15話。猫耳族が配下にして欲しいと言ってくる
「おおっ! ま、まさか、そのようなことが!? ありがとうございます、カル・ヴァルム様。我らをお救いくださったこと、厚くお礼を申し上げますにゃ!」
猫耳族の村長が、深々と腰を折った。
そのつぶらな瞳は、尊敬の念でキラキラしている。
「ヴァルムというと、あのヴァルム家ゆかりのお方ですにゃか!?」
「冥竜王を支配するなんて、前代未聞のドラゴンスレイヤー様だにゃ!」
「ぼ、ぼくたち、助かったんだにゃ! もう生け贄を差し出さなくて済むんだにゃ! バンニャーイ!」
「カル様は、我らの守り神にゃ! 崇めなくてはいけないにゃ! ハハァ!」
なぜか猫耳族たちの中には、僕を神のごとく崇める者まで現れた。
エクスポーションの効果で、彼らは瀕死の重傷から回復していた。
さっきまでの警戒モードは一転し、お祭りのような騒ぎになる。
どうも猫耳族は本来、陽気な種族のようだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと!? 古竜に勝てたのは、ほぼアルティナのおかげですので。感謝を述べるなら、アルティナにお願いします」!
こんなふうに大勢の人から感謝されることなど初めてなので、困惑してしまう。
「何を言っておるのじゃ。こやつらを救うために戦うと決意したのも、作戦を立てたのも、古竜ブロキスにトドメを刺したのもカルじゃろうが?」
「えっ……まあ、そうなのかも知れないけど。そのために必要な力は、アルティナが貸してくれたからね」
「勇敢な上に謙虚とは! 感服しましたのにゃ! カル様、どうか我らもカル様の配下に加えてはいただけませぬかにゃ? 伏してお願いいたしますのにゃ!」
「配下……?」
村長があまりにも突飛なことを申し出てきた。
「この島に暮らす我らは、ハイランド王国に従属することも七大竜王に与することもなく、中立をモットーにしてきましたのにゃ。しかし、聖竜王は王国を攻めるにあたって、この島を拠点にするつもりですにゃ。
古竜ブロキスのあの乱暴狼藉ぶりを見るに、奴らに従ったところで地獄が待っていることは確定ですにゃ。かといって、我らを蛮族扱いする王国に助けを求めることもできませんにゃ。どうかカル様に庇護していただきたいのですにゃ!」
「ええっ!? しかし、今回はたまたま運良く勝てただけですよ?」
実際に僕の魔力は、ほぼカラになっていた。もう読心魔法くらいしか使えない。
魔力量(MP)を増やす修行を、これからもっと徹底的にやっていく必要がある。今の状態では、長期戦は無理だ。
そんな僕の力を当てにされては困る。
そこまで考えて思い当たった。そうか、彼らはヴァルム侯爵家の後ろ盾を期待しているんだな。
「僕はヴァルムを名乗りましたが、実家から追放された身です。僕の配下となったところで、ヴァルム家に庇護してもらえませんよ」
「なんと、カル様を追放!? そんな極めつけの愚行を犯すとは、ヴァルム家は何を考えているのですかにゃ? カル様の魔法で、そこで失神しているのが、ヴァルム竜騎士団ではないですかにゃ?」
村長はレオン兄上を指差す。
さすがは村長と言うべきか、島で暮らしていても、王国の情勢にある程度、通じているみたいだ。
「確かに、そこにいるのは僕の兄、レオンです」
そこで僕は改めて申し訳ない気持ちになる。
村は大変な惨状になっていた。家屋のほとんどが壊れ、畑も抉られて作物が台無しになってしまっている。おそらく、死者も出てしまったことだろう
レオン兄上たちは、猫耳族に対する配慮を一切しなかった。
「ヴァルム竜騎士団が、この村をメチャクチャにしてしまって、本当にごめんなさい」
「なんと! ……失礼ながら、能力、人格、何をとってもカル様の方が、兄上より圧倒的に優れているとしか思えませんにゃ。ヴァルム侯爵家は実力主義と聞いておりまたが……」
村長は首を傾げた。
僕が事情を説明しようとすると、背中に軽い衝撃が走った。
「お父さん! ミーナはカル様のお嫁さんになりたいにゃ!」
仲間の治療を終えたミーナが僕に勢い良く抱きついてきたのだ。しかも、愛おしそうに頬ずりしてくる。
女の子特有の甘い香りに、心臓が止まりそうになった。
「いや、ちょっと。僕はまだ14歳なので、結婚とかは!?」
「そうじゃ! カルは将来、わらわと結婚するのじゃぞ。何を抜け駆けしておるのじゃ泥棒猫、離れるのじゃあ!」
アルティナが憤って、ミーナを無理やり引き剥がす。
「アルティナ様、お許しくださいませにゃ! 猫耳族は一夫多妻制ですにゃ! ミーナは村長の娘として強い旦那様と、たくさん子作りしなければならにゃい、というかしたいのですにゃ!」
「はぁ? お、おぬし、何を言っておるのじゃ……?」
「それは名案だにゃ!? いかがでしょうかカル様。ミーナをお側においてはいただけませんぬかにゃ?」
ミーナの父親の村長まで、そんなことを言ってくる。
「人間は一夫一妻制で、僕はまだ未成年なのでダメです!」
きっぱり断ると、村長とミーナは猫耳をペタンとさせて、残念そうにうなだれた。
しかし、村長はポンと手を叩くと、さもナイスアイデアとばかりに告げた。
「……では、カル様が成人された暁にはミーナをはじめとした村娘全員と子作りしていただくということで、解決ですにゃ! 最強の英雄の血を取り入れて、我が一族は未来永劫栄えますにゃ!」
「はあっ!? い、いや、村長さん。何を聞いていたんですか?」
僕は茹だるほどに赤面してしまう。あまりにも人間と価値観が違い過ぎた。
すると黄色い歓声と共に、猫耳族の女の子たちが群がってきて、僕はもみくちゃにされてしまう。
「古竜を倒すほどの大英雄様の妻にしていただけるなんて光栄ですにゃ。ぜひ、お願いしますにゃ!」
「あたしもあたしも! カル様のお嫁さんにしていただきたいにゃ!」
「むぅ~! みんなミーナが正妻にゃ! ミーナが最初にカル様の子供を産むのにゃ!」
「うわぁああああ!?」
猫耳娘たちは、みんなトビキリかわいくて、しかも胸が大きかった。
彼女たちに四方からサンドイッチ状態にされて、興奮から鼻血が出そうになる。
「こらっ! おぬしら、カルが嫌がっておるじゃろう!? カルの嫁になりたいと言うなら、わらわが相手じゃ! わらわの屍を超えて行け!」
「冥竜王様がお怒りだにゃ!」
アルティナが一喝すると、猫耳娘たちは慌てて逃げ散った。





