1話 異世界転移
「ここは、どこだ?」
俺は今、檻の前に居る。檻の中には怯える獣人の女子供が居た。
その人達の目の前に、幾つも鍵が付いた束を手にした俺が立っている。
「ああ、これはあれだ。異世界ってやつだな」
そうかそうか。なるほどなるほど。万事了解した。
前後の記憶がなくなっているが、そんなことはどうだっていい。
今いるここは石畳の古く錆びついた牢を幾つも構えた地下の一角。
これが夢でないなら、異世界という意外に考えられる選択肢はない。
そうとなれば、まずは情報収集する以外にすることはない。
「あの、ここどこですか?」
今度は独り言ではなく、目の前の檻の中にいる可愛い獣耳をつけた人達に問いかける。
日本語が通じるわけはないと思うが、それ以外の言語を話すことができないのでしょうがない。
「ひっ……!」
一瞬で悲鳴を上げられてしまった。
「大丈夫です。何もしませんから安心してください」
精一杯の笑顔と両腕を挙げて敵意がないことを示す。が、怯えた獣人達の顔色に変化はない。
ふとその中で、怯えずにいる者に気づいた。
多くの獣人が犬のような耳と尻尾を付けているところ以外、人間と同じ見た目をしているのだが、その者は手足首に蒼色の鱗をまとい、爬虫類のような尻尾を有していた。そして同じく蒼色の髪の頭部からは白色の角を二本生やしていた。
他の者とは違うその容姿にしばらく見入っていると、相手も気付いたようで視線を向けてくる。
何も考えずに数秒間見つめ合ってしまい、気不味く感じて目を逸らしてしまう。と、その時だった。
「オーロス・マーヴァル、貴様を無許可奴隷取引の罪で拘束する!」
「はい?」
地下牢への出入り口であろう、木製の扉を勢いよく開け放ち、甲冑に身を包んだ男が現れた。
ずかずかと音を鳴らし石造りの階段を降りてきた男は、笑顔で両腕を上げる俺の顔面に拳を一発いれて吐き捨てた。
「この犬畜生が、死んで詫びろ!」