5話 初報酬
朝起きると、すでにママは部屋の椅子でゆっくり本を読んでいた。
何事もなかったかのように建物は元通り、窓から外を見ても血痕一つなく、盗賊二人の死体もどこかへ消えている。
「ママ、昨日の……」
「今朝片付けておいたよ。報酬は後で、メディクさんたちとギルドで受け取る予定」
「そうですか……」
夢だったらよかったのに、なんて思ったが、残念ながら現実だったらしい。
私は傷一つつけられていないが、やろうとしていたことは盗賊退治と言えば聞こえがいいが、結局は人殺しだ。
この世界の基準で言えば被害者が減る上に治安維持に協力したと報酬までもらえるようなことなのかもしれないが、やはり日本で育った私の価値観には合わない。
「さーて、朝ご飯食べてギルド行こ!」
寝巻から着替え、ママと宿屋の下にある食堂に降りる。
商人や村人、護衛の冒険者で朝から賑わっていて、なんとなくフードコートを思い出す。
異世界で戦うのも一つの体験ではあるけど、やっぱりこういう、平和的な空間に居られるのが一番だ。
メディクさんたちとは別々で朝食を取り、あとで準備を終わらせてからギルドで合流した。
村とはいえ見渡せば騎士が歩いているし、冒険者や商人が中継地点として使うということもあって冒険者ギルドと商業ギルドの建物もそこそこ立派なものがある。
今回は盗賊を討伐したので冒険者ギルドのほうに来ているのだが、内装もしっかりしており、職員たちの服もなかなか質がいい。
防具を纏っていない休息中であろう冒険者たちの服も、なかなかに質のいいものだ。
これが所謂文化の違いという奴だろうか。それとも、この国ではいい服を着るのが当たり前なのだろうか。どちらにせよ、前世でも国どころか県から出た経験すらほとんどない私には興味深い。
「お待たせしました。メディクさん、聖女様。あちらの部屋へ」
ギルドの中を眺めていると、ここのお偉いさんであろう髭面のおじいさんが出てきた。
確か名前は……ラインハルトだったか。ここのギルドマスターだってママが言ってたな。
「お久しぶりですな、聖女様」
「お久しぶりです。ラインハルト。こちら、娘のアリサです」
「おぉ~、君がアリサちゃんか~。ママに似てべっぴんさんじゃのぉ~」
「あ、ありがとうございます……」
威厳のあるかっこいいお爺さんだなと思ってみていたら、ただの孫にダダ甘な優しいおじいちゃんだった。
「どうぞ、わしのことはラインハルトと呼んでくれ。もちろん、おじいちゃんでもいいぞ?」
「ラインハルトで」
いやだよおじいちゃんは。
きっと孫が「おじいちゃーん!」なんて言って駆け寄ってくるようなシチュエーションを夢見ているのだろうが、私はそんな軽い女じゃない。お小遣いでもくれないと靡かないからな。
「さて、それでは昨晩の盗賊討伐の報酬についてじゃ」
甘い空気もなくなり、ギルドマスターと冒険者の真面目な話が始まった。
「改めて説明するが、昨晩聖女様が討伐した盗賊は、ここ数年問題になっていたヤツでの。メディクなら、聞いたことがあるんじゃないかの?」
「ええ、噂には。まさか、守衛のいる街で直接行動を起こされるとは」
「それについてはわしも驚いておる。騎士は全員魔法で昏睡状態、気付いた者は静かに殺されたのじゃろうな」
そもそも騎士がどれほどの実力を持っているものなのかは知らないが、負けたと言われても納得できる。それくらいに、盗賊たちが強かった。
「奴等は元冒険者じゃ。それも、最上位クラスの。しかし縛りが多いと冒険者を引退してしばらく、突然噂を聞くようになったと思えば今では盗賊をやっていると……」
あまり話を聞いたことはないが、確か最上位クラスの冒険者は騎士団だと団長クラス、物語に出てくる悪魔を一人で倒せるレベルで強いらしい。そんな奴が野に放たれていたと思うとゾッとする。
「一度奴等と対峙した騎士が聞いたところでは、『盗賊のほうがスリルがあって楽しいだろう? それに、戦利品を売れば金になるし女がいれば犯す。最高じゃないか』などと言っていたらしい」
「そうですか。なら殺して正解でしたね」
「ああ。もし生かしておけばどこかで同じことをやらかすじゃろうしな。それで報酬じゃが、奴等の討伐難易度と犯罪歴を加味して金貨二枚でどうじゃ」
金貨二枚。確か、前の村では果物を買うのに銅貨三枚程度だった。そして、銅貨百枚で銀貨一枚の価値が、銀貨百枚で金貨一枚の価値だから……銅貨一枚百円だとすると百万円か。
「なかなか高くつく盗賊ですね」
「当然じゃ。手が付けられんで困っておったからのぉ。まあこれでアリサちゃんに贅沢でもさせてやれ。田舎暮らしで質素な生活でもしておったんじゃろ?」
「そうですね。ああ、一応メディクさんとアリサちゃんも戦ったので報酬をわけたいんですけど——」
「何を言いますか。私は何もしていないどころかアリサ嬢に助けられていただけです。どうか、私の分もアリサ嬢に」
「……わかりました。じゃあアリサちゃんには銀貨三枚ね。傷はつけられなかったけど、八歳で強い敵相手に足止めできたんだから十分。よく頑張ったね」
今度は頭を撫でて褒めてくれた。
確かにあれは怖い思いだったけど、それを我慢して頑張って褒められたのなら、生きる上で必要なことなのだし悪いばかりじゃないかもしれない。
……ママに褒められただけで気が変わるとは、我ながらチョロいな。
「「アリサちゃん、夜はありがとう!」」
冒険者ギルドを出ると、リサとリアにお礼を言われた。
「いえ、周りに障壁を張っていただけですから」
「お父様のことも助けてくれたわよ?」
「それにね、大丈夫って言ってくれた」
正直お兄さんとして当然のことをしたまでなのだが、よほど輝いて見えたのか、私のことを羨望の眼差しで見てくる。
「私、アリサちゃんみたいにまほう使えるようになりたいわ!」
「私もなりたい!」
この二人、人見知りかと思ったけど懐いたら一気に距離を近づけてくるタイプだったか。
「き、きっとなれます。毎日頑張れば、きっと」
私だって毎日ママに教えてもらった結果が今だからな。この子たちも、それなりに魔法を使えるようになるはずだ。
「娘たちが懐くとは……さすが、聖女様の娘ですな」
「いい娘ですから、あの子は。私なんかより、よっぽど聖女らしいです。だから、対人経験なんて積ませたくないんですけどね」
「そうですなぁ。戦う技術は必要ですが、あんな子に戦わせるのは心苦しい。私も、アリサ嬢の援護なしではろくに戦えないなどと不甲斐ないところを見せて申し訳ないばかりです」
リサとリアの猛攻から気を逸らすために親同士の会話を聞いていたが、やはりママは私には戦ってほしくないようだ。
それでも戦わせたのは、やはりこの世界で強く生きてほしいという親心なのだろう。
あまりママに心配はかけたくないし、せめて平常心で戦えるようにはなりたいものだ。
「はわぁ~、あのお店のパンおいしそうね!」
そんな私の決意など全く気にせず、リサは屋台に夢中だ。
「あのジュースも美味しそうだよ!」
リアはジュースにご執心。
「アリサちゃんも行こ!」
二人とも気になるものは別々だが、私のを引いて同じところに行き、同じものを三人で買って、ベンチに腰かけて仲良くおやつタイム。
さっき朝ご飯を食べたばかりなのによく食べるなこの二人は。見た目に合わずなかなか大食いなのだろうか。
「おいしいわね、アリサちゃん!」
「そうですね。もちもちで美味しいです」
もちもちのパンくらいはママが作ってくれるが、今日は初めて自分で稼いだお金で買ったパンとジュースを、同い年の子と一緒に楽しく食べているからか、いつもよりおいしい気がする。
そう思うとなぜか口角が上がって来た。
「あ、アリサちゃんが笑ってるわ!」
「初めて笑ったね」
「はい。二人のおかげです」
人見知りが発動して上手く会話出来ていなかったが、それでもこうして一緒に居てくれるからこそ、少しは気も紛れた。
なかなかキツい経験もしたけど、いい友達が出来た……かもしれない。
私もお金欲しいです