2話 連行
顔面に籠手ありのグーパンチをもろにくらい、歯が折れなかった自分を褒めてやりたい。
両手を縛られた俺は衛兵に冤罪でしょっ引かれていた。
「あの!人違いなんですが」
何とか所属の近衛兵だとか言ったこの男に、俺は苛立ちが混じった声で糾弾する。
「ほう、牢の前で鍵を持って立っておきながらよくもそんなことが言えたものだ」
「それは!」
確かにそうだが…
そうだな。誰だってあの状況を見れば、誤った判断をしかねない。それは認めよう。
そして反抗的な態度を取れば尚更、状況は悪化するに決まっている。ここは頭を冷やそう。
冷静になると、今度は羞恥の心が芽生えてくる。
今は夜だ。と言っても石畳の街中を歩く人々は散見される。雰囲気的には、19時、20時ごろと言ったところか。
そんな時間に衛兵に両手を縛られて引っ張られていれば、当然人の目が気になってしまう。
交通違反をして、警察官に切符を切られている気分だ。
「あの、どこに向かっているんですか?」
「まずは詰所だ。その後は投獄だな」
「投獄って……」
今度は俺が入るのか。
地下牢での獣人たちが脳裏を過ぎる。
「それでその、無許可奴隷取引ってどれだけ重い罪なんですか?」
「まあ大したもんじゃねぇ」
そうなのか。一安心だ。
「斬首刑だけで済む」
「大したことあるだろ」
「あ?じゃあ鋸挽とか火刑とかがいいか?」
「刑罰の種類も大事だけどそういうことじゃねぇよ」
「うるせえ奴だな。黙って歩け」
縄で縛られた手を急に引っ張られ転びそうになる。
こんな軽い扱いなのに即、死刑の大罪なのか。
実感ないな。
小粋な冗談だよね?