マウント社会
私はしゃがんで、男に向かって話し始めた。
「最近自覚しています。自分は無能なんだと。そう思うのはどこかで避けてきたんですが」
男は「うんうん、続けて?」と返してくれた。
「外国語大学に入って、留学も1年弱経験しましたけど、TOEICで満点取れるような奴ほど英語力は高くありません。仕事で英語は使いますが、時折外国人の英語が聞き取れません。妊娠している妻がいますが、将来がどうも不安で。共働きで世帯年収は1000万円程です。貯金は500万程しかありません。イケメンでもないし、身体つきもだらしない。しかも最近少し髪が薄くなってきました。もっとスマートな外見になりたいです。」
私が今まで抱えてきた思いを吐露した後、男は答えてくれた。
「悩んでいるんだねぇお兄ちゃん。大丈夫大丈夫。前を向いてゆっくり行けばいいよ。少し散歩していきな」
私は「ありがとうございました」と言い、男に千円を渡しその場を離れ、夜の代々木公園を散歩して帰った。随分と気が楽になった。