10話 竜使
男が示した場所には家があった。
なんとかその家にたどり着き、ことなきを得た。
「いやーほんとに助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
家の前で足を挫いてしまい危うく凍死しかけていた男はそれはもう大袈裟に感謝してくれた。
たまたま通りがかっただけで、肩を貸しただけなのになんだか面映い。
「そこのお嬢ちゃんもほんとにありがとう」
「うん」
「ささ、あったかいお茶用意したから飲んで飲んで」
「いただきます」
出されたお茶は冷えた体にしみた。
「それにしても竜人様とその使者様だなんてなぁ」
「し、使者?」
「昔からの言い伝えがあってね。困ったときに竜人様とその使いが助けに来てくれるっていう」
「へぇ……」
なんとも都合の良い昔話だ。
もし本当にそんな話があるなら俺も助けてもらいたい。この一文なしの状況を
当の竜人様と誤解されているアルウは暖かいお茶にご満悦の様子だ。
「なんでも、その竜使様には竜紋があるとか」
「はー。そうなんですか…」
そんなものは見た覚えがない。やはりただの昔話だろう。
「あなたのその首の印、きっとそのことなんですよね?」
「はい?」
急に疑問を投げかけられてびっくりする。
男が指すのは俺の左首のほうだ。自分では確認できない。
ちょうどアルウに噛まれたところでもある。まだずきずきと痛む。
「よくわからないですけど…」
「?……何はともあれ、ほんとに助かったよ」
要領を得ない俺の回答に一瞬だけ怪訝な表情をするが、男は再三感謝の言葉を並べる。
「今日はもう遅いし、ここに泊まると良いよ」
「あ、ありがとうございます」
外が暗かったので、薄々思っていたがやはり今は夜のようだ。
さっきまで朝日を浴びていたのに変な気分だ。