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超短編

砂と緑の境目で




緑化活(りょくかかつ)動推進(どうすいしん)ロボ応答せよ。緑化活動推進ロボ応答せよ」

「はいこちら緑化活動推進ロボ。連絡ありがとうございます博士」

「こちらこそ、いつも砂漠の緑化活動してくれて、ありがとう」

「ボクはそのために作らましたから」

「頼もしい限りじゃな」

 簡単な会話のあと、二人は情報を交換し合う。

「最後にこの先は砂嵐が発生しやすい。十分に注意しておくれ」

「ありがとうございます。ではまた、緑化作業を続けますね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 炎天下の中、緑化活動推進ロボは作業を始める。

 その最中(さなか)、視界を(さえぎ)る影ひとつ。


「こちらは砂漠環(さばくかん)境保全(きょうほぜん)ロボ!作業を中断し、(ただ)ちに撤退(てったい)せよ!」

「え?待ってください。ここは緑化地域で砂漠環境保全地域は少し先では?」

「作業をやめろと言っている!砂漠や地球環境を破壊するつもりか!」

 さらに砂漠環境保全ロボは警告(けいこく)を出す。

「だから待って。砂漠環境保全って何?何の目的で砂漠を守るの?」

「砂漠には砂漠という環境に適した動物や植物、昆虫たちがいる!」

「あー、うん。確かに。なら地球環境の破壊って?」

 砂漠環境保全ロボの考えに理解を示し、緑化活動推進ロボはさらに聞く。


砂浜痩(すなはまや)せを知っているか?」

 キョトンとする緑化活動推進ロボ。

 砂漠環境保全ロボはそれを見て大きく息を吐く。

「昔は山や川から土や砂が流れて海に来ていた」

「それは今も同じでしょ?」

「今は山に木を植えすぎたり、ダムや堤防で海に流れる土が減ったんだよ!」

 興奮(こうふん)気味に砂漠環境保全ロボは話す。

「だから砂漠の砂を風で海に運ばせることで砂浜痩せ対策をしている!」


 緑化活動推進ロボは砂浜痩せのデータにアクセスする。

 そこには海岸線の砂の減少を防ぐための対策がいろいろと出てきた。


(この考えは初めて聞くなあ……砂漠環境保全ロボの博士独自の考えかな?)

 続けて緑化活動推進ロボは自分の手の上にスクリーン画面を開く。

 そこに表示された地図を確認する。

(やっぱりここは緑化指定地域……)

 緑化活動推進ロボが博士を呼ぶか考えていると、小さなアラームが鳴った。

(これは砂嵐発生のアラーム!?)


 緑化活動推進ロボはすぐさま行動に移る。

 砂漠を拳で全力で叩き、大穴を開けた。

 さらにパワーを調節し、横の砂を手で押し固め、また穴を開ける。

「おい何をしている!?」

「砂嵐が来る!早くこっちへ!」

「なんだと!?こっちにそんなシグナルはうわっ――」

 作業を終え、防塵(ぼうじん)シートを取り出したところで砂竜巻が二人を襲う。


☆ ☆ ☆ ☆ ★


 砂竜巻が去り、緑化活動推進ロボは固めた砂を上り、出てくる。

 そして再度、自分の(てのひら)にスクリーン画面を出す。

「破損箇所は……よしオールグリーン」

 自分の状態を見て、正常なことを確認する。

「えーと次は……」

 キョロキョロと、緑化活動推進ロボはセンサーを頼りに周囲を捜す。

「あった!ビーコン発見!」

 緑化活動推進ロボは救難(きゅうなん)ビーコンの出ている場所に近づき、穴を掘る。

 そこには砂漠環境保全ロボが埋まっていた。


☆ ☆ ☆ ★ ★


「ここは?」

「気がついた?よかった」

 緑化活動推進ロボは安心した声を出す。

「俺はなぜおんぶをされている?」

「あちこちに砂が詰まっていたからね。動かすとパーツ交換かなって」

「なら輸送機を呼べよ」

「あそこは隆起(りゅうき)があるから、少し離れたところで、って博士から」

 あ、博士は僕の博士ね、と緑化活動推進ロボは付け加える。


「どうして助けた?」

「同じロボットだから?」

「あそこまで悪態(あくたい)をついたのに?」

 質問でロボットが会話する。

「うん。それが気になってさ」

 緑化活動推進ロボは歩みを止めて、聞く。

「あそこまで言ってきたのは何か理由があるの?」

 地図の確認なら砂漠環境保全ロボもできたよね、と付け加え、また歩き出す。


「……ただの嫉妬(しっと)さ」

 ポツリと砂漠環境保全ロボがつぶやく。


「俺は昔、配達ロボだった」

 砂漠環境保全ロボは静かに話す。

「世界初のマッハを超えるロボットとして名を()せていた」

「マッハって音速を超えるってこと?」

「ああ。空気の壁をぶち抜いて音速に達するんだ」

 その時の快感は今も鮮明(せんめい)に覚えてると、砂漠環境保全ロボは熱く語る。

「音速かあ。いいなあ」

「俺に言わせりゃ砂漠に大穴開けるパワーがいいなあ、だぜ」

 お互いがお互いを()(たた)える。

「知ってるか?音の速さってのは気温が関係しているんだぜ?」

 気温が上がると音の速さも上がる、比例関係にあると砂漠環境保全ロボは話す。


「だから砂漠保全を?」

「それもある」

 砂漠環境保全ロボは遠い目をして大きな息を吐き、話を続けた。


「俺ができた頃は同型機が次々に生み出されて、我が世の春だったんだ」

「春は終わっちゃったの?」

「小さいのがいいとかパワーが欲しいか速度を上げてとかの声が出て、な」

「………………」

「そのニーズに応えて、俺は不良品のお払い箱になったってわけさ」

 自虐(じぎゃく)気味に砂漠環境保全ロボは答える。

「緑化活動推進ロボは新型だろ?だからあの頃を思い出して、な」

「『俺はまだやれるぞ!』みたいな?」

「そんな感じだ」


☆ ☆ ★ ★ ★


「実際にやれるんだから、自信持もとうよ」

「そうだな。ありがとう。いつかまた配達に戻れるよう実績(じっせき)を積むよ」

「え?ここでやろうよ」

 話のズレを感じた緑化活動推進ロボは話を正す。

「さっき言ってたでしょ?音の速さは気温に比例するって」

「ああ、言ったな」

「だから砂漠で倒れてる人とか動物がいたら助けられるでしょ?」

 緑化活動推進ロボの言葉に砂漠環境保全ロボはびっくりした様子だった。

「なんだそれは」

「え?なんか変なこと言った?」

「考え方だ考え方。どうしてそういう考え方ができる?」

 聞かれて緑化活動推進ロボは考える。

「全体を見るプログラムを組んでくれたからかなあ」

「全体を見る?どういう見方なんだ?」

「さあさっぱり」

 砂漠環境保全ロボは怒涛の勢いで聞いてくる。

 それに対し緑化活動推進ロボは素直に答えを返すのだった。

「博士からはえーっと……点と点を結ぶ話なら聞いているよ」

「その話詳しく」

「『点と点、結んで線を()いたあと、線を結んで面となす』」

 記憶回路をたぐり、三度(みたび)スクリーンを出し、緑化活動推進ロボは説明を始める。

「『面を繋げて立体で、それを重ねりゃ見えてくる』」

 スクリーンに映し出される点を見つつ、砂漠環境保全ロボは静かに話を聞く。

「『全体像が浮かんでくるよ』かな」

「……それ情報漏洩(じょうほうろうえい)の話に似てるな」

「あはは。応用したのかもね」


 二人の間にあたたかい風が流れる。

「それいいな。俺にも組み込んで欲しいぜ」

「博士に頼んでみようか?ちょうど来るし」

「いいのか?」

 緑化活動推進ロボの提案に、砂漠環境保全ロボは即座に聞き返す。

「いいも何も。考えるのは人間の仕事でしょ?」

「それもそうか。俺たちは言われたことをやるだけだからな」

「そ。ロボットだし、必要な時にアップデートするだけの話」


☆ ★ ★ ★ ★


 遠くから輸送機の音が緑化活動推進ロボの耳に届く。


「ありがとな。お礼に今度オイルをおごるよ」

「いいの?助かるよー、実はここに来たばっかりでさあ」

「ならいろいろ教えてやるよ、今度会ったときな」

 緑化活動推進ロボと砂漠環境保全ロボは約束を交わす。


★ ★ ★ ★ ★


「えーっとこういう時って乾杯の音頭を取るんだっけ?」

「メモリーによればいろいろあるみたいだな。好きなの選べってあるぞ」

 ロボット専用の店で二人は会話する。

「えーっとアップデートに?」

「それは俺のセリフ。なら二人の修理終了に」

 ロボットを救出し運んだからか、それとも博士になにか頼んだからか。

 二人は仲良くメンテナンスを受け、久しぶりの再会となった。

「そして二人の出会いに!」

 二人のロボットの声が重なる。

 その後乾杯をし、オイルをグビグビと飲みだす。


「おいしい!」

「だろう?特に仕事の後の一杯は格別なんだ!」

「なら今度仕事が終わったらまた来ようよ」

「タイミングが合って、気が向いたらな」

「約束だよ!」

 二人のロボットは会話を楽しむ。

 そして同時にオイルのおかわりを注文するのだった。


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