5話 アルウ
彼女を抱きしめたまま数分が経過した。
ぐすぐすとすすり泣く音がした気もしたが気のせいかもしれない。
「そう言えば君、名前あるの?」
「アルウ」
ようやく泣き止んだようだ。
お前も教えろというような顔をしてくる。
「アオイだ」
「アオイ…アオイ…」
教えると何度か名前を呼んできた。
そしてまたしても何かを視線で伝えてくる。さすがに分からない。
「どうしたんだ?言いたいことがあるならちゃんと言ってくれ」
「私の名前も呼んで」
「アルウ」
やばい。恥ずかしくなってきた。
「な、なあ、俺を食べる気はないよな?」
「ないよ?」
気を紛らわせるのも含めて一応確認しておく。
アルウは不思議そうにこちらを見つめてくる。どうやら捕食される危険はないらしい。
そうと分かればひとまずは食料だ。腹が減ってしょうがない。あとは寝床も探さないといけないし。
「ここってどこなんだ?」
「あれ」
アルウがさす指の先には街が見えた。
「あれって俺がいた街?」
「違う」
よかった。もし間違ってあの街に戻ったら処刑されてしまうところだ。
指名手配とか大丈夫だろうか。不安だから近隣の街であれば早く移動したいところだが……
ぐぅぅ〜
俺もアルウもお腹が鳴ってしまった。
考えるよりも先に行くしかない。
お互い立ち上がり、街に向うことにした。