしてこのAIM120アムラームを使えば!」
マキナ機からAIM120アムラームミサイル1発が発射される。20機のSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改の機銃の雨にさらされ、F2ヴァイパーゼロの両翼や尾翼に弾丸が掠り、無数の火花を散らしていく。
(馬鹿め! 指令誘導のミサイルでどうする! 誘導している間に貴様の戦闘機は動けまい! このまま機銃で確実に狙い撃ちにしてくれる!)
「これでいい! 貴様の目を欺くにはな!」
(戯言を! 今度こそ死ねえええっ!)
モローの照準器がマキナのコックピットを捉えた刹那、マキナ機の側で何かが爆発し、炎上したSU35スーパーフランカー魔改が照準を遮った。
(な、なに!?)
さらに無数のミサイルがSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改を次々と撃墜させていく。
(馬鹿な!? わしのサイクロプスミサイルで遠距離ミサイル部隊は壊滅させたはず!?)
「さらに100キロ、180キロまで離れた第二支援遠距離ミサイル攻撃部隊、第三支援遠距離ミサイル攻撃部隊にAIM120アムラームを発射させた。作戦失敗の為の保険だったがな」
(マキナああああああああああっ!?)
マキナ機から発射されていたAIM120アムラームミサイル1発がモロー機と思われるSU57フェロン魔改の尾翼に直撃し、爆発と共にエンジン部分がわずかに吹き飛ぶ。それと同時に生き残ったSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改が可笑しな挙動の飛行を始める。
「いろいろな意味で当たりで良かった。これで貴様が戦闘機を遠隔で操縦していなかったら、積んでいたからな……というか脱出装置で脱出したらどうかね? そのままでは貴様は死ぬぞ」
SU57フェロン魔改のエンジンが小さな爆発を起こし続け、炎上を広げていく。モロー機が爆発するのも時間の問題かもしれない。
(ただでは死なんぞマキナ・エクス! 貴様も道連れだ!)
「なんだ!? 急に頭が痛く!?」
思わず頭を押さえるマキナ。さらにコックピットにアラームが鳴り始め、操縦桿の制御が効かなくなった。
――どうやら、先ほどの掠めた機銃が塗装を剥がし取ったらしい。両翼や尾翼が突風の空気抵抗に耐えられずに制御を失いかけている。
マキナ機の機体が何度も突風に煽られ、思った方向にいかず、気付けば生き残りのSU57フェロン魔改やSU35スーパーフランカー魔改の6機に前と背後を囲まれ、機銃を撃たれ続け、進行を妨げられる。
マキナ機が機銃で撃ち返すも、突風ですぐに制御を失い照準が定まらずに弾丸は敵機をすり抜けていく。
「貴様!? 神風特攻でもする気か!? 正気の沙汰ではない!」
ボイス・トゥ・スカル(人工テレパシー)のせいか、モローから強烈な殺意と共に突撃する心理が読み取れた。
(死なばもろともじゃ! 死ねえええっ! マキナああああっ!)
SU57フェロン魔改とSU35スーパーフランカー魔改が視界を遮り、ステルス機とあってか、何処からモロー機のSU57フェロン魔改が突っ込んでくるか分からない。
「くそっ! ふざけた作戦だ! 指揮官が考える事ではないぞ!」
SU57フェロン魔改とSU35スーパーフランカー魔改が軌道を変えたかと思えば、モロー機の火の玉となったSU57フェロン魔改が突っ込み、F2ヴァイパーゼロのキャノピーに直撃した。
その出来事はまるでマキナの目にはスローモーションのように映っていた。金属破片が吹き飛び、SU57フェロン魔改の機首のレドームがマキナの胴体を貫き、コックピットに鮮血が舞い、胸と腹に激痛が走った。無線機からはノイズ混じりのリンダの安否を確認する声が聞こえるが、それすらも聞こえなくなっていくようだった。
そして全てが炎に包まれ、夜の闇に飲まれていたはずの空間が朝日を浴びたように真っ白になった。
マキナの身体中に痛みが走り、焼けるような熱さが全身を襲った。そして全ての視界がブラックアウトし、全身が落ちていく感覚に陥った。
――これが死という感覚か……二度と味わいたくないな。
マキナの視界がブラックアウトしたまま、意識は眠るようにやがて思考すらもできなくなっていく。
それはマキナ・エクスという存在が死亡した事を意味した。
「応答してくださいマキナ大佐! マキナ大佐! マキナ大佐!」
爆発四散していくマキナ機のF2ヴァイパーゼロは無残にも粉々に無数の金属の雨と燃えカスを降下させていく。
天井が無くなった管制塔でリンダ曹長は双眼鏡を覗き続ける。
脱出装置が起動したか、リンダ曹長は必死になって確認を続ける。宙に舞う金属片はキャノピーや座席すら粉々で、燃えたヘルメットが流れ星のように落ちていくのがリンダ曹長には確認できていた。エキス・マキナ大佐の生存は絶望的だった。
「……答えてくださいマキナ大佐……貴方が日本を……アメリカを救ったんですよ……これから在日米軍と自衛隊で祝勝パーティーだってありますし……日本やアメリカから勲章だって……二階級特進だって……死んで二階級特進だなんて……やめてくださいマキナ大佐……こんなお別れなんて辛すぎます……新米の私にいろいろ教えてくれた貴方なのに……」
リンダ曹長は涙を流しながら、空に向かって語りかける。その声は無線機を通さず、誰にも届かなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 筆者のかむけんです! なぜこのような作品を書いたかですが、今の現状でリアルタイムで紛争が起こっている訳で、不謹慎ですがこれを小説家としてネタとしてあげない訳にはいかないと思ったわけです。実際に戦闘機が攻めてきたらどうなるのか? どんな兵器が使われるのか? なろう小説ではわりと現代兵器が弱く書かれているイメージですが、魔法より脅威に感じます。引き金一つでM61A120mmバルカン砲は1秒間に最大100発、有効射程は空対空射撃ではおよそ800m、地対空射撃では約1500mですよ!? 魔法よりヤバくないですか? とまあ、魔法対現代兵器と次回以降に持ち越しいたしますが。主人公のマキナ・エクス死んだけど大丈夫なのか? 次回はお約束の転生になると思われます。まあ、転生しなくても……ビック・ボスみたいな主人公が現れればきっと解決するはずです! 少し長くなりましたが、これ以上はネタバレになるので言わないですが、次回もお楽しみいただけたらと思います! それでは!